2015年10月22日開催

基調講演

【人手不足時代の企業経営】「労働力減少と企業」前編 最近の雇用情勢

講師 樋口 美雄 氏

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皆さま、こんにちは。慶應大学の樋口でございます。どうぞよろしくお願いいたします。70分の予定でお話をさせていただきたいと思います。ちょっと長丁場ですが、我慢して聞いていただきたいと思います。

今日私が話すタイトルは「労働力減少と企業」です。全体のタイトルは「人手不足時代の」と付いておりますので、私も本来ですと「人手不足時代の企業」とすべきかと思いました。ただ、そうする上では、私の考えとしては、いろいろなコーション、注意しなければいけないことがあるのではないかと思っています。

確かに、人口の減少は既に始まっています。あるいは生産年齢人口といわれている15歳~64歳の人口、これはまた後で見ますように大きく減少していますし、今後もこの減少は続くだろうと思っております。しかし、そのことが人手不足になるのかならないのかというのは、まさに経済が今後どのように運用されていくのか、景気の動向はどうなのかということに大きく左右されます。

労働力人口の方も減少した。しかし、今度は企業における採用についても減少して、日本経済が縮小均衡に陥らなければいいなと思います。それに陥らないためにはどうしたらいいのかということも、目配りをしていかなければならない課題ではないかと思っております。

と言いますのも、例えば人口が減少する、これによって労働力人口が減少するわけですが、ある意味では人口の減少、即、消費者の減少となる可能性があるわけです。そうすると、今までの1人当たりの所得が同じであれば、その分だけ消費が低迷してくる。消費が低迷してくると、それによって特に消費財、サービス産業においては逆に人が余ってくるという可能性もあるのではないか。

あるいは、これだけ経済のグローバル化が進展してきているということになると、日本企業が国内だけで生産活動をしているわけではない。時には海外の方がむしろ多くの人を雇っているということが進展していくと、日本の人口は減少して、海外でみんな人を雇うということになってきます。そうすると、日本の労働市場そのものもまた、需給逼迫というよりも、どちらかというと、人口は減少しながら、労働力が余ってくる可能性もなきにしもあらずと思っています。

こういったことを避けるためにはどうすればいいのかを考えますと、消費をいかに回復していくか、給与や所得の引き上げと連動して、企業における生産性をいかに上げて競争力を高めていくのか、やはり企業が日本に残ろうという意思決定を誘引するような取り組みも必要ではないかと思っています。今日はそういうことを含めて話をさせていただきたいと思います。

(以下、スライド併用:配布資料はこちら

1——最近の雇用情勢

1—1.雇用者数の推移

足元において、今、雇用情勢がどうかということは、申し上げるまでもなく、ちょっと人手不足の状況が生まれてきていると言えるかと思います。完全失業率は、1973年、第1次オイルショックのときからこういう動きを示してきました。もう一方が有効求人倍率です。ハローワークで1人の求職者に何人の求人があったかというもので、これが上昇するということは求人の方が増えているということになります。

失業率を見ますと、3.4%というのが2015年(今年)8月の足元における数字で、かなり失業率が下がってきました。しかしそれでもまだ、1997~1998年時点よりは高い。どうも失業率というのは、需要不足や人手不足だけを反映しているとは限らない面がございます。

一方において求人がありながら、片方で求職者もいる、いわゆるミスマッチというものが拡大していくということになれば、どうしても失業率は上がるということで、今の3.4%は、ほぼ完全雇用の状態に近づいていると思うような水準ですので、やはり人手不足の基調に入ってきているのではないかと思います。

あるいは求人倍率を見ても1.2を超えたということで、バブル景気のとき、1980年代末に近づこうとしていますので、人手不足を多くの企業が感じられていることになるのかと思います。

また、日銀の短観では、雇用人員の判断DIを見ても、大企業においても、中堅企業においても中小企業においても、ゼロよりも下ですから、かなり不足の基調に入ってきています。一時2008~2012年はどちらかというと過剰だと言っていた企業において、不足気味だというふうになってきているわけですから、間違いなく人手不足の状況が、マクロ経済の好転もあってか、進展してきているのかと思います。

こういったものが人口減少の中において、どうして起こっているのか、最近の企業の雇用動向について見てみようと思います。

1988年から10年おきに、それぞれの産業で何人雇ってきたのか、雇用者数を示しています。産業計で見ると1988~1998年の10年間で4538万人が5368万人に増えており、830万人ほど増えたことになります。さらにこの後、1998~2008年、リーマンショックまでを見ると、5368万人が5546万人と178万人増えています。

しかし、その後リーマンショックによって46万人減り、2010~2014年で95万人増えました。ただし、業種によってこの動きは全く違っていて、まさに産業構造の転換が進んできたことが見て取れるかと思います。

建設業では、1988~1998年に112万人増やしました。ところがその後、1998~2008年には109万人減らしたということですから、前の10年間で増やした部分が今度は削減されて、帳消しになっています。さらにはリーマンショックの後、31万人減少ということで、最近の景気の中で2万人ほど、ほんのわずか増えたということです。長期的に、1998年以降を見てみますと、140万人ぐらい減らしたことが見て取れるかと思います。

さらに減っているのが製造業です。かつては1200万人を超える雇用者、働く人たちがいたわけですが、ついに直近では1000万人を割るというところまで減りました。1998~2008年に174万人減らしました。また、リーマンショック後の2008年~2010年では76万人。そして足元でも減らしています。これだけ減らしているわけで、260万人強を減らしていて、それだけ大きな変化が起こっているのだと思います。

実はこの間、産業の生産の方はどうだったかを見ますと、必ずしもマイナスにはなっていません。それだけ、こういったところでは生産性がかなり伸びたという見方もできるわけです。

一方で、雇用を増やしている産業はどこかと見ると、明らかに増やしているのが医療・福祉の分野です。2008年からの数字しか取っておりませんが、その間も56万人、さらに101万人と大きく増やしてきています。

ここがどうして2008年からなのかということですが、それ以前には、医療・福祉は必ずしも大きな産業ではなく、サービス業の中に含まれていたのです。それを別掲しますというような状況にまでなってきたわけで、今、建設の410万人に比べて、倍までとは言いませんが、医療・介護における雇用はかなり大きくなっているかと思います。

これを地域別に見ますと、地方において雇用を増やしている産業が、唯一医療・介護です。高齢者が増えたことが、逆に看護師、介護士といった、若い人たちの雇用をつくってきたということで、製造においても、建設においても、地方においては大きな雇用の減があったわけで、これを医療・介護が補ってきたといえます。その分だけ医療・介護・福祉に対する期待が、産業、特に雇用面においてあるのですが、今後どうなのだろうということを考えてみます。

65歳以上の高齢者人口は増え続けるわけではありません。われわれはステージを三つに分けて考えています。

ファーストステージ、セカンドステージ、そしてサードステージ。ファーストステージは、高齢者の絶対数が増えていくというものです。セカンドステージは高齢者が横ばいになるというもので、サードステージになると高齢者の数が減少するというものです。

実は日本の高齢社会は、高齢者の数が減少しながら若者の方がそれ以上に減少するということで、高齢者の比率は上がっていくけれども、絶対数はむしろそのうち減少になります。もう既に足元においては高齢者数の減少を記録している自治体も増えているわけです。

これはNHKの「クローズアップ現代」という番組で、住民基本台帳に基づいて調査したもので、基礎自治体において、65歳以上の人口が2010年以降、どう推移したのかを見ています。

既に2割の自治体で65歳以上人口が減少を始めている。そういったところでは、介護施設を造っても、なかなか入居者がいません。そこで、例えば四国の社会福祉法人がそちらを閉じて、世田谷に新たにオープンしたなどといったことをよく聞くようになりました。

今後、高齢者の絶対数が大きく増加するのは、団塊の世代の多い大都市圏、特に1都3県になってきます。1都3県においては、介護も医療も今後ますますそのニーズが高まっていくだろうと予想されますが、それは日本全体で言えることではありません。

恐らく多くの地方自治体において、今、第2局面に入ってくるだろう。そして2040年以降については、第3局面、高齢者の数が減少していくという中での高齢化の進展を考えなければいけないことになるだろうと思います。

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