2012年10月18日開催

基調講演

地震と火山の日本に生きる~地球科学からみたリスク・マネジメント~

講師 鎌田浩毅氏

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5--------陸の地震の特徴

次が陸の地震です。今のような地震の震源域は海ですが、言葉として「震源域」という言葉を使います。たいてい震源域は海なのです。

しかし、その震源域が陸になることがあります。つまり、陸上の直下でも地震が起きることがあります。これが2番目のテーマです。直下型地震といいます。

今、新聞やテレビなどをにぎわせている首都直下地震がそうですが、日本列島の陸の下で地震が起きます。これにもきちんと理由があります。海の地震が起きて、3.11で巨大なM9の地震が起きました。

そうすると、結論から言うと、日本列島がアメリカの方、東側に5mほど引っ張られるようになったのです。それはなぜかというと、まず簡単な地球科学の話で、よくご存じのように、プレートというものが沈み込んでいます。

太平洋からプレートが沈み込んでいて、そのプレートがずっと沈み込むと、ここがたわむのです。たわんで、たわんで、持ちこたえられなくなったときに、ぼんと跳ね返って地震が起きるわけです。これが地震のメカニズムなのです。

そのときに、日本列島が少し変わってしまったのです。例えば、陸地全体がたわむのです。宮城県や福島県の海岸沿いは、1~2m沈降しました。それから、海の中のプレートが少しずれて、持ち上がったままになっています。もう一つ、横方向に日本列島自身がずれているのです。

つまり、物質がどんといって戻っただけではなくて、行きすぎるのです。行きすぎるために宮城県は地盤沈下するし、日本列島全体が東西方向に引っ張られます。こういうことが生じているのです。これが陸の地震を起こす理由です。

それはどういうところに効いてくるかというと、地面が5m引っ張られるということは、そのストレス、ひずみが至る所にかかっているということです。そうすると、日本というのは地震が多いところで、断層があります。断層というのは、地震が起きて、そのずれが地上に出たところです。地下で地震が起きると岩石が割れるわけです。その割れ目が地上に達すると、地表も1~2mずれ るのです。

例えば阪神・淡路大震災のときは、そのずれが2mぐらい地上に出ました。野島断層といいます。淡路島に断層の痕跡が出て、今でも観察できます。断層の上に覆いを作って、博物館になっています。ですから、今でも2mのずれは観察できますが、そういう活断層が日本列島には至る所にあるのです。

あるということは、過去に地震を起こして地面をずらしたという証拠なのです。過去に直下地震をそこの場所で起こして、その一部が地表に出たという証拠があるのです。では、日本列島にどのぐらい活断層があるかというと、2000本です。

2000というのはめちゃめちゃ多い数で、要するに各県どこにでもあるのです。「先生、じゃあ、どこで暮らせば地震に遭いませんか」とよく聞かれるのですが、答えは「ノー!」です。そういう場所はありません。どこでも地震は起き得ます。それは活断層がどこにもあるし、それがいつ動くかわからないからです。

まず、2000本ある状態の中で、3.11の後、この日本列島が引っ張られるということが起きています。このことは、そうでなくても日本列島の下には活断層がたくさんあって、直下型地震が起きるのに、それに輪を掛けて無理な力が掛かったということです。

そうすると、地震がより起こりやすくなった状態なのです。現に3.11の直後から、至る所で地震が起きています。例えば、長野県や秋田県で震度6の地震も起こしています。マグニチュード7や6によるものです。それは3.11以降、急に始まったのです。つまり、日本列島が引っ張られたからなのです。

では、陸の部分のどこかというと、東北地方から関東地方、中部地方、ざっと東日本なのです。ですから、東日本大震災は言葉どおり東日本に震災を起こしたのだけれども、実は続いているのも東日本なのです。つまり、直下型地震は、東日本のどこで起きても不思議はないのです。

一番怖いのは首都圏です。今、首都圏に3500万人ぐらいいます。日本の人口の4分の1を超す人間が首都圏に集中しています。そこの地下にある活断層が動く確率が高くなったということです。引っ張られているのですから、より不安定になりました。

直下型地震は、山の中で起きてもあまり怖くないのです。直下型地震のマグニチュードはM7です。先ほど、拡大や余震はM8と言いましたが、1小さいわけです。エネルギーも30分の1で小さいのだけれども、もしM7が直下で起きたら震度7になります。

ここで僕ら地球科学者がいつもいじめられるのは、震度7という紛らわしい数字です。これは皆さ ん困りますね。震度7でM7というのは、すごく意地悪しているみたいでしょう。震度は7が最高で、揺れ方です。

マグニチュードは地震が起きた地下で放出されるエネルギーです。簡単な例えで言うと、遠くで和太鼓をたたいている人がいます。どんどんどんどん強くたたいたらマグニチュードが大きい、小さくたたいたら小さいのです。たたく人の力、エネルギーの発散がマグニチュードなのです。

さて、その傍で聞いている人がいます。遠くで聞いたら音は小さいです。でも、近くで聞いたら、すごく大きい音に聞こえます。これが震度なのです。ですから、震源に近づけば、同じマグニチュードでも震度は大きくなるし、遠くになれば小さくなります。

マグニチュードは、数学的にエネルギーを計算すると出ます。その数字と震度が今までは1~6だったのですが、阪神・淡路大震災ぐらいから7が設定されたのです。

激震で地域によっては建物が60%、70%倒壊ですから、そういうものを7に設定したのです。そうしたら、震度7とマグニチュード7の数字が一致してしまったので困ったのですが、今からもう直せないのです。

震度7は漢字で書く、などしないと駄目だと僕は思うのです。震度「シチ」と言うとか、そういうことをしないと混乱する。とにかく、陸でも地面が引っ張られて、マグニチュード7という、かなりのエネルギーを解放します。それによって、一番地上では震度7になります。震度7になると、80%の木造住宅が倒壊するようなことが起きます。

今、首都直下地震で大騒ぎになっています。東京も東日本の中で例外ではないという意味で、これがわれわれが一番困っているポイントです。事実、やはり「過去は未来を解く鍵」で、われわれが明治時代の海の地震を見ると、1896年に明治三陸地震、1933年に昭和三陸地震が起きて、その後にいろいろな所で直下型地震が発生しています。

ですから、結局、海の地震の後に陸の地震が起きることは過去にもあるし、これからも起こり得ると言えるわけです。

6--------火山の噴火

さて、次は火山の噴火です。例えば富士山を想定してください。

火山学は簡単で、富士山の直下に「マグマだまり」があります。マグマがたまっている、子供のような命名ですが、これは立派な学術用語です。英語で言うとMagma Chamberで、大学の授業では「マグマだまり」というと小学生みたいですから、Magma Chamberと英語を書いてからマグマだまりという和訳を書きます(笑)。

とにかく、マグマがたまったところがあって、その上にある通路を火道といって、上に火口があるのです。ご存じのように、富士山を登ると、直径700mぐらいの大きなすり鉢状の穴があります。火口はなぜできるかというと、マグマが吹き飛ばすからです。

だいたい火山学というものは、この3要素で、結局、マグマだまりがあって、火道があって、火口があって、終わりです。もし、これだけだったら、僕ら科学者は失業するわけです。3つの基本要素を伝えてもうおしまい、ですから(笑)。

でも、火山学者が失業しないのは、単純にこのマグマが出るプロセスが千変万化するからです。マグマが地下でパンパンになって、上に出てくることを噴火といいます。火山というのは、マグマが積もったものです。この出方が、実はすごくいろいろなことを起こすのです。

例えば、一つは溶岩流です。溶岩が流れます。マグマは液体です。マグマは、岩石を1000℃に熱すると、だんだん赤くなってオレンジ色になって、最後は白熱します。そして溶け出して液体になります。

1000℃に熱すると、個体が液体になるわけです。そうすると、流れ出して溶岩になります。よくテレビでも、ハワイの溶岩が流れた映像があります。あれは900℃とか、少し温度が下がっても流れ出すわけです。これを溶岩流といいます。

2番目は火山灰です。マグマが上空に出てばらばらになります。ばらばらになって冷やされて、飛んでくると火山灰です。何千kmも遠くまで飛んでいくのです。

あとは、先ほど少し申し上げた、1991年、長崎県の雲仙普賢岳で出た火砕流です。火砕流もマグマの出した技で、火が砕けて流れるという字のとおり、マグマが砕けてばらばらになるのです。しかも、ばらばらになって、そのまま流れ出すのです。

粉体流という物理学の言葉があります。粉状態になって、これは化学工学で使われるのですが、小麦粉やセメントを袋詰めするときに、いったん粉々にして空気を混ぜると流動するのです。流動性が良くなります。

それで運んで、あるところで袋を用意しておいて、少し速度を落とすと袋の中に入っていくのです。そうして詰めていく時に粉体流という現象があります。ですから、物をばらばらにして空気を混ぜると、よく流れるのです。同じように火砕流もマグマを火山灰のようにばらばらにして、適度に空気や火山ガスなどと混ぜて斜面を流します。

火山の斜面から火山灰などが出て流れ出すと、火砕流になるのです。火砕流は何が怖いかというと、まず高温であることです。マグマの温度は1000℃で、溶岩で流れるときも900℃ぐらいあります。火砕流のときはばらばらになるので、もう少し低いのですが800℃ぐらいあります。

800℃のものが一気に流れてきます。実は、火砕流は速度がものすごく速いのです。時速100kmですから、火砕流が流れてくると自動車でも逃げられません。時速100km制限の高速道路で、直線道はいいけれども、カーブしたら追い付かれるぐらいの速さなのです。

セ氏800℃のものが時速100kmという速度で襲ってくるというのは、めちゃめちゃ怖いでしょう。ですから、逃げられないのです。雲仙普賢岳でも、あっという間に数分で襲ってきて、43人の方が亡くなってしまったのです。ですから、火砕流が流れてくることが分かったら、その場所からは前もって逃げていなければいけません。これがまさに火山防災のポイントなのです。

今、三つ申し上げました。溶岩があって、火山灰が出て火砕流が出て、あとは身近なものとしては噴石というものがあります。噴石は、噴火によって岩石のような石が飛んできます。これは何が危険かというと、富士山の場合では登山している最中の人です。

富士山には年間3000万人が訪れるそうで、周りのゴルフ場や温泉なども含めて日本一の観光地です。でも、富士山の山頂は7月と8月がシーズンで、山小屋が開いて何十万人という人が登るわけです。そういう大勢の人が火口に詰め掛けているときに噴火が起きたら、まず被害が起きるのが噴石なのです。

噴石というのは、固まった岩石が飛んできます。先ほど、富士山は火口に穴が開いていると言いました。それは噴石を飛ばして開いているのです。ですから、マグマがとろとろ流した最後の方でぼんと飛ばして、そのへこんだ部分が全部固まった岩石になって飛んでくるのです。これは怖いです。

不意に、近くにいる人に向かって飛んでくるのです。大したことないではないかと思いませんか。例えば、小指の先ぐらいの石が上からぽっと落ちてきても痛いぐらいで、大したことないではないかと、皆さん思うのです。でも、そうではないのです。

石の速度が速く、時速150kmなどで飛んできたら弾丸と一緒です。つまり、被害というのは、単に物質の重さだけではなくて、小指の先の石が時速100km以上で飛んできたら、頭を貫通して死んでしまいます。つまり、エネルギーなのです。

エネルギーは速度の2乗に比例するので、そういう意味では、富士山のそばにいて、噴石がぼんと爆発して、非常に高速のものが飛んできたらたちまち被害に遭うのです。今、幾つか申し上げましたが、もう一回、日本列島に戻って、マグマだまりが誘発されて火山の噴火を起こします。3.11の後に日本列島の火山が「スタンバイ」状態になったと表現します。

事実、具体的にはどのぐらいの火山がスタンバイになったかというと、まず、日本列島には活火山というものがあります。この「活」に「断層」を付ければ活断層です。日本に2000本ありますが、同じように活火山というものがあります。活火山の数は110個です。活火山とは何かというと、これからいつ噴火してもおかしくない山で、具体的にはきちんと定義があって、過去1万年以内に噴火した経歴がある山です。ここでも「過去は未来を解く鍵」というセオリーが活きます。

必ず過去を見て、その過去に起きたことが将来にも起きるだろう。よって、過去を研究することによって、未来を予測できる。これはわれわれの専門の地質学のベースなのです。富士山も活火山ですが、1万年前より以降に噴火した山を勘定すると、110個ありました。

日本には、ざっと火山といわれるものが250個ほどあります。ですから、半分弱が活火山だったわけです。その活火山110個のうち、3.11以降に活発化した火山は20個です。つまり2割ですね。どういうことかというと、火山の下のマグマだまりで小さな地震が起きるのです。マグマだまりの周りで地震が起きるということは、マグマが活発化したということです。

この中には溶けた岩石があるわけで、この周りで地震が起きると、これからマグマが上がってくるかもしれないというわけで、そういう山が2割あるのです。その中に富士山も入っています。関東で言うと箱根山や乗鞍岳、焼岳などがありますが、そういう山の地下で地震が起きはじめました。しかも、3月11日の直後なのです。それまでは静かだったのです。

一応、活火山ですから、過去に噴火した履歴はあります。日光白根山、伊豆大島などもそうですが、3.11の前は3年ほど静かだったのが、突然、20個の山の下で地震が起き始めたのです。ですから、われわれはこうだったろうと推定するわけですが、その20個の山の下で地震が起きはじめて、スタンバイ状態になったのです。

幸い、どれも噴火していません。しかし、スタンバイ状態が今も続いているということです。この中で一番怖いのが富士山です。4日後の3月15日、富士山のマグマだまりで地震が起きました。この地震は4日後です。しかも、深さで言うと、マグマだまりが20kmぐらいで、地震が起きた所が14kmの深さ。ということは、マグマだまりの直上ですね。

場所は富士山の火口の下、頂上の下ということは、マグマだまりの上が割れたということです。地震というのは岩盤が割れたことなのです。僕らはどう表現するかというと、「マグマだまりの天井にひびが入りました」と表現します。

ひびが入ったから、次はどうなるか。スタンバイ状態がより活発化したということです。富士山を例に取って説明しましょう。何で僕が富士山の研究をするかというと、富士山を知れば日本中の火山が分かるからです。

富士山は「火山のデパート」といいます。先ほどの火山灰や溶岩、火砕流、噴石などを全部出すのです。ですから、富士山を研究したら、すべての火山災害が分かるのです。もっと言えば、富士山を研究したら世界中の火山が分かります。

自然科学というのはインターナショナルな学問で、日本で研究した内容は、必ず英語で論文を書きます。世界中の火山学者が1000人ぐらいいて、それを読みます。富士山で分かった成果は、イタリアのエトナ山でもアメリカのシャスタ山でも使われるわけです。逆に、アメリカ、ニュージーランド、イタリアの研究成果はみな富士山に当てはまるわけです。

そうすると面白いことがあって、例えば僕はよくイタリアに行くのですが、シチリア島にエトナ山があります。ちょうど富士山と同じような山です。大きさも同じだし、高さも玄武岩という岩石の性質も同じなのです。

そうすると、エトナ山に行くと、全然、違和感がないのです。富士宮に来たような感じで、登ると小御嶽神社があるのではないかという感じなのです。噴石があって、玄武岩の溶岩が流れていて、つくづく火山学はインターナショナルだなと思うのです。

でも、麓に下りていくとイタリア語なのです。お昼ご飯を食べようと思って注文すると、全然、通じないのです。彼らは英語も駄目で、文化が全然違います。余談ですけれども、イタリアに調査に行くと、必ずミラノを通って帰ってきます。

今、京都に住んでいますから、関空~ミラノ間に直行便があるのです。そうすると、ミラノに行って、ミラノからシチリア島に国内便で行くのですが、帰りは必ずミラノ経由で、無理すればすぐに帰ってこられます。でも、それをうまくずらして1泊するのです。

そうすると何がうれしいかというと、ミラノのモンテナポレオーネ通りで一流のファッションを楽しむわけです。半日ぐらい時間をつくって、モンテナポレオーネ通りでファッションを渉猟して、ミラノスカラ座でオペラを見て、次の日にゆっくり帰ってくるのです。

これは火山学の恵みの一つです(笑)。やはり研究だけしていたのでは駄目で、これは後半に話したいのですが、研究者は芸術や文化など、いろいろなことにも豊かでなければいけません。

一方、エトナ山に登ると富士山と同じで、全然、違和感がないのです。現地の研究者は英語で話すから、そういう意味でもどこへ行っても世界中一緒なのですが、ミラノに行くと全然違うのです。

例えばアンブロジアーナ美術館があります。そこにはカラヴァッジョの名画があったり、日本で絶対に見られないものがあって、美術館自身が中世の寺院のようなところで、非常に文化の違いを感じます。そうやって豊かな気分になって、日本に帰ってくると暗い気持ちで溜まったメールを開けるのですが(笑)。

火山はインターナショナルで同じですが、でも文化は違っていて面白いのですね。その両方が必要だし、われわれは火山学者として世界中の情報を全部得て、噴火予知をするのです。

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