57705_ext_13_0.jpg

2017年10月17日開催

パネルディスカッション

国際情勢はどうなるか「「一帯一路」と国際秩序の行方」

パネリスト
國分 良成氏 防衛大学校 学校長
川﨑 研一氏 政策研究大学院大学 特任教授
古屋 明氏 伊藤忠中国総合研究所 顧問
吉岡 桂子氏 朝日新聞 編集委員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一 専務理事 エグゼクティブ・フェロー

文字サイズ

2017年10月17日「中国のこれからと国際情勢」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催しました。
 
基調講演では防衛大学校 学校長 國分 良成氏をお招きして「中国習体制の今後と東アジア」をテーマに講演頂きました。
 
パネルディスカッションでは「国際情勢はどうなるか」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

← 前ページ『中国ビジネスの「傾向と対策」』

4——「一帯一路」と国際秩序の行方



■吉岡
吉岡桂子です。今年6月からバンコクに駐在しています。「『一帯一路』と国際秩序の行方」という大仰なタイトルが付いているのですが、中国に7、8年駐在した私自身が、「一帯一路」の行方とともに、南進している中国をアジアからウォッチする役割でバンコクにおります。ASEAN各国や中国、日本を行ったり来たりしながら、大国化する中国を取材しているところです。

その取材を通じて、記者として感じたこと、見たこと、そして日本はどう対応していくか、考えてきたことをお話ししたいと思います。  
4—1.南進と西進 海と陸・21世紀のシルクロードで何が起きているか
南進と西進、海と陸のシルクロードというのは、習政権になってから対外外交・経済戦略として語られるようになったパッケージです。しかし、國分先生がおっしゃっていたように、元々さまざまな各省(中国では商務部、外交部等、部で言う)や地方政府が持っていた計画をパッケージにしてまとめたものです。こうでなければいけないという規範があるわけではありませんし、日々、変化しています。「一帯一路」のパートナーには、カリフォルニア州も入っています。方角が違うのですが、「一帯一路」の戦略に賛同している、ある意味「仲良し」の象徴なのです。

AIIB対ADB、TPP対RCEPとレジュメに書いたのには理由があります。川﨑先生が先ほど「これは対立関係ではなくて、経済的には相互補完である」とおっしゃったと思うのですが、私があえて対立関係としたのは、中国のAIIB、そして中国が関わっているRCEP自体に非常に強い政治的な意思が含まれているからです。経済純粋な相互補完では済まないと思います。

ASEANの国々から見た場合、AIIBが設立するまでは「日本に入ってほしい。日本は内側から力を発揮し、中国とバランスを取ってほしい」、そんな声をしばしば耳にしました。今回赴任して各国の政府や専門家の方々とお話ししていると、「日本は入らなくていい」と言い始めています。AIIBは英独仏をはじめとする欧州各国が入って、運営に関与しています。注目を集めたこともあって、中国はむしろ自らが国際社会の一員であり、リードしていく存在であることを示す「ショーウインドー」として使おうとしています。他方で、日本はAIIBができたことによって、ADBを強化し、同時に日本自身のODAも強化しています。日本と中国が競い合って、この地域にお金、あるいは技術を提供してくるので、中に入ってしまうよりも競い合ってくれる方がいい、という理屈です。アジアの国々から見ても、対立の構図の側面もあると思います。

RCEPで言えば、日本は逆に抵抗勢力とも受け止められています。日本政府の方は必ず否定しますが、アジアから見ると、こんなふうにも見えます。

今年はASEANが設立して50年。ASEANは、それこそEUのように、主権を譲り合って互いに強い規範でしばりあっている組織ではありません。会議を続けて頻繁に顔をあわせ、全会一致主義で対立を表面化させず、仲良しであることを外部に見せ、大きなマーケットを一体となってつくっていることを示すこと、それによって投資や貿易、あるいは自分たちの外交的な立場を、強くしてきた歴史があります。何かイベントをしながら、何か約束事を作りながら、もちろん内容は重要ですが、同時に一緒に転がりつづけることがASEANの、アジアの国々の強みでもあるのです。自らは、そのお座敷のまんなかに座り、米国、中国、日本、インドなどを呼び込む、そんな組織です。地域を動かす車の運転席に座る、という言い方をよくしています。

TPPからアメリカが抜けた後、中国が入っているRCEPが先に進んでしまうことを日本は嫌がっているのではないか。早くRCEPをまとめてASEAN50の記念碑として使いたいのに、日本が高いレベルをという難題を持ち出してストップさせているとも、見えてしまうのです。

こういった形で、本来は経済的なシステムや問題が、中国の台頭によって、政治性が濃くなっていると思います。中国は、安全保障と経済を一体で考えていますし、そうした中国の台頭を受けて日本をふくめて他の国々も刺激され、共振増幅していく傾向になります。

さて、国際政治や安全保障と切り離せないのが通貨です。人民元の国際化は、2年前に急激な流出が起きてからは今一旦休止しています。よく知られているように、ビットコインについても中国は9割以上の取引を占めていましたが、今では取り締まって抑えています。かといって、ビットコインの技術、ブロックチェーンの基盤技術については、人民銀行(中央銀行)そのものがリードして研究することによって、少し矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、現在は法定通貨ではないビットコインのような仮想通貨を中央銀行主導で普及することが将来できないかと検討しています。

民間がやるビットコインは取り締まりますが、政府がやるビットコインは育てていき、そこで自分たちがビットコインの世界の規格を握ってしまいたいという思いがあります。

インフラ構想でもそうです。日本でよく語られる、例えば高速鉄道や港湾で日本と競争し合っているという目に見えている部分だけではなく、中国は電子インフラにもたいへん力を入れています。「一帯一路」の約束事、仲良しの印として、できれば中国版GPS「北斗」と言いますが、これを使ってほしいと提案しています。貧しい国の中には、安く使えるので、北斗を採用する国もでてきています。

電子商取引という意味では、東南アジアでAlibabaの争奪戦が起きています。マレーシアのナジブ首相、タイ軍政のプラユット首相、インドネシアのジョコ大統領など、皆さん、習近平氏に会った後、Alibabaのマー・ユン会長にも会いたがります。浙江省の杭州のAlibabaの本社に訪ねることもありますし、マー会長がアジアに来れば多くの首脳がもてなします。マレーシアのように首相のデジタル顧問にしている国もあります。

マレーシアのクアラルンプールの近くにAlibabaが基地を造ると発表された後、タイの工業の副大臣が記者陣に対して「Alibabaの東南アジアでのプロジェクトを隣国マレーシアに取られたわけではない」という趣旨のコメントをしました。

「一帯一路」構想の中で、私自身が日本にとって、あるいはこれからの国際秩序を変えていく大きな問題として注目しているのは、鉄道など目に見えるインフラ以上に、電子商取引や衛星など、直接は見えないインフラです。この分野に中国の規格が広く及んでいくことは、将来にどういう影響をもたらすのだろうか。半ば心配にも感じています。

電子商取引、Alibabaにしても、それからTencentにしても、何を買った、誰と会った、どこから買った、誰と付き合っている、そうした個人の情報が全てスマホによる取引を通じて彼らの会社に蓄積されていくわけです。Alibabaはもちろん民間会社ですし、ニューヨークにも上場しています。しかし、中国における国家と企業の関係、距離を考えたとき、本当に最後までこうした個人情報は中国当局に対して守られるのだろうか。この問題について、巨大な母国市場において非常に便利で競争力を持つ仕組みを築いたのは中国の企業のすごさだと思ういっぽう、中国という国家が今後、この仕組みをどのように活用していくのだろうか。ビッグデータ独裁ともいわれる統治の行方にも、注目していきたいと思います。 

西進の方は端折ります。習政権で進んだ「一帯一路」で目立つのは、ヨーロッパとの関係です。安全保障で対立関係があまりない欧州の国々とって、中国という巨大市場と結ぶ「道」を中国が自分のお金で整備してくれるわけですから、歓迎するのは当然といえます。

パンダのレンタル先でも象徴されていて、ベルギー、それからベルリン、北極外交の象徴としてフィンランドにも今年の暮れには送ることになっています。逆に言えば、こういったヨーロッパの国々には今までパンダはいなかったわけで、緊密になってきた関係を象徴して、欧州にパンダが今送られていると思います。  
4—2.沿線国の反応 
中国の経済規模は、日本の2・5倍を超え、アジアで圧倒的な存在感です。例えば中国と東南アジアを比べると、ASEANの平均の1人当たりGDPは4000ドルですが、中国は8000ドルです。タイは6000ドルですから、中国の方が1人当たりでも大きくなっています。すでに規模だけではなく、1人当たりの消費力も強くなっている中国を、各国は経済的にも無視できるわけがありません。そこでもうけたいと考えるのも当然です。

ただ、中国一辺倒は好みません。たとえば、日本企業はタイで強いプレゼンスを持っていますし、これまでの蓄積もある。自動車を含めて非常に重要な立場であることは間違いありません。ですから、中国経済の影響が強くなればなるほど、日本やアメリカなど他のパートナーの役割を期待する声も強まっていると感じます。

タイの現政権は3年前のクーデターで成立した軍事政権です。オバマ前大統領はホワイトハウスに入れませんでした。そのこともあって、中国に強く傾斜していきました。タイは初めて中国から戦車を買いました。また、潜水艦も初めて買いました。そこに、トランプ大統領が現れました。トランプ大統領はオバマ氏と違って、軍政ということを何ら関係なく対応するので、プラユット首相は先月ホワイトハウスに招かれました。今度は、「アメリカファースト」のアメリカからまた武器を買う約束をしたわけです。タイは日本との間では、高速鉄道商戦で中国と両天秤を掛けています。

中国一辺倒でいようと思っていることは全くありません。しかし、タイ政府の人が言っていました。アジアに日本しか援助できる立場の国がなかった時代よりも、今の方がいいことも事実だと。

ただ、例外もあります。カンボジアです。中国内陸の貴州省一つよりも人口も少ないし、GDPも少ない。中国から大規模な援助を受けながら、フン・セン首相はASEANの中では突出して中国の意図を受けて、南シナ海の問題などで発言し、動きます。ASEANの中からも「中国に買収された、買い占められた、中国の代理人」という声が上がるほど、中国一辺倒になっています。

こうしたやり方ができる国は、限られています。国内世論もあれば政敵もいます。先ほど申し上げたように、タイ、インドネシアなど多くの国は、バランスを取って外交をやっていこうと考えていると思います。  
4—3.習近平政権、2期目は? 
2期目の習政権は、恐らく今の路線を強めていくことになると思います。アメリカが持っているものは何でも欲しい、と。中国の政府や知識人を取材していて、「アメリカが持っているのになぜ中国は持ってはいけないのか。アメリカがやっているのに、なぜ中国がやってはいけないのか」という意見をかねてからきいてきました。

ルールを作っていくことにも、経済の規模をテコに関心を強めていく、動きを強めていくということは、間違いないと思います。

そこで日本としては、日本1カ国というよりも、これまで以上に東南アジア、あるいは、なかなか難しい相手ですけれども韓国など、マルチの場での交渉力や構想力をさらに磨いて、中国も抱き込んでルールを作る側に立てるように、外交に努めていくべきではないかと感じています。巨大市場を抱える中国を外したルールを一般化させるのは、難しいと思います。どうやってとりこむかを考えたほうが建設的でしょう。

また企業にしてみると、電気自動車のことが記憶に新しいですが、中国という巨大市場がある路線をとったり規格を握ったりしてしまうと、それが世界規格につながっていく。技術の優劣だけでは片付かない競争です。今、東南アジアでも電気自動車を気にしています。中国に欧州が加わったかたちで規格作りが進んでいかないように、中国の中に入り込んで、中国に影響を与えるようなロビイングも必要なのではないでしょうか。東南アジアに行ってつくづく感じていることです。
■櫨
吉岡様、どうもありがとうございました。
 

関連ページ

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ページTopへ戻る