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2012年10月18日開催

基調講演

地震と火山の日本に生きる~地球科学からみたリスク・マネジメント~

講師 鎌田浩毅氏

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はじめに

こんにちは。鎌田でございます。まず、ニッセイ基礎研究所シンポジウムにこんな格好で現れたのは、私が初めてではないかと思います。

これには深い理由があり、私の学問と関係するのです。火山学、大きくは地球科学です。高校で言うと地学なのですが、その中に火山を研究する学問があります。火山といえばマグマ、マグマといえば赤ということで、赤い服で登場すると、私が何者かが3秒で分かってもらえます。

何でこんなことを考えついたかというと、テレビです。テレビに出て、パネルディスカッションがあります。いろいろな学者の先生が並んで、僕が赤い服を着て出ると、キャスターの方が「その赤い服は何ですか」と来るのです。「待ってました」とばかりに、「これはマグマの赤です。専門は火山学です」と言うと、3秒で伝わるわけです。

というわけで自己紹介にいいということと、もう一つは「人は見掛けが9割」という言葉がありますが、まず自分が何者かをファッションで示します。これは落語で言えば「つかみ」です。「つかみ」は一番大事で、講演会のときも、まず赤い服で登場するのです。そうすると、聞いてくださった方が次の講演依頼をするときに、「あの赤い服が良かったです」と。ですから次も赤というわけで、結局、一回赤い服を着たら、次から次へと赤い服になるわけです。

ちなみに、これは大学に行っても同じです。大学の授業もファッションから入ります。最近の学生は、なかなか授業に出てきません。特に京都大学は授業の出席率が悪いことで有名です。どうやって出させるかというと、学生に関心があること。例えば、若いので、洋服などに興味を持つわけです。

あるとき、僕は授業の後にパーティーがあって、少しおしゃれな服を、時間がなくて、そのまま授業に着て出てしまったのです。そうしたら、「先生、今日のその服は何ですか」と、学生の目の色が違うのです。ですから、地球科学よりも服の方に、彼らは関心があるのです。

「これはいけるな」と思って、次の授業はまた服を変えていきます。そうすると、「前回、何か派手な服を着てきたけれども、今日は何事ですか」ということで、毎回、服を変えていくのです。そうすると、学生は服につられて来るのです。

次の週はまた変えていって、結局、15回授業があると15着です。これは「相手の関心に関心を持つ」というコミュニケーションのセオリーです。つまり、学生の関心に僕が関心を持って、まず学生の関心に合わせるわけです。

出てきたら、あとは面白い授業をして、地球科学に興味を持ってもらうということで、まず相手の関心をつかんで、それからこちらの関心である火山学、地球科学を学んでもらうという構造なのです。

というわけで、これは講演会から授業から、それからテレビも同じなのですが、すべてコミュニケーションのツールというか、戦略としてあるわけです。何でこういう話をしたかというと、これは私の火山学の研究にも関わります。

まず大学を卒業して、すぐに通産省に入りました。通産省の地質調査所といって、地球科学の国立機関です。今はつくばにある独立行政法人産業技術総合研究所になりましたが、当時は国立の研究所で、そこに入って19年ほどおりました。

1--------火山は災害を起こす

今から15年前に京都大学に着任しました。最初は授業が下手なので、先ほどのようにとにかく授業の工夫をしました。

私の専門は火山学で、20年ほどした火山学の研究を、今度は大学に来て続けようと思ったのですが、火山学は早い話、マグマがどう出るかとか、どういう災害が起こるかという話なのですけれども、研究だけしていても駄目なのです。

例えば、2000年の3月に北海道の有珠山が、6月には三宅島が噴火を起こしました。その少し前、1991年には長崎県の雲仙普賢岳が噴火して、火砕流で43人の方が亡くなっているのです。というわけで、火山というものは災害を起こします。

結局、われわれの火山学は、象牙の塔にこもって研究しているだけでは駄目で、それを一般の方に使ってもらうというか、学問の成果を利用して自分の身を守る。それから、企業の方、工場を持っている方には、そういう財産を守るためにどうすればいいか。そのように使っていただいて、初めて学問は活きるわけです。

特に国立大学は、全部独立行政法人化しました。その後、自分たちの研究費は自分たちの力で稼がなければいけなくなってきました。そのときに、ただ好きな火山の研究をしているだけでは駄目で、それをどうやって使っていただくのか、そこで大きな問題が生じました。

それは、僕ら専門家が専門家の言葉で、専門家の概念で話していたのでは全然伝わらないということです。早い話が去年の東日本大震災も、ある程度の地震が起きるという予測はあったわけです。

地震が起きたら何が起きるか、それをわれわれは地球科学の専門家として知っていました。でも、それがきちんと伝わってないわけです。それによって2万人近い方が亡くなりました。

また、1995年の阪神・淡路大震災の際に、神戸の直下で地震が起きました。活断層が動いて、6400人を超える方が亡くなりました。やはり同じように、地震に対する対処の仕方がきちんと伝わらなくて、それでたくさんの方が亡くなったわけです。

そういう災害が繰り返されます。その問題は何かというと、結局、コミュニケーションの構造なのです。地震学の日本のレベルは世界トップクラスです。火山学もそうです。僕らは火山学は世界一だというのですけれども、それは世界で一番火山の密度が高いからです。

そういうところで研究していた学問が一般には伝わらないというか、利用していただけません。そのギャップが、まさにコミュニケーションギャップで、先ほど申し上げた「相手の関心に関心を持つ」ことが必要です。つまり、われわれ学者は日本国民の「関心」にあまり関心を持ってないのです。

早い話が大学で研究していて楽しいから、どんどん学問は進むわけで、でも、一般市民の関心に関心を持って伝えないと、本当には地震学は生きません。やはり同じように、何千人の方が亡くなる地震がこれからも起きるだろうというわけで、そこのコミュニケーションギャップをどう埋めるかということが、私の研究の現在のテーマになっています。

つまり、火山学というサイエンスの研究から、「防災」「減災」という言葉もありますが、災害を防ぐ、災害を減らすためには、専門家と非専門家の間をどうつなぐかがすごく重要になってきました。

話を戻して、赤い服もその一つの戦略で、どうやって伝えるか、最初に関心を持ってもらうか、それから、その関心をどうつなぐかという意味で大変重要です。というわけで最初が赤い服で、私がこれまで何をしてきたか、これから何をしようとしているかというご紹介でした。

2--------東日本大震災は終わっていない

今日お話しするポイントが四つあります。まず、東日本大震災は終わっていないということが大きなテーマです。四つに分けて話しましょう。

一つは「海」の地震です。海でまだ地震が起きます。2番目が「陸」です。陸上でも地震は起こるのです。昨日、新潟県で震度4の地震がありましたが、そういうことが起きます。3番目が「火山」で、狭い意味での私の専門ですが、これから火山の噴火が起きます。その中には富士山も入っています。それから、4番目が「西日本大震災」です。これが最終的に皆さんにきちんとお伝えしたい内容なのですが、この四つがこれから起きます。

3.11と言っていますが、これは9.11になぞらえています。結局、9.11というのは、2000年にニューヨークのビルにジェット機が突っ込んで、世界の国際政治の状況が変わったわけです。

では、3.11で何が変わったかというと、日本列島の地盤が変わってしまいました。つまり、地球科学の問題なのです。われわれが住んでいる地面が、これから幾らでも揺れます。幾らでも噴火します。それがどのぐらい続くでしょうか。

東日本でざっと20年ぐらいです。次に4番目の西日本に場が移るということが、これからわれわれ日本人全員が一番対処しなければいけない喫緊の課題です。

3--------M9の地震の意味

まず海からいきましょう。そもそも、地震が起きたのは宮城県沖です。それから北の岩手県、青森県沖、南の方で福島県、茨城県、その県の太平洋側で地震が起きたわけです。しかも、その地震はマグニチュード9.0といわれています。M9の地震が起きたのです。この意味をご紹介しましょう。

Mというのはマグニチュードで、地震のエネルギーの大きさを示します。ですから、地下ですごい地震が起きました。地震とは何でしょうか。

岩石が割れるときに波を出します。岩石がたくさん割れると強い波になって、地面も揺れるわけです。そこでマグニチュードと震度という言葉が出てきます。マグニチュードというのは、地下深い50kmとかで割れて、その波が数百km離れた所まで来る地震の大きさなわけです。

M9というのは、そのほかにM8や7などの数字があって、数字が1違うと32倍違います。ですから、M8は32分の1なのです。これからM7という数字が出てきますが、では、M9とM7はどのぐらい違うかというと、32×32で、ざっと1000倍です。

ですから、Mが二つ違うと1000倍違うということです。これは対数(log)の世界で、数字が1違うと、とんでもなく大きい地震になるということです。

4--------海の地震の特徴

M9の地震が起きると、余震というものが起きます。今でも茨城県沖、宮城県沖、福島県沖で地震が起きています。ときどき仙台でも震度3などがありますが、あれが余震です。

余震というのは、大きい地震が起きたら、そこの割れ残りがぴきぴきと割れます。M9の地震ということは、結局、太平洋沖で南北に500km、横方向に200kmぐらいの巨大な面積が割れたのです。そうするとM9という、これまで日本が経験しなかった地震が起きました。

それだけでは終わらなくて、その500km×200kmの面積の地下深いところに、まだ割れ残りがあるのです。そこがときどき割れて余震を起こします。では、余震はどのぐらいかというと、最大M8です。

M8でも大変で、M9で東京は震度5強ぐらいでした。M8でも震度4とか、下手をしたら5になります。M8というのは、実はわれわれが3.11が起きる前に想定していた最大の地震です。

西日本の南海地震などはM8と想定して、10mの津波が来て大変な騒ぎだと思っていたのですが、去年はM9が来てしまったから、津波が20mクラスになって、もっと被害が大きかったわけです。

M8というと、1小さいから大したことないと思うけれども、これでもこれから10mや5mの津波が来るのです。そこで困るのは、今、東北地方の防波堤や防潮堤は全部壊れています。

主なものは8割方壊れてしまいました。プラス、東北地方の太平洋岸は、1~2m地盤沈下しています。つまり、地震の後には地盤が沈下して、そうでなくても高潮などが来ると海水がかぶる所が、もっと低くなっているわけです。

その低い所に、また、10m、5mの津波が来たら、防波堤も壊れてありませんので、この災害が一番怖いのです。では、M8の地震はいつ来るでしょうか。まだまだこれから来るのです。例えば3年後とか、7年後に起きてもおかしくはないのです。

では、何でそういうことを言うかというと、われわれがデータを持っているからです。ここで地球科学のセオリーというか、考え方があります。「過去は未来を解く鍵」という言葉があります。つまり、過去を見ると未来が予測できるのです。

現実に2004年12月にインド洋のスマトラ島沖で地震が起きました。30万人近い方が亡くなったのですが、それはご記憶に新しいと思います。当時、直後に津波の映像などが流れました。あれでもびっくりしたのだけれども、今回の3.11は、それを上回る映像が流れました。

とにかく、2004年12月のスマトラ島沖の地震がM9.1なのです。それを見ると、将来、3.11がどうなるかが予測できるのです。

海の地震では、M8.3や8.6の余震が3年後とか、一番長くて7年後に起きているのです。つまり、M8の地震が、まだまだこれから起きてもおかしくないということに注意しなければいけないのです。

今、小さいM5や6は、しょっちゅう起きています。しかし、最大のM8がこれから来てもまったく不思議はないということを、皆さんに知っておいていただきたいのです。

それから、次も海の話です。拡大地震というものがあって、何が拡大するかというと、少し頭で想像してください。東北地方の太平洋沖、南北500kmぐらいの所に地震の断層があるのです。その北側と南側、それが割れるのです。それを拡大地震といいます。

具体的には青森県沖、下北半島の沖合、南の方は千葉県の房総半島沖が拡大域なのです。これも先ほど言った2004年のスマトラ島沖地震で起きた現象です。

ある所でM9の地震が起きるのだけれども、それだけでは済まなくて、そこから遠い所にやはりひずみが生じて、そこが割れて地震を起こすのです。これも3年、5年というオーダーで、その後に起きます。これを拡大地震といいます。

拡大地震で何が一番怖いかというと、今、可能性があるのは、下北半島沖と房総半島沖ですけれども、南の方がより大問題です。房総半島沖ということは、首都圏に近いです。これも、やはりM8クラスが起きます。

房総半島には九十九里浜があります。あそこは国定公園で、きれいな浜です。あそこは国定公園ですし、防波堤や防潮堤はありません。そこに6m、8mクラスの津波が来る可能性があります。

かつて、1677年に房総半島沖で地震が起きたことがあります。延宝地震というのですが、その地震のときに、やはり8mぐらいの津波が起きた痕跡が残っているのです。ですから、房総半島沖が拡大地震で割れると、これが一番怖いのです。

例えば首都圏は、房総半島沖でM8クラスの揺れが起きれば、宮城県沖よりももっと近いですから、もっと揺れるわけです。震度5から6強になる可能性があります。それに加えて、津波が千葉県の沿岸を襲うという意味では、拡大地震が怖いわけです。

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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