ニッセイ基礎研究所 http://www.nli-research.co.jp Copyright © 2016 NLI Research Institute. All rights reserved. Sun, 11 Dec 2016 11:11:20 +0900 ja <![CDATA[欧州経済見通し-17年は政治の年。緩やかな拡大続くが投資の加速は期待できず-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54524 54524 Fri, 09 Dec 2016 17:49:40 +0900
  • ユーロ圏では著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策に支えられた個人消費主導の成長が続いている。17年の実質GDPは1.4%と予測する。
     
  • 17年も個人消費の拡大は続くが、原油安効果の剥落で実質所得の押し上げ効果が鈍るため、拡大ペースはやや鈍化しよう。投資の加速は、需要不足の解消と潜在GDP回復の両面から期待されているが、不安定な政治・社会情勢も影響し、17年も低調に推移しそうだ。
     
  • 財政政策はやや拡張的なスタンスが継続、ECBは少なくとも17年12月まで国債等を買い入れる量的緩和を継続する。超金融緩和策の長期化は、金融機関の収益を圧迫する副作用があり、その影響は時間の経過とともに拡大するが、金融緩和の出口戦略は慎重に進めざるを得ない。
     
  • 17年はユーロ圏主要国で選挙が相次ぐ。支持を広げる極右・ポピュリスト政党の大統領、単独政権の誕生はないと見ているが、可能性を排除することはできない。金融政策には、引き続きショックを吸収するバッファーとしての役割が求められる。
  • ■目次

    ・概況:個人消費主導の緩やかな拡大続く
    ・個人消費:雇用・所得環境の改善により拡大。17年は原油安効果剥落でやや鈍化
    ・投資:16年も期待外れ。17年も力強い回復は期待できず
    ・財政政策:やや拡張的なスタンス続く
    ・インフレ率:3年にわたる1%割れ脱却。17年は1.3%に
    ・金融政策:ECBは量的緩和を17年12月まで継続
    ・政治の年に期待されるECBのバッファーとしての役割
    ・英国経済:17年はポンド安と離脱選択の副作用で1%台に減速ユーロ圏では著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策に支えられた内需主導、とりわけ個人消費主導の成長が続いている。

    12月6日公表の7~9月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.3%、前期比年率1.4%だった。7~9月期は、世界貿易の不振を移して輸出入とも伸び悩み、外需の寄与度は同0.1%のマイナスとなり、内需主導の傾向が強まった(図表1)。

    10~12月期も引き続き緩やかなペースながら、拡大のペースはやや加速している。実質GDPと連動性が高い総合PMIは、ユーロ圏全体では2カ月連続で改善、11月は54.1と、拡大と縮小の分かれ目となる50を上回る水準で改善している。経済政策研究センター(CEPR)とイタリア中央銀行が作成するユーロ圏の景気一致指数(ユーロ・コイン指数)も11月まで6ヶ月連続で改善している。

    17年の実質GDPは前年比1.4%と予測する。15年の同2%、16年の年間の予測値の同1.6%から鈍化するが、潜在成長率を上回るペースは維持、GDPギャップの縮小も進む見通しだ。
     

    個人消費:雇用・所得環境の改善により拡大。17年は原油安効果剥落でやや鈍化

    個人消費は、ユーロ圏で景気の緩やかな拡大基調が定着するようになった13年半ば以降、雇用・所得環境の改善と原油安を背景とする低インフレが実質所得を押し上げる効果に支えられてきた(図表2)。7~9月期も個人消費が最大の需要項目だった。

    17年も雇用・所得要因による個人消費の拡大は続く見通しだ。しかし、原油安効果の剥落で実質所得の押し上げ効果が鈍るため、拡大のペースはやや鈍化しよう。

    投資:16年も期待外れ。17年も力強い回復は期待できず

    固定資本投資は、4~6月期の前期比1.2%から7~9月期は同0.2%に失速、16年年間の伸びは15年の前年比3.2%を下回る見通しだ。欧州連合(以下、EU)の欧州委員会の調査では16年の設備投資は15年10~11月調査の段階では実質前年比7%という強気の計画だったが、今年10~11月調査では同1%まで大きく下方修正された(図表3)。

    投資の加速は需要不足の解消と潜在GDP回復の両面から期待されている。世界金融危機以降、ユーロ圏では需要不足が恒常化しており、潜在GDPの回復も遅れているからだ。
    投資拡大の環境は整いつつある。設備稼働率は長期平均を上回る水準にあり(図表4)、14年6月以降の欧州中央銀行(ECB)の緩和強化によって、長期の年限までの金利も異例の低水準にある(図表5)。

    しかし、投資は17年も低調に推移しそうだ。欧州委員会の調査では、17年は、当初計画の段階から、14年~16年よりも低い実質2%と弱気だ(図表5)。期待される成長率の低さに加えて、不安定な政治・社会情勢が、企業の投資意欲に影響している可能性がある。

    財政政策:やや拡張的なスタンス続く

    投資の不安定な推移に比べ、政府支出は安定的に成長に貢献している。7~9月期は前期比0.5%増で実質GDPを0.1%押し上げた。ユーロ参加国全体では2014年には財政赤字は過剰の目安である対名目GDP比3%を下回るようになっている。政府債務残高の対名目GDP比も15年は90%と14年の92%から低下した。財政健全化が一定程度進展し、成長に配慮したやや拡張的なスタンスとなっている。さらに難民対策費、テロ対策費なども上乗せされている。

    17年も財政のやや拡張的なスタンスは続く見通しだ。欧州委員会がユーロ圏参加各国の予算案などをベースに算出した構造的財政収支対名目GDP比の前年差は、財政政策が拡張的か緊縮的かを判断する目安となる。「秋季見通し」で示された最新の試算値によれば16年に比べれば縮小するものの、17~18年も拡張的な運営が続く。
     

    インフレ率:3年にわたる1%割れ脱却。17年は1.3%に

    ゼロ近辺で推移してきたインフレ率(CPI)は、9月前年同月比0.4%、10月同0.5%、11月同0.6%と、エネルギー価格の押し下げ効果の縮小と連動する形で上向きつつある(図表7)。

    足もとの原油価格は、トランプ政権の経済政策による米国経済の成長加速への期待とOPECの減産合意による押上げ効果が加わり1バレル=50ドル近辺で推移している。16年初には、一時1バレル=30ドル台を割込む水準にあったことから、17年初にかけては、原油価格による物価押上げ圧力はかなり強く働くことになる。但し、振れ幅の大きき食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は前年同月比0.8%と低めの水準で推移している。デフレの脅威は後退したものの、欧州中央銀行(ECB)が物価安定の目安とする「2%とその近辺」への機動に乗りつつあるとは判断できない。

    インフレ率は、15年の前年比ゼロ、16年の同0.2%から17年は1.3%に上向くが、主な要因はエネルギー価格にあり、コア・インフレ率の回復は緩慢なペースと見ている。18年も年間で同1.5%と安定水準を下回る推移が続くと予測する。ECBは、12月の政策理事会で、政策金利を16年3月以来の主要レポ金利ゼロ、中銀預金金利マイナス0.4%の水準での据え置き、国債等を買い入れる量的緩和を17年12月まで延長することを決めた。

    17年3月までは、今年3月に引き上げた現在の月800億ユーロのペースの買入れを継続(図表7)、同年4月以降は、15年3月のプログラム開始時の600億ユーロに戻す。

    超金融緩和策の長期化は、金融機関の収益を圧迫する副作用があり、リスクは時間の経過とともに拡大する。とは言え、現在のユーロ圏は、失業率の水準が示すとおり、なおかなりの余剰を残している。17年12月に量的緩和の期限が到来した後も、テーパリングのプロセスを経るなど、金融緩和の出口戦略は慎重に進めざるを得ない。今回の予測期間である18年末までに追加利下げも回避するが、利上げに着手することもないと見ている。
     

    政治の年に期待されるECBのバッファーとしての役割

    とりわけ、17年は3月15日のオランダの総選挙を皮切りに、フランスの大統領選挙、国民議会選挙、秋にドイツの総選挙と統合の現加盟国での選挙が続く。国民投票の結果を受けてレンツィ首相が辞任したイタリアでも、18年5月の現議会の任期を待たず、17年中に総選挙が実施される可能性が高い(図表9)。ユーロ参加国の世論調査では中道左派・中道右派など主流派の政党への支持の低下と極右・ポピュリスト政党への支持の拡大という傾向がはっきりと表れている。景気・雇用の回復の遅れ、財政緊縮策や構造改革への不満、さらに難民危機やテロの脅威がある。

    欧州の政治リスクと経済、金融システムの関係は、制度面での説明などが欠かせないため、別項で改めて論じるが、今回の見通しでは17年の各国選挙で、極右・ポピュリスト政党が躍進することはあっても、極右の大統領誕生、極右・ポピュリスト政権の単独政権の誕生はないことを前提としている。また、政治リスクが金融システムを通じてユーロ圏全域へと拡大するような展開、ましてユーロ離脱、EU離脱へと動くこともないと見ている。市場に一時的な動揺をもたらすことはあったとしても、ユーロ圏の景気や世界の市場に持続的な影響を及ぼす事態に発展するリスクは、ごく限定的というのが基本認識だ。

    しかし、英国の国民投票、米国の大統領選挙における国民の選択が専門家の予測を覆す結果となったことから、予想外の結果となる可能性を排除することはできない。

    12月4日のイタリアの国民投票はレンツィ首相への不信認に意味合いを持つ反対多数という結果にも終ったが、市場はおおむね平静を保った。否決が広く予想されていたことに加えて、否決イコールポピュリスト政権の誕生でもないということもあろうが、ECBが量的緩和、さらにターゲット型資金供給(TLTRO)という形で分厚いバッファーを提供している安心感も大きい。

    ECBの金融政策には、引き続きショックを吸収するバッファーとしての役割が期待される。

    英国経済:17年はポンド安と離脱選択の副作用で1%台に減速

    16年の英国経済は、離脱選択後のポンドの大幅安がバッファーとなり、景気失速を免れたが(図表12)、17年にはポンド安の副作用である輸入インフレが明確化し(図表13)、個人消費への影響が拡大すると見ている。

    17年には英国がEU離脱の意志の告知に動くと見られる。EU側は、厳しい政治の年にあって、英国との協議に厳しい姿勢で望むと見られる。ビジネス環境がEUとの協議次第で変わる状況では設備投資、雇用の伸びも限られよう。

    17年、18年の実質GDPは前年比1%台と低い伸びになると予測する。 【関連レポート】 トランプ・ショックと欧州-現実味帯びるポピュリズム伝播、試金石として注目されるイタリア国民投票-
    ハード・ブレグジット懸念で進むポンド安
    不確実性増す2017年の欧州-ECBの政策も弾力性が必要に
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    経済研究部上席研究員伊藤 さゆり 経済予測・経済見通し
    <![CDATA[専業主婦世帯の割合は1割以下に-「中期経済見通し」から見えるもの(その2)]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54525 54525 Fri, 09 Dec 2016 15:57:50 +0900 中期経済見通し」では、10年後の女性の25~54歳の労働力率が現在よりも10%ポイント程度上昇し、M字カーブがほぼ解消する姿を想定した。
     女性の労働力率の上昇とともに専業主婦世帯(注)の割合は大きく低下してきた。かつて、夫婦と子供2人で構成される世帯は「標準世帯」とされ、この場合の夫婦とは働く夫と専業主婦の妻を指すことが一般的だった。しかし、「専業主婦世帯」の数は20年前に「単身世帯」に抜かれ、10年前には「共働き世帯」にも抜かれた。10年後には、専業主婦世帯の割合は1割を割り込むことが予想される。
     専業主婦世帯は税、社会保障制度などを構築する際のモデル世帯ともなってきたが、実態的には少数派となって久しい。

    現在、配偶者控除の見直しが進められているが、実際の政策がようやく現実に追いついてきたとの見方もできるだろう。


    ※ 詳細はこちら 中期経済見通し(2016~2026年度)

    ※ 「経済予測・経済見通し」に関するレポートはこちら
     
     
    (注) ここでは男性雇用者と無業の妻からなる世帯を専業主婦世帯とした
    【関連レポート】 中期経済見通し(2016~2026年度)
    日本は豊かなのか? 「一人当たりGDP」で見る日本の未来-「中期経済見通し」から見えるもの(その1)
    むしろ増えている保育園待機児童数
    ]]>
    経済研究部経済調査室長斎藤 太郎 日本経済 専業主婦世帯の割合推移
    <![CDATA[米国経済の見通し-来年以降は、米国内政治動向が鍵。トランプ氏の政策公約が全て実現する可能性は低い。]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54523 54523 Fri, 09 Dec 2016 14:55:46 +0900
  • 米国の7-9月期成長率(前期比年率)は、+3.2%(前期:+1.4%)と前期から大幅に加速し、個人消費主導の景気回復持続を確認。ただし、当期は、純輸出などで特殊要因によって成長率が持ち上げられた面があり、10-12月期の成長率は小幅低下の見込み。
     
  • 11月に行われた大統領・議会選挙は予想外の結果となったものの、トランプ次期大統領の経済政策への期待から資本市場ではリスク選好の動きが顕著。
     
  • トランプ氏の経済政策は減税、インフラ投資拡大、規制緩和など景気にプラスの政策と、保護主義的な通商政策や不法移民対策などの景気にマイナスの政策が混在。
     
  • このため、17年以降の米国経済はトランプ次期大統領の経済政策運営に左右される展開。ただし、財政赤字、債務残高の増加が見込まれることから、減税やインフラ投資の規模縮小は不可避とみられる。この結果、17年の成長率(前年比)は+2.2%、18年が+2.4%と成長加速は小幅に留まろう。
     
  • 金融政策は、16年12月に追加利上げを再開した後、17年は2回(0.5%)、18年は3回(0.75%)に留まる見込み。一方、長期金利は17年末に2%台半ば~後半、18年末に3%台前半まで上昇しよう。
     
  • 米国経済に対するリスク要因としては、米国内外の政治リスクに加え、中国をはじめとする新興国経済の減速懸念に伴う資本市場の不安定化が挙げられる。
  • ■目次

    1.経済概況・見通し
      ・(経済概況)7-9月期の成長率は、14年7-9月期以来の高い伸び
      ・(経済見通し)成長率は17年+2.2%、18年+2.4%を予想
    2.実体経済の動向
      ・(個人消費)労働市場の回復を背景に底堅い伸びが持続
      ・(設備投資)ドル高が懸念も、資源関連の設備投資は回復見込み
      ・(住宅投資)10-12月期はプラス転換も、金利上昇の影響を注視
      ・(政府支出、財政収支)選挙公約から規模縮小も、
        政府支出の増加、財政赤字の拡大を予想
      ・(貿易)10-12月期以降は成長のマイナス寄与へ
    3.物価・金融政策・長期金利の動向
      ・(物価)総合指数は原油価格の上昇に伴い緩やかに上昇へ
      ・(金融政策)17年は年2回、18年は年3回の利上げを予想
      ・(長期金利)緩やかな上昇を予想(経済概況)7-9月期の成長率は、14年7-9月期以来の高い伸び

    米国の7-9月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、前期比年率+3.2%(前期:+1.4%)と前期から大幅に加速、14年7-9月期(同5.0%)以来の高い伸びとなった(図表1、図表5)。

    需要項目別にみると、住宅投資こそ前期比年率▲4.4%(前期:▲7.7%)と2期連続のマイナスとなったものの、個人消費は+2.8%(前期:+4.3%)と底堅い伸びとなり、個人消費主導の景気回復が持続していることが確認できた。また、民間設備投資が+0.1%(前期:1.0%)と2期連続でプラスとなったほか、政府支出も+0.2%(前期:▲1.7%)とプラスに転換した。

    さらに、在庫投資の成長率寄与度が+0.49%ポイント(前期:▲1.16%ポイント)と6期ぶりにプラス転換し、成長率を押上げたほか、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度も+0.87%ポイント(前期:+0.18%ポイント)と大幅な押上げとなった。在庫投資のプラス転換は想定されていたものの、純輸出は特殊要因によって持ち上げられており、当期は実力以上に成長が高く出ていることに注意が必要だ。

    一方、11月に行われた大統領・議会選挙では、事前予想に反してトランプ氏が大統領に選出されたほか、議会でも共和党が上下両院で過半数を確保し、09年1月以来の安定政権が誕生する見込みとなった。トランプ氏が次期大統領に選出されたことで、来年以降の政権運営についてオバマ政権からの大幅な路線変更が見込まれ、政策の予見可能性は著しく低下した。

    政策の予見可能性低下は、本来資本市場にとってネガティブ要因だが、大統領選挙後の資本市場では、トランプ氏が掲げる減税、インフラ投資の拡大、規制緩和などの経済政策への期待先行で株高が進んだ。12月6日時点でS&P500指数は、2,200ポイントを上回り最高値圏で推移している。業種別では、規制緩和の恩恵を受けるとみられる金融、エネルギーや、インフラ投資拡大の恩恵を受けるとみられる資本財セクターの上昇が顕著である(図表2)。

    また、減税、インフラ投資拡大に伴い財政赤字、債務残高の増加が見込まれることから、米国債の発行増加観測を背景に長期金利の上昇も顕著となった(図表3)。12月6日時点で長期金利は2.4%近辺で推移しており、選挙前の1.9%から1ヵ月間に0.5%程度の急激な上昇となっている。さらに、米金利上昇を受けた日米金利差拡大から、円ドルレートも選挙前の1ドル=105円近辺から114円台と16年3月以来の円安ドル高水準となった。事前予想ではトランプ氏が勝利する場合には円高を予想する向きが多かった。このように、資本市場ではリスク選好の動きが強まっているが、同氏の経済政策に対する実現可能性も含めた不透明感より、政策転換を評価した格好だ。(経済見通し)成長率は17年+2.2%、18年+2.4%を予想

    10-12月期の成長率(前期比年率)は、+2.5%への小幅低下を予想している(図表1、5)。10-12月期は、個人消費の底堅い伸びが予想されるほか、住宅投資のプラス転換や、設備投資の伸び加速が期待できる。しかしながら、特殊要因が剥落することで純輸出の成長率寄与度がマイナスに転じることから成長率は低下しよう。この結果、16年通年でみた成長率(前年比)は+1.6%と15年の+2.6%から大幅な低下となろう。さて、17年以降の経済見通しだが、トランプ氏の経済政策運営によって左右されるため、現段階で確信をもって予想するのは困難である。同氏の選挙公約には、減税やインフラ投資拡大、規制緩和など、景気にプラスの効果が見込まれる政策が含まれる一方、保護主義的な通商政策や移民政策などはマイナスに働くとみられる(図表4)。この結果、経済全体への影響は、これらの政策の組み合わせや、政策遂行状況によって決まるため、米国内政治が景気浮沈の鍵を握っている1

    当研究所では、今回の経済見通しの前提として、景気にマイナスとなる通商政策や移民政策については、TPPからの離脱や、国境警備の強化は見込まれるものの、NAFTAの大幅な見直しや不法移民の強制退去などの政策は実現しないと予想している。

    次に、景気にプラスの政策については、規制緩和は議会共和党の賛同を得られ易いとみられるものの、財源を確保する必要のある減税や、インフラ投資については選挙公約からの規模縮小は不可避と予想した。OECDは、トランプ氏の政策公約が全て実現した場合に、財政政策が17年の成長率を+0.4%、18年を+0.9%弱押上げると試算している2が、財政政策の規模縮小により、実際の押上げはこれより小幅に留まるだろう。

    当研究所では、17年の成長率(前年比)は+2.2%、18年は2.4%と予想している。トランプ氏の経済政策による景気押上げは、17年はほぼ中立、18年は+0.3%程度とした。減税やインフラ投資拡大は予算措置が必要となるため、政策の実現は早くても17年10月から始まる次期会計年度からになるため、17年の成長率への影響は限定的と判断した。

    需要項目別の見通しでは、17年以降も労働市場の回復を背景とした個人消費主導の景気回復が持続しよう。トランプ氏の減税政策は、可処分所得の増加を通じて消費の下支えとなろう。民間設備投資も、法人税の税制改革や、環境・エネルギー規制の緩和に伴うエネルギー関連投資の拡大などが追い風となろう。しかしながら、住宅投資は金利上昇の影響を受けて伸びが鈍化しよう。純輸出は、当面はドル高の影響が残るものの、中国を中心に貿易赤字縮小のプレッシャーがかかることから、18年にかけて成長率寄与度のマイナス幅は縮小すると予想する。物価は、18年末の60ドルに向けて緩やかな原油価格の上昇を見込んでいることから、エネルギー価格が物価を押上げる状況に転じ、17年、18年ともに、前年比で+2.3%に加速しよう。
     
    金融政策は、16年12月に追加利上げを再開した後、17年は資本市場が安定する前提で年2回(合計0.50%ポイント)、18年は年3回(合計0.75%ポイント)の利上げを実施すると予想する。
     
    長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げ継続に加え、国債発行増加から、18年末にかけて上昇基調が持続すると予想する。長期金利の水準は17年末で2%台半ば~後半、18年末で3%台前半と11年以来の水準へ上昇するだろう。
     
    上記見通しに対するリスクとしては、米国内外の政治リスクと、中国をはじめとする新興国経済の減速懸念に伴う資本市場の不安定化が挙げられる。トランプ氏による政権運営は米国の政治リスクである。同氏はこれまで政治経験がないため、安定的な政権運営のためには議会共和党の協力が不可欠だ。同氏は、選挙活動期間中を通じて共和党首脳部に対する批判を繰り返しており、関係修復がスムーズに行えるか予断を許さない。また、トランプ氏の経済政策では、財政赤字や債務残高の増加を伴うものが多く、政策を実現する上では財政均衡を目指す議会共和党の妥協を引き出す必要がある。このため、同じ共和党内で対立が先鋭化する場合には政治の機能不全が問題となろう。

    また、海外でも欧州では17年にオランダ、ドイツ、フランス、イタリアなど主要国で選挙が予定されているほか、BREXITも本格的な協議が開始されるため、政治的な混乱が懸念される。

    一方、トランプ氏は選挙期間中から不公正な貿易慣行や為替操作について、中国を名指しで批判してきており、通商面で中国経済への影響が懸念される。また、米政策金利の引き上げに伴う新興国からの資金流出も懸念されるため、中国や新興国発の要因で米資本市場が不安定化する場合には経済への影響が懸念される。 
     
    1 Weeklyエコノミストレター(2016年11月18日)「米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は政策の優先順位・遂行状況次第。」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54372?site=nli
    2 OECD経済見通し(16年11月)”Chapter 1 GENERAL ASSESSMENT OF THE MACROECONOMIC SITUATION” p.18-20
    (個人消費)労働市場の回復を背景に底堅い伸びが持続

    労働市場は回復基調が持続している。非農業部門雇用者数(対前月増減)は、11月が17.8万人増と、16年年初からの月間平均増加数(18.0万人増)と同程度の伸びを維持しており、堅調な雇用増加が続いている(図表6)。また、失業率も4.6%とFOMC参加者の16年見通し(4.8%)を下回るなど改善基調が持続している。

    一方、労働参加率が15年夏場以降に改善をみせる中で、賃金上昇率の加速が顕著になってきている(図表7)。これは、労働需給がタイト化していることを示しており、労働市場の回復が長期化する中で、漸く雇用増加が賃金上昇に結びつき易い環境が整ってきたと判断できる。

    トランプ氏が掲げる法人税率引下げや規制緩和による事業コスト削減、インフラ投資拡大により、国内需要の増加が実現できれば、労働参加率や賃金上昇率の改善が加速しよう。個人消費は堅調である。7-9月期の伸びは前期から鈍化したものの、低調であった1-3月期の反動で前期の伸びが高かったことを考慮すると、鈍化自体は問題ではない。実際、所得対比で所得程度の伸びを維持しており、消費は概ね実力を発揮していると言える(図表8)。

    また、足元の堅調な株価を反映してカンファレンスボードの11月消費者信頼感指数が、07年以来の高水準となるなど、消費マインドは非常に良好である(図表9)。このため、労働市場の回復持続を背景に所得の底堅い伸びが期待される中、消費は引き続き堅調推移しよう。(設備投資)ドル高が懸念も、資源関連の設備投資は回復見込み

    民間設備投資は、設備機器投資こそ前期比年率▲2.7%と4期連続でマイナスとなっているものの、知的財産のプラス成長が持続しているほか、建設投資が+5.4%と14年4-6月期以来の高い伸びとなった。建設投資は、資源関連除きで+10%超の高い伸びとなったほか、15年以降に減少幅が大きかった資源関連の建設投資もマイナス幅の縮小がみられている(図表10)。

    実際、原油価格が2月の30ドル割れを底に持ち直してくる中で、原油の稼働リグ数は5月以降の回復基調が鮮明となっており、足元では16年1月以来の水準まで回復している(図表11)。当研究所では、原油価格が18年末に60ドルまで上昇すると予想しており、原油価格上昇が資源関連の投資に追い風となるほか、トランプ氏の環境・エネルギー関連の規制緩和も資源関連の設備投資には追い風となることが予想される。このため、資源関連の設備投資は今後回復が見込まれる。一方、資源関連以外でも、民間設備投資の先行指数である国防・航空を除くコア資本財受注(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、名目設備投資(前期比年率)が+5%近かった15年7-9月期以来の高さとなっており、10-12月期の名目設備投資が7-9月期(+0.4%)から加速することが期待できる(図表12)。

    一方、選挙以降、主要通貨に対してドル高が顕著になっていることは気がかりだ。大企業の景況感を示すISM指数のうち、製造業指数は直近11月も回復しており、足元でドル高の影響はみられていない(図表13)。しかしながら、11月末に発表された地区連銀景況報告では、既に一部地域でドル高が製造業需要に対して悪影響を及ぼすとの懸念が示されており、輸出関連の製造業を中心に為替相場の動向が注目される。(住宅投資)10-12月期はプラス転換も、金利上昇の影響を注視

    住宅投資は、2期連続のマイナス成長となったものの、住宅着工の先行指標である住宅着工許可件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比)は、10月が2割超の上昇となっており、10-12月期の住宅投資は3期ぶりにプラスに転じる可能性が高い(図表14)。

    もっとも、選挙以降みられている長期金利上昇が、住宅市場の回復に水を差す可能性が出てきた。抵当銀行協会(MBA)が発表する住宅ローン申請件数は、住宅ローン金利の上昇に伴い顕著な減少がみられる(図表15)。住宅ローン金利(固定30年)は、足元では4%台前半と15年夏場の水準に留まっており、雇用不安の後退に伴う住宅購買意欲の高まりを考慮すると、この程度の住宅ローン金利の上昇が住宅市場の回復を頓挫させるとは考え難い。しかしながら、今後も住宅ローン金利が急ピッチで上昇を続けるようであれば住宅市場への影響は避けられないため、動向が注目される。(政府支出、財政収支)選挙公約から規模縮小も、政府支出の増加、財政赤字の拡大を予想

    10月から会計年度がスタートした17年度予算は、大枠の予算規模は既に決定しているものの、各省庁への予算配分を決める歳出法案の審議が滞っており、暫定予算で凌ぐ状況が続いている。暫定予算は、イラン、アフガニスタンへの軍事行動のための海外緊急事態作戦費用(OCO)101億ドルなどを含めた、予算規模1.07兆ドル(16年度:1.067超ドル)で、4月28日までの予算となっている。このため、4月下旬には、その後の対応を検討する必要がある。一方、債務残高上限の適用期限が17年3月に到来するため、新しい債務上限額を設定するのか、これまで同様債務上限額を適用しない期間を延長するのか、という問題も絡んでトランプ氏の議会に対するリーダーシップが試される。

    一方、18年度予算については、17年の2月から3月とみられるトランプ新大統領の予算教書で方針が示される見通しだ。選挙公約で示した経済政策を、どのタイミングでどの程度実現していくのかを判断する上で非常に注目される。トランプ氏の経済政策が公約通り実施される場合には、10年間で1兆ドルとされるインフラ投資を除いても、今後10年間で財政赤字が5.3兆ドル増加するとみられている(図表16)。また、債務残高(GDP比)も足元の77%から105%へ増加が見込まれている。

    このため、均衡財政を志向する議会共和党が、そのままの規模で予算編成を行うとは考え難い。これから予算教書までトランプ氏サイドと議会共和党で政策調整が行われるとみられるが、規模の縮小は不可避だろう。もっとも、規模が縮小されたとしても大きな方向性として、これまでのやや緊縮的な財政政策から拡張的な財政政策に方針転換されるのはほぼ間違いない。OECDは公約通りの財政政策を行った場合に、基礎的財政収支の赤字幅(GDP比)が16年の▲1.5%から18年には▲3%に拡大すると試算している(図表17)。

    当研究所では、18年度予算の開始が17年10月であることや予算規模が縮小されることから、17年の成長率の押上げはほぼゼロ、18年でも財政規模縮小により0.3%程度に留まると予想している。(貿易)10-12月期以降は成長のマイナス寄与へ

    7-9月期の純輸出は、成長率寄与度が+0.87%ポイントと大幅なプラス寄与となったが、輸入が前期比年率+2.1%(前期:+0.2%)であったのに対し、輸出が+10.1%(前期:+1.8%)と大幅な伸びとなったことが大きい。輸出は、大豆輸出が大幅に増加したことで、飲料・食料が+216.7%(前期:+21.1%)と異常な伸びとなった。これは米国産大豆の需要が一時的に高まったことが要因であり、持続可能ではない。実際、10月の貿易収支統計では。大豆輸出額(名目、季調値)が22億ドルと、最近のピークであった8月の52億ドルから半分以下となっており、減少が顕著である。その結果、貿易収支全体でも赤字幅が拡大しており、10-12月期の純輸出は、成長率寄与度でマイナスに転じる可能性が高い(図表18)。

    また、足元でドル高が進んでいることもあり、純輸出は当面マイナス寄与での推移が予想される。しかしながら、トランプ氏は、主に中国に対して不公正貿易の是正や為替操作を痛烈に批判しているほか、米国の貿易赤字縮小を目指すとしていることから、中国をはじめ対米輸出の減少、もしくは米国からの輸入増加を促す政策が採られる可能性が高い。このため、18年末にかけては、成長寄与度のマイナス幅は緩やかに縮小することが予想される。
     

    3.物価・金融政策・長期金利の動向

    (物価)総合指数は原油価格の上昇に伴い緩やかに上昇へ

    消費者物価の総合指数は、10月が前年同月比+1.6%となり、エネルギーと食料品を除いたコア指数の+2.1%との乖離が0.5%ポイントまで縮小した(図表19)。これは、原油価格の下落に伴ってエネルギー価格が物価を押下げる構図が相当程度解消されてきたことを示している。実際、エネルギー価格指数は、15年の春先には2割近い下落となっていたが、10月には14年8月以来となるプラスに転じた。

    当研究所では、原油価格の見通しを17年末が56ドル、18年末が60ドルと予想している(前掲図表5)。このため、18年末にかけてエネルギー価格の前年比はプラスの状態が続くとみられ、17年以降は総合指数が、コア指数を上回る状況が持続しよう。消費者物価は、17年、18年ともに前年比+2.3%と16年(見込み)の+1.2%から加速しよう。物価見通しに対するリスクとしては、トランプ氏の経済政策の結果、労働市場のタイト化から賃金インフレが顕在化し、物価が上振れすることである。(金融政策)17年は年2回、18年は年3回の利上げを予想

    本稿発表(12月9日)の翌週実施される12月のFOMCでは、0.25%の追加利上げが実施されるとみられる。労働市場の回復が持続する中で、原油価格が底を打ったこともあり、PCE価格指数は緩やかながら上昇に転じているほか、金融市場が織込む期待インフレ率も16年夏場以降は上昇基調が持続しており、追加利上げに向けた経済環境は整った(図表20、21)。予想外の選挙結果を受け、金融市場でリスク回避的な動きが強まる場合には、FRBは12月利上げを見送るとみていたが、金融市場は安定しているため、12月利上げを見送る理由は希薄になっている。一方、12月のFOMC会合では、FOMC参加者の政策金利見通しがどの程度変更されるのか、来年以降の金融政策を占う上で注目される。財政政策をはじめ大幅な政策転換が見込まれる中で、景気対策としての金融政策の役割が相対的に低下することもあり、FRBがこれまでの慎重姿勢を改め、政策金利引き上げペースを加速させてくる可能性はある。

    しかしながら、FRBも足元では来年以降の経済政策の効果を見極めるのは極めて難しいことから、現時点での大幅な変更はないだろう。当研究所では、金融政策見通しについて、これまでの17年が年2回、18年が年3回との予想を維持している。ただし、金融政策についてもリスクは政策金利引き上げペースを加速させる方向である。(長期金利)緩やかな上昇を予想

    長期金利(10年国債金利)は、予想外のBREXIT決定を受けて、16年7月に史上最低水準となる1.3%台半ばに低下した後、足元では2.4%まで上昇している(図表22)。

    この1ヵ月の動きはやや急でトランプ氏の経済政策についても、市場はやや楽観的に織込んでいるとみられることから、短期的には低下方向に調整する局面があろう。

    しかしながら、長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げに加え、国債発行額の増加を背景に今後も上昇基調が持続し、17年末に2%台半ば~後半、18年末に3%台前半となろう。 【関連レポート】 トランプ次期大統領は、米鉄鋼業界の救世主になれるのか-期待される中国からの割安な鉄鋼輸入の抑制と、インフラ投資の拡大
    米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は、政策優先順位・遂行状況次第。
    【11月米雇用統計】労働参加率、賃金は下振れも、雇用の伸びは堅調で、12月の利上げを後押しする内容。
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    経済研究部主任研究員窪谷 浩 経済予測・経済見通し
    <![CDATA[景気ウォッチャー調査(16年11月)~気温低下、円安・株高で11ヵ月ぶりに節目の50を回復]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54521 54521 Fri, 09 Dec 2016 11:04:03 +0900
    現状判断DIが前月調査から改善したのは、天候要因が主因とみられる。10月までの高温から一転して全国的に低温となったため、冬物衣料や暖房器具等の季節商材が好調だった模様である。また、米国の大統領選後に円安・株高が進展し、資産効果も追い風となり家計部門のマインドは総じて堅調であった。一方、天候不順に伴う生鮮食品の価格高騰を懸念する声は依然として根強い。企業部門においては、海外情勢不安や円安・株安局面が収束していることもあり、マインドの改善基調が維持されていることが確認された。大統領選挙の結果は先行き不透明感を高めると予想していたが、円安・株高が進行したこともあり景況感にプラスに働いたようだ。

    コメントをみると、引き続き人手不足関連が改善要因となるなか、円安・株高を好感するコメントが前回調査から増加している(最終頁の図参照)。一方、生鮮食品の価格高騰を理由に消費低迷を懸念する声が聞かれている。現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、雇用関連(前月差▲0.1ポイント)が若干悪化する一方
    で、家計動向関連(同+3.9ポイント)、企業動向関連(同+2.5ポイント)は前月から改善した。家計動向関連では、小売関連(前月差+4.8ポイント)、飲食関連(同+4.4ポイント)、住宅関連(同6.2ポイント)の改善幅が大きかった。コメントをみると、家計動向関連のうち小売関連では「気温の低下に伴い、冬物の防寒衣料が活発に動き、来客数が伸びている」(南関東・衣料品専門店)など、冬物商材が好調であったことを指摘するコメントが数多く寄せられた。また、「株価の上昇が良い雰囲気を生んでおり、景況感は良好である」(東海・一般小売店)といったように、小売業を中心に株高の効果を指摘するコメントが寄せられたほか、「ボーナスへの期待から商品の動きが良く、黒物家電やパソコンの動きが特に良い」(中国・家電量販店)とのコメントのように、ボーナス商戦への期待感も景況感を下支えした模様である。もっとも、「野菜や水産物の価格高騰の影響が出ている」(北海道・商店街)や「客の財布のひもは固く必要最低限なものしか購入せず、割引日やポイントアップの日に購入する傾向がある」(中国・スーパー)など生鮮食品の価格高騰、消費者の生活防衛傾向や節約志向を指摘する声は依然として多く、消費マインドが一時的な要因によって押し上げられた可能性が示唆される。

    住宅関連では、「今月開催した住宅完成見学会への来場者数が、5月開催時に比べ61%増となっている」(沖縄・住宅販売会社)など、住宅購入を目的とした来場者の増加を指摘するコメントが散見された。また、「米国の次期大統領選挙の結果を受けて、円安が進むとともに株価が上がってきたことで、客のムードが非常に良くなってきている」(北海道・住宅販売会社)とのコメントのように、株高による資産効果も追い風となったようだ。

    企業動向関連は、製造業(前月差+2.8ポイント)、非製造業(同+2.2ポイント)ともに前月から改善した。コメントをみると、製造業では「米国大統領選挙以降の円安基調が、輸出企業にとって想定以上のプラス効果となっている」(北陸・一般機械器具製造業)など、円安の進展が景況感改善に大きく寄与した模様である。非製造業では、「公共工事、民間工事とも工事受注量は好調に推移している。民間建築工事は新たな商材の引き合いもあるなど、引き続き投資意欲の高さが認められる」(北海道・建設業)とのコメントのように、経済対策の効果も追い風となったとみられる。

    雇用関連では、「年末に近づき、販売スタッフの需要が高まっている。顧客からは前年のほぼ2割増しのオーダーがあるなど、企業の拡大意欲がうかがえる」(北海道・人材派遣会社)とのコメントから、年末を控えて人材需要が高まっている様子が窺える。一方、「引き続き有効求人倍率は好調に推移しているが、特に人出不足が心配される福祉関係の求人が増えている反面、求職者は減少しているため、景気が上向きとは感じられない」など、雇用のミスマッチを懸念する声も寄せられている。先行き判断DI(季節調整値)は53.0(前月差+1.6ポイント)と5ヵ月連続で改善した。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差+1.5ポイント)、企業動向関連(同+1.6ポイント)、雇用関連(同+2.1ポイント)のいずれも前月から改善した。
     
    家計動向関連では、「ボーナス月であることや、クリスマスや年末年始などイベントが多く、多少は景気回復を期待できる」(北陸・百貨店)などクリスマス商戦や年末商戦へ期待を寄せるコメントが数多く寄せられた。一方、「野菜の価格は相変わらず高く、財布のひもは固いままである」(東海・一般レストラン)といったように、生鮮野菜の価格高騰を懸念する声も大きく聞かれた。

    企業動向関連では、「米国の経済政策に期待感があり、当面は横ばいから緩やかな上昇が見込まれる。輸出企業にとっては、円安基調への期待もある」(東海・電気機械器具製造業)など先行きも円安の下支えが見込まれる一方で、「足元の基調は、米国の次期大統領が正式に就任するまでは続く。景気は徐々に良くなる傾向にあるが、具体的な政策によっては、景気が乱高下する可能性もある」(近畿・化学工業)といったように、米大統領選挙後の先行き不透明感を指摘するコメントも見受けられた。

    雇用関連では、「人手不足の状況は各業種に広がりをみせ、月間有効求人倍率は3か月連続1.7倍台で推移するなど、今後も求人数は増加する」(北陸・人材派遣会社)とのコメントのように、人手不足を背景に企業の採用意欲が高水準を維持するとみられる。先行きは年末年始の需要増への期待から景況感は緩やかな回復が続くことが予想される。もっとも、家計の節約志向は依然として根強く、生鮮食品の高止まりが長期化するようであればマインドへの悪影響は避けられない。また円安や原油価格持ち直しに伴い物価の上昇が見込まれる。消費への影響を注視するためにも、来年に控える2017年春闘の動向には注意が必要である。

    足もとの金融市場はトランプ氏の勝利を好感して円安・株高が進行しているが、政策運営を巡り不透明感が高まれば再び円高・株安が進行しマインドに悪影響をもたらす可能性もある。海外の政治情勢や金融市場の動向にも引続き注意が必要となろう。

      【関連レポート】 企業物価指数(2016年10月)~緩やかな持ち直しが続いているが、先行きは為替や原油の動向に注意が必要
    2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定
    貸家着工にバブルの懸念?-住宅投資関数で説明できない好調さ
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    経済研究部研究員岡 圭佑 日本経済
    <![CDATA[ロボ・アドバイザー入門]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54511 54511 Fri, 09 Dec 2016 18:05:37 +0900  
    そんなAIブームに乗じて、ロボ・アドバイザー(または略したロボアド)という言葉を耳にした方も多いのではないでしょうか。この1年で様々な金融機関から、ロボ・アドバイザーの提供が開始されました。なお、ここでいうロボ・アドバイザーとは「インターネット上で資産運用を提案してくれるウェブサービス」として話を進めます。ロボ・アドバイザーは、今まで年金運用やラップ口座などで蓄積した技術やノウハウをシステム化したサービスと筆者は考えています。「ロボ」が「ロボ」自身の判断でアドバイスを導きだしているというよりも、あらかじめ人(専門家)が作ったアンケートとポートフォリオの組み合わせを元に提案してくれるシステムといったほうが正しいためです。実際に提供されているものを見る限りでは、機械学習やディープ・ラーニングといったAI技術は、これから応用される段階にあると思われます。
     
    まずロボ・アドバイザーのサービスを受けるには、5問から15問程度のアンケートに答えることになります。どのような運用が適切か(どの程度、価格下落リスクを許容できるのか)、どのような運用ニーズがあるのかなどを把握するためです。アンケートの設問は、グラフなど分かりやすく可視化していたりしており、専門知識や投資経験が無くても簡単に答えられるようになっています。内容は主に、顧客の属性、顧客の選好、投資予定資金の特性に関することが中心であり【図表1】、今まで証券口座開設時やラップ口座の運用開始時に行われていたアンケートと似たものといえます。また、アンケート結果を元に提示されるポートフォリオ(資産配分)案についても、プロ(機関投資家)が用いてきた定量的な手法を元に配分比率を決定しているようです。多くのロボ・アドバイザーでは、短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視点に立って適切に資産形成が出来るように、配分比率が決定されているものと推測されます。ポートフォリオ構築の際に用いている理論や方法は同じですので、ロボ・アドバイザーは人よりも優れた提案をしてくれるといった妄想は抱かないほうがよいでしょう。では、ロボ・アドバイザーの魅力はどこにあるでしょう。プロのアドバイスに基づいた自分にあった運用を、小口でしかも低コストで始められるところだと思います。
     
    ロボ・アドバイザーに似たサービスとして、ラップ口座が以前からありました。しかし、ラップ口座は一千万円単位の資金を持つ富裕層しか利用できませんでした。ここ2、3年で急速に小口化が進んだとはいえ、それでも数百万円からしか受けられないサービスとなっています。それがロボ・アドバイザーはアドバイスのみ(ポートフォリオ案の提示のみ)だと基本的に誰でも受けられ、一任して運用をお願いするにしても少額から始められるものばかりです。
     
    また手数料についても、ラップ口座だとほとんどが年間1%以上です。それがロボ・アドバイザーでは高くても1%程度です。システム化により人手がかからなくなっており、その分、手数料が安くなっています。アンケートに基づいた機械的なアドバイスですので、専任コンサルタントのようなきめ細やかなアドバイスは期待できません。それでも、「手軽に自分に適したポートフォリオを知りたい」といった目的でしたら、ロボ・アドバイザーでも十分満足できるサービスといえるでしょう。では現在、銀行、証券、運用会社といった様々な金融機関からロボ・アドバイザーは提供されていますが、自分にあったロボ・アドバイザーを選ぶにはどうすればよいでしょうか。ロボ・アドバイザー選びは「使いやすさ」と「パフォーマンス」の2つの軸で考えると良いと考えています。なお、ここでいう「パフォーマンス」とは、コストを控除した後の投資家が実際に享受できるリターンです。まず、「使いやすさ」はHPの使いやすさよりも、提案されたポートフォリオをどのように運用するのかが最も重要になります。せっかくアドバイスを受けても、生かせなければ意味がありません。実際に運用することまで考えると、ロボ・アドバイザーは大きく分けて3つのタイプがあります【図表2】。一概にどのタイプが優れているというわけではありません。手間と手数料を天秤にかけた上で、どれが最も自分に適したサービスなのかを検討する必要があります。アドバイスのみの場合①は、無料の情報提供サービスとなります。そのため、自分で複数の投資信託やETFを購入し、管理していく必要があります。手間もかかる上に、よほどサポートが万全でないと実際に運用を始めるにはハードルが高いではないでしょうか。その一方で、お任せの場合③、契約を結んでしまえばお任せで勝手に運用してくれ、資産運用初心者でも気軽に始めることができます。その分、手数料が必要となります。
     
    ②は投資信託を自分で購入する必要があるものの、買う投資信託がはっきり分かっており、購入する投資信託は一つで済みます。また管理も基本的に運用会社がやってくれますので、①と比べると手間がかかりません。また、③と比べると手数料も安くなっており、①と③の中間のサービスといえます。欠点としては、準備されている投資信託の数に限りがあり、①や③と比べて提案されるポートフォリオ案が少ないと思われます。投資家のきめ細かいニーズを組みとることは不向きかもしれません。「使いやすさ」と並んで重要となるのは、やはり運用のうまさを表す「パフォーマンス」でしょう。ただし、「パフォーマンス」は定性的に評価するのが困難です。
     
    たとえば組入れ資産数が多ければ、資産が分散された良いポートフォリオに見えるかも知れません。しかし、似たような値動きをする(相関が高い)資産ばかり組み込まれていた場合、期待したほど分散効果が得られない可能性があります。そのため、組入れ資産数を比べるだけでは、あまり意味がありません。また、信託報酬が安い海外上場ETFを使ってポートフォリオを構築しているから良いというわけでもないと思います。全体の費用で考える必要があるためです。どれだけ信託報酬が安いETFを使ってもそれ以外の手数料が高ければ、利用者が支払うトータルのコストは大きくなります。
     
    「パフォーマンス」は提案されたポートフォリオの情報だけでなく、過去に提供されていたポートフォリオがその後どの程度、実際にパフォーマンスをあげていたかも合わせて参考にするべきです。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスを保障してくれるわけではありません。しかし、どんなに優れた運用を謳っていても、それに見合うパフォーマンスを過去に上げていない場合には鵜呑みにできません。機関投資家だと、実績のパフォーマンスが3年満たない場合は評価できないとして、門前払いしてしまうケースもあります。
     
    しかし、ロボ・アドバイザーの過去のアドバイザーとしての成績を見ることは極めて困難です。ロボ・アドバイザーのサービスが始まってから日が浅く、長期の実績データが存在しないためです。加えて、①や③の場合には運用開始前の実際のパフォーマンスを知ることも容易ではありません。代わりにシミュレーション結果が提供されるかも知れませんが、シミュレーション期間のデータも参考にしたうえでポートフォリオを構築しており、実績のパフォーマンスとは分けて考える必要があります。
     
    そのため、②や③の場合は、単純に手数料を重視するのも一つだと筆者は考えています。確実に引かれる手数料は、将来のパフォーマンスについて評価できる唯一の手がかりだからです。投資期間が長くなれば長くなるほど、支払う手数料は大きくなってしまうため、腰をすえて投資しようと考えるならばなおのことです。ロボ・アドバイザーの概要やポイントについて見てきましたが、個人投資家から見て一番のメリットはインターネットから気軽に無料で試せることかも知れません。対面だと相談したら断りにくくなるといった心境になりやすくなりますが、インターネットでしたら気に入らなければブラウザを閉じればいいだけです。さらにロボ・アドバイザーだと、ネットショッピングで最安値のお店を探すように、じっくりとサービスや提案ポートフォリオを比較、検討することもできます。
     
    もし興味をお持ちになったら、ロボ・アドバイザーのアンケートに答えて、ご自身の資産運用のヒントにしてみてはいかがでしょうか。 【関連レポート】 プログラミング教育は必要か?~初等中等教育での必修化について考える~
    時間を味方にするのも大変~積立貯蓄の真実~
    リスク・パリティによるスマートベータの合成
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    金融研究部研究員前山 裕亮 アセットアロケーション
    <![CDATA[「投資家への手紙」-投資家との「建設的対話」に臨んだ企業の所感]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54520 54520 Fri, 09 Dec 2016 10:07:29 +0900
    世の中には、もらって嬉しいかは別にして、投資家が株式発行企業に宛てた「投資家からの手紙」というものがある。今や、投資家と企業とは、建設的に対話する関係である。そうであるなら、企業が投資家に対し「投資家への手紙」を差し出してもいいだろう。投資家から尊敬を集める経営者が、投資家との建設的対話に臨んでみたところ、どのような所感を得たのか、投資家も関心があるはずだ。本稿が、企業と投資家が建設的対話を進める上で僅かでも参考になれば幸いである。

    尚、本稿の内容は筆者の所属組織を代表するものではなく、筆者個人の意見や解釈に基づくものであり、本稿から生じる責はすべて筆者に帰する。

    ■目次

    1――今度は企業から投資家へ手紙を出す
    2――「投資家へ手紙」・・・建設的対話の所感
    3――「建設的対話」の実態
    4――企業価値を共に創造するパートナーとして世の中には、もらって嬉しいかは別にして、投資家が株式発行企業に宛てた「投資家からの手紙」というものがある。今や、投資家と企業とは、建設的に対話する関係である。そうであるなら、企業が投資家に対し「投資家への手紙」を差し出してもいいだろう。投資家から尊敬を集める経営者が、投資家との建設的対話に臨んでみたところ、どのような所感を得たのか、投資家も関心があるはずだ。そこで、少し本音も交えた手紙を、その任には無いながらも筆者が代わってしたためてみた。本稿が、企業と投資家が建設的対話を進める上で僅かでも参考になれば幸いである。尚、本稿の内容は筆者の所属組織を代表するものではなく、筆者個人の意見や解釈に基づくものであり、本稿から生じる責はすべて筆者に帰する。
     

    2――「投資家へ手紙」・・・建設的対話の所感

    拝啓 投資家様
     
    日頃、経営を預かる身として、投資家の皆様によるご支援に対して、まずは厚く御礼申しあげます。私共もこれまでと違った姿勢や雰囲気の中、建設的な対話に臨めますことを大変喜んでおります。

    さて、双方にとって慣れない対話は、ほとんどQ&A形式です。投資家の皆様からの質問に対し、精一杯お答えするのですが、投資家からその答えに対するコメントがありません。投資家は「企業を評価する」目的で対話するのでしょうから、どのように評価できるのか、差し支えない範囲で、是非ともコメントをいただきたい。優れた投資家との対話は、どういうポイントを聞くのか、なぜそのポイントを聞くのか、という点だけでも、経営のヒントになるのです。投資家から示される、経営についての、あるべき戦略や目指す指標の水準、そしてその理由は、企業価値の向上を検討する上で、非常に参考になります。また、経営は内輪の論理で独善に陥りがちです。投資家が外部の知見から冷徹に見た、業界における当社の位置付け、強みや弱み、これらを総合した助言ほど経営にとって示唆に富むものはありません。今後は、質問の答えに続けて、投資家の意見をうかがいますので、そのつもりでご準備ください。折角の対話の機会ですから、対話を、中長期に経営課題を解決する場に、お互いしていきましょう。

    対話に際して、面談相手として必ずCEOを要請されることがあります。投資家の「希望と面談の主な関心事項も踏まえて」、なるべく「前向きに対応」しますが、経営の円滑な遂行に照らし「合理的な範囲」とせざるを得ません1。例えば、CEOを必須とする理由が、「投資家側の内規である」との理由だけでは、企業にとって合理的範囲に入らないのではないでしょうか。企業としては、投資家の属性、すなわち株主としてのポジションや投資スタンスなどに照らして、合理的に判断することになるでしょう。逆に、CEOも意気込んで臨んだ対話が、殺伐としたQ&Aに終わってしまうと、次回の対話にCEOを面談者としてセットすることは、(何分、日本の会社ですから)現実的に難しくなってしまう点はご理解願います。

    社外取締役との面談も同様です。面談を要請する理由や目的が合理的で、かつ、企業側としても建設的対話の前進に資するのであれば、前向きに対応します。ただ、現時点では、企業は各社固有の取締役会の状況において、社外取締役に期待する機能を模索している最中です。また、社外取締役自身も、監督と助言のバランスなど、「この取締役会」における自らの役割について試行錯誤しているのが実態です。現段階で、投資家がその代理人としての機能を強く期待して面談を試みても、結果的に実益は少ないという意味で時期尚早ではないかと考えます。勿論、その任を十分に果たせる社外取締役には、積極的に対話に参加していただきます。
     
    1 コーポレートガバナンス・コード補充原則5-1①
     

    3――「建設的対話」の実態

    さて、対話の具体例を参考までにいくつかご紹介します。配当性向を3割とし、残り7割は投資に回し、それでもキャッシュが余剰になる場合は株主に還元する方針というケースがあります。向こう3年から5年の営業キャッシュフローを見積もって、過去の実績と今後の事業計画に基づく投資キャッシュフローを賄っても、3割程度なら配当できると企業は踏んでいるわけです。投資家との対話に資するべく、有価証券報告書等で公表します。

    これに対し、ある投資家から「3割は平均的だ」と指摘され、ではどのような水準であれば当社にとって適正なのかと質問しても返答がありません。対話に際して、事前に配当方針を見ていなかったり、投資家として独自にキャッシュフローを見積っていないので意見を持っていないのです。平然と「高ければ良い」と回答する投資家さえいます。これでは、建設的対話どころではありません。

    多くの日本企業は手元資金が潤沢です。現金と短期保有有価証券から有利子負債を差引いた、ネットキャッシュが数百億円もある場合、投資家から自社株買いを勧奨されます。未だに資本効率を意識していない企業ならいざ知らず、利益配分の方針に従って、成長投資と株主還元のバランスをとりながら、中長期的にキャッシュが過度に余剰とならないよう機動的に自社株買いをする方針であると説明しているにも関わらず、株主都合の一時的な企業価値の向上を求めてくるわけです。見識ある投資家であれば、企業の自社株買いに対して、研究開発投資の上積み、あるいは、中核事業の強化に向けたM&Aなど、成長投資に振り向ける余地を十分に検討した上での自社株買いなのか、問い質すでしょう。

    スチュワードシップ・コードには、我が国だけに追加されている「原則7」があります。それは、「機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。」というものです。率直に申して、お会いして勉強になる投資家は、全体の1割程度だというのが実感です。

    蛇足ながら、もう「上から目線」は止めてください。我々は評価される立場かもしれませんが、「銘柄」などではありません。企業すなわち経営は生きています。上から物を言われると言い返したくもなりますし、建設的な意見でなければ尚更です。
     

    4――企業価値を共に創造するパートナーとして

    ここまで、いろいろと耳の痛いことを申したかもしれません。しかしそれは、企業価値を共に創造していくパートナーに対する、期待の大きさにほかなりません。引き続き、対話の場で経営課題をご理解いただき、その解決に向けて様々な見地からご助言願いたく存じます。今後とも、末永く長い時間軸でお付き合いねがえれば幸いです。
     
    敬具
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    金融研究部主任研究員江木 聡 企業経営・産業政策
    <![CDATA[日銀短観(12月調査)予測~大企業製造業の業況判断D.I.は5ポイント上昇の11を予想]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54513 54513 Thu, 08 Dec 2016 16:33:16 +0900
  • 12月調査短観では、注目度の高い大企業製造業で6四半期ぶりの景況感改善が示されると予想する。大企業非製造業も悪化に歯止めがかかると見ている。前回調査以降の経済指標を見ると、個人消費は力強さには欠けるものの、良好な雇用環境や天候不順の解消などから底堅さを増している。最近は株高が高額消費の追い風になっているとみられる。生産にも回復が見られるほか、11月以降の急速な円安によって輸出採算が大きく改善している。大企業製造業では生産回復や円安進行、国際商品市況の改善を受けて幅広く景況感の反発が見込まれる。非製造業も大都市圏での再開発需要や節税対策の住宅需要増加を受ける建設、不動産業、訪日客増加の恩恵を受けやすい運輸・郵便業などが牽引しそうだ。小売も顕著な悪化は避けられると見ている。中小企業の景況感も改善を予想するが、最低賃金引き上げの影響を受けやすいため、人件費の増加が景況感の抑制に作用しそうだ。
     
  • 先行きの景況感については、トランプ新大統領の誕生や欧州での政治の混迷など海外経済の先行き不透明感増大によって、幅広く悪化が示されると予想。
     
  • 16年度の設備投資計画は前年度比2.5%増と前回調査時点から上方修正されると予想。例年、12 月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って上方修正されるクセが強いためだ。ただし、年初から半ばにかけての円高で企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不透明感を増していることから、例年と比べて上方修正の度合いが抑制的になると見ている。
     
  • 今回の短観で最も注目されるテーマは、「先行きへの警戒感がどれだけ現れるか」だ。とりわけ、トランプ氏の掲げる保護主義的な通商政策は、企業に対してダイレクトに悪影響を及ぼしかねない。先行きの景況感や設備投資計画への影響が注目される。
  • ■目次

    12月短観予測:円安を好感するが、先行きには警戒感が現れる
      ・製造業・非製造業ともに改善を予想
      ・注目ポイント:先行きへの警戒感がどれだけ現れるか?
      ・日銀金融政策との関係:影響は限定的(製造業・非製造業ともに改善を予想) 
    12月14日発表の日銀短観12月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が11と前回9月調査比で5ポイント上昇し、6四半期ぶりに景況感の改善が示されると予想する。大企業非製造業の業況判断D.I.も20と前回比2ポイント上昇し、3四半期連続で続いてきた悪化に歯止めがかかると見ている。
     
    前回9月調査では、長引く影響で大企業製造業の業況判断D.I.が横ばいに、インバウンド消費の減速や天候不順から非製造業では小幅の悪化となっていた。

    前回調査以降の10月の経済指標は総じて持ち直し傾向にある。個人消費は生鮮食品の価格高騰もあって力強さには欠けるものの、良好な雇用環境や天候不順の解消などから底堅さを増している。さらに11月以降は株高が高額消費の追い風になっているとみられる。生産についても、需要の持ち直しや在庫調整の進展を受けて回復が見られる。また何より、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて為替が急速に円安に向かったため、輸出採算が大きく改善している。

    今回、大企業製造業では生産の回復や円安進行を受けて幅広く景況感の反発が見込まれる。国際商品市況の改善も、素材系業種の景況感押し上げに働くだろう。

    非製造業は製造業ほど円安のメリットを享受するわけではないため、景況感の改善幅も限定的になる。ただし、大都市圏での再開発需要や節税対策の住宅需要増加を受ける建設、不動産業、訪日客増加の恩恵を受けやすい運輸・郵便業などが牽引しそうだ。小売業の景況感は抑制的になりそうだが、消費が減少しているわけではないため、顕著な悪化は避けられると見ている。
     
    中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比3ポイント上昇の0、非製造業が1ポイント上昇の2と予想。大企業同様、中小企業でも製造業・非製造業ともに改善が示される。ただし、中小企業では、秋からの最低賃金引き上げの影響を受ける割合が高いとみられ、人件費の増加が景況感の抑制に作用しそうだ。
     
    先行きの景況感については、海外経済の先行き不透明感増大によって、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示されると予想。米国でトランプ氏が新大統領に選出されたほか、欧州では英国のEU離脱決定に加えてイタリアの首相が辞任するなど政治が混迷している。情勢は流動的であり、企業は先行きへの警戒感を強めていると考えられる。
     
    16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.5%増と前回調査時点の1.7%増から上方修正されると予想。例年、9月調査から12 月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくることに伴って上方修正されるクセが強く、今回も上方修正されるだろう。ただし、年初から半ばにかけての円高によって企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不透明感を増していることから、一部で様子見や先送り姿勢が広がりつつあると考えられ、例年と比べて上方修正の度合いが抑制的になると見ている。
    (注目ポイント:先行きへの警戒感がどれだけ現れるか?)
    今回の短観で最も注目されるテーマは、「先行きへの警戒感がどれだけ現れるか」だ。とりわけトランプ新大統領誕生については、金融市場では、同氏の掲げる政策のうち大規模なインフラ投資や減税、規制緩和への期待を大いに織り込み、株高・円安ドル高が進んだが、企業の受け止めは異なる可能性がある。環境が悪化すれば即座にポジションを手仕舞うことができる投資家と異なり、企業の場合は、一旦投資を決定するとその影響は少なくとも数年単位に及ぶだけに、先行きに対して慎重になりやすい。さらに、トランプ氏の掲げる保護主義的な通商政策は、企業に対してダイレクトに悪影響を及ぼしかねない。具体的には、先行きの景況感や設備投資計画への影響が注目される。
    (日銀金融政策との関係:影響は限定的)
    今回の短観の結果は、筆者の見立てでは「足元に明るさは見られるが、先行きには警戒感が台頭する」というものだが、この結果が日銀の金融政策に与える影響は限定的になりそうだ。もともと、2%の物価目標のハードルは極めて高く、達成が見通せない一方、追加緩和の選択肢も実質的に限られているためだ。

    11月1日の総裁会見でも、黒田総裁が、「(イールドカーブ・コントロールによって)適切なイールドカーブが実現しており、これが日本経済にプラスに働き、物価目標に向けて効果を発揮していく」と現状の政策維持を肯定的に評価する発言をしており、日銀が積極的に動く気配は見えない。従来と比べて、日本の景気と金融政策の関係性は希薄化している。
     
    そうした中でも日銀との関係で注目されるのが、翌15日に発表される「企業の物価見通し」だ。10月の展望レポートで日銀は予想物価上昇率が弱含んでいることを認めたが、実際、企業の物価見通しは2014年4月の調査開始以来、低下が続いている(上昇は皆無)。最近では、円安が進んだほか、原油価格も持ち直しているが、ともに物価の押し上げに働くだけに、動向に変化が現れるかが焦点となる。日銀の目指す持続的な物価上昇には持続的な賃上げが不可欠であり、最近では黒田総裁が企業に賃上げを求めるような場面も見られる。物価見通しは企業の賃金設定に影響を与えるが、特に現在は来春闘を控えた重要な時期にあたるだけに、その動向が注目される。 【関連レポート】 日銀短観(9月調査)~全体的に予想の範囲内だが、景況感の先行きは弱い、設備投資計画も慎重
    2017年はどんな年? 金融市場のテーマと展望~金融市場の動き(12月号)
    日銀の苦境はまだまだ続く~金融市場の動き(11月号)
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    経済研究部シニアエコノミスト上野 剛志 金融政策
    <![CDATA[2016~2018年度経済見通し~16年7-9月期GDP2次速報後改定]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54512 54512 Thu, 08 Dec 2016 16:25:52 +0900 <実質成長率:2016年度1.2%、2017年度1.0%、2018年度1.2%を予想>
     
    1. 2016年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は1次速報の前期比0.5%(年率2.2%)から前期比0.3%(年率1.3%)へと下方修正されたが、基準改定に伴い2013、2014、2015年度の成長率がそれぞれ0.6%、0.5%、0.4%上方修正された。
       
    2. GDP2次速報の結果を受けて、11月に発表した経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2016年度が1.2%、2017年度が1.0%、2018年度が1.2%と予想する。実績値の上方修正、円安の進展などを受けて2016年度を0.3%、2017年度、2018年度をそれぞれ0.1%上方修正した。
       
    3. 海外経済が力強さに欠ける中、輸出が景気の牽引役となることは期待できないが、雇用所得環境の改善を背景に民間消費の回復が続き、企業収益が増加する2017年度には設備投資も回復基調を強めることが予想される。ただし、物価が上昇する中で春闘が低調に終わった場合には、実質所得の低下から消費腰折れするリスクが高まるだろう。
       
    4. 消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は原油安の影響が一巡する2016年度末頃にプラスに転じた後、2017年度入り後には円安や景気回復に伴う需給バランスの改善を受けて伸びを高めるだろう。年度ベースでは2016年度が▲0.2%、2017年度が0.7%、2018年度が0.9%と予想する。
    ■目次

    1.基準改定、2008SNA対応で2015年度の名目GDPは31.6兆円の上方改定
      ・7-9月期の経常利益は特殊要因でかさ上げ
    2. 実質成長率は2016年度1.2%、2017年度1.0%、2018年度1.2%
      ・成長率見通しを上方修正
      ・消費回復持続の鍵を握る2017年春闘
      ・物価の見通し12/8に内閣府が公表した2016年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.3%(年率1.3%)となり、1次速報の前期比0.5%(年率2.2%)から下方修正された。

    民間消費(1次速報:前期比0.1%→同0.3%)、公的固定資本形成(1次速報:前期比▲0.7%→同0.1%)は上方修正されたが、7-9月期の法人企業統計の結果や過去に遡って計数が大幅に修正された影響などから設備投資(1次速報:前期比0.0%→同▲0.4%)、民間在庫変動(1次速報:前期比・寄与度▲0.1%→同▲0.3%)、外需(1次速報:前期比・寄与度0.5%→同0.3%)が下方修正されたことが成長率を押し下げた。

    一方、2016年4-6月期の成長率は前期比年率0.7%から同1.8%へと上方修正されており、2016年度入り後の2四半期を通した伸びは1次速報時点よりも高まった。
     
    7-9月期の2次速報と同時に、国民経済計算の基準改定(2005年基準→2011年基準)、国民経済計算の最新の国際基準である「2008SNA」への対応(従来は「1993SNA」)が実施された。

    2008SNAへの対応に伴う主な変更点は以下の通りである。

    (1) 研究・開発(R&D)の資本化
     R&Dへの支出(フロー)を総固定資本形成として記録するとともに、その蓄積の結果であるストックを固定資産(知的財産生産物)として記録

    (2) 特許等サービスの取扱いの変更
     特許実体がライセンス下で使用が許諾される場合のライセンシーとライセンサーとの間の使用料の受払について、従前の財産所得(賃貸料)ではなく、特許等サービスというサービスの産出とそれに対する支払として記録。特許等サービスの純輸出分がGDP水準の増加要因

    (3) 防衛装備品の資本化
     政府による戦車や艦艇等の購入は、従前の中間消費ではなく、総固定資本形成として記録し、その蓄積を固定資産として記録

    (4) 国際収支統計との整合

    国際収支マニュアル第6版(BPM6)と整合的に、財貨の輸出入を所有権移転ベースで記録するという原則を徹底基準改定後の名目GDPの水準は1994年以降の平均で18.2兆円(GDP比3.7%)、直近の2015年度は31.6兆円(GDP比6.3%)の上方改定となった(2015年度の名目GDPは532.2兆円)。内閣府によれば、名目GDPの上方改定のうち、R&Dの資本化によるものが16.2兆円(1994~2015年度以降の平均、2015年度は19.2兆円)で、名目GDP上方改定の大半を占めている。

    需要項目別には、R&Dが新たに計上されたことを反映し、民間企業設備が11.1兆円と上方改定幅が大きくなっている。設備投資の名目GDPに占める割合は旧基準の14.0%から15.3%へと高まった(いずれも2015年度の数値)。実質GDP成長率への影響を確認すると、過去10年平均(2006~2015年度)の成長率は0.5%で旧基準と変わらなかったが、直近3年間の成長率は比較的大幅な上方改定となった(2013年度:2.0%→2.6%、2014年度:▲0.9%→▲0.4%、2015年度:0.9%→1.3%)。2013、2014年度は民間消費、設備投資の上方修正、2015年度は民間消費の上方修正が成長率の上方改定に大きく寄与した。

    なお、設備投資の水準はR&Dの追加により大きく押し上げられたが、伸び率で見ると上方修正される年度と下方修正される年度がほぼ同数となっており、1995年度以降の平均で0.3%(旧基準:1.1%→新基準:1.4%)と小さかった。(7-9月期の経常利益は特殊要因でかさ上げ)
    12/1に財務省から公表された法人企業統計では、2016年4-6月期の経常利益(金融業、保険業を除く全産業)が前年比11.5%と4四半期ぶりの増加となった(4-6月期:同▲10.0%)。製造業は前年比▲12.2%(4-6月期:同▲22.4%)と4四半期連続の二桁減益となったが、非製造業が前年比24.5%(4-6月期:同▲3.1%)の大幅増益となったことが全体を大きく押し上げた。

    ただし、非製造業の経常利益は、子会社からの受取配当の急増を主因として純粋持株会社が前年比858.9%となったことにより大きく押し上げられている。これは持続的なものとは考えられず、特殊要因と捉えるべきだろう。純粋持株会社を除いた経常利益は非製造業が前年比▲1.4%、全産業が同▲5.3%となる。特殊要因を除いた経常利益は4-6月期の前年比二桁の大幅減少から減少幅が縮小したとの評価が妥当だ。企業収益は最悪期を脱しつつあるものの、実勢として増益に転じるのは円高の影響がほぼ一巡する2017年入り後となる可能性が高い。設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲1.3%と14四半期ぶりに減少した(4-6月期:同3.1%)。非製造業(4-6月期:前年比▲1.3%→7-9月期:同▲1.3%)が2四半期連続の減少となる中、これまで堅調を維持してきた製造業(4-6月期:前年比11.1%→7-9月期:同▲1.4%)が9四半期ぶりの減少となった。

    季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比0.4%と小幅ながら2四半期ぶりに増加した。製造業が前期比▲2.5%(4-6月期:同0.3%)と3四半期ぶりに減少したが、非製造業が前期比2.1%(4-6月期:同▲2.1%)と4四半期ぶりに増加した。

    設備投資は前年比で減少に転じたが、2015年後半以降の企業収益悪化の影響が遅れて表れたものであること、前期比でみればほぼ横ばいとなっていることを踏まえれば、それほど悲観する必要はないだろう。企業の投資意欲が大きく高まることは見込めないため、設備投資が景気の牽引役となることは期待できないが、企業収益の回復に伴い徐々に持ち直しに向かうことが予想される。(成長率見通しを上方修正)
    2016年7-9月期のGDP2次速報を受けて、11/15に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2016年度が1.2%、2017年度が1.0%、2018年度が1.2%と予想する(11/15時点ではそれぞれ0.9%、0.9%、1.1%)。2016年7-9月期の成長率は下方修正されたが、2016年4-6月期が上方修正され、2016年度入り後の2四半期を合わせた伸びは1次速報時点よりも若干高まった。さらに、1次速報以降に公表された経済指標が想定よりもやや強めだったこと(10月の貿易統計、建築着工統計等)などを受けて2016年度下期の見通しを若干上方修正したため、2016年度の成長率見通しは0.3%の上方修正となった。2017年度、2018年度はトランプ氏の米大統領選挙勝利以降の円安の進行を反映し、輸出、設備投資を上方修正したことなどから、それぞれ0.1%上方修正した。2016年7-9月期は輸出が前期比1.6%の高い伸びとなったことがプラス成長の主因となったが、4-6月期には同▲1.3%と落ち込んでいたこと、輸出の押し上げに寄与した新型スマートフォン向け部品の好調が一時的に終わる可能性が高いことを考慮すれば、基調としては横ばい圏の動きが続いていると判断される。海外経済の低成長が続く中、2016年初からの大幅な円高による下押し圧力がしばらく残るため、10-12月期以降は輸出が景気の牽引役となることは期待できない。

    一方、民間消費は2016年4-6月期が前期比0.1%から同0.2%、7-9月期が前期比0.1%から同0.3%へ上方修正され、相次ぐ台風の上陸など天候要因による下押し圧力がある中でも、雇用所得環境の改善を背景に緩やかに持ち直しているという姿に改められた。足もとでは、夏場の天候不順を受けた生鮮野菜の価格高騰という新たな悪材料が浮上しているが、一時的な下押し要因がなくなれば、消費は回復の動きが明確となる可能性が高い。

    また、公的固定資本形成は7-9月期には前期比0.1%とほぼ横ばいにとどまったが、2016年度補正予算による押し上げもあり先行きは増勢ペースを強めることが見込まれる。2016年度後半は外需のマイナスを国内需要の増加がカバーする形となるだろう。

    実質GDP成長率は、輸出、設備投資の低迷が続く2016年度中は年率ゼロ%台にとどまるが、2017年度入り後は円高の悪影響一巡に伴う企業収益の改善を背景に設備投資が回復すること、輸出が持ち直すことなどから概ね年率1%台の成長が続くだろう。(消費回復持続の鍵を握る2017年春闘)
    民間消費は2016年1-3月期から3四半期連続で増加し、経済成長の中心となりつつある。消費持ち直しの主因は、雇用者数の大幅増加や物価上昇率の下落から実質雇用者報酬が高い伸びとなっていることである。2016年度の実質雇用者報酬は前年比2.3%となり、2005年度(同2.2%)以来、11年ぶりに2%台の高い伸びとなることが見込まれる。

    今後も天候要因や株価下落による逆資産効果など一時的な要因により下押しされるリスクはあるが、実質所得の増加を主因として2016年度末にかけて民間消費は回復基調を強める可能性が高い。

    2017年度の消費動向の鍵を握るのは春闘賃上げ率の行方である。当研究所ではマイナスが続いている消費者物価上昇率は2016年度末にはプラスに転じ、その後伸びを高めていくと予想している。こうした中、賃金の伸びが高まらなければ実質賃金は大きく低下してしまう。賃上げを巡る環境は厳しい。直近(2016年10月)の失業率が3.0%、有効求人倍率が1.40倍と労働需給は逼迫した状態が続いているが、足もとの企業収益の悪化、消費者物価の下落が逆風となりそうだ。11/25に連合が発表した2017春季生活闘争方針では、賃上げ要求水準が「2%程度を基準(定期昇給分を除く)」と前年と同水準となっていること、企業経営者が政府の賃上げ要請をある程度受け入れることを考慮し、今回の見通しでは2017年度の春闘賃上げ率を2.15%と2016年度(2.14%)とほぼ同水準と想定した(2018年度は2.40%)。実際の賃上げ率が前年度を大きく下回るようなことがあれば、実質所得の低下を主因として消費が腰折れしてしまうリスクが高まるだろう。(物価の見通し)
    消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)上昇率は、原油価格下落に伴うエネルギー価格の低下を主因として2016年3月からマイナスが続いている。人手不足に伴う人件費の上昇などを背景にサービス価格はプラスの伸びを維持しているが、原油価格下落に伴うエネルギー価格の大幅低下に加え、ここにきて円高による輸入物価低下の影響を受けやすい食料品、耐久財などでも上昇率の鈍化が目立つようになっている。原油価格(ドバイ)は1月中旬の1バレル=20ドル台半ばを底に足もとでは50ドル台まで上昇しており、電気代、ガソリンなどのエネルギー価格はすでに下落率が縮小し始めている。2016年度末までにエネルギー価格は前年比でプラスに転じるだろう。

    また、既往の円高による物価下押し圧力はしばらく残るが、ここにきて円安が急進しており、2017年度入り後には前年よりも円安水準となることが見込まれる。コアCPI上昇率は2016年度中にはプラスに転じ、2017年度入り後にはゼロ%台後半まで伸びを高めることが予想される。原油価格上昇によるエネルギー価格の上昇率は2017年後半がピークでその後は伸びが低下するが、景気回復持続に伴う需給バランスの改善や賃上げ率の上昇を背景に2018年度には1%程度まで伸びが高まるだろう。ただし、2018年度中に日本銀行が目標としている2%に達することは難しいだろう。

    コアCPI上昇率は2016年度が前年比▲0.2%、2017年度が同0.7%、2018年度が同0.9%と予想する。
      【関連レポート】 2016~2018年度経済見通し(16年11月)
    法人企業統計16年7-9月期~企業収益は最悪期を脱しつつあるが、経常利益の伸びは特殊要因でかさ上げ
    消費者物価(全国16年10月)~生鮮食品の価格高騰が消費の新たな悪材料に
    家計調査16年10月~消費は持ち直しつつあるが、生鮮野菜の価格高騰による悪影響には要注意
    ]]> 経済研究部経済調査室長斎藤 太郎 経済予測・経済見通し <![CDATA[基礎研REPORT(冊子版)12月号]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54497 54497 Thu, 08 Dec 2016 11:31:47 +0900 欧米で広がるシェア経済(シェアリングエコノミー)-日本の働き方にも影響
    櫨(はじ) 浩一

    2.「年金カット法案」という決め付けに、若者は怒れ!
    德島 勝幸

    3.EU(欧州連合)にみる「共生社会」-中欧の街角から(その1):ウィーン
    土堤内 昭雄1.「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する
    松浦 民恵

    2.なぜ日本人は有給休暇を取らないのか?
        -「長時間労働=勤勉」、「長時間労働=当たり前」という旧時代の意識や風土にメスを!
    金 明中

    3.オフィス賃料は反発も、インバウンド需要のピークアウトが商業施設、ホテルに影響
        -不動産クォータリー・レビュー2016年第3四半期
    増宮 守

    トランプ相場の賞味期限~マーケット・カルテ12月号
    上野 剛志


    クリスマスソングといえば?No.1
    なぜ日本人は有給休暇を取らないのか?
    -「長時間労働=勤勉」、「長時間労働=当たり前」という旧時代の意識や風土にメスを!

    金 明中

    No.2
    不動産価格サイクルの先行的指標(2016年)~大半の指標がピークアウトを示唆~
    増宮 守

    No.3
    中期経済見通し(2016~2026年度)
    経済研究部

    No.4
    貸家着工にバブルの懸念?-住宅投資関数で説明できない好調さ
    岡 圭佑

    No.5
    オフィス賃料は反発も、インバウンド需要のピークアウトが商業施設、ホテルに影響
    ~不動産クォータリー・レビュー2016年第3四半期~

    増宮 守No.1
    【図解】あなたの隣の家、実は空き家かも?
    -都市別・エリア別に空き家率を見える化してみた

    竹内 一雅

    No2
    消費から離れているのは誰か-全国消費実態調査からみる家計消費の変化
    井上 智紀

    No.3
    「年金カット法案」という決め付けに、若者は怒れ!
    德島 勝幸

    No.4
    未婚化・晩婚化はどこまで進む?-国勢調査からみる未婚率の状況
    井上 智紀

    No.5
    トランプノミクスと中国経済
    -中国は「為替操作国」に認定されて深刻な打撃を受けるのか?

    三尾 幸吉郎

    (アクセス集計期間16/10/24-16/11/20) 【関連レポート】 基礎研REPORT(冊子版)11月号
    基礎研REPORT(冊子版)10月号
    基礎研REPORT(冊子版)9月号
    基礎研REPORT(冊子版)8月号
    基礎研REPORT(冊子版)7月号
    ]]>
    <![CDATA[欧米で広がるシェア経済(シェアリングエコノミー)-日本の働き方にも影響]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54489 54489 Thu, 08 Dec 2016 11:30:53 +0900
    欧米で急速な広がりを見せているシェア経済(Sharing Economy)を、情報通信白書(2015年版)は、「典型的には個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸出しを仲介するサービス」と定義している。シェア経済の仕組みというと、日本では個人の住宅を宿泊用に貸し出す「民泊」がまず頭に浮かぶ。欧米ではスマートフォンを使って個人が提供する相乗りサービスを手配したり、掃除や家事の代行なども提供されていて、余った時間を他の人が利用する仕組みも広まっている。

    Sundararajan教授(ニューヨーク大学スターンスクール)は、シェア経済という言い方が圧倒的に普及しているが、定着した定義は無く、クラウド(クラウド・コンピューティングの技術)を基盤とした資本主義(crowd-based capitalism)というのが最も適切だとしている。シェア経済という言い方が広く使われているのは、情報通信白書は「シェアリング・エコノミーの嚆矢は2008年に開始された「Airbnb」」と紹介しているが、それ以前から個人が持つ未利用・低利用の資産を多くの人が共同で利用すれば資源やエネルギーの節約になるという考えから出発したサービスがあったからではないか。現在でも多くのサービスが環境問題への貢献や人との出会い、コミュニティの強化などをうたっている。シェア経済が注目されるようになる以前から、一つの資産を多くの人が利用するという仕組みはあった。例えば、レンタカーやホテルがそうだ。こうした仕組みとシェア経済の違いは、レンタカーやホテルは、企業が資産やサービスを提供しているのに対して、シェア経済の仕組みでは個人が提供するという点である。企業はブランドを築くことで対処してきたが、個人間の取引では、相手を見つけることが難しいということと、相手が信用できるか分からない、という二つの問題を解決することが難しかった。

    しかし、インターネットなどデジタル技術の発展は、欲しいものを提供しようとしている相手を個人が簡単に見つけられるようにし、シェア経済を使って商品やサービスを提供する人と利用者の相互の評価を使うことで信頼の問題に対応することを可能にした。例えば、インターネット上の個人売買のサイトでは、売り手も買い手も、自分が取引しようとしている相手が、過去に行なった取引で商品の品質や料金の支払などを巡ってトラブルが無かったか、取引相手からの評判はどうかなどを調べることができるものがある。

    デジタル技術が個人間の取引でもこの二つの問題を解決する道を開いてシェア経済の実現を可能としたと言っても過言ではなく、シェア経済はデジタル技術と不可分のものと考える人も多い。
     現実の経済では、情報不足に起因する市場の問題が数多くあり企業は組織の力で解決してきた。これまでは個人では対応が難しかったが、デジタル技術の発展で誰もが簡単に必要な情報を入手できるようになるので、この問題は個人でも解決しやすくなる。市場を通じて個人同士が取引を行なうシェア経済の活動は、経済活動全体の中でより大きなウエイトを占めることになるだろう。もちろんデジタル技術の進歩は大企業の効率も高めるので、企業中心の経済活動も併存するだろうが、シェア経済がこれまでの企業活動に取って代わる分野も多いのではないか。

    企業に雇用されて働く人の割合は今よりも低くなり、多くの人が個人で直接個人の顧客を相手に仕事をするようになる。日本でもシェア経済の仕組みが拡大していけば、人々の働き方は大きく変わり、我々の職業観にも大きな影響を与えることになるだろう。
     

     
      1 Sundararajan, Arun "The Sharing Economy: The End of Employment and the Rise of Crowd-Based Capitalism", MIT Press (2016)
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    経済研究部専務理事 東京工業大学大学院社会理工学研究科特任教授櫨(はじ) 浩一 労働市場
    <![CDATA[「年金カット法案」という決め付けに、若者は怒れ!]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54490 54490 Thu, 08 Dec 2016 11:30:18 +0900
    何らの前提もなく、年金給付額をカットすると聞かされると、誰でも拒否したくなるだろう。しかし、今回の改正法案の中味をしっかりと確認したい。

    年金カットと非難される部分は二つのポイントがある。まず、一点目は、“年金の名目額が前年度を下回らない措置を維持しつつ”マクロ経済スライドについて前年度までの未調整分を実施するというものである。単年度を取ると、物価が上昇した場合でも年金給付額が完全には物価に連動しないため、実質的な購買力を維持できないことになる。しかし、過年度までのマクロ経済スライド未実施分が存在することを考えると、マクロ経済スライドが適用されなかった分、これまでに年金受給者は多めに給付を受けていたことになるのであり、それを後年度に調整するというのは、予め得た超過利得を調整されるだけである。しかも、年金の名目額については、前年度を下回らない範囲と適用の限度が設定されているのである。

    二点目は、賃金変動が物価変動を下回る場合に、賃金変動に応じて年金額を改定するというものである。賃金変動が物価変動より低い場合に賃金変動に給付を連動させることは、年金受給者の購買力の確保には繋がらない。確かに、既に労働に従事していない年金受給者の多くにとっては、賃金の変動は生活に無関係であり、物価変動による影響が大きいのは事実である。年金受給者には、給付額の若干の目減りという形で、年金制度維持のための実質的な負担をお願いする形になっている。それでも、第一点目の仕組みを前提にすると、物価が上昇している状況で年金給付額は物価に連動するほど上がらないが、賃金に連動する範囲で増加するのである。

    賃金を現役の労働者の所得と置き換えれば、もっとわかり易いかもしれない。年金保険料の負担者である現役労働者にとっても、物価が上昇しているにも関わらず、賃金は物価ほど上がっていないという状況なのである。現役労働者と年金受給者を公平に扱うという考え方に立っていると考えられるのに、なぜ年金受給者のみを厚遇する必要があるのか。問題は、物価上昇ほど賃金が上昇しないという雇用構造にあり、それは現役労働者の責任ではない可能性が高い。

    今回の改正の趣旨は、決して受給者に大きな不利を被らせることが目的ではなく、改正法案の題に明記されているように、“公的年金制度の持続可能性の向上を図るため”のものである。つまり、少子高齢化と人口減少が進む日本において、将来はより高齢者の比率が高まることは必至となる。その中で公的年金制度を維持しようとするならば、現在や近い将来の受給者には多少の不利益が及んでも、将来の受給者に意味のある金額の給付を行うための措置が必要になっているのではないか。

    「年金カット法案」とレッテルを貼り一律に反対するのは適切でなく、この法案に反対すべきなのは現在や近い将来の受給者であり、より先の受給者である若者はむしろ賛成すべきものと考えられる。それでなくとも、年金受給額の将来予測を考えると、現在の年金受給者より将来の年金受給者の方が、相対的に余裕のある給付を貰えないことは、人口構成から見ても明らかである。つまり、若者たちは「年金カット法案」に反対するのではなく、積極的に賛成するべきなのではないか。自分たちの将来の年金給付財源を、現在と近い将来の年金給付に食い潰されては堪らないはずである。 【関連レポート】 無借金経営は、フィデューシャリー・デューティーに反すか
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    金融研究部年金総合リサーチセンター 年金研究部長德島 勝幸 年金制度
    <![CDATA[EU(欧州連合)にみる「共生社会」-中欧の街角から(その1):ウィーン]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54491 54491 Thu, 08 Dec 2016 10:57:40 +0900
    日本とウィーンを結ぶ直行便がなくなり、ウィーンへはドイツやオランダなどのヨーロッパ内での乗り継ぎが必要だ。現在、ヨーロッパではシェンゲン協定により、最初のシェンゲン地域の国で入国手続きをすれば、原則として域内の移動の際のパスポート・チェックはない。国境を越える際には日本国内の都道府県境を越えるような感じだ。しかし、実際には異なる法律や文化を有する主権国家間の移動であることから、EU(欧州連合)のガバナンスはきわめて複雑であることは想像に難くない。

    現在28カ国が加盟するEUでは、原則として人・物・サービス・資本の移動が自由に行われる。そこでは民主主義や法の支配、人権の尊重といった価値観が共有されなくてはならない。EUは市場統合と通貨統合を推進しながら経済的繁栄を通じた欧州全体の平和構築を目指しており、経済・金融政策にとどまらず、環境政策や外交・安全保障政策など幅広い政策分野にかかわる超国家的統治体となった。とりわけEUでは人権尊重や男女平等の規定がきわめて重視されている。

    今回、ウィーンの街を歩いていると、見慣れない歩行者用信号機に遭遇した。「青信号」は2人の人が手をつないで歩く緑色の姿、「赤信号」は2人の人が手をつないで立ち止まる赤色の姿だ。ネットで調べてみると、2015年5月に一時的に導入され、さまざまな議論ののちに本格的に設置されるようになった同性カップルを表現した歩行者用信号機だった。近年、日本でもLGBT(性的マイノリティ)の人権尊重が求められる時代だが、改めてEUが目指す多様性や寛容性を感じた。

    前述のシェンゲン協定によりEUは域内の国境が事実上なくなり、一層厳密な域外との国境管理が必要とされている。EUは基本的価値観を共有しているものの、シリアなどから押し寄せる難民に対して加盟国の対応には温度差がある。今年6月にはイギリスがEU離脱を表明した。しかし、ウィーンの街角で見かけた歩行者用信号機からは、「多様性のなかの統一」を掲げるEUが、経済的果実だけではなく、なおも互いの多様性を認め合う「共生社会」を求めて苦闘する様子が窺えるのだった。
     

     
      1 イギリスやアイルランド等を除く22のEU加盟国と、スイスやノルウェー等を含む4つのEU非加盟国をあわせた26カ国が参加
       [参考]
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    社会研究部主任研究員土堤内 昭雄 ライフデザイン
    <![CDATA[心地よい混み具合-適度なバランスは、どのように定まるのか?]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54506 54506 Wed, 07 Dec 2016 15:48:12 +0900  
    混むことイコール不快、ととらえがちだが、そうとばかりも言えない。例えば、1人で、カフェやレストランに入ったとして、自分の他に、客が誰もいなかったとしたらどうだろう。「店を独占できて、ラッキー」と思えればいいのだが、多くの場合、何か不安な気分になってしまうのではないだろうか。
     
    「この店は、評判がよくないのではないか。過去に、何か問題があって、それが原因で客が入らないのではないか。味に、問題があるのか。それとも、値段が高いのか。もしかしたら、店員の態度に問題があるのか。…」などと、気になりだしたら、止まらなくなってしまうかもしれない。
     
    つまり、混み合うのは嫌、という一方で、全く混まないのも嫌、なのである。人間というのは、なんと身勝手な生き物なのだろう。
     
    人気店の混み具合は、どのように決まっていくのだろうか。この問題に関して、ゲーム理論で、「エルファロル・バー問題」と呼ばれる研究がある。この問題は、経済学者のブライアン・アーサーが考えたものだ。エルファロルというのは、アメリカのニューメキシコ州サンタ・フェにある人気のバーである。小さいバーのため、座席数の6割までの入りであれば、客はみな心地よく感じるのだが、それ以上の混み具合になると、みな不快感を持ってしまう。それぞれの客は、その店がどれぐらい混むか、店にやって来るまでわからない。また、他の客が店に行くかどうかもわからない。こんな場合、この店の混み具合は、どの程度に落ち着くだろうか。
     
    来店して心地よく感じた人は、また来たいと思う。一方、不快に感じた人は、次の来店をしばらく見送ろうと考える。即ち、混み具合が定員の6割までだったときの客は、次回もすぐに来たいと思い、6割以上だったときの客は、しばらく来たくないと考える。
     
    もし、客がみな、前回体験した心地よさや、不快感だけを頼りに、全く同じ来店行動をとるとしたら、この店の混み具合は、毎日、乱高下することになる。例えば、前回心地よく感じた人は、必ず翌日来店し、不快だと感じた人は、必ず1週間空けた上で来店する、といった法則に従う場合だ。このように、全員が同じ法則に従って行動すると、店の混み具合は、大混雑か、閑散に偏ってしまう。
     
    それでは、客が確率的に行動するとしたら、どうなるだろうか。前回心地よく感じた人は、翌日、高い確率で来店する。不快に感じた人は、翌日、低い確率で来店する。そのように確率を用いた前提を置くと、店の混み具合は、徐々に座席数の6割に収れんしていく。実証実験の結果でも、6割程度に落ち着いたとのことである。これは、一人ひとりの客が、自分の体験を織り込みつつも、そのことだけにとらわれずに、確率的な行動をとったことで、適度なバランスが実現したことを意味している。
     
    例えば、前回心地よく感じた人の中には、次は他の人に譲ってあげようと考える人がいるかもしれない。逆に、前回不快に感じた人の中には、懲りずに、翌日、また来店しようとする人がいるかもしれない。このように、人間の行動は、いろいろなパターンはあるものの、大局的には、確率的に定まるという前提を置くことで、全体の混み具合に、適度なバランスがとれることになる。
     
    確率などというと、何か、数学的な精緻なもののように思われるかもしれない。しかし、実際には、人が日々、何気なくとっている行動には、確率的な要素がたくさん含まれている。
     
    例えば、料理の材料を買いに、スーパーマーケットに行ったとしよう。特売の品を見て、思わず予定外の買い物をするかもしれない。逆に、買おうと思っていた食材の値段が高かったために、買うのを控えるかもしれない。こうしたことは、誰でも日常的に経験しているだろう。日々の生活では、あまり強く意識せずとも、あれこれと、意思決定をしているのではないだろうか。
     
    このように、強く意識しないで行われた選択によって、適度なバランスが実現するということは、実際には、よくあることのように思われる。
     
    帰省ラッシュも、人気のラーメン屋も、混み合う遊園地も、全て、強く意識せずに行われた人々の選択の結果と、言えるかもしれない。そもそも、どうしても混雑が嫌ならば、それを避けるための行動は、いろいろ考えられるだろう。しかし、混雑の中に身を委ねたり、長蛇の列に並んだりする人々は、敢えてそういう行動をとらない。待ち行列の人々は、実は、内心、バランスのとれた混み具合を、心地よく感じているのかもしれない、という気がしてくるが、いかがだろうか。 【関連レポート】 リトルの法則-待ち時間の推定-この行列は、あと何分、待たなくてはならないのか?
    頃合のよい、いい加減さ-リスクの違いは、どこまで保険料に反映すべきか?
    平均値の信憑性-平均値は、その集団を代表しているか?
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    保険研究部主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任篠原 拓也 保険計理 カフェ
    <![CDATA[「130万円の壁」を巡る誤解-2016年10月からの適用要件拡大の意味を正しく理解する]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54492 54492 Wed, 07 Dec 2016 09:05:16 +0900 1の壁)が取り上げられることが多い。配偶者控除については、昨今見直しの議論が活発化しており、見直しの方向性の選択肢が示されつつある。一方、社会保険の被扶養者枠については、見直しの声があるものの、方向性についての議論は停滞しているようにみえる。

    社会保険料負担は社員と企業の双方に生じることから、就業調整のインセンティブも双方に生じる。この点を踏まえると、社会保険についても、女性の就業の観点から、見直しの議論が広がることが期待されるところである。

    ただ、そのためには、社会保険の現行の仕組みを、まずは正しく理解する必要がある。ちなみに、国民年金法等の一部を改正する法律により、2016年10月からは、これまでは社会保険が適用されていなかった短時間労働者も、以下の要件(学生は適用除外)に合致すれば社会保険が適用されることになった
     
    • 所定労働時間が週20時間以上
    • 月額賃金8.8万円以上
    • 雇用期間1年以上
    • 従業員数501人以上

    しかしながら、「130万円の壁」そのものについても、10月からの社会保険の適用要件拡大についても、少なからず誤解されているケースが多く、正しい理解が十分に広がっていないことが懸念される。

    そこで、本稿では、社会保険の適用要件拡大に関する代表的な3つの誤解を取り上げ、「130万円の壁」の何が変わるのかについて解説したい。「130万円の壁」が「106万円の壁」に変わる、という言い方は厳密には正しくない。社員本人に対する社会保険の適用要件と、配偶者等の被扶養者枠(配偶者等の扶養に入れるかどうか)の基準を分けて考えると、この点に関する誤解を解消しやすくなる。

    まず、10月に改正されたのは適用要件だけであり、被扶養者枠の基準は変更されていない(年収130万円のまま)。もともと、社会保険の主な適用要件は、「通常の就労者」(フルタイム勤務)の所定労働時間・日数の概ね3/4以上であることとされてきた。したがって、理論的にはこれまでも、この適用要件に合致していれば(3/4以上勤務していれば)、年収130万円未満でも社会保険が適用されなければならなかった(自動的に被扶養となる意味がなくなるので、被扶養からも外れる)。

    つまり、被扶養者枠は、あくまでも国民年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者になれるかどうかの判断基準であり、年1回を目処に健康保険組合等によって判断される*7。一方、適用要件は社会保険を適用しなければならない(社員にとっては勤務先で厚生年金保険や健康保険に加入しなければならない)基準であり、被扶養者枠に入っているかどうかにかかわらず、適用要件に合致していれば社会保険が適用される。

    結果として、所定労働時間・日数および今回新たに新設された適用要件に合致しているかどうかによって、社会保険の被保険者区分は図表1のように分かれることになる。図表1のうち、赤字部分が、今回の改正による変更部分である。被扶養者枠は年収によって判断されるが、適用要件については、もともと賃金水準は判断基準に含まれていなかった(所定労働時間・日数が3/4以上であれば基本的に適用)。改正により、所定労働時間・日数が3/4未満であっても、「週20時間以上、月額賃金8.8万円以上」等の要件に合致すれば、社会保険が適用されることとなった。

    被扶養者枠の判断基準と混同して、適用要件の月額賃金8.8万円も年収ベースで判断されるのではないかと誤解されがちであるが、適用要件の判断の拠り所となる「8.8万円以上」はあくまでも月収(月額賃金)であり、年収ではない。月額賃金8.8万円以上の社員が社会保険を適用され、結果として年収が106万円未満となったとしても、税金のように還付されることはなく、既に支払った社会保険料は戻ってこない。社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額には残業代や通勤手当が含まれる*8。また、被扶養者枠の判断基準についても、基本的には前年(1月~12月)の収入を証明するものを求められることが多いので、残業代・通勤手当、さらには賞与が含まれることになる。

    しかしながら、改正によって拡大された適用要件に合致するかどうかを判断する月額賃金は、残業代・通勤手当・賞与を含まない「所定内の賃金」であり、雇用契約書等に記載されている予め決まった額が基準となる。あくまでも社会保険を適用すべきかどうかを判断するためのものであることから、わかりやすさ、明確さが重視されたと考えられる。

    社会保険の被保険者区分の判断は、今回の改正でより複雑になっており、前述したように正しい理解が十分に広がっていない懸念がある。しかしながら、社員が自分自身の働き方を選択するうえで、企業が法令を遵守しながら社員の労働条件を検討するうえで、さらには女性の就業の観点から社会保険の仕組みについて議論していくうえでも、制度の正しい理解は不可欠である。本稿がその一助となれば幸いである。

    【参考URL】
    厚生労働省「平成28年10月から厚生年金保険・健康保険の加入対象が広がります!(社会保険の適用拡大)」

     

     
      1 被扶養者枠の判断基準となる年収130万円は60歳未満の場合であり、60歳以上の場合は年収180万円となる。
      2 配偶者控除の見直しに関する筆者の見解については、「配偶者控除の見直しは就業への「心理的な壁」を破れるか?-夫への説明ストレスの軽減にも配慮を」を参照されたい。
    なお、最近になって、配偶者控除を103万円よりもむしろ拡大するという議論が浮上してきている。
      3 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(2012年8月10日成立、2012年8月22日公布)。
      4 適用要件の拡大によって社会保険が新たに適用されることになるのは約25万人(厚生労働省資料より)と推計されており、影響は限定的だとされている。
      5 雇用契約期間が1年未満であっても、雇用契約書に契約が更新される旨、または更新される可能性がある旨が明示されている場合は、雇用期間1年以上の予定として取り扱われる。
      6 本稿での執筆に当たっては、しゅふJOB総研所長・川上敬太郎氏から貴重な気づきを頂いた。また、制度の内容についてはオフィスモロホシ事務所代表・諸星裕美氏に丁寧にご指導頂いた。ここに記してお礼申し上げたい。もちろん、本稿は筆者の見解であり、本稿に誤りがあればその責は全て筆者に帰する。
      7 年収が被扶養者枠内かどうかについて、途中で変更があれば変更の届け出が求められる。
      8 賞与は標準報酬月額に基本的には含まれないが、年4回以上支払われる場合には含まれる。
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    読めない未来と若者のキャリア~「働き方の未来2035」に思う
    育児・介護休業法等改正のポイント(介護関係)
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    生活研究部主任研究員松浦 民恵 雇用・人事管理
    <![CDATA[なぜ日本人は有給休暇を取らないのか?-「長時間労働=勤勉」、「長時間労働=当たり前」という旧時代の意識や風土にメスを!]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54493 54493 Wed, 07 Dec 2016 08:41:00 +0900
    労働者が法定労働時間、つまり1日8時間、1週間に40時間だけを働く場合は、「完全週休2日制」が適用されていると言えるだろう。しかしながら労働基準法では「完全週休2日制」を強要しておらず、企業によっては「週休2日制」を適用するケースも少なくない。「完全週休2日制」と「週休2日制」は何が違うだろうか。「完全週休2日制」は、1年を通して毎週2日の休みがあることを意味する。一方、「週休2日制」は1年を通して、月に1回以上2日の休みがある週があり、他の週は1日以上の休みがあることを表す。厚生労働省の調査結果によると2015年現在「完全週休2日制」を実施している企業の割合は50.7%で、「完全週休2日制」を実施している企業が少しずつ増えているもののまだ完全に定着しているとは言えないのが現在の日本の状況であるだろう。「完全週休2日制」が適用される労働者の場合、祝日を含めて1年間約120日が休める。さらに、有給休暇(10日~20日)を加えると、最大約140日も休むことができる。しかしながら、既に言及したように「完全週休2日制」が適用される企業は約半分ぐらいなので、すべての労働者が年間140日を休めることではない。さらに、有給休暇の取得率が低く、多くの労働者が長時間労働にあえいでいるのが日本の現状である。

    労働基準法第39条では、「使用者は,採用の日から6か月間継続して勤務し,かつ全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、少なくとも10日の年次有給休暇を与えなければならない」と年次有給休暇の付与を義務化している。この法律に基づいて、日本政府は有給休暇の取得を奨励しているものの、2014年の有給休暇の取得率は47.3%で、2004年の46.6%に比べて大きく改善されていない。

    このように日本の労働者の有給休暇の平均取得率が改善されていない理由としては、過去に比べて祝日の数が増えたことや「完全週休2日制」が少しずつ普及されることにより、全体的な休日数が増えたことも一つの原因として考えられるものの、根本的には職場や同僚に迷惑をかけることを意識したり、上司が休まないので有給休暇を取らないケースが多い。また、人事評価への影響を懸念して有給休暇を取らないケースもあるだろう。実際に厚生労働省が2014年に実施した有給休暇の取得に関する調査によると、回答者の68.3%が有給休暇の取得に対して「ためらいを感じる」と答えている。また、ためらいを感じる理由(複数回答)に対しては、「みんなに迷惑がかかると感じるから」(74.2%)、「職場の雰囲気で取得しづらいから」(30.7%)、「上司がいい顔をしないから」(15.3%)、「昇格や査定に影響があるから」(9.9%)と回答した回答者が多く、まだ日本の企業では有給休暇を自由に取れる仕組みや雰囲気が整っていないことがうかがえる。政府が祝日を増やしている理由の一つは日本人の働き方、つまり長時間労働を改善するためと思われる。つまり、労働者がなかなか有給休暇を取れない日本的な状況を考慮して祝日を増やし、労働者の休む時間を一律的に増やそうとしたものと考えられる。

    日本人の年間総労働時間は1994年の1,910時間から2013年には1,746時間まで減少した。しかしながら、このように年間総労働時間が減少したのは労働者の労働時間が減少したことよりは、相対的に労働時間が短い非正規労働者が増加したことが主因である。実際にパートタイム労働者を除いた一般労働者の2013年における年間総労働時間は2,018時間で1994年の2,036時間と大きく変わっていない。このような長時間労働は過酷労働や過労死に繋がる恐れが高いものの、まだ日本の長時間労働が当然であるという意識が根強く残っており、暗黙的に長時間労働が強いられている企業も多い。先日、過労死として認定された広告会社の新入社員の自殺事件はその不幸な例であるだろう。さらに、長時間労働による弊害は安倍政権の受け入れ拡大の方針を受けて急増している外国人技能実習生の間でも発生している。厚生労働省の最近(2016年8月)の調査によると、外国人技能実習生を受け入れた事業所5,173カ所のうち、昨年に違法な時間外労働などの法令違反があった事業所は、7割に当たる3,695カ所で過去最多になった。

    厚生労働省が2013年に実施した調査によると、初めて就職した会社の最も大きな離職理由として「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」(22.2%)が挙げられた。少子高齢化の進展により将来の労働力不足が懸念される中で、長時間労働が理由で若者や外国人労働者が日本企業を回避することになると、日本企業のみならず、日本の成長戦略にもマイナスの影響を与えることは避けられないだろう。

    日本政府は有給休暇の取得を奨励するために、年次有給休暇の付与日数のうち、5日を除いた残りの日数については、労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができる「年次有給休暇の計画的付与制度」を奨励している。この制度を導入した企業は、導入していない企業よりも有給休暇の平均取得率が8.6ポイント(2012年)も高くなっている。しかしながら、「年次有給休暇の計画的付与制度」がある企業の割合は19.6%にすぎず、1997年の18.5%と大きく変わっていない。制度の普及のためにより徹底的な対策が要求される。

    日本の長時間労働やそれによる弊害を減らすためには、現在、政府が推進している働き方改革に企業が足並みを揃える必要がある。何よりも企業内に蔓延している長時間労働の風土を直し、より働きやすい職場環境を構築することが大事である。そのためには、決まった場所で長時間働く過去の働き方を捨て、多様な場所でより多様な働き方ができるように企業や労働者皆の意識を変えなければならない。政府は、「長時間労働=勤勉」あるいは「長時間労働=当たり前」という旧時代の意識や風土にメスを入れ、労働者がより安心して自由に働ける社会を構築すべきである。
     

     
      1 厚生労働省(2015)「平成27年就労条件総合調査結果の概況」。
      2 厚生労働省(2014)「労働時間等の設定の改善を通じた「仕事と生活の調和」の実現及び特別な休暇制度の普及促進に関する意識調査)」。
      3 「ためらいを感じる」(24.8%)と「ややためらいを感じる」(43.5%)の合計。
      4 短時間労働者以外の労働者。
      5 厚生労働省「毎月勤労統計調査」。
      6 厚生労働省(2013)「平成25年若年者雇用実態調査の概況」。
      7 厚生労働省「就労条件総合調査」。
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    <![CDATA[オフィス賃料は反発も、インバウンド需要のピークアウトが-商業施設、ホテルに影響 不動産クォータリー・レビュー2016年第3四半期]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54494 54494 Wed, 07 Dec 2016 08:39:36 +0900
    今後も、世界経済の減速から外需に期待しづらくなるものの、雇用所得環境の改善を受けた底堅い個人消費により、プラスの経済成長が続くとみられている。

    住宅市場は概ね堅調で、新設住宅着工戸数が前年同月比プラスで推移している。とりわけ、根強い相続税の節税ニーズに加え、金融機関の融資姿勢の積極化や建築コストの落ち着きが貸家着工を加速させている[図表1]。

    首都圏の新築分譲マンション販売戸数も9月には10ヶ月ぶりに前年同月比でプラスとなった[図表2]。神奈川県での伸びが大きく、消費増税前の駆け込み需要を想定していた大規模駅近物件などが順調に販売された模様。

    マンション価格も上昇を続けており、9月の首都圏中古マンション平均価格(東日本不動産流通機構)は前年同月比+5.7%の3,126万円となり、リピートセールス法による不動研住宅価格指数の上昇も続いている。地価動向は、年次ベースの基準地価では(7/1時点)回復が続いた一方、四半期ベースでは、首都圏住宅地の地価上昇が収束しつつある。野村不動産アーバンネットによると、首都圏住宅地の地価は第3四半期(10/1時点)に前期比+0.1%のほぼ横ばい[図表3]、地区別では、都区部(+0.5%)で上昇が続いたものの、埼玉県(+0.1%)、神奈川県(±0.0%)、千葉県(±0.0%)で横ばい、東京都下(▲0.1%)でマイナスとなった。1│オフィス
    東京の賃貸オフィス市場では、住友不動産六本木グランドタワー(貸室面積、約3.1万坪)の稼働率約6割での竣工などにより、Aクラスビル市場の空室率がやや悪化した。賃料は反発したものの、2015年第3四半期にピークアウトした後の自律反発とみられる[図表4]。

    集約移転需要が中心となっているAクラスビル市場では、2018年以降の大量供給を見据えるテナントも多く、空室率の上昇に先んじて賃料が弱含んでいる。
     2│賃貸マンション
    東京の賃貸マンション市場では、賃料上昇が鈍化しているものの、まだ下落の兆候はみられていない[図表5]。マンションの用途別でみると、近年出遅れていたシングルタイプの賃料上昇が加速している。

    一方、東京の高級賃貸マンション市場では、賃料の大幅な変動と共に空室率が下げ止まり、サイクルのピーク感が漂っている[図表6]。高級賃貸マンションに入居する英米人が多い港区では、直近2016年7月の外国人人口が前年同月比+1.6%に止まり、東京都全体の+8.2%を大きく下回っている。
     3│商業施設・ホテル・物流施設
    商業施設およびホテル市場を牽引してきたインバウンド需要がピークアウトしている。ただし、訪日客の人数自体は、依然として前年同月比約2割増しのペースで増加している[図表7]。

    訪日外客数の増加の一方、訪日客の日本国内での1人当たり消費額は、第3四半期に前年同期比-17.1%と大きく落ち込んだ[図表8]。政府主導で贅沢品の消費を抑えている中国人(前年同月比-18.9%)だけでなく、多くの国の訪日客が消費額を縮小している。

    インバウンド消費需要が減退する中、商業動態統計による9月の小売業販売額(税込み季節調整済み指数)は、前年同月比-1.9%となった。特に、百貨店の9月の既存店売上は前年同月比-5.0%で7ヶ月連続のマイナス、とりわけ外国人向け免税品売上は-10.1%で6ヶ月連続のマイナスとなった。

    店舗売上の頭打ちを受け、高級品店の多い銀座を筆頭に、商業施設賃料もピークアウトしている[図表9]。

    ホテル市場でも、8月には国内宿泊施設の延べ宿泊者数が外国人分まで前年同月比マイナスに落ち込んだ[図表10]。訪日客の宿泊需要拡大がホテル市場を牽引する状況は収束しつつある。

    ホテル稼働率が前年同月比でマイナスとなる月が増えており、STRグローバルによる全国のホテルのRevPARも8月は前年同月比-1.7%であった。

    賃貸物流施設市場では、首都圏に続き、大阪圏でも大量供給が本格化している。CBREによる大型マルチテナント型物流施設の空室率は、第3四半期に首都圏で9.1%(第2四半期8.9%)、近畿圏で6.9%(同1.9%)に上昇した[図表11]。

    新規需要は旺盛なものの、都心から離れた圏央道エリアの空室率は2割超に上昇している。首都圏の大量供給は一旦ピークを過ぎ、当面は需給改善が期待されるものの、2017年第2四半期から再び新規供給の増加が見込まれている。2016年第3四半期の東証REIT指数(配当除き)は、9/20-21の日銀による「金融緩和の総括的な検証」を前に小動きに終始し、6月末比▲1.0%の下落であった[図表12]。結果、9月末時点のJ-REIT全体の分配金利回りは3.5%(対10年国債利回りスプレッド3.6%)、NAV倍率は1.2倍、時価総額は11.7兆円となった。

    J-REITによる第3四半期の物件取得額(引渡しベース)は5,263億円で(前年同期比+39%)であった。

    不動産投資市場では、J-REITが前年を上回る活発な取得姿勢をみせた一方、その他の投資家による物件取得は大幅に縮小した。不動産価格サイクルのピークアウトを視野に取引市場の活力が減退しているといえる。

     
      1 増宮 守「不動産価格サイクルの先行的指標(2016年)~大半の指標がピークアウトを示唆~」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2016年10月13日
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    金融研究部主任研究員増宮 守 不動産市場
    <![CDATA[Infocalendar -クリスマスソングといえば?]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54495 54495 Wed, 07 Dec 2016 08:10:36 +0900 Source : 日本生命保険相互会社「クリスマス」に関するアンケート調査[2014年12月] Design : infogram(c) 【関連レポート】 Infocalendar -ノーベル賞国別受賞数[1901~2015年 | 上位10位]
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    クリスマスソングといえば?
    <![CDATA[二十四節気と雑節-月と太陽の折り合いだとか]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54488 54488 Wed, 07 Dec 2016 16:15:57 +0900  
    「暦の上では」という言葉のもとになっているのが、「二十四節気」というものである。

    夜空をみれば、恒星が無数に輝いていて、星座をなしている。それらはお互いの位置をほとんど変えないまま、毎日東から上って西に沈んでいく。そして星座たちを背景として、太陽や月、惑星が動いていくように見える。すると1年で太陽は天球を1周して、同じ背景に来る。(むしろ背景の星座が一周する、というほうが見える実感かもしれない。今太陽のいる星座は、昼間なので見えない、というのがややこしいが。)

    古代の人々には、自分を中心にして、そんなふうに見えていただろうが、現代では太陽の周りを地球が回っているとわかっているので、春分日を出発点にして地球が太陽を一周するところを想像するほうが手っ取り早いだろう。

    この円周上の位置を表す角度のことを太陽黄経と呼び、春分日を太陽黄経0度として、円周360度を24等分した15度ごとの地点(というか日付)に名前を付けたのが、二十四節気である。それは一年365日を24分割することとほぼ同じことになるので、およそ15日ごとに名前を付けたものになる。次ページの表のとおりである。祝日でない(休日でない)日がほとんどなので、気がついたら過ぎている日も多いなど、認知度にも差があるだろう。
     
    さて、どのようにして、このようなものができてきたのかというと、2つの暦、太陽の動きをもとにした太陽暦と、月の動きをもとにした太陰暦、の調整ということになるようである。月の動きをもとにした太陰暦では、1ヶ月が29.5日となる。月の満ち欠けが印象的で数えやすいというメリットはあるのだが、12か月たっても354日にしかならない。ということは、放置すると月日と季節感がずれていくことになり、それだけを使うと、同じような気候(具体的にはこの季節に種を撒くとか、田植えをする、など。生きることに切実に関係する。)の日付が、「去年は5月に田植えだったが、今年は6月だ」などということが起きてしまう。季節感は太陽の周りをまわる地球の位置によるので、太陽暦のほうがふさわしい。ということで、太陽の天球上の位置をもとに、なん月というのとは別に、季節をあらわす日を決めたのが、この二十四節気である。そして、「月の12ヶ月」354日と「太陽の1年」365日のズレについては、設定方法の詳細は省くが「うるう月」というものを設けて、規則的に解消していた(太陽太陰暦)。

    なお、明治以降の日本では太陽暦を採用しているので、二十四節気は毎年ほとんど同じ日付となっている。(ちなみに、逆にいうと、月のカタチは日付ではわからなくなっている。三日月は毎月3日ではないし、十五夜は15日ではない。それが一致するのが太陰暦である。)24ある日の中で、春分、秋分、夏至、冬至は「二至二分」といって特に重要な目印となる。日本では春分日、秋分日は祝日である。

    上表では、それぞれの意味として、国立天文台による解説を引用させて頂いた。だいたい名が体をあらわすことになっていそうだ。そのさらにもとの資料となると、江戸時代に太玄斎によって書かれた「こよみ便覧」によるそうだ。この中では例えば、

     啓蟄:陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出れば也

    などと書かれている。

    ただし、そもそもの起源は、古代中国の黄河流域の気候がもとになっているということで、日本にはそのままあわないものもあるようだ。(特に、「立秋」は全然あってないと思うのだが。)
     
     
    1 国立天文台ホームページhttp://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/faq/24sekki.html
    もうひとつ、「土用」とか「節分」とかいう、雑節(ざっせつ)というものがある。これも季節の変化に対する、農業などに関わる生活の知恵に由来して、設けられた日である。土用というのは年4回ある。これは中国の五行説(ごく簡単にいうと、「万物が木、火、金、水、土の組み合わせ」と考える説)と四季を組み合わせて、春―木、夏―火、秋―金、冬―水と当てはめ、季節の変わり目を少しずつ集めて「土」にあてはめたものとされている。その日からそれぞれ立春・立夏・立秋・立冬の日までの期間を土用と呼ぶ。

    土用といえば、「土用の丑の日」であるが、これは土用の期間にくる丑の日(各日に子、丑、寅・・・の十二支を当てはめたもの)のことで、夏のこの日は、うなぎを食べる日として有名だが、これは江戸時代に鰻を売るためのキャッチコピーとして平賀源内が言ったとされ、そんなに古い話ではない。(現代にいたるまで生き残っているのだから大成功であろう。)

    節分は本来、立春・立夏・立秋・立冬それぞれの前日だったのだが、現在は立春だけが生き残っている。彼岸、は春分・秋分を中日とした7日の期間である。八十八夜は、立春から88日目で、夏は近づくが晩霜に注意の目安とされた。二百十日は台風に注意、である。入梅は80度の位置で、梅雨の季節である。半夏生(はんげしょう)は、100度の位置で、さらに季節を細かく72に分けた「七十二候」の一つが生き残ったものである。田植えを終わらせる目安とされた。
     
    さて、冒頭の話しに戻るが、「立春」は「春の気たつをもって也」(こよみ便覧)、「寒さも峠をこえ、春の気配が感じられる」(国立天文台)のであって、今日から急に暖かくなる・・・わけではないのだ。

    また、江戸時代に、今でいう天文学者の渋川春海が、八十八夜や二百十日を廃止しようとしたが、訴えをきいて残した、とか、2011年頃日本気象協会が、日本の現代の実態にあわせて二十四節気を改定しようという試みもあったそうだが、うまく行かなかったと聞く。  

    少々実態にあっていなくても、日常生活に根づいた慣習はなかなか消せないようである。この原稿が出る翌日は12月7日「大雪」で、これは話題に上りにくい?その次は12月21日(これは2016年と2017年で日付は異なる。)、今年最後の二十四節気「冬至」、これはニュースでもよく取上げられていそうだ。 【関連レポート】 国民の祝日と休日-理科年表の最初に記載されている項目
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    保険研究部主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任安井 義浩 芸術文化
    <![CDATA[ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54487 54487 Tue, 06 Dec 2016 15:56:40 +0900
    EUにおける新たなソルベンシー規制であるソルベンシーII制度については、その導入までに各種の課題が提起され、当初のスケジュールも延期されてきたが、ようやく2016年1月からスタートしている。ソルベンシーIIに基づく実際の監督当局への四半期報告も行われて、各保険会社・保険グループによるソルベンシーIIベースでの数値公表も行われてきている。ただし、パブリック・ディスクロージャーは2017年5月から行われることになっており、各社ベースでのソルベンシー比率の算出手法の見直し等も四半期毎に引き続き継続的に行われていることから、実際には本格的な実施には至っておらず、いまだ試走段階にあるという言い方もできるものと考えられる。

    こうした中で、ソルベンシーII制度そのものに関係するいくつかの項目についての課題が指摘され、多くの意見が各種方面から提出されている。意見の内容は、実際の監督対象になる保険会社や、その公表結果に基づいて保険会社の財務内容等の分析を行う投資家からの批判にとどまらず、ソルベンシーIIの具体的な内容を実質的に定めているEIOPA(欧州保険年金監督局)のメンバーである各国の監督当局間の考え方の違いを反映するものも含まれており、それらの課題解決が容易ではないことを改めて認識させるものとなっている。

    ソルベンシーII制度は、「第1の柱:リスクベースの必要資本の算出」、「第2の柱:ガバナンスとリスク管理」、「第3の柱:監督当局への報告とパブリック・ディスクロージャー」の3つの柱から構成されている。

    今回と次回のレポートでは、このうちの第1の柱の「リスクベースの必要資本の算出」に関する事項を中心に、現時点で今後の検討課題とみなされている項目とそれらを巡る状況について報告する。
    これらの項目は、今後、日本における経済価値ベースのソルベンシー規制の導入の検討を行っていく上にあたっても、重要な課題となってくることが想定されることから、大変参考になるものと思われる。

    ■目次

    1―はじめに
    2―ソルベンシーIIの今後の検討スケジュールと全体の動向
      1|SCR比率の算出方式の概要
      2|SCR比率算出方式のレビュー
      3|欧州委員会によるレビュー項目リストの発出
      4|今回と次回のレポートでカバーする項目
    3―ソルベンシーIIの今後の検討課題-技術的準備金の評価に関する項目-
      1|UFR水準
      2|リスクマージン(Risk Margin)
      3|動的ボラティリティ調整(Dynamic Volatility Adjustment)
    4―ソルベンシーIIの今後の検討課題-リスク評価に関する項目-
      1|ソブリンリスク-リスクチャージの賦課-
      2|資産リスク-資本チャージの水準-
      3|金利リスク-マイナス金利の反映-
      4|信用リスク-外部信用格付への過度な依存の回避-
      5|各種のリスクモジュールの算定における方法、前提及び標準パラメータ
      6|第三者によって保証されるエクスポージャー及び地域政府と
        地方自治体へのエクスポージャー
      7|各種のリスク軽減技術
      8|会社固有のパラメータ
      9|通貨リスクの計算
    5―まとめ
      1|課題項目毎の位置付けの差異
      2|国際的な資本規制の検討との関係EUにおける新たなソルベンシー規制であるソルベンシーII制度については、その導入までに各種の課題が提起され、当初のスケジュールも延期されてきたが、ようやく2016年1月からスタートしている。ソルベンシーIIに基づく実際の監督当局への四半期報告も行われて、各保険会社・保険グループによるソルベンシーIIベースでの数値公表も行われてきている。ただし、パブリック・ディスクロージャーは2017年5月から行われることになっており、各社ベースでのソルベンシー比率の算出手法の見直し等も四半期毎に引き続き継続的に行われていることから、実際には本格的な実施には至っておらず、いまだ試走段階にあるという言い方もできるものと考えられる。

    こうした中で、ソルベンシーII制度そのものに関係するいくつかの項目についての課題が指摘され、多くの意見が各種方面から提出されている。意見の内容は、実際の監督対象になる保険会社や、その公表結果に基づいて保険会社の財務内容等の分析を行う投資家からの批判にとどまらず、ソルベンシーIIの具体的な内容を実質的に定めているEIOPA(欧州保険年金監督局)のメンバーである各国の監督当局間の考え方の違いを反映するものも含まれており、それらの課題解決が容易ではないことを改めて認識させるものとなっている。

    ソルベンシーII制度は、「第1の柱:リスクベースの必要資本の算出」、「第2の柱:ガバナンスとリスク管理」、「第3の柱:監督当局への報告とパブリック・ディスクロージャー」の3つの柱から構成されている。

    今回と次回のレポートでは、このうちの第1の柱の「リスクベースの必要資本の算出」に関する事項を中心に、現時点で今後の検討課題とみなされている項目とそれらを巡る状況について報告する。

    これらの項目は、今後、日本における経済価値ベースのソルベンシー規制の導入の検討を行っていく上にあたっても、重要な課題となってくることが想定されることから、大変参考になるものと思われる。

    まずは今回のレポートでは、全体の検討スケジュールについて概観した後、技術的準備金の評価とリスク評価に関する項目について、報告する。
     

    2―ソルベンシーIIの今後の検討スケジュールと全体の動向

    1|SCR比率の算出方式の概要

    ソルベンシーII制度のベースとなるソルベンシー比率の水準を表すSCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))の算出において、分母の必要資本を表すSCRについては、標準的な算式が定められている。標準式では、SCRはモジュラー・アプローチと呼ばれる構造に基づいて算出され、保険引受けリスク、市場リスク等の各種のリスク・モジュールでの算出を行った後、各種リスク間の分散効果等を反映させる形で算出されていく。一方で、分子の自己資本の算出に大きな影響を有する技術的準備金の算出においては、LTGM(Long-term Guarantees Measure:長期保証措置)1等の措置が認められる形となっている。

    なお、SCRの算出にあたっては、標準式によらずに、監督当局の承認を得て、各社のリスク管理を反映した(部分)内部モデルを使用することもできる。2|SCR比率算出方式のレビュー

    これらのソルベンシーII制度に関しては、EUの指令に基づいて、「(1)2018年までに標準式のレビュー」が、「(2)2021年までにLTGMのレビュー」が行われることになっている。

    具体的には、「(1)2018年までに標準式のレビュー」については、ソルベンシーII指令を修正した2014年のオムニバスII指令(OmnibusIIDirective)の見直し条項(Recital 60)が、欧州委員会に対して、「標準式を用いてSCRを算出するために使用される手法・前提・標準パラメータを、新しい制度の適用後5年以内(即ち、2021年末まで)に見直す」ことを求めている。ただし、欧州委員会の委任規則(Commission Delegated Regulation)のリサイタル(Recital 150)は、この見直しを2018年末までに繰り上げている。この見直しに当たっては、ソルベンシーII適用の最初の数年間で得られる経験が利用されることになる。

    一方で、「(2)2021年までにLTGMのレビュー」については、オムニバスII指令の第77f条は、(1)EIOPAは毎年、2021年1月1日まで、LTGM等の措置の適用の影響について、欧州議会、欧州理事会及び欧州委員会に報告しなければならない。(2)EIOPAは、必要に応じて、ESRB(European Systemic Risk Board:欧州システミックリスク理事会)と協議し、公開協議を行って、欧州委員会に対して、LTGM等の措置の適用評価に関する意見を提出しなければならない。これらの評価は、保険商品における長期保証の提供可能性、長期投資家としての(再)保険会社の行動、さらには金融の安定に関連して、行われなければならない。(3)欧州委員会は、EIOPAの意見に基づいて、2021年1月1日までに、欧州議会と欧州理事会に対して、LTG(長期保証)パッケージの影響、特に欧州保険市場の機能と安定性、(再)保険会社が長期投資家として事業を継続する程度、長期保険商品の入手可能性と価格付等に対する影響について、報告書を提出しなければならない、と規定している。

    このように、EIOPAによるLTGM等の適用状況に関する年間報告書の作成等を通じて、LTGM等のレビューの検討が行われていくことになる。

    なお、こうした指令等が定めるレビューのスケジュールに関わらず、ソルベンシーIIの各種の項目について、加盟国間や各社間での整合的な取扱を目指して、EIOPAによるガイダンス等の作成の検討が進められている。3|欧州委員会によるレビュー項目リストの発出

    こうしたスケジュール感の中で、7月18日に、欧州委員会がEIOPAに対して、ソルベンシーIIのレビューに関する技術的助言を求める検討項目(以下において、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」と呼ぶ)のリストを含むレターを提出している2

    なお、これに先立って、欧州委員会は、2015年9月30日に、EUにおける金融サービスの監督枠組みに関する「Call for Evidence」3を開始し、全ての利害関係者から、現行の監督枠組みの統一性に関するベネフィット、意図せざる影響、一貫性、不均衡についての意見を求めている。これに対して、2016年1月31日の締切りまでに、保険セクターからは50の回答が行われている。

    今回のレターについては、この「Call for Evidence」で示された意見等を反映する形で作成されている。EIOPAからの回答は2017年10月31日が期限となっているが、必要に応じて、段階的な提出や最終助言以前の部分的な助言の提出も行われることになっている。いずれにしても、これにより、2018年の標準式のレビューに向けてのソルベンシーII改革がスタートした形になった。

    4|今回と次回のレポートでカバーする項目

    次章では、このリストに含まれた(2018年の標準式のレビューに関する)項目に加えて、2021年までに検討が予定されているLTGMに関連する項目も含めて、一般的に検討が必要と認識されている項目の中から、日本における制度を考える上においても興味深い項目について掘り下げて、それらの項目を巡る現在の状況について報告する。
     
    1 LTGM(長期保証(契約に対する)措置)の具体的な内容については、基礎研レター「EUソルンシーIIの動向-長期保証措置(MA・VA・経過措置)の適用申請・承認等の状況はどのようになっているのか-」(2015.10.13)を参照いただきたい。
    2 REQUEST TO EIOPA FOR TECHNICAL ADVICE ON THE REVIEW OF SPECIFIC ITEMS IN THE SOLVENCY II DELEGATED REGULATION (Regulation (EU) 2015/35)
    http://ec.europa.eu/finance/insurance/docs/news/call-for-advice-to-eiopa_en.pdf#search='Ref.Ares%282016%293573955'
    3 「Call for Evidence」の結果のサマリーについては、以下を参照のこと http://ec.europa.eu/finance/consultations/2015/financial-regulatory-framework-review/docs/summary-of-responses_en.pdf#search='call+for+evidence+solvency+%E2%85%A1'
    ここでは、技術的準備金の評価に関する項目について、その内容の概要とそれを巡る現在の状況について、報告する。

    1|UFR水準

    (1)これまでの経緯
    UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)の水準見直しを巡る動きについては、基礎研レポート「EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-」(2016.8.22)において、詳しく報告した。その概要は、以下のとおりである。
     

    生命保険会社の責任準備金の評価において重要な意味を持つ、超長期の金利水準の設定に関連して、EUのソルベンシーIIにおいて、UFRという概念が導入されている。このUFRについて、通貨ユーロの場合には現在4.2%という水準に設定されていることから、この水準が昨今の金利水準に比較して高く、結果として、責任準備金の過小評価につながっているのではないか、との批判が起きていた。これを受けて、EIOPAにおいて、UFRの見直しに関する議論が進められ、EIOPAは4月20日に「UFRの方法論とその実施に関するコンサルテーション・ペーパー」を公表した。

    これに対する意見が7月18日に締め切られたが、関係団体から「2017年からのUFR水準引き下げ」に対して、激しい反対意見が提出された。こうした関係団体の意向も踏まえて、欧州委員会もEIOPAの動きを牽制する意見を発出していた。なお、EIOPAの監督当局の間でも、ドイツとオランダの間での意見の相違も明確になっている。さらには、UFRの水準を今回見直す場合には、併せて、マッチング調整の見直しも行うべきとの意見も出されている。

    (2)その後の動き
    その後、9月末のEIOPAの役員会で期待されていた「意見のレビューの結果としての、UFRに関する決定の公開」は、こうした欧州委員会からの動き等を受けて延期された。「2017年早々に、情報に基づいた意思決定を行うことを目標に、方法論の様々な要素を評価し、影響についてのより多くの情報を収集する。」ことになった。

    さらに、欧州議会の経済・金融問題委員会(Econ)の委員長のRoberto Gualtieri氏は、EIOPA会長のGabriel Bernardino氏に対して、11月15日にレターを送っているが、その中で、「UFRは2014年にソルベンシーIIを修正したオムニバスIIの指令で合意した妥協の一部であったため、2021年の長期保証パッケージのレビュー計画において、指令の他の要素と並行してのみ検討されるべきである。」等と主張している。

    (3)これらを踏まえての今後の動向
    このように、UFR水準の見直しに消極的な勢力は、「UFR水準の見直しはあくまでもLTGMのレビューの一環として行われるのが基本的な考え方である。」とのスタンスにたっている。こうした考え方を背景に、欧州委員会も欧州議会も早期の見直しに対して、慎重な意見を示している。

    従って、UFRについて、今後どのような形での議論が行われ、どのような方向で検討が進められていくことになるのかについては、極めて不透明な状況にある。この点に関するEIOPAにおける議論の内容やその結論については、UFRの概念が幅広く国際的に導入されつつある状況にあることから、大変注目されている。仮に、政治的な決着が図られるとしても、一定合理性がある内容でないと、ソルベンシーIIに対する信頼感を失わせることにもなりかねないことから、慎重な判断が必要になってくるものと思われる。2|リスクマージン(Risk Margin

    (1)概要
    「リスクマージン」は、保険会社がトラブルに陥ったときに、第三者へビジネスを移転するコストをカバーすることを意図したバッファーである。

    リスクマージンの概念は、ソルベンシーIIによって導入されたものであるが、これについても、いくつかの批判や見直しの意見が出されている。

    (2)6%の資本コスト率
    まずは、リスクマージンは、リスクフリーの上に6%の資本コスト率を前提としているが、この水準は、今日の低金利環境の中で、極めて高い水準であり、「インフラに投資する能力を減少させ、ソルベンシーIIの影響評価を時代遅れにし、EUの保険会社の競争力を低下させる。」と批判されている。さらには、スプレッドがタイトになっている環境下で、今のクレジット市場にあっていないとの批判もある。

    このリスクマージンについては、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」の中では、以下のように記述されており、EIOPAは資本コスト率の見直しを求められている。
     

    3.2.11.リスクマージン、特に資本コスト率を計算する際に使用される方法及び前提条件(指令2009/138 / ECの第86条(1)(d)におけるエンパワーメントの下で)。

    第77条(5)によれば、リスクマージンは、生涯にわたる保険及び再保険債務を支えるために必要なソルベンシー資本要件と同等の自己資本を提供する費用を決定することによって計算される。

    EIOPAは以下のことを求められる。

    ・保険会社の貸借対照表におけるリスクマージンの相対的な規模に関する情報を提供する。

    ・変化する市場環境を考慮して、リスクマージンの計算に適用される方法及び前提が引き続き適切であるかどうかを評価する。特に、EIOPAは資本コスト率を見直すよう求められている。

    (3)金利の変動による影響
    生命保険会社は、金利リスクを抑制するために、基本的に資産と負債のデュレーションをマッチングさせる戦略をとっているが、このような会社においても、リスクマージンを経由して金利の変動にさらされることになる。

    多くの英国の保険会社は、こうした課題に対応する必要性もあり、ソルベンシーIIが認めている「技術的準備金に関する経過措置(Transitional Measure on Technical Provisions:TMTP)」を、監督当局であるPRA(Prudential Regulation Authority:健全性規制機構)の承認を得て、適用している。さらに、金利の大きな変動等があった場合には、PRAの承認を得てTMTPを再計算することができる。ただし、こうした手段で十分に対応できるわけではなく、そもそもこの経過措置は16年間で低減していくことから、リスクマージンに関しては、課題を抱えた形になっている。

    さらには、保険会社は、金利デリバティブでヘッジすることで、金利の変動に対応することも考えられるが、これはソルベンシーII以外の他のIFRS(国際財務報告基準)ベースの指標等にボラティリティを創り出すことにもなりかねず、そもそも、効果的かつ安価なヘッジを構築することは容易ではない、という事情もある。

    (4)リスク移転の動き
    これに対して、一方で、リスクマージンに関する前提は、リスク評価の判断基準等の違いをベースにして、生命保険会社がこれまで不動と考えてきた主要なリスクを移転する動きを後押しする形になっている。

    具体的には、例えば、ソルベンシーIIにおける長寿リスクに対する評価は、長寿リスクの移転を行う再保険市場や資本市場の発展を生み出すことにつながっている。

    (参考)長寿リスク対応

    ソルベンシーIIの標準式では、長寿リスクは「死亡率の20%低下」に対応するものとして評価される。これに対して、欧州の保険会社は、資本効率を高めるため、規制内容が異なり、長寿リスクに対してより緩和的な米国の(再)保険会社等へ出再したり、あるいは長寿スワップを活用して、リスクを移転する取組みを行ってきている。

    昨今の低金利下で、長寿リスクをカバーする商品からのリスクマージンは大きな負担となっており、再保険取引等がこれらを削減できる有益なツールとなっている。

    (5)今後の動向
    以上述べてきたように、現行のリスクマージンは、現在の金利環境下で、高水準でボラタイルなものとなっているため、特に年金保険を主力として販売している保険会社が多い英国において、監督当局も含めて、強い課題意識を有している。

    イングランド銀行(Bank of England)は、リスクマージンの算出方法の変更を要求し、規制の枠組みでのカウンターシクリカルなツールの導入を主張している。PRAも低金利環境を反映するために資本コストの削減を示唆している。

    今後、こうした状況を踏まえて、リスクマージンに関して、どのような見直しが行われていくことになるのかは注目に値する。3|動的ボラティリティ調整(Dynamic Volatility Adjustment

    (1)概要
    「動的ボラティリティ調整」とは、ストレス条件下で、スプレッド水準の変動等に対応して、ラティリティ調整の水準を変動させることをモデル化して適用する、ことをいう。動的ボラティリティ調整の使用により、保険会社は必要資本を減らすことができる。

    SCRの算出に標準式を使用する会社は、動的ボラティリティ調整の恩恵を受けることはできないが、EU指令は内部モデルでの使用に関して何も述べていないため、各国監督当局の裁量が発揮された形になっている。

    (2)各国の監督当局の方針
    そのため、動的ボラティリティ調整の使用に関して、各国の監督当局間で異なる方針が採用されている。各国の監督当局の考え方は、概ね以下の通りと言われている。

    オランダの監督当局であるDNB(De Nederlandsche Bank:オランダ国立銀行)は、一定の条件を満たせば動的ボラティリティ調整を適用してもよい、としており、内部モデルにおいて、動的ボラティリティ調整を使用するために、どのような点を考慮すべきかを公表している。

    一方で、英国のPRAは、動的ボラティリティ調整の使用により、要求資本の軽減を図ることは、ボラティリティ調整の「会社の貸借対照表のカウンターシクリカル軽減」という目的を傷つけるものだとして、動的ボラティリティ調整を認めない旨のガイダンスを2015年6月に発行している4

    ドイツの監督当局であるBaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)は、負債評価とリスク・モデリングの整合性が図られることから、動的ボラティリティ調整を支援している。

    フランスの監督当局であるACPR(Autorité de contrôle prudentiel et de résolution:健全性規制・破綻処理庁)は、ボラティリティ調整が変化しなければ、時間不整合を引き起こし、意味のある使用に適したアウトプットを得るという目的を危険に晒すことになるとして、むしろ市場リスクをモデル化する際に動的ボラティリティ調整は使用が奨励されるものだとしている。

    (3)課題と今後の動向
    動的ボラティリティ調整を使用するためには、参考資産ポートフォリオの構成、大量解約リスクとの相互作用や契約者行動との相互作用を含む多くの複雑な要素の変化を考慮しなければならない。これらを信頼が置ける形でモデリングすることが必要になってくるが、これは容易なことではない。

    EIOPAは、保険会社がどのような状況や条件下で、動的ボラティリティ調整を使用しているのかについて、監視し、情報を収集している。EIOPAは、ボラティリティ調整に関するモデリングに関して、グッド・プラクティスとなる基準を設定し、監督上の意見を作成することを目指しており、今後の動向が注目される。

    (参考) ボラティリティ調整への各国監督当局への対応の差異

    そもそも、ボラティリティ調整については、オムニバスII指令では、その使用に関して、監督当局による事前承認はオプションであるとしており、監督当局は「例外的な状況」において、ボラティリティ調整の使用を停止することができる、と規定されている。

    これを受けて、各国の監督当局の対応は異なっており、例えば、フランスやスウェーデンは事前承認を必要としていないが、ドイツは事前承認を必要としている。

    さらに、具体的な適用要件に関しても、「EUの規制やEIOPAのガイドラインが既に十分な詳細を提供しているため、これ以上のガイダンスは必要ない。」「ボラティリティ調整は、会社固有のものではなく、通貨又は国別のものであるため、追加の要件を課すことなく、適用されるべきだ。」との意見がある。

    ただし、事前承認を必要としない場合でも、ボラティリティ調整を適用する保険会社は、監督当局に通知することに加えて、精査を受けることになり、必要に応じて、ボラティリティ調整の使用に関連するリスクを補うために自己資本増強を求められることにもなる。

    なお、ボラティリティ調整を使用する場合には、調整が適用されるポートフォリオの入出金キャッシュフローを予測する流動性計画をまとめなければならず、さらに、自己資本における資産の強制売却の可能性と、ボラティリティ調整がゼロに引き下がる場合の影響を定期的に評価し、財務報告書において調整に伴うベネフィットを開示する必要がある。

     
    4 Solvency ii: supervisory approval for the volatility adjustment – SS23/15  01 June 2015
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    4―ソルベンシーIIの今後の検討課題-リスク評価に関する項目-

    ここでは、リスク評価に関する項目について、その内容の概要とそれを巡る現在の状況について、報告する。

    1|ソブリンリスク-リスクチャージの賦課-

    (1)概要
    現在、ソルベンシーIIの標準式においては、ソブリン債にはリスクチャージは課せられない。具体的には、標準式におけるスプレッドと集中のサブモジュールから、ソブリン債を除外することにより、0%のリスクチャージをソブリン債に適用できる、こととなっている。これは、ソルベンシーII指令の決定時に、ソブリン債務危機の流れの中で、より一層の悪化を回避する観点から必要と判断されて認められた。 

    (2)各国の監督当局の対応
    ただし、EIOPAは、内部モデルを使用している会社に対しては、「国債をリスク加重すべき」と勧告している。さらには、いくつかの国の監督当局は、国債に対してもリスクを加重する方向で、保険会社にプッシュしてきている。

    例えば、ドイツの保険会社は、国債に対して非常に大きなエクスポジャーを有しているが、BaFinはこれらの投資に対して、ソルベンシーIIの標準式を採用している会社も含めて、追加の資本を保持しなければならない、としている。BaFinは、会社が標準式で使用する仮定をチェックするORSA(Own Risk and Solvency Assessment:リスクとソルベンシーの自己評価)において、国債のリスクに対処するように、各社に求めている。スプレッドと集中リスクモジュールの中に一定水準以上の偏差がある場合には、何らかの対応を求められることになる。EUの要件によれば、保険会社は信用リスク評価を実施して、その債券の信用格付を決定することが求められるが、ドイツの保険会社は、各国の国家財政の概要を把握して、政府保証等の基準も考慮して、ソブリン債への投資を正当化することが要求されることになる。

    (3)賛成の意見と慎重な意見
    ソブリン債へのリスクチャージに対する賛成の意見と慎重な意見は、以下の通りである。

    1) 賛成の意見
    保険会社がソブリン債に対して資本を保持することにより、モラルハザードを削減し、市場の安定性が改善される。格付会社も、資本がソブリン債のリスクのために保持されているかどうかは重要な要素と見なしている。

    2) 慎重な意見
    ソブリン債への投資のリスク加重付けは、国家間の非対称性を形成し、公的債務のコストを高騰させる可能性があることから、金融の安定性に対する潜在的な脅威となりうる。そもそも、ソルベンシーII規制は、(ソブリン債へのゼロ・リスクチャージで)ソブリン債への投資を奨励する形になっているが、これが変更される場合は、国家間の資金の大規模なシフトが起こることになる。ソブリン債に高いリスクチャージが課される国の保険会社は、自国の負債に対応する資産として、低リスクのソブリン債への投資にシフトせざるをえなくなるが、これは合理的でも、当該国の国益にも沿ったものとならない。

    こうした議論を踏まえて、仮に何らかの修正を行うとしても、無条件にソブリン債に対してリスクチャージを行うのではなくて、特定の臨界点を超えるソブリンに対する、実際のクレジットチャージに適用される集中リスクチャージとすべき、との考え方もある。

    (4)欧州委員会のスタンス
    ソルベンシーII制度の中で、そもそもこの問題は2018年末までの標準式のレビューにおいて議論されることが想定されていた。ただし、上記で述べた状況下で、欧州委員会は、この点に関しても、消極的なスタンスをとっているようである。

    「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」の中では、ソブリン債へのリスクチャージの問題については触れられておらず、欧州委員会は、「この問題が銀行サイドでどのように取り扱われるのかが明確になった時点で、後日検討する。」とのスタンスのようである。

    欧州委員会には、ソブリンリスクが織り込まれていないことで、より多くの利益を受ける加盟国からの代表者がいることから、積極的に議論が行われていく状況には無い。ソブリン債に対するリスクチャージの問題は、極めて政治的な問題であり、そのため欧州委員会もタブー視せざるを得ない状況にあるようである。

    (5)今後の動向
    このように、この問題も、EU加盟国間の分裂をほのめかす難しい問題となっている。

    ソルベンシーIIがリスクベースの制度を目指しているという、その本来的な趣旨からは、何らかの対応が図られることが望まれることになる。そうでなければESRB等から強い批判を浴びることになる。従って、例えば、ソブリンが有する最大のリスクである集中リスクについては、何らかの対応が必要と思われる。ただし、仮に、ソブリン債に対するリスクチャージを導入する際には、コングロマリット内での裁定の機会を創り出さないように、銀行と保険のルールでの整合性の確保も求められることになる。さらには、その影響度合いによっては、経過措置等も必要になってくるかもしれない。

    いずれにしても、この問題は、国際的な資本規制の検討等を通じて、日本にも大きな影響を与える可能性があることから、その動向を注視していく必要がある。2|資産リスク-資本チャージの水準-

    (1)概要
    ソルベンシーIIの下での資産に対する資本チャージについては、資産の種類毎に異なっているが、同一資産種類の中でも、デュレーションによって異なり、より長いデュレーションがより高い資本チャージを必要とする体系になっている。

    この資本チャージについても、立場によって意見が大きく異なる問題となっている。

    (2)これまでの対応
    ソルベンシーIIの下での長期的な資産への資本チャージの水準については、そのリスクファクターがあまりにも高く、保険業界による投資を妨げていると批判されており、先の「Call for Evidence」 においても、保険会社から「ソルベンシーIIは、長期投資のチャージを引き下げ、評価の枠組みにおけるボラティリティ及びプロシクリカル的な行動を抑制するために、長期投資と短期投資をよりよく区別すべき」との意見が出されていた。その中で、具体的に、「一定の長期投資商品(例えば、証券化、戦略株式、商業用不動産、私募債及びプライベート・エクイティ)に関するリスクチャージを引き下げる」ことを提案していた。

    こうした点も踏まえて、2015年に、保険会社のインフラプロジェクトや欧州長期投資ファンド(ELTIF)への投資を支援するための改訂が行われ、2016年4月2日から施行された。加えて、インフラストラクチャー企業への投資を促進するためのさらなる検討も志向されている。

    この項目については、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」の中では、「欧州委員会がさらなる調査に値する投資クラスの詳細な評価を実施中であり、必要に応じて、後にEIOPAの技術的サポートを要求する可能性がある。」としている。

    一方で、ESRGは、インフラ投資の増加への障壁を除去するために、インフラや証券化の資本費用が低減されたことに対して、リスクを適切に評価するものではない、として批判している。

    (3)今後の対応
    資本チャージの水準の問題は、該当する資産クラスに対する投資インセンティブに大きな影響を与えることになるが、保険会社の長期投資という性格を考慮しつつも、リスク管理の観点から適正なインセンティブを提供できるように、健全性原則に基づいて、慎重な水準設定が行われていくべきであると考えられる。 3|金利リスク-マイナス金利の反映-

    (1)概要
    ソルベンシーIIの標準式においては、マイナス金利が反映されておらず、金利がマイナスになるリスクは考慮されていない。

    これに関して、各国の監督当局は、保険会社に対して、昨今のマイナス金利の拡がりを考慮して、金利が低下し続けるリスクに対する資本の保有を確実にするために、マイナスの金利リスクをモデル化することを求めてきている。

    (2)各国の監督当局の対応
    ドイツやオランダの監督当局は、ソルベンシーIIの導入当初から、マイナス金利の反映を求めてきているが、フランスの監督当局は、ボラティリティ調整を含めてもマイナス金利になるという状況も踏まえて、マイナス金利の反映を必要不可欠なものと認識するようになっている。

    ただし、マイナス金利をモデル化するアプローチについては、必ずしも会社間等で統一されているわけではなく、その影響もどのような金利リスクモデルを採用するのかによっても異なってくることになる。

    なお、資本モデリングシステムを提供するベンダーも、従前は対応していなかったマイナス金利への対応を行ってきている。

    (3)今後の対応
    EIOPAは、これまでのところ、マイナスの金利リスクのモデル化について、何らの指針も公表していない。欧州委員会も、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」に、この問題を含めていない。

    マイナス金利のリスク評価方式が、今後十分な議論が行われ、会社間あるいはEU加盟国間で少なくとも一定程度整合的な取扱いが行われていくことが望まれることになる。

    なお、マイナス金利をモデリングすることは、分布の中心におけるリスクを増加させるが、直感に反して、それが債券価格の上昇を通じて、テール・リスクの削減につながり、したがって、資本要件を減らすことを示唆している、との分析もある。従って、どのようなモデリングが行われていくのかは大変興味深いものがある。4|信用リスク-外部信用格付への過度な依存の回避-

    (1)概要
    現在の信用リスク評価に関しては、少数の格付会社に大きく依存している。

    ソルベンシーIIにおいては、無格付の資産に対しては、高い資本チャージが課せられることから、自社で市場リスクをモデル化する能力等が十分でない中小の保険会社も、外部の格付会社に依存している状況にある。

    (2)問題の所在
    保険会社が、監督当局への報告において、信用格付情報を使用する場合には、格付会社に対して特別な手数料を支払っているが、これが中小の保険会社にとっては特に大きな負担になっている。

    小規模な保険引受け会社を代表しているAMICE(The Association of Mutual Insurers and Insurance Cooperatives in Europe:欧州相互保険会社及び保険協同組合協会)は、「ソルベンシーIIの導入により、格付会社への支払いが80%増加した。」と述べて、「信用格付機関への依存を再検討すべきである。」と述べている。さらに、少数の格付会社への過度な依存は、システミックリスクを形成することになるとの懸念も示されている。

    (3)レビューの方向性
    こうした背景から、信用リスク評価に関しては、外部信用格付への過度な依存を回避し、実務上可能な限り、追加評価の使用等で、外部信用評価の適切性の評価等を推進していく、ことが求められている。

    「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」は、「適切な代替手段が準備されることを条件に、2020年までに、信用リスク評価のための格付機関への保険会社の参照を削除する」方向であることを述べて、EIOPAに対して、「代替的信用評価を導くための標準化されたアプローチのための方法と基準を設定することにより、ソルベンシーII標準式における代替的信用評価の使用の枠組みをさらに発展させる。」ことを求めている。
     

    3.2.1.スプレッドリスクサブモジュール、市場リスク集中サブモジュール及び外部信用格付の参照に関するカウンターパーティ不履行リスクモジュールの算定における信用リスクを評価する際に使用される方法、前提及び標準パラメータ(2009/138 / EC指令の第111条(l)(c)のエンパワーメントの下で)。

    Regulation(EC)1060/2009の規定に沿って、連合体は、第1段階で、連合法の下での外部信用格付への言及が、そのような外部的な信用格付への単一のあるいは機械的な依存を引き起こすか又は引き起こす可能性を有するか、 第2段階では、信用リスク評価の適切な代替案が特定され、実施されているとの前提の下で、2020年までにそれらを削除することを目的とした、規制目的のための外部信用格付への全ての参照を、見直す方向で働いている。

    ソルベンシーIIの標準式は、外部格付が利用可能かどうか、その格付にどのような格付が割り当てられているかに応じて、異なるリスクの考察を提供している。格付に過度に依存するリスクを軽減するため、ソルベンシーIIは、保険会社が技術的準備金及びソルベンシー資本要件の計算において、外部信用格付評価を使用する際に、外部評価への自動的な依存を避けるために、実務上可能な限り、追加の評価を使用することにより、リスク管理の一部として、外部信用評価の適切性を評価すべき、と規定している。さらに、ソルベンシーII委任規則(第4条(5))は、より大規模または複雑なエクスポージャーに対する会社内部の信用評価を作成するための(再)保険会社に対する要件を定めており、それが過度の依存リスクの軽減にも寄与する。このような軽減規則が整備されているにもかかわらず、ソルベンシーII委任法に含まれる格付の使用は、(再)保険会社が格付機関からの評価に依存するインセンティブを生む可能性がある。

    したがって、EIOPAは以下のことを求められる。

    代替的信用評価を導くために、標準化されたアプローチのための方法と基準を設定することにより、ソルベンシーII標準式における代替的信用評価の使用の枠組みをさらに発展させる。 このようなアプローチは、外部信用評価をもたないエクススポージャーをターゲットにして、大規模かつ複雑なエクスポージャーに限定されるべきではない。

    5|各種のリスクモジュールの算定における方法、前提及び標準パラメータ

    「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」は、リスク評価に関連して、上記に述べたもの以外に、以下の項目について、「意図しない技術的な不整合の除去」のために、「必要な情報を収集して、報告し、項目に応じては、それらに基づいて評価する」ことをEIOPAに求めている。

    ・特定の引受リスクモジュールを計算する際に使用される標準的なパラメータ(具体的には、損害保険の保険料及び責任準備金リスクの標準パラメータ及び医療費リスクの標準パラメータ、生命保険及び健康保険引受モジュールにおける死亡及び長寿リスクの標準的なパラメータ)

    ・損害保険カタストロフィーリスクサブモジュールの計算に使用される方法および前提

    ・市場リスク集中サブモジュールを計算する際に使用される前提

    ・関連会社に関する市場リスクモジュールを計算する際に使用される方法、前提及び標準パラメータ

    このうち、例えば、「長寿リスク」に関しては、年齢群団によって異なるキャリブレーションを目指して、より詳細なアプローチを調査すること、特にリスクの感応度と複雑さを考慮して、これらのより詳細なアプローチのコストと便益を評価することをEIOPAに対して求めている。

    上記の項目についての具体的な記述は、以下の通りとなっている。
     

    3.2.2.特定の引受リスクモジュールを計算する際に使用される標準的なパラメータ(指令2009/138 / ECの第111条(l)(c)のエンパワーメントの下で)。

    EIOPAは、以下の引受サブモジュールの中で、どの標準パラメータを変更する必要があるのかを評価し、ソルベンシーII適用の移行期間及び初年度に取得した経験及び得られたデータを利用して、さらには他の当事者によって提供される関連データを利用して、必要に応じて、可能な新しいキャリブレーションを提案する、ことが求められる。

    ・拡張データに基づいてキャリブレーションされるべき、損害保険の保険料及び責任準備金リスクの標準パラメータ及び医療費リスクの標準パラメータ。この文脈においては、継続的な妥当性のために保険料リスクの量的尺度の定義が再評価されるべきである。

    ・継続的な妥当性について評価されるべき、生命保険及び健康保険引受モジュールにおける死亡及び長寿リスクの標準的なパラメータ。EIOPAはまた、年齢群団で異なるキャリブレーションを目指して、長寿リスクについてのより詳細なアプローチを調査することが求められる。EIOPAは、特にリスクの感応度と複雑さを考慮して、これらのより詳細なアプローチのコストと便益を評価することが求められる。

    3.2.3.損害保険カタストロフィーリスクサブモジュールの計算に使用される方法及び前提(指令2009/138 / ECの第111(l)(c)項のエンパワーメントの下で)。

    EIOPAは、より単純な構造(上記3.1.3項)に関する助言に加えて、方法と前提の継続的な妥当性、及び必要であれば、損害保険カタストロフィーリスクのサブモジュールを計算する際に使用されるパラメータを、特に、委任規則(EU)2015/35のリサイタル54に規定されている契約上の限度に関するアプローチを考慮して、評価することが求められる。

    3.2.4.市場リスク集中サブモジュールを計算する際に使用される前提(指令2009/138 / ECの第111(l)(c)項のエンパワーメントの下で)。

    EIOPAは、市場リスク集中サブモジュール及びその影響を計算する際に、保険及び再保険会社によって現在使用されている前提について報告するように求められる。

    3.2.5.関連会社に関する市場リスクモジュールを計算する際に使用される方法、前提及び標準パラメータ(指令2009/138 / ECの第111(l)(c)項のエンパワーメントの下で)。

    ルック・スロー・アプローチは現在、関連会社への投資には適用されていない。

    EIOPAは以下のことを求められる。

    ・保険会社及び再保険会社が投資ビークルとして使用する関連事業に関する情報を提供する。

    ・どのような条件の下で、そのような会社にルックス・スルー・アプローチを拡張するのが適切なのかを評価する。

    6|第三者によって保証されるエクスポージャー及び地域政府と地方自治体へのエクスポージャー

    標準式では、特定の条件が満たされている場合、欧州中央銀行、加盟国の中央政府、中央銀行、国際開発金融機関及び特定の国際機関によって発行される保証をリスク軽減手法とみなしている。

    EIOPAは、これらについて、銀行の枠組みとの整合性の評価等を行うことが求められている。
     

    3.2.6.第三者によって保証されるエクスポージャー及び地域政府と地方自治体へのエクスポージャーについての委任規制(EU)2015/35と指令2013/36 / EU及び規制(EU)No 575/2015との相違(指令2009/138 / ECの第111条(l)(c)、(e)及び(f))。

    ソルベンシーIIの標準式は、特定の条件が満たされている場合、欧州中央銀行、加盟国の中央政府、中央銀行、国際開発金融機関及び特定の国際機関によって発行される保証をリスク軽減手法とみなしている。

    EIOPAは以下のことを求められる。

    ・第三者によって保証された現在のエクスポージャーの額および地域政府や地方自治体へのエクスポージャーに関する情報を提供する。

    ・地域政府及び地方自治体の取扱いおよび第三者によって保証されたエクスポージャーの取扱いにおいて、銀行の枠組みと委任規制(EU)2015/35の差異を評価する。

    ・これらの違いのそれぞれについて、2つのセクターのビジネスモデルの相違、必要資本の決定における要素の相違、またはその他の根拠によって、それらが正当化されているかどうかを評価する。

    ・ソルベンシーIIの枠組みにおいて、他の保証人による保証のリスク軽減効果がどの条件のもとで認識されるか、を調査する。

    7|各種のリスク軽減技術

    近年、リスク軽減のための技術が大幅に進展してきている。ソルベンシーIIはリスクベースの枠組みであることから、その評価においては、各会社が抱えているリスクを適切に反映していることが基本になってくる。その意味で、保険会社や監督当局は、昨今のこうしたリスク軽減技術による会社のリスクプロファイルの変化を評価して、リスクが確実に効果的に第三者に移転されていることを確認していくことが求められることになる5

    特に、スワップや再保険取引を通じての長寿リスクの移転が、2016年のソルベンシーII導入の時期に併せて増加していたが、2016年に入っても、その動きが続いている。これらについての分析と評価を行うことが求められてきている。

    この問題について、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」では、以下のように記述されている。
     

    3.2.7.リスク軽減技術に関しては、近年大幅に発展してきたが、当該事業体のリスクプロファイルの変化を評価し、ソルベンシー資本要件の計算を調整するために使用される方法及び前提、リスクが効果的に第三者に移転されていることを確実にするために、リスク軽減技術が満たさなければならない定性的基準(指令2009/138 / ECの第111条(1)(e)、(f)のエンパワーメントの下で)

    ソルベンシーIIはリスクベースの枠組みであり、特に一定のリスク軽減技術の効果を考慮している。

    EIOPAは以下のことを求められる。

    ・リスク軽減技術、特に組込デリバティブ及び長寿リスク移転、に関する最近の市場動向についての情報を提供する。

    ・リスク軽減技術の認識の枠組みが、これらの最近の市場動向を適切にカバーしているかどうかを評価する。

    ・必要に応じて、このフレームワークの更新を提案する。

     
    5 長寿リスクの移転については、「3|リスクマージン(参考)長寿リスク対応」を参照していただきたい。
    8|会社固有のパラメータ

    SCRを計算するために、標準式で使用されているパラメータの代わりに会社固有のパラメータ(Undertaking specific parameters:USP)6を用いることが認められている。EIOPAは、この適用について、監督上の承認を得るために満たされなければならないデータの完全性、正確性及び妥当性に関する基準を評価することが求められる。

    「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」では、以下のように記述されている。
     

    3.2.10.会社固有のパラメータ(Undertaking specific parameters)で置き換えることができる生命保険、損害保険及び健康保険引受リスクモジュールの標準的なパラメータのサブセットと、それらのパラメータを計算するために使用される標準化された方法(指令2009/138 / ECの第111条(l)(j)(k)及び第234条)。

    会社固有のパラメータのためのフレームワークは、負債に合わせたキャリブレーションを計算するのに十分なデータが利用できる場合に、標準式において定義されたパラメータを置き換える標準化された方法を提供する。この枠組みは、引受リスクモジュールにおいて、可能な限り提供されるべきである。

    EIOPAは以下のことを求められる。

    ・保険、再保険会社及びグループによる会社固有のパラメータの使用に関する情報を提供する。

    ・引受リスクモジュールの追加パラメータを置き換える標準化された方法を評価し、監督上の承認が得られる前に満たされなければならないデータの完全性、正確性及び妥当性に関する基準を評価する。

    ・現在の方法の修正または置き換えを視野に入れて、非比例再保険のための具体的なパラメータを決定する代替的方法を評価する。

    ・特にリスクの感応度や複雑さを考慮して、会社固有のパラメータに基づいて構築されるグループ固有のパラメータを計算する追加的方法を評価する。

     
    6 USPの使用については、EIOPAがガイドラインを作成している。
    9|通貨リスクの計算

    グループ・ソルベンシーの算出における通貨リスクの計算に関して、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」では、以下の記述がなされている。
     

    3.2.14.通貨リスクの計算に関する標準式のソルベンシー資本要件を計算するための会計連結ベースの方法の適用(指令2009/138 / ECの第234条のエンパワーメントの下で)。

    標準式における通貨リスクの計算は、関連する事業体のソルベンシー資本要件を、当該事業体の資産及び債務が表示されている通貨でカバーするために、自己資本を保有することにペナルティを課す可能性がある。

    したがってEIOPAは次のことを求められる。

    ・保険グループが自己資本を保有するために選択した通貨に関する情報を提供する。

    ・グループのリスク管理に与えられたインセンティブを考慮して、グループの通貨リスクに対するアプローチが、グループがさらされているリスクを適切にカバーしているかどうかを調査し、必要に応じて修正を提案する。

     

    5―まとめ

    以上、今回のレポートでは、ソルベンシーII制度の今後の検討課題について、全体の検討スケジュールについて概観した後、技術的準備金の評価とリスク評価に関する項目について、報告してきた。

    1|課題項目毎の位置付けの差異

    いくつかの項目を挙げてきたが、ある項目は、専門性の高い技術的な問題としてEIOPAにおける検討に委ねられているが、別の項目は、その影響度等の重要性から、政治的な問題に発展して、EIOPAだけでは解決できない問題となっている。もちろん、法的な枠組みから言えば、その検討対象となっている項目のレビュー内容が、指令(Directive)、実施基準(IMplemanting rules)、技術的基準(Technical Standards)、ガイダンス(Guidance)等のソルベンシーIIの法体系のどこに対応するものなのかによって、レビューの最終決定主体が異なってくることになる。ただし、その区分けの解釈についても、必ずしも明確でないケースもあることから、この点が難しい状況を生み出すことにもなっている。

    いずれにしても、こうした課題項目について、どのような方向で解決策が図られていくにしても、最終的な結果については、一定程度の合理性は求められることになり、対外的な説明責任が強く求められてくることになる。

    2|国際的な資本規制の検討との関係

    今回採り上げた項目の多くについては、ソルベンシー比率の算出結果に大きな影響を与えるものであり、その検討状況は国際的な資本規制の検討にも影響を与えることが想定されていくことになる。

    IAIS(保険監督者国際機構)におけるICS(保険資本基準)の検討については、基礎研レポート「IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)について-公表された市中協議文書の概要と関係団体からの初期反応等-」で報告したように、7月19日にIAISが協議文書を公表し、それに対する意見募集を行っていたが、10月19日に協議期間が終了している。

    この過程の中で、11月30日に、Allianz、Aviva、Manulife、AIA、AIGの欧米の大手保険グループの5社によって、保険負債の算出における割引率に関して、国際的に統一されたルールとして、OAG(Own Assets with Guardrails)と呼ぶ新たなアプローチが提案されている7。このアプローチは、現在のソルベンシーII制度で使用されている割引率とは異なる考え方に基づいているものである。このような提案が、欧州の大手保険グループからも提案されるということ自体が、現行のソルベンシーII制度に対する関係者の大きな課題意識を表しているといえるのかもしれない。

    OAGについては、今回のレポートの主要なテーマではないので、その詳しい内容の報告は別途の機会に委ねさせていただくことにするが、この提案により、今回のレポートの技術的準備金の評価で採り上げた割引率の設定に絡む各種の課題に、新たな考え方で対応していくことも可能になることが期待されることになる。従って、このようなICSの検討状況がソルベンシーIIの今後の検討内容に影響を与えていくことも想定されることになる。

    次回のレポートでは、自己資本やその他の項目及び実務に関する課題、さらには今回や次回に取り上げる検討課題がBrexit(英国のEU離脱)によってどのような影響を受けていく可能性があるのかについて報告することとしたい。
     
    7 IAISのWebサイトより「ICS Valuation  Achieving a Single, Coherent Discounting Approach through Own Assets with Guard Rails (“OAG”)」
    【関連レポート】 EUソルベンシー IIの動向-長期保証措置(MA・VA・経過措置)の適用申請・承認等の状況はどのようになっているのか-
    EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-
    IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)について-公表された市中協議文書の概要と関係団体からの初期反応等-
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    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 保険会計・ソルベンシー
    <![CDATA[年金改革ウォッチ 2016年12月号~ポイント解説:「年金カット法案」の示唆]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54486 54486 Tue, 06 Dec 2016 13:01:20 +0900
    1 ―― 先月までの動き

    先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。
    なお、11月30日は厚生労働省が定めた「年金の日」、11月は「ねんきん月間」でした。厚生労働省と民間金融機関との協働イベントなどが行われました。

    2 ――― ポイント解説:「年金カット法案」の示唆

    先月は、野党から「年金カット法案」と呼ばれた国民年金法等改正案(2016年3月11日国会提出)の審議が国会で進められました。本稿では、同法案のうち「年金カット法案」と呼ばれた部分を確認し、その示唆を考えます。

      1|何が見直されるのか:年金額改定ルールのうち、本則の特例部分。
      2|なぜ見直されるのか:特例ケースが頻発して年金財政に悪影響。
        その結果、将来の給付に悪影響。
      3|どう見直されるのか:将来世代への影響を中立的に。
        年金受給者も現役世代の痛みを共有。
      4|法案からの示唆:将来の給付も大事だが、
        現在の受給者の調整余地の小ささにも配慮が必要。
     

    1 ――― 先月までの動き

    先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されませんでした。

    なお、11月30日は厚生労働省が定めた「年金の日」、11月は「ねんきん月間」でした。厚生労働省と民間金融機関との協働イベントなどが行われました*1
     

    2 ――― ポイント解説:「年金カット法案」の示唆

    先月は、野党から「年金カット法案」と呼ばれた国民年金法等改正案(2016年3月11日国会提出)の審議が国会で進められました。本稿では、同法案のうち「年金カット法案」と呼ばれた部分を確認し*2、その示唆を考えます。1|何が見直されるのか:年金額改定ルールのうち、本則の特例部分。

    同法案の内容は年金制度関連と積立金運用関連とに大きく分かれ、前者の中には産前産後期間の保険料免除など複数の項目が含まれています*3。このうち野党から年金カット法案と呼ばれた部分は、年金額改定の本則ルールに関する見直しです。現在は年金財政を健全化している最中なので、年金額の改定率は本則の改定率と財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)を組み合わせたものとなっています(図表1)。このうち本則の改定率は、財政健全化中か否かに関わらず常に適用されるものです。近年はマクロ経済スライドが注目され、本則の改定率はほとんど話題になっていませんでした。今国会で注目されたことは、年金改定の基礎を知るための良い機会といえるでしょう。

    現在の本則の改定ルール(図表2)は2004年改正で導入されたものです。2004年改正前は、どのような状況でも図表2の(1)~(3)の場合と同様に改定されていましたが*4、2004年改正では賃金上昇率が物価上昇率を下回る場合((4)~(6))には受給者に配慮して特例的なルールを適用することになりました。今回の見直しの対象は、この特例的なルールのうち(5)と(6)の部分です。2|なぜ見直されるのか:特例ケースが頻発して年金財政に悪影響。その結果、将来の給付に悪影響。

    公的年金財政の主な収入は保険料で、保険料は現役世代の賃金に応じて変動します。見直し対象の(5)と(6)では、収入(保険料)の伸びを上回る形で支出(年金給付)が伸びることになるため、年金財政の悪化要因となります。マクロ経済スライドによる給付調整(実質的な削減)は年金財政が健全化するまで続くので、年金財政が悪化すると実質的な削減が長引いて、より将来の給付水準が予定より低下することになります。(5)や(6)のケースがまれに起こるのであれば大きな問題はありませんが、2004年改正後はこれらのケースが頻発したため(図表3)、今回見直されることになりました。3|どう見直されるのか:将来世代への影響を中立的に。年金受給者も現役世代の痛みを共有。

    今回の法案は、(5)や(6)のケースで賃金上昇率に合わせて年金額を改定する内容になっています。この結果、(5)や(6)でも(4)と同様に年金財政への影響が中立的になり*5、将来給付への悪影響がなくなります。

    一方、(5)や(6)では賃金上昇率がマイナスでかつ物価上昇率を下回っているため、名目の年金額が前年度より下がり、実質的にも年金受給者の購買力が低下します*6。これが、野党から「年金カット法案」と批判されている理由です。しかし、年金額の改定率が賃金上昇率ということは、現役世代の賃金の伸びと同じということです。つまり、受給者も現役世代も同様の痛みを共有する形です。

    4|法案からの示唆:将来の給付も大事だが、現在の受給者の調整余地の小ささにも配慮が必要。

    この見直しの興味深い点は、施行時期が2021年4月と比較的遅めに設定されていることです*7。将来給付への悪影響を緩和する観点からは、なるべく早期に見直しが実施されるべきです。しかし、現在の受給者は既に退職しているため、制度改正で予定外に年金給付が目減りしても家計をやりくりする余地が小さくなっています。遅めの施行時期は、将来への配慮と現在への配慮のバランスが重要であることを示唆している、といえるでしょう。
     
    *1 「年金の日」の認知度等については、日本生命が実施したアンケートの結果を参照。
    *2 詳しい説明は、拙稿「年金額改定ルールと年金財政への影響の再確認」を参照。
    *3 法案全体の概要は、拙稿「2016年年金改革法案のポイント」を参照。
    *4 このルールは2000年改正で導入。2000年改正前は基本的に全年齢の年金額が賃金上昇率に応じて改定されていた。
    *5 これにより本則改定のどのケースでも年金財政へ悪影響しなくなる。本則の見直しであるため、恩恵は恒久的である。
    *6 (5)や(6)では名目年金額が下がるため、マクロ経済スライドは特例により適用されない。詳細は前掲*2の拙稿を参照。
    *7 同法案の他項目の施行日は前掲*3の拙稿を参照。この見直しの施行時期が2021年4月になっている理由は、保険料率引上げによって(手取り)賃金上昇率が小さめになる影響(2020年まで)を回避するため(年金部会議事録[2016/3/14])。結果として、この見直しの施行時期は低年金者への福祉的給付の導入時期(法案提出時は2017年4月、現時点では2019年10月の見込み)より後となる。なお、消費税率引上げの影響は、拙稿「消費税率引上げ再延期の影響」を参照。
    【関連レポート】 公的年金額の据え置きは、年金財政にとって二重の痛手-年金額改定ルールと年金財政への影響の再確認
    2016年年金改革法案のポイント
    年金改革ウォッチ 2016年6月号~ポイント解説:消費税率引上げ再延期の影響
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    保険研究部主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任中嶋 邦夫 公的年金
    <![CDATA[先週のレポート・コラムまとめ【11/29~12/5】:若者の「高級ブランド離れ」「クルマ離れ」は本当か?-データで見るバブル期と今の若者の違い]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54485 54485 Tue, 06 Dec 2016 10:22:19 +0900 右側通行?左側通行?(3)-鉄道・船舶・航空機の通行ルールはどうなっているのか-
     
    No.9
    ロボット介護機器(介護ロボット)の利用意向-東京都の調査に見る現役世代の高い利用意向-
     
    No.8
    大学卒女性の働き方別生涯所得の推計
    -標準労働者は育休・時短でも2億円超、出産退職は△2億円。

     
    No.7
    トランプ相場の賞味期限~マーケット・カルテ12月号
     
    No.6
    国防費の3倍?-急増する中国の社会保障関係費▼エコノミストの眼
     
    トランプ新大統領の誕生~リーダー無き世界の到来~
     
    -----------------------------------
    ▼研究員の眼
     
    日本は何位?「アジア諸国の国際競争力」-世界経済フォーラムの直近ランキングより
     
    デジタル・ネイティブ世代の「インスタ映え消費」~情報の流れは縦から横へ
     
    いま改めて考えるNISAの行方~「貯蓄から投資へ」の課題(その2)~
     
    DCバランス型商品の選好と投資教育の必要性
     -DCの発展には投資教育の実施率向上だけでなく、内容面の拡充も欠かせない

     
    日本は豊かなのか?「一人当たりGDP」で見る日本の未来
     -「中期経済見通し」から見えるもの(その1)

     
    日銀保有のJ-REIT投資口は浮動株?それとも固定株?
     ~来年から東証REIT指数に浮動株比率を反映

     
    「配偶者控除」の行方-「税制」は、社会の姿を写す鏡
     
    -----------------------------------
    ▼Weeklyエコノミスト・レター
     
    2017年はどんな年? 金融市場のテーマと展望~金融市場の動き(12月号)
     
    -----------------------------------
    ▼基礎研レポート
     
    トランプ次期大統領は、米鉄鋼業界の救世主になれるのか
     -期待される中国からの割安な鉄鋼輸入の抑制と、インフラ投資の拡大

     
    まちづくりレポート|住宅団地活性化なるか!
     -広島市戸建住宅団地活性化の取り組み

     
    転換期を迎えた世界の不動産投資市場
     
    -----------------------------------
    ▼保険・年金フォーカス
     
    【アジア・新興国】韓国政府が個人年金法の制定案を立法予告
     -個人年金は今後普及するだろうか?-

     
    -----------------------------------
    ▼年金ストラテジー
     
    市場の不安定性の長期化に備える掛金事前拠出
     
    不動産およびインフラファンド投資の慎重かつ着実な拡大に期待
     
    中期的アルファ源泉としての技術特許
     
    消費の停滞についてどのように考えるか
     
    ----------------------------------- 
    ▼経済・金融フラッシュ
     
    【11月米雇用統計】労働参加率、賃金は下振れも、
     雇用の伸びは堅調で、12月の利上げを後押しする内容。

     
    最近の人民元と今後の展開(2016年12月号)~トランプノミクスの行く末に注意
     
    【インドGDP】7-9月期は前年同期比7.3%増
     ~消費主導の高成長も、先行きは減速不可避~

     
    法人企業統計16年7-9月期
     ~企業収益は最悪期を脱しつつあるが、経常利益の伸びは特殊要因でかさ上げ

     
    【10月米個人所得・消費支出】個人消費は予想比下振れも、個人所得は
     堅調な賃金・給与が下支えし、16年4月来の高い伸び。

     
    鉱工業生産16年10月~持ち直しが続く生産、在庫調整の進展が好材料
     
    家計調査16年10月
     ~消費は持ち直しつつあるが、生鮮野菜の価格高騰による悪影響には要注意

      No.5
    2016~2018年度経済見通し(16年11月)
     
    No.4
    無借金経営は、フィデューシャリー・デューティーに反すか
     
    No.3
    トランプノミクスと中国経済-中国は「為替操作国」に認定されて深刻な打撃を受けるのか?
     
    No.2
    「年金カット法案」という決め付けに、若者は怒れ!
     
    No.1
    若者の「高級ブランド離れ」「クルマ離れ」は本当か?-データで見るバブル期と今の若者の違い


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    発行レポートのカテゴリ一覧は、
    http://www.nli-research.co.jp/report/
    でそれぞれ公開中! 【関連レポート】 先週のレポート・コラムまとめ【11/22~11/28】:2016年年金改革法案のポイント
    先週のレポート・コラムまとめ【11/15~11/21】:なぜ日本人は有給休暇を取らないのか?-「長時間労働=勤勉」、「長時間労働=当たり前」という旧時代の意識や風土にメスを!
    先週のレポート・コラムまとめ【11/8~11/14】:中期経済見通し(2016~2026年度)
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    ライフデザイン
    <![CDATA[一億総活躍の“社会像”-「有償労働」と「無償労働」の調和“ワークライフハーモニー”]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54484 54484 Tue, 06 Dec 2016 09:55:09 +0900
    共働き世帯数は1990年代半ばから専業主婦世帯数を上回り、今では全体の6割以上を占めている。以前は、主に高収入の夫と専業主婦が、低収入の夫とパートタイムで働く妻が世帯を形成するという『ダグラス・有沢の法則』が成立した。近年では自立した夫と妻が対等に共働き世帯を形成する一方、男性の収入低下に伴って夫と妻の収入の合算でなんとか家計を維持する補完型の世帯が増えている。

    2015年の非正規雇用者は、女性全体では55.6%、有配偶女性に限ると62.9%に上る。共働き世帯の増加は、妻がフルタイムで働く共働き世帯が増えているだけではなく、パート雇用など短時間勤務の就業者が増えたことによるものだろう。つまり多くの妻が非正規雇用で、主たる稼ぎ手である夫の家計補助的な位置づけにあるものの、妻の収入の比重が相対的に大きくなっているのだ。

    今回、検討されている配偶者控除の見直しは、女性のフルタイム就労者の増加を図るものではない。パート就労者の「103万円の壁」を150万円まで拡大し、労働時間延長への支障解消を目指したものだ。減税枠の拡大は、あくまでも家計補助的な女性就労の促進が目的と考えられる。

    本来の一億総活躍社会が目指す「女性の活躍」には、男女が対等な関係の女性就労の促進が必要だ。しかし、男女が共働きになることは、従来の家事・育児・介護などの家庭における無償労働をどう負担するのかが大きな課題になる。外部サービスの利用には相応のコストがかかり、それに見合う収入が必要だ。また、育児や介護といったケア労働は労働集約的で非効率な面もあり、膨大な需要を満たすだけのサービスをすべて供給することは難しく、完全に外部化することはできないだろう。

    今後、AI(人工知能)等の活用により大幅に労働生産性が向上する時代になれば、男女が有償労働の時間に替えて、より多くの無償労働の時間を共有することが可能だ。男も女も、有償労働に限らずケア労働などの無償労働においても一定の役割を担うことが重要だ。一億総活躍の“社会像”とは、多くの人がそれぞれの「有償労働」と「無償労働」の調和した“ワークライフハーモニー”のなかに幸せを見出すことができるような社会ではないだろうか。
      【関連レポート】 成熟社会の働き方-幸せに生きる“ワークライフハーモニー”というライフスタイル
    どうつくる「共働き社会」-“ストップ!少子化”への期待
    「配偶者控除」の行方-「税制」は、社会の姿を写す鏡
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    社会研究部主任研究員土堤内 昭雄 ライフデザイン ライフデザイン
    <![CDATA[日本は何位?「アジア諸国の国際競争力」-世界経済フォーラムの直近ランキングより]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54480 54480 Tue, 06 Dec 2016 18:18:50 +0900
    以下、WEFの直近の公表レポートである「The Global Competitiveness Report 2016-2017」に沿って、アジア地域(東アジア・アセアン(東南アジア諸国連合)加盟国、インドを対象とする)に焦点を絞ってその要点を述べることとする。(1)アジア地域に関する概況図表-1の「総合ランキング」をみると、アジア地域では、シンガポール(2位)、日本(8位)、香港(9位)が、世界の上位10位以内に入っており、それ以下では、台湾・マレーシア・韓国・中国が10-20位台、タイ・インドが30位台、インドネシア・フィリピン・ブルネイ・ベトナムが40-60位と対象国138の上位半数以上に位置づけられている、アセアンの後発加盟国であるカンボジア・ラオスは89位、92位と未だ低いポジションにある(ミャンマーは入手できるデータが未だ不十分なため、ランキングの公表対象国にはなっていない由である)。

    このように、アジア地域においては、世界の最上位クラス(シンガポール2位)から下位(ラオス93位)までの大きな多様性がある。上位のポジションにある先進的な国・地域は、世界経済をリードする立場から重要である。一方、中国を代表とする域内の新興国は、世界経済の発展に大きく貢献している。2015年における経済成長(名目(GDP(国内総生産)ベース)の増分の約4割を占め、その他地域の新興国の寄与度の2倍以上となっている等、世界経済におけるプレゼンスが拡大しており、その競争力の動向が注目される。
     
    アジア地域における特徴点として以下が挙げられている。

    ・先進国・地域:シンガポールは6年連続で世界2位のポジションを維持、日本は8位(前年より2ランクダウン)、香港が9位(同2ランクダウン)、台湾は14位(1ランク上昇)となっている。

    これら諸国では、イノベーション能力のさらなる発展が必要と指摘されている。日本とシンガポールがこの分野で上位にあり、韓国と台湾がそれに次ぐ位置づけにあるが、2007年との対比では、いずれも、その相対的な優位性は失われる傾向にあると指摘されている。

    ・新興国:マレーシアは25位、中国が3年連続で28位である。この地域のほとんどの国が、2007年のデータとの比較で(ランキングのベースとなる)スコアを上昇させている。特に、近年では、カンボジア・中国・フィリピンのスコアの上昇が目立っている。多くの国で、基礎的要件の改善が進み、汚職問題への取り組みなどガバナンス面の改善、交通インフラの改善が進展している。各国に共通して見られる改善のトレンドは健康と初等教育の分野である。マクロ経済面では、多くの国でインフレ率の低下、財政の相対的な健全化傾向が見られる。

    中国については、高等教育、イノベーション、ビジネスの洗練度等の改善が見られる一方で、技術適応力の弱さ、外国企業の市場参入の困難による競争の少なさ、起業手続きに多くの時間を要すること、金融セクターの非効率と安定度の低さなどが課題として指摘されている。

    インドは、前年の55位から39位へと、対象国中最高となる16ランクの改善と大きく上昇した。財市場の効率性、ビジネスの洗練度、イノベーション等幅広い分野で改善が見られた。G20諸国の中で最も高い経済成長率の達成や近年の諸改革への努力、外資への市場開放や金融システムの透明性向上への取り組み等が評価された。一方で未だ改善すべき課題は数多く、労働市場に関する問題、付加価値税の各州で異なる水準での課税、経済効率を阻害する大規模な公企業のあり方、脆弱なインフラと情報通信の活用の遅れなどが指摘されている。(2)世界で上位10位以内にランクされるアジアの3国・地域に関する要点・トピックス

    a.シンガポール:6年連続で総合第2位。ほとんどの指標(中項目)で上位10位以内にある。その内、高等教育・研修と財市場の効率性が世界首位、その他5項目で世界第2位となっている(公的制度の透明性、インフラなど)。さらに、マクロ経済の安定性や財政の健全性が高評価であるが、スイス等世界で最も強い競争力を有する最上位の諸国との相対比較では、ビジネスの洗練性やイノベーションの面で劣後している。b.日本:総合8位(前年度より2ランク下降)。マクロ経済環境(104位)が競争力の大きな阻害要因となっている。労働市場の効率性も課題である(雇用・解雇の自由度、女性労働者比率、高度外国人雇用の問題が挙げられている)。加えて、市場参入と起業への障壁といった国内市場における競争の少なさと閉鎖性が指摘されている。他方、強みとして、優れたインフラ、および、製品・生産プロセスや国際分業などの面で洗練された企業や、イノベーション環境に寄与する調査・研究面の充実、などが挙げられている(ただし、イノベーションについては、2007-2015年には上位5位以内にあったが、直近では8位となり相対的な優位性は低下傾向にある)。

    なお、参考情報として、日本について、WEFの総合ランキングにおける10年間の推移をみると下表のようになっており、2012-2013年の10位から改善傾向を示し、2014-2015年、2015-2016年には6位まで上昇したが、今回(2016-2017年度)は8位となっている。c.香港:総合9位(前年度より2ランクのダウン)。強固で安定したパフォーマンスがあり、全指標(中項目)の中で最も低いランキングが33位で、7項目で世界の上位10位以内に入っている。特にインフラは世界首位であり、金融セクターの発展度・洗練度・信頼度・安定度も4位と高く評価されている。さらに市場や労働市場の効率性、インターネットの活用や携帯電話の浸透度でも高評価である。一方、最大の課題はイノベーションの面とされている。アジア地域の諸国・地域の国際競争力について、WEFの直近ランキングをベースに概観した。

    経済規模は小さいが世界トップ水準にランクされるシンガポール・香港、中進国としての今後の先進国入りを展望しつつ模索するマレーシア・タイ、経済大国である中国・インド・インドネシア、さらに、アセアンの後発加盟国として将来が期待されるカンボジア・ラオスなど多様な経済状況・発展度の国・地域が存在し、それぞれの立場で諸課題への取り組みや、改善努力が行われている。この点に関して、例えば、シンガポール、香港においては、スイスや米国などとの対比で、ビジネスの洗練性やイノベーションという、より高次元の分野で一層の取り組みが必要とされるなど、各水準や段階の国々にとって、競合する諸国との相対的な優位性という観点が重要となっている。わが国は、市場規模、インフラ、イノベーション等これまでの蓄積や取り組みが考慮され第8位という高評価となっているが、イノベーションにおける相対的な優位性の低下傾向が指摘されている。このような状況を考えると、マクロ経済の改善、諸改革の推進の必要性と同時にイノベーション分野の一層の強化の重要性が改めて認識されるといえる。本ランキングは、各国・地域の競争力に関する、一つの見方との位置ではあるが、その中には、各国・地域が、注力すべき分野の状況や競合との相対的なポジションの把握・分析に有用な情報を数多く含んでいるといえよう。WEFのランキングとIMDのWCYのランキングを比較すると、対象国・地域数(WEFが138、IMDが61)の他、評価項目・手法に違いが見られ、その結果としてのランキングにも相当な違いがある。WEFの評価は「国の生産力や収益力のレベルを決定する諸要素に焦点」を当てており、他方、IMDの評価は「グローバル企業にとっての企業の力を保つ環境を創出・維持する環境が整っているか」の視点で評価している(竹村、2014)などと分析される。事実、両機関による日本についての直近のランキングをみても、WEFでは8位、IMDは26位と大きな違いがある(両者の上位10カ国・地域のランキングを示したものが図表-3である)。また両者の評価基準・手法等の内容や比較は、各機関の公表資料や、竹村(2014)、小針(2013)などの分析が参考になる。


    <主要参考文献>
    小針泰介(2013)「国際競争力ランキングから見た我が国と主要国の強みと弱み」 国立国会図書館調査及び立法考査局『レファレンス』平成25年1月号。

    竹村敏彦(2014)「日本の国際競争力強化に向けた戦略と課題」 総務省情報通信政策研究所『情報通信政策レビュー』第 8 号。

    World Economic Forum (WEF) (2016), The Global Competitiveness Report 2016-2017 および各年版。

    International Institute for Management Development (IMD) (2016), World Competitiveness Yearbook 2016.
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    保険研究部兼 経済研究部 主席研究員 アジア部長 General Manager for Asia平賀 富一 アジア・新興国経済 地球儀
    <![CDATA[デジタル・ネイティブ世代の「インスタ映え消費」~情報の流れは縦から横へ]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54461 54461 Mon, 05 Dec 2016 09:53:34 +0900 1という言葉をご存知でしょうか?最近、20代の女性を中心に、「インスタグラム」という、写真を共有するスマートフォン向けSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で話題になった商品が売れているそうです。スイーツやネイル、ハロウィンの仮装など、気に入った写真が投稿されるのですが、写真映えするものは「インスタジェニック」などと言われるようです。

    なぜ、このような形の消費が出てきたのでしょうか?まず、スマートフォンの普及でSNS利用が増えたことがあげられます。総務省「平成27年通信利用動向調査」によると、20代のインターネットの利用機器は、以前はパソコンが圧倒的に多かったのですが、2013年にスマートフォンがパソコンを上回り、2015年にはスマートフォンが9割を超えるようになりました(図表1)。また、その傾向は男性より女性の方が若干強いようです。20代では利用機器の変化に伴い、インターネットの利用内容も変わっています。ランキングを見ると、2010年も2015年も首位は「電子メールの送受信」ですが、2位に「SNSの利用」、3位に「動画投稿・共有サイトの利用」が入るようになりました(図表2)。なお、選択割合は、「ホームページ・ブログの閲覧、書き込み」(△8.0%pt)や「商品・サービスの購入・取引」(△3.2%pt)はやや低下する一方、「SNSの利用」(+56.7%pt)や「動画投稿・共有サイトの利用」(+31.5%pt)、「オンラインゲームの利用」(+23.6%pt)は大幅に上昇しています。つまり、利用機器がパソコンからスマートフォンへ変わるとともに、インターネット利用内容は、従来のインターネット行動で代表的なWeb閲覧などが減り、SNSや動画、ゲームなど、よりエンターテイメント色が濃いものが増えています。これは、端末の性能向上のほか、個人で携帯するというスマートフォンの端末特性、そして、パソコンでインターネットに接続する場合は、目的によらず基本的にWebブラウザ経由となる一方、スマートフォンでは目的別に作られたアプリ経由となることなどが影響しているのでしょう。

    つまり、スマートフォンからのインターネット利用が増えたことにより、SNS利用が増えたために、SNSで話題になった商品が売れやすいということになります。また、SNSは友人・知人や自分の興味がある人(好きな芸能人など)を中心につながるため、流れてくる情報の信頼性や親和性が高く、影響を受けやすいという効果もあるでしょう。

    そして、デジタル・ネイティブ世代の特徴も指摘できます。「インスタグラム」は比較的若い年代を中心に利用されています2。例えば、1990年生まれの26歳を想像すると、物心ついた頃からインターネットや携帯電話が普及しています。小学生になると、携帯電話で写真付きメールも送れるようになり、コミュニケーション手段は音声やテキストだけでなく、写真や映像にも広がっていきます。さらに中高生ではmixiやFacebookなどのSNS、成人する頃にはLINEも登場します。このような世代では、画像を使ったコミュニケーションに慣れ親しんでいることに加え、誰もが情報を収集・発信できるようになったために情報の流れも変化しています。

    ひと昔前は、多くの情報を持つマスメディア(情報強者)から、情報をあまり持たない一般消費者(情報弱者)へというように、情報は「縦の流れ」が主流でした。しかし、インターネットの普及で、誰でも情報を収集・発信でき、さらにスマートフォンの普及でSNSとの接触時間が増える中では、情報の流れは、SNSなどでつながっている「横の流れ」へとシフトしています。

    現在、幅広い年代でスマートフォンやSNS利用率が上昇しています3。世代によって、情報通信技術を用いたコミュニケーション手段との親和性に違いはありますが、若者で見られる状況は消費者全体にも波及する可能性が高いでしょう。

    企業のマーケティング活動としては、情報の「横の流れ」にいかに入り込むかがカギとなります。
     
    1 楽天株式会社「楽天市場 2016年 ヒット商品番付」の東の横綱が「#インスタ映え消費」。また、日経MJ(流通新聞)「品質・デザイン向上、広がる『100円経済圏』100均、ゴージャス、『インスタ』映えヒット生む。」(2016/11/28)など。
    2 ニールセン株式会社「『Instagram』アプリの利用者数が2016年4月に1,000万人を突破 ~ニールセン、スマートフォンアプリの利用動向を発表~」(2016/5/31)によると、利用者の約半数が18~34歳。
    3 総務省「通信利用動向調査」によると、2011年から2015年にかけて、60歳以上のインターネット利用者のインターネット利用機器としてのスマートフォン利用率は2.9%→27.4%へ、SNS利用率は14.6%→18.5%へと上昇。
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    生活研究部主任研究員久我 尚子 消費者行動 道具
    <![CDATA[【11月米雇用統計】労働参加率、賃金は下振れも、雇用の伸びは堅調で、12月の利上げを後押しする内容。]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54479 54479 Mon, 05 Dec 2016 09:20:50 +0900 1(前月改定値:+14.2万人)となり、下方修正された前月改定値からは増加したものの、市場予想の+18.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は小幅ながら下回った(後掲図表2参照)。

    失業率は4.6%(前月:4.9%、市場予想:4.9%)とこちらは前月、市場予想を下回り07年8月以来の水準に低下した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は62.7%(前月:62.8%)とこちらは、2ヵ月連続の低下となった(後掲図表5参照)。
     
    1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
    2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
    11月の非農業部門雇用者数は市場予想を小幅に下回ったものの、16年初来の月間平均増加数(18.0万人)程度の伸びとなっており、雇用の堅調な増加が確認できる。当面、雇用者数は10万人台半ばから後半での推移が続こう。

    一方、家計調査では失業率が前月から▲0.3%ポイント低下し、FOMC参加者の16年予想(4.8%)を下回った。しかしながら、労働参加率が2ヵ月連続で低下しており、労働市場からの退出者が2ヵ月連続で40万人超となるなど、必ずしも労働需給がタイトになっていることを示していないことに注意する必要がある。また、時間当たり賃金(全雇用者ベース)も、前月比が▲0.1%(前月:+0.4%、市場予想:+0.2%)と高い伸びとなった前月の反動が考えられるものの、市場予想を下回り15年12月以来のマイナスとなった。さらに、前年同月比でも+2.5%(前月:+2.8%、市場予想:+2.8%)と、前月、市場予想を下回り、改善が一服した(図表1)。

    このようにみると、11月の雇用統計は失業率が大幅に低下したものの、労働参加率や賃金上昇率など、労働需給のタイト化を示す結果とは言えない。もっとも、雇用は堅調な伸びが続いており、全体的には労働市場の改善基調が持続していると判断できる。

    12月13~14日にかけてFOMC会合が行われるが、金融政策の結果に影響を与えるような重要指標の発表は予定されていないことから、米実体経済の状況は12月の利上げの障害とならない。また、金融市場も長期金利上昇やドル高など米経済にとって好ましくない状況がみられるものの、株式市場が最高値圏で推移するなど投資家のリスク回避的な動きがみられないことから、12月の追加利上げはほぼ確実だろう。事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門は前月比+13.9万人(前月:+12.8万人)と前月を上回った(図表2)。

    サービス部門の中では、人材派遣業が前月比+1.4万人(前月:+0.7万人)と増加したことから、専門・ビジネスサービスが+6.3万人(前月:+4.8万人)と前月から伸びが加速したほか、医療サービスも+2.8万人(前月:+2.7万人)と加速した。一方、小売業が▲0.8万人(前月:▲0.9万人)、情報サービスも▲1.0万人(前月:▲0.3万人)とこちらは2ヵ月連続で減少した。

    財生産部門は、前月比+1.7万人(前月:+0.7万人)と前月から伸びが加速した。建設業が+1.9万人(前月:+1.4万人)と好調を維持した一方、製造業が▲0.4万人(前月:▲0.5万人)と4ヵ月連続で減少した。

    政府部門は前月比+2.2万人(前月:+0.7万人)となった。内訳をみると連邦政府が+0.3万人(前月:+0.8万人)と前月から伸びが鈍化する一方、州・地方政府が+1.9万人(前月:▲0.1万人)と前月から増加に転じたことが大きい。前月(10月)と前々月(9月)の雇用増(改定値)は、前月が+14.2万人(改定前:+16.1万人)と▲1.9万人下方修正された一方、前々月が+20.8万人(改定前:+19.1万人)とこちらは+1.7万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲0.2万人の下方修正となった(図表3)。
     
    なお、BLSの公表に先立って11月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が+21.6万人(前月改定値:+11.9万人、市場予想:+17.0万人)となり、前月、市場予想を上回った。ADP社の結果は10、11月と振れが大きくなっているものの、2ヵ月平均では+16.8万人と概ね雇用統計と同程度の伸びとなっている。
     
    11月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が25.89ドル(前月:25.92ドル)となり、前月から▲3セント減少した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は890.62ドル(前月:891.65ドル)と3ヵ月ぶりに減少した(図表4)。家計調査のうち、11月の労働力人口は前月対比で▲22.6万人(前月:▲19.5万人)と2ヵ月連続で減少した。内訳を見ると、就業者数は+16.0万人(前月:▲4.3万人)と前月からプラスに転じたものの、失業者数が▲38.7万人(前月: ▲15.2万人)と就業者の伸びを上回って減少した。一方、非労働力人口は+44.6万人(前月:+42.5万人)とこちらは、2ヵ月連続で40万人超の大幅な増加となった。この結果、労働参加率は62.7%(前月:62.8%)と2ヵ月連続で悪化した(図表5)。

    失業率は4.6%に低下したものの、労働参加率の低下や非労働力人口の大幅な増加にみられるように、労働市場から退出した人が増加した結果を反映しており、本質的な意味で労働需給の改善を意味している訳ではない(図表6)。また、11月は賃金も改善が一服したことから、当月は労働需給の改善が一服したと考えられる。次に、11月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、185.6万人(前月:197.9万人)となり、前月対比では▲12.3万人(前月:+0.5万人)と減少に転じた。この結果、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは24.8%(前月:25.2%)と前月から低下した。さらに、平均失業期間も26.3週(前月:27.5週)とこちらも前月から改善した(図表7)。

    最後に、周辺労働力人口(170.0万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(588.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、11月は9.3%(前月:9.5%)と、前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.7%ポイント(前月:4.6%ポイント)と、前月から+0.1%ポイント拡大した。
     
    3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
    4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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    経済研究部主任研究員窪谷 浩 米国経済
    <![CDATA[市場の不安定性の長期化に備える掛金事前拠出]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54475 54475 Mon, 05 Dec 2016 08:22:20 +0900
    もはや、国内債券のベンチマーク運用では収益確保を期待できず、年金運用のパフォーマンスが、相対的にリスクの高い株式や為替相場の動向に大きく左右されやすい状況の長期化が懸念される。

    幸い多くのDBでは、2012年度以降の株高・円安局面で蓄えた積立剰余を未だ確保しており、積立不足の顕在化までには余裕があるものと推測される。しかしながら、不安定な市場環境が長引けば、積立不足に陥る危険性は自ずと高まることになる。

    こうした中、積立不足を未然に防ぎ、年金財政の健全性を維持する上では、掛金の事前拠出が有効だ。DB制度の改正により認められる「将来の積立不足に備える掛金の事前拠出」の活用である。もちろん、運用効率の改善も欠かせないが、厳しい市場環境の長期化に備えるには、掛金事前拠出を念頭に置く必要もあろう。 【関連レポート】 DCバランス型商品の選好と投資教育の必要性-DCの発展には投資教育の実施率向上だけでなく、内容面の拡充も欠かせない
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    年金資産運用
    <![CDATA[不動産およびインフラファンド投資の慎重かつ着実な拡大に期待]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54476 54476 Mon, 05 Dec 2016 08:21:04 +0900
    しかし、国内の年金基金全体でみると、この数年間で資産配分に大きな変化はなかった。主要国の年金基金の資産配分を株式、債券、現金、オルタナティブ投資の4資産に区分し、2011年と2015年で比較すると、他の主要国に比べ、国内の年金基金の資産配分が債券に偏重している状況は変わっていない(図表1)。むしろ国内の企業年金基金の多くは、アベノミクス開始以降の株高、円安に伴い、継続的に国内株式や外国株式を売却してきた。これらは将来のインフレを見据えた対応とは方向が異なるものの、その後の株安、円高局面を考慮すると、慎重な対応が奏功したといえる。

    また、各国の年金基金の資産配分の変化をみると、オルタティブ投資比率を拡大する動きが共通している。特に、カナダの年金基金で顕著となっており、カナダではオルタナティブ投資の中でも不動産およびインフラ投資が活発で、それらの比率の拡大が続いている。資産配分が大きく変わっていない日本でも、同期間にオルタナティブ投資比率は3%増加しており、世界の潮流に沿う形になっている。国内の年金基金のオルタナティブ投資について企業年金基金の内訳をみると(図表2)、他の主要国で数%を占める不動産投資比率が1%にも満たず、ヘッジファンド比率も縮小している一方、その他の比率が拡大している。その他のオルタナティブ投資には比率の小さい様々な投資商品が含まれているが、その中でインフラファンド比率の拡大が顕著で、既に不動産投資に次ぐ比率を占めているとみられる。今後も国内の年金基金の資産配分について、利回りの見込めない国内債券の比率を縮小し、オルタナティブ投資を拡大する動きが続くとみられる。オルタナティブ投資の中でも、安定的なインカムゲインの確保に向け、不動産およびインフラファンド投資が中心的な役割を担う可能性が高まっている。不動産投資については、年金基金に適した投資手段が不足していたといえるが、2010年から登場した私募REIT(非上場オープン・エンド型不動産投資法人)市場が拡大し(図表3)、年金基金の有力な不動産投資手段になりつつある。また、長期的にも、将来のインフレへの対応や分散投資効果の追求、加えて年金債務とのバランスなどから、不動産およびインフラファンド投資の拡大は有効と考えられる。ただし、既にリーマンショックから8年が経過し、不動産およびインフラファンドの投資利回りは大きく低下し、価格サイクルのピークアウトが視野に入っている。国内の年金基金の多くは、アベノミクス開始以降の株高、円安に際し、国内株式や海外株式の比率を拡大することなく、慎重に対応してきた。今後も急がず慎重に、しかし着実に不動産およびインフラファンド投資を進め、長期的にバランスのとれたポートフォリオを構築していくことが期待される。
     

     
      1 「金融法人及び年金基金におけるオルタナティブ投資、バーゼル規制の実態調査(大和総研2015年12月22日)」によると、インフラファンド比率はオルタナティブ資産の5.6%、資産全体の約0.6%
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    金融研究部主任研究員増宮 守 不動産市場
    <![CDATA[中期的アルファ源泉としての技術特許]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54477 54477 Mon, 05 Dec 2016 08:18:57 +0900
    そこで技術競争力の獲得が株価に織り込まれる過程を検証した。技術競争力の指標としては、工藤一郎国際特許事務所が開発したYK値を使用するが、その概要は以下の通りである。特許が成立すると発明企業は排他的利用権を得る。排他的利用権の成立が好ましくない競合他社は、特許申請後に閲覧、異議申し立て、特許訴訟等々の費用を伴う阻止行動を取る。

    これらの第三者による阻止行動が激しいほど当該技術の重要性が高いという前提に立ち、第三者が阻止行動に投じた費用の総計が特定の有効特許に関するYK値である。そして企業レベルのYK値は連結対象子会社を含めて、その企業が評価時点で保有する全有効特許についてのYK値を合算した値である。

    図1は3月決算の製造業ⅰを対象に、過去1年間のYK値の変化(以下⊿YKと表記)に応じて業種ごとに並べたうえで5つのグループに分け(1G~5G)、各グループについてROEの変化(1年後、2年後、3年後)を計算したものだ。なお企業規模を考慮するため⊿YKは総資産(TA)で除してある。図1から、⊿YK/TAと1年後のROEの変化には明確な関係は見られない。しかし2年後、3年後については明らかに正の相関関係が存在しており、2年後よりも3年後の方がさらに上方にシフトしている。

    1年後と2年後は1Gと5Gの差が統計的に有意ではないので、YK値上昇後2年までは特許情報のROEへの浸透は十分ではない。しかし3年後は統計的にも有意なことから、技術特許の増加が企業の収益性に反映されるには3年程度の時間を必要とするものと考えられる。

    次に、ROEの変化は株価に影響を及ぼすと考えられるため、⊿YK/TAと将来の株式リターンとの関係を検証した結果を図表2に示す(分析対象とグループ分けの方法は図表1と同じ)。まず、1年後、2年後では累積リターンの差(5G-1G)は0.47%, 0.76%と小さく統計的にも有意ではない。

    しかし、図表1でROEが統計的に有意となる3年後ではリターン差が3.71%まで拡大し、以降4年後、5年後は4.64%、5.62%とさらに拡大する傾向が続いている。ポートフォリオ構築後3年以降での累積リターン差の大きさと継続的な拡大傾向は経済的な意味があるといえよう。技術特許の獲得と将来の株式リターンとの正の相関関係をもたらす株価浸透過程が示唆された。最後に、YK値の上昇後3年のタイムラグを伴ってROEが上昇する理由をデュポン分解ⅱで調べた。まずYK値の上昇後1年、2年、および3年後の売上高利益率変化とYK値変化には正の相関が存在している。つまりYK値の上昇は1年後の売上高利益率に既に正の影響を与えており、さらに3年後まで継続して売上高利益率を改善していると考えられる。

    一方、YK値上昇後1~3年において5G(高⊿YK/TA)の資産回転率は1G(低⊿YK/TA)よりも小さく、特に1年後、2年後は回転率変化の差が大きい。つまり売上高利益率はYK値上昇後の3年間に継続して上昇するものの、最初の1~2年では資産回転率の劣後がそれを打ち消し、結果として統計的に有意なROEの変化が確認できるまで3年を要している。

    今回の分析対象とした業種に関しては、特許情報は中期的なアルファの源泉として中長期運用のファンドマネジャーが分析対象とすべき重要なファクターだといえよう。
     

     
      1 ここでの分析対象は東証17業種分類のうち、1.食品、3.建設・資材、4.素材・化学、6.自動車・輸送機、7.鉄鋼・非鉄、8.機械、9.電機・精密に属する 3月決算企業とした。
      2 ROE=売上高利益率(当期純利益÷売上高)×資産回転率(売上高÷総資産)×財務レバレッジ(総資産÷自己資本)の式に基づいてROEを構成要素に分解する方法。
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    金融研究部チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任井出 真吾 証券市場
    <![CDATA[消費の停滞についてどのように考えるか]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54478 54478 Mon, 05 Dec 2016 08:17:14 +0900
    2014年春を起点とするこのような消費の停滞については、消費増税後の反動減や天候不順の影響など、さまざまな要因が指摘されてきた。公的年金を始めとする社会保障の将来不安が消費の抑制をもたらしているとの見方もあるが、これらの説明はどの程度もっともらしいものなのだろうか?本稿ではこの点について考察してみたい。

    消費の落ち込みが2014年4月を起点としていることから、消費の低迷については増税後の反動減の長期化がその原因とされることがしばしばある。だが、「国民経済計算」(内閣府)を基に形態別消費の動向をみると、洗剤など一部の商品を除くと買い置きのしにくい非耐久財の落ち込みが顕著であり(図表1)、消費の停滞は自動車や家電などの耐久財に対する駆け込み需要の反動減という理由だけでは十分に説明できないことが確認できる。消費の停滞については天候不順の影響を強調する見方も少なくない。例えば、2014年の夏から秋にかけては「冷夏」が消費の回復を後ずれさせている要因であるとの見解が経済財政諮問会議などにおいて示された。だが、気象庁から公表されているデータを基に14年夏の天候の状況を確認すると、6月と7月については全国的に平年並みか平年を上回る気温となっており、天候不順が顕著なのは低温・多雨と日照不足の生じた西日本の8月のみであることがわかる。衣料品など季節性の高い商材が数多く含まれる百貨店売上高のデータを利用して推定を行った場合にも、天候が消費に与える影響は限定的なものであり、「冷夏」が消費の減少をもたらしたという見解は実証的に支持されない

    最近の消費の動向については、公的年金制度の持続可能性への懸念などに伴う将来不安が消費の停滞をもたらしているとの見方もある。だが、社会保障の充実と安定財源の確保を謳った「社会保障・税一体改革」の一環として実施された消費税率の引き上げ後に、消費の大幅な落ち込みが生じたことを踏まえると、将来不安の低減が消費の増加をもたらす効果は、消費増税が消費の減少をもたらす効果を上回るほど大きなものではないことが示唆される。

    これらの点を踏まえると、消費の動向を規定する基本的な要因に立ち返って所得と消費の関係を点検してみることが、最近の消費の動向を理解する上で有益ということになるだろう。そこで、「家計調査」のデータを基に過去3年半にわたる実質可処分所得と実質消費支出の推移を眺めてみると、消費増税前と最近時点の数ヶ月を除くと両者はほぼ軌を一にする形で推移していることが確認できる。実質可処分所得は2013年夏から14年春にかけて大幅な低下がみられるが、これは名目所得が横ばいとなる中で、円安による輸入物価の上昇と消費税率の引き上げに起因する物価の上昇によって実質所得が押し下げられたことによるところが大きい。増税後に大きく落ち込んだ消費は14年の秋口から15年の春先にかけてやや持ち直しの動きがみられたが、増税前の水準に戻らないまま再び減少に転じ、16年入り後は一進一退を続けている。以上の点を踏まえると、今後の政策運営においては、家計所得の動向や消費税率引き上げの影響を含む物価の動向という基礎的な要因が消費に与える影響をこれまで以上に注視して、景気の動向や財政健全化の道筋について誤りのない判断をしていくことが重要と考えられる。
     

     
      1 この点についての詳細は中里透「消費増税後の消費動向」(上智大学経済学部ディスカッションペーパーシリーズJ16-01,2016年8月)を参照のこと。
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    家計調査16年10月~消費は持ち直しつつあるが、生鮮野菜の価格高騰による悪影響には要注意
    鉱工業生産16年10月~持ち直しが続く生産、在庫調整の進展が好材料
    日本は豊かなのか? 「一人当たりGDP」で見る日本の未来-「中期経済見通し」から見えるもの(その1)
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    上智大学 経済学部中里 透 日本経済
    <![CDATA[2017年はどんな年? 金融市場のテーマと展望~金融市場の動き(12月号)]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=54460 54460 Fri, 02 Dec 2016 18:28:58 +0900
  • (トピック) 今年は年央にかけてネガティブな材料が相次ぎ大幅な円高・株安が進行した後、終盤には米大統領選でのトランプ氏勝利がポジティブな材料と捉えられ、急速に持ち直した。年末にかけて注目材料を残しており、まだ波乱含みだ。多くのサプライズに翻弄された一年と総括される。それでは、来年は金融市場にとってどのような年になるだろうか?まず、最大の特徴として、海外要因に大きく左右される展開になりそうだ。米国に関してはトランプ期待の持続性と政策実行の行方、欧州では主要国で相次ぐ国政選挙が大きな材料になる。新興国からの資金流出懸念も引き続きテーマになりそうだ。一方、国内要因の影響度は相対的に低くなると見込まれるが、TPP・賃上げの行方、衆院解散総選挙の有無が注目される。日銀の大幅な政策変更は予想されないが、国債買入れの規模縮小が実施される可能性が高い点には留意が必要となる。基本シナリオとしては、最大の焦点であるトランプ大統領への過度の期待が一旦剥落する形で揺り戻しの円高が発生、日本株も調整すると見ている。年内にこの動きが始まる可能性もある。その後は政策を見極める段階となるが、良くも悪くも現実路線を取ることが次第に明らかになり、公約ほどではないにせよインフラ投資も増額されることなどから、年央頃から米経済への期待が持ち直し、緩やかな円安・株高基調に移行すると予想。ただし、欧州の政治リスクや新興国からの資金流出懸念がたびたびドル円と日本株の上値の抑制に働くと見ている。これをベースとして、国内材料が多少の上・下振れ圧力になるイメージだ。材料が多く、不透明感が強いだけに、不安定な相場展開になることは避けられそうにない。
     
  • (金融市場) 今後も当面は、米利上げを控えてドルと長期金利の高止まりが見込まれるが、利上げ後は調整圧力等から、一旦ドル安・金利低下に向かうと予想。
  • ■目次

    1.トピック:2017年はどんな年?金融市場のテーマと展望
      ・2016年の振り返り・・・サプライズ続出
      ・2017年はどんな年?
      ・メインシナリオ
    2.日銀金融政策(11月):指し値オペを初めて実施
      ・(日銀)現状維持
    3.金融市場(11月)の動きと当面の予想
      ・10年国債利回り
      ・ドル円レート
      ・ユーロドルレート師走に入り、今年も残すところ1カ月を切った。少々早いものの、今年の金融市場を振り返り、来年の市場のテーマと動向を展望したい。
     
    (2016年の振り返り・・・サプライズ続出)
    まず、2016年のこれまでの市場の動きを確認すると、ドル円相場は年初の120円台後半でスタートし、8月に一時100円を割り込んだが、この1カ月で急激な円安が進み、足元では114円付近まで戻している。また、日本株(日経平均株価)についても、年初の19000円台から、6月に14900円台まで落ち込んだが、足元では18500円弱まで回復している。共に「V字」に近い推移になった。

    年初から年の半ばにかけては、中国不安や原油安、英国のEU離脱決定(Brexit)などネガティブな材料が相次ぎ、ドル円下落と株安に繋がったが、年の終盤には米大統領選でトランプ氏が勝利したことがポジティブな材料と捉えられ、急速な持ち直しに寄与した。

    年初と比べた場合、ドル円の戻り以上に株価の戻りが顕著になっている点には、日米中央銀行の動きが大きく関わっている。日銀が7月末にETFの買入れ規模をほぼ倍増(3.3兆円→6兆円)させたことで、株価が押し上げられた。そして、FRBが利上げに慎重化(昨年12月時点では年4回の利上げを示唆していたが、直近までの実績はゼロ)したことが、円高ドル安に働く一方で、米株高を通じて日本株の下支えになった。
     
    年末までには、イタリアの国民投票(12/4)、オーストリア大統領選(同)、利上げが見込まれるFOMC(12/14)など注目材料が多数残っているほか、米国のトランプ新大統領への期待も振れやすく、まだ波乱含みだ。今年は多くのサプライズに翻弄された一年と総括される。(2017年はどんな年?)
    (1)海外要因に大きく左右され、不透明感強い
    それでは、来年2017年は金融市場にとってどのような年になるのだろうか?まず、最大の特徴として、今年に続いて海外の要因に大きく左右される展開になるだろう。米国・欧州・新興国それぞれの要因が日本の金融市場に多大な影響を及ぼす可能性が高いが、先行き不透明感が強い要因が多いだけに、思惑で市場が不安定になりそうだ。

    1) 米国要因:トランプ期待の持続性と政策実行の行方
    まず、米国に関しては、トランプ新政権への期待の持続性がポイントになる。トランプ氏が大統領選で勝利して以降、同氏の掲げる政策のうち、巨額のインフラ投資や大規模減税、金融規制緩和が注目され、期待が先行する形で米国の成長・インフレ期待が高まり、米株高・ドル高が進行した。とりわけ、日本の金融市場にとって効いたのは米長期金利(10年国債利回り)の急上昇だ。日米金利差の拡大が円安ドル高を促し、株価を押し上げた。

    米長期金利を実質金利部分(リスクプレミアム込み)と期待インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率=BEI)とに分解すると、トランプ氏勝利を受けた11月上旬以降、実質金利部分、期待インフレ率ともに上昇しており、両者が米長期金利の上昇に寄与している。実質金利部分の上昇には、成長期待とともに同氏の政策が実施されることで膨らむ財政赤字への懸念によるリスクプレミアム拡大も含まれていると考えられるが、株価も上昇しており、今のところ「悪い金利上昇」という色彩は強くない。

    従って、まずは今後もトランプ新大統領への期待が続き、米金利上昇が促されるのか?がドル円・日本株の最大の焦点となる。その後は上記インフラ投資等の政策の実行性や効果が具体的に問われる段階になる。この間、同氏の掲げる政策のうち保護主義的な通商政策や移民抑制策など経済にマイナスに作用する政策の行方も明らかになってくるとみられるが、強硬姿勢が目立てば、市場の期待剥落に作用するだろう。

    ポイントとなるイベントは、1月20日の大統領就任、2月頃の予算教書などとなるが(表紙図表参照)、同氏の場合はSNSで随時情報発信するため、いつ重要な情報が出てくるのか予断を許さない面がある。なお、トランプ大統領への期待が今後も続き、米金利が上昇した場合も、その金利上昇自体が株安・円高に繋がりかねない点には注意が必要だ。金利の上昇は米住宅投資や設備投資の逆風になるほか、金利上昇の結果もたらされるドル高は米製造業の輸出採算を悪化させる。実際、2014年半ばから15年春までの急激なドル高局面では製造業の景況感が大きく悪化し、輸出や設備投資にも影響が現れた。ドル高の進行がトランプ氏によるドル高(もしくは円安)牽制を促すリスクもある。

    2) 欧州要因:重要な選挙が目白押し
    次に、欧州に関しては、選挙が大きな材料になる。来年には、オランダ、フランス、ドイツといったEUの大国で国政選挙が予定されている(表紙図表参照)。ポピュリズムの結果、反EU的な指導者・政党が勢力を大きく伸ばせば、欧州の基盤たるEUに次なる離脱国が発生する懸念から、株安・(リスク回避の)円高圧力になる。とりわけ、フランスは域内でドイツ、英国に次ぐ経済規模を持ち、極右勢力である国民戦線の台頭が顕著なだけに要警戒となる。

    また、Brexitも来年にはいよいよ本格的に動き出す。移民抑制を重視し、EU単一市場へのアクセスを放棄する「ハード・ブレグジット」へ向かえば、市場の緊張感が高まることになりそうだ。

    3) 新興国
    来年は新興国もその耐久性を問われることになる。既に米国への資金還流に伴い、資金流出に見舞われている国があるうえ、来年も米利上げに伴って流出が進む懸念があるためだ。また、これまでは原油安に伴う物価上昇率低下で金融緩和余地が生まれ、緩和が新興国景気を下支えしてきたが、資金流出懸念がある場合には、流出に拍車をかける恐れのある金融緩和という手段が制約されてしまう。

    資金流出懸念などから新興国リスクが高まると、市場の緊張感も高まる(株安・円高圧力に)ことになるだろう。(2)国内要因の影響は相対的に低下
    海外で注目材料が目白押しである分、国内材料の影響度は相対的に低くなると見込まれるが、それでも、いくつか注目材料は存在する。

    1) TPP(経済連携)
    一つ目はTPPの行方だ。トランプ新大統領は就任初日での離脱を予告している。TPPは安倍政権の成長戦略の目玉の一つであっただけに、行方が注目される。米国の離脱を食い止めるのは困難な情勢だが、その場合は別の方策を以って世界的な経済連携の構築に向かえるのか?が注目される。TPPがご破算になり、代わりの方策も見出せないようだと、成長戦略の後退感は否めなくなる。2) 春闘
    二つ目は春闘の行方だ。最近の日本経済は回復傾向にあるものの、最大需要項目である消費は勢いを欠いた状態にあり、背景には賃金の伸び悩みがある。来年の春闘での賃上げの成否が来年の日本経済のモメンタムに大きく関わってくる。

    とりわけ、原油安の一巡などから来年の物価上昇率はプラスに転じる可能性が高く、賃金の目減り(実質賃金の押し下げ)に繋がる。既往の円高の影響や世界経済の先行き不透明感などから、大幅な賃上げは望みがたいが、せめて前年並みが維持できるのかが焦点だ。結果は、日本株のうち特に内需株の動向に影響しそうだ。3) 衆議院解散総選挙の有無
    また、日本の国政選挙の有無も注目材料となる。現行の衆議院の任期は2018年12月までだが、直前になるにつれて解散時期の選択肢が狭まるため、安倍首相が来年のうちに解散総選挙に打って出る可能性がある。その場合、現在は法案の再可決が可能な「議席の2/3」を握る与党が、2/3を維持できるかが焦点になりそうだ。維持できれば、任期が一旦リセットされることで、政権基盤が安定化し、株価にプラスに働くだろう。逆に2/3を維持できなければ、マイナスになる。

    ちなみに、日銀に関しては、物価目標の達成が遠い一方で追加緩和余地が限られるだけに、来年の大幅な政策変更は予想されない。市場への影響も限定的だろう。ただし、年80兆円増のペースでの国債買入れは近い将来に限界を迎えるとみられるだけに、来年、規模の縮小を実施する可能性は高い。いかに市場への負のインパクトを抑えるかが注目される。(メインシナリオ)
    以上、来年の注目テーマを見てきたが、基本的なシナリオとしては、最大の焦点であるトランプ大統領への(過度の)期待が一旦剥落する形でドル円に揺り戻しの円高が発生、日本株も調整すると見ている。来年を待たず、年内にこの動きが始まる可能性もある。その後はトランプ氏の政策を見極める段階となるが、良くも悪くも現実路線を取ることが次第に明らかになり、公約ほどではないにせよインフラ投資も増額されることで、年央頃から米経済への期待が持ち直し、段階的な利上げも実施されることで、緩やかな円安・株高基調へ移行すると予想。ただし、欧州の政治リスクや新興国からの資金流出懸念がたびたびドル円と日本株の上値の抑制に働くと見ている。

    このシナリオをベースとして、さらに国内要因が多少の上振れ・下振れ材料になるイメージだ。

    とにかく材料が多く、不透明感が強い要因が多いだけに、年間を通じて不安定な相場展開になることは避けられそうにない。
     

    2.日銀金融政策(11月):指し値オペを初めて実施

    (日銀)現状維持
    日銀は10月31日~11月1日に開催された金融政策決定会合において、金融政策を維持した1

    11月10日に公表された「金融政策決定会合における主な意見」では、現行の枠組み(長短金利操作付き量的・質的金融緩和)について、「当面は現行の枠組みのもとで、その効果を見守るべき」、「(イールドカーブ・コントロールの)枠組みはうまく機能している」などと、肯定的な意見が目立った。なお、資産買入れについては、「約80兆円のめどは先行き適宜プレイダウンしていけばよい」と縮小の方向性を示すコメントも見られた。追加緩和の要否の判断基準については、「“物価安定時期の見通しが後ずれするか”ではなく、“2%に向けたモメンタム(勢い)を維持するために必要かどうか”である」との意見があった。
     
    また、黒田総裁は11月14日の講演において、「物価上昇率2%を前提に賃金決定を行うことが重要」とのメッセージを企業経営者に対して発した。来春闘を前に、物価目標の達成に不可欠な賃金上昇を促すことが狙いとみられる。
     
    日銀幹部の講演や決定会合での意見からは、現在の日銀が追加緩和から距離を置いていることが伝わってくる。今後は、出来る限り追加緩和を温存しつつ、長期間様子見を続けると予想。少なくとも今年度内は現状の金融政策を維持すると見ている。足元の円安進行は物価にはプラスに働くものの、2%のハードルは極めて高い。次回の政策変更が緩和方向という見方に変更は無い。時期は来年後半と見ている。
     
    1 詳細については、「日銀の苦境はまだまだ続く~金融市場の動き(11月号)」(Weekly エコノミスト・レター 2016-11-04)をご参照。
    (10年国債利回り)
    11月の動き 月初▲0.0%台半ばからスタートし、月末は0.0%台前半に。 
    月初、米大統領選への不透明感から国債が買われ、▲0.0%台後半へと低下。9日の大統領選開票でトランプ氏の優勢が伝わるとリスク回避姿勢が強まり、マイナス幅を広げた。しかし、トランプ氏勝利を受けて米金利が上昇したことを受けて、翌10日には▲0.0%台前半に上昇。その後も米金利の上昇は止まらず、引きずられる形で15日にはプラス圏に上昇。17日には金利上昇を止めるべく日銀が初の指し値オペを実施したが、18日には0.0%台半ばまで上昇した。下旬には、OPEC総会への警戒などから米金利上昇が一服し、月末にかけて0.0%台前半での推移となった。

    当面の予想
    今月に入っても0.0%台前半での推移が続いている。米金利上昇の波及には引き続き注意が必要だが、0.0%台半ばでは、再度日銀の指し値オペ実施が予想されるため、金利の上昇余地は限定的に。むしろ、しばらくの後はトランプ新政権への過度の期待が一旦剥落することで米金利がやや低下し、それに伴って日本の長期金利も小幅に低下すると予想している。(ドル円レート)
    11月の動き 月初104円台後半からスタートし、月末は112円台半ばに。
    月初、米大統領選でのトランプ氏支持率上昇を受けた米経済への警戒感からドルが売られ、4日には103円台前半に。一旦104円台に戻した後、9日には大統領選開票でトランプ氏優勢が伝えられ、リスク回避で101円台まで下落した。しかし、その後はトランプ氏の掲げる巨額のインフラ投資等による米景気加速・インフレ期待からドルが急速に買われる展開に。イエレン議長による早期利上げ示唆を受けた18日には110円を突破し、25日には113円台後半に到達。月末はOPEC総会への警戒などから利益確定が入り、112円台半ばで終了した。

    当面の予想
    11月末のOPEC総会での大幅減産合意を受けた米金利上昇とリスク選好の円売りにより、足元では114円付近までドル高が進行。目先は本日の米雇用統計と4日のイタリア国民投票の結果次第だが、基本的に最近の米経済指標は底堅いことから、14日FOMCでの利上げまではドルの高止まりが継続しそう。115円を一旦突破する可能性も十分ある。ただし、利上げ実施後は、再利上げは当分先になるとの認識が広がるとともに、トランプ氏への期待も徐々に修正されることで、円高ドル安方向への調整が入る可能性が高いと見ている。(ユーロドルレート)
    11月の動き 月初1.10ドル台前半からスタートし、月末は1.06ドル台前半に。
    月初、1.10ドル~1.11ドルでユーロが底堅く推移した後、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けた米金利上昇・ドル高圧力の高まりを受けて、10日に1.09ドル台へ、14日には1.07ドル台へ下落。さらに、イエレン議長の早期利上げ示唆を受けた18日には1.06ドル台、24日には1.05ドル台へと急ピッチで下落した。その後はドル高圧力の一服、ポジション調整的なユーロ買いを受けてやや持ち直し、月末は1.06ドル台前半で終了。

    当面の予想
    足元は若干ドルが調整し、1.06ドル台後半にて推移。ユーロ側の材料が乏しい中で、主に米国側の材料によってユーロドルが動く状況が続いている。目先は本日の米雇用統計と4日のイタリア総選挙が材料となるが、ともにドル高ユーロ安要因になる可能性が高いと見ている。また、8日のECB理事会では量的緩和の延長が見込まれるため、一旦ユーロ安方向に進みそうだ。その後、14日に米国が利上げした後は、ドル円同様、調整的なドル売りが予想され、ユーロドルは持ち直すと予想している。 【関連レポート】 日銀の苦境はまだまだ続く~金融市場の動き(11月号)
    米大統領・議会選挙-トランプ次期大統領の経済政策は玉石混交。今後の経済は、政策優先順位・遂行状況次第。
    トランプ・ショックと欧州-現実味帯びるポピュリズム伝播、試金石として注目されるイタリア国民投票-
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    経済研究部シニアエコノミスト上野 剛志 金融市場・外国為替