ニッセイ基礎研究所 http://www.nli-research.co.jp Copyright © 2016 NLI Research Institute. All rights reserved. Fri, 28 Apr 2017 07:40:39 +0900 ja <![CDATA[「マーケットシェア」の意味するものは何か?-電気・電子産業における有力「下請企業」の出現等の構造変化に着目して-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55598 55598 Thu, 27 Apr 2017 13:57:08 +0900
スマートフォン・薄型テレビ・パソコンや半導体等の電気・電子産業において、モジュール生産(組み合わせ生産)のトレンドが進行する中、業界における主要プレーヤー(企業)として、製造工程(工場設備)をもたない「ファブレス」と、製造を他社から受託するEMSや半導体ファウンドリの増加という構造変化がある。かかる環境下においてマーケットシェアの意味合いも変化している。さらに大手EMS・ファウンドリは、かつての下請企業のイメージとは異なり伝統的な大企業にも比肩する業績・業容となりその存在感を増している。

■目次

1――電気・電子産業の有力企業と業界内での構造変化
2――有力「下請企業」の出現とその背景、生産方式の変化私たちは、スマートフォンやテレビなどを話題にする時に、「どの会社のマーケットシェアが大きいか」「マーケットシェアでの業界内の順位はどうか」などといった表現をする。

しかし、近年の業界構造の変化をみるとその様相は大分変わってきているようだ。本レポートでは、電気・電子産業を中心にその状況を述べることにする。
 

1――電気・電子産業の有力企業と業界内での構造変化

図表-1は、スマートフォン・薄型テレビ・パソコン・半導体の世界シェアであり、韓国、米国、中国、台湾の有力企業の存在感が大きいことがわかる。私は、これを「表のマーケットシェア」と読んでいる。しかし、もう少し業界の構造を分析してみると興味深い事実が現れてくる。例えば、スマートフォンについて、首位のサムスンは設計・開発・デザインから製造・販売等の一連のプロセスをほぼ自社でおこなっているが、2位のアップルは、自ら製品(iPhone)の製造は行っていない。パソコンについても、上位企業のほとんどが製造工程を他社に委託している。さらに、中核的な部品である半導体についても、米国のクアルコムやブロードコムなど大手も製造を他社に委託している。今や、こういった製造工程(工場等の生産設備)をもたない企業は「ファブレス」と呼ばれており、一方、製造を他社から請け負う電気・電子分野の企業は「EMS」(Electronics Manufacturing Service)、特に半導体に関しては、「ファウンドリ」と呼ばれる。例えば、人気のゲーム機器の製造にEMSを活用している著名な企業として、任天堂・ソニー・マイクロソフト等がある。

2――有力「下請企業」の出現とその背景、生産方式の変化

かつての電気・電子産業においては、有力企業が大規模な「発注元」であり、OEM(Original Equipment Manufacturing)などと呼ばれる受託製造企業や、部品メーカーは、小規模な「下請」という図式が中心であった。この点に関連して、「スマイルカーブ」という考え方が広く流布され、設計・開発・デザインや販売・マーケティング・サービスと比べ、製造・組み立て工程の収益性は低いとされていた(図表-2)。しかし、近年の大手EMSやファウンドリの状況は、小規模で利益の少ない「下請企業」のイメージとは大きく異なるものとなっている。図表-3のように、EMSで、当該受託製造分野で世界シェアの約4割を占める鴻海精密工業(1974年設立)、半導体ファウンドリ企業として、同分野で約6割のシェアを有する台湾積体電路製造(TSMC:1987年設立)という台湾の大手企業二社の業績・業容は、米韓日の大手電気・電子企業に比肩するものとなっており、これら大手の受託製造企業が、実態面での大きなマーケットシェアを占めているといえよう。我々が「XX社製」と思って日常使っているスマートフォンやパソコン、家電製品、その中の重要部品である半導体の多くを製造しているのは、これらEMS・ファウンドリである。スマイルカーブで示されるように、製造・組み立て工程の収益性は低いが、世界中の多くの企業から大量に受注し、そのコントロール下で、世界各地から様々な部品を調達し、近代的・大規模な工場・設備(その多くが中国に所在)を有する仕組みによって大きな規模の利益を享受している。このような状況は、かつての「発注元と下請」という上下的な関係から、「発注元とEMS・ファウンドリ」という、より対等な関係に変化している(TSMCをテーマに取り上げたNHK(BS1)の2013年7月4日放映の番組「島耕作のアジア立志伝」では「下請けが世界を変えた」とも表現されている)。上記のような様々な発注元企業からの受託を可能にする大前提は、高い技術力と大きな生産規模・能力に加え、発注元各社の情報の徹底した管理・守秘である。

一方、発注元企業としては、自社で生産設備を持つことが不要となり、コスト面や、素早いモデルチェンジ・新製品の発売面でのメリットがあり、特に資本力が小さく設計・開発・デザインなどのアイディアで勝負したいベンチャー企業の発展に寄与しているといえよう。

このような大きな構造変化の背景としては、特に、電気・電子分野におけるモジュール生産化の流れが大きなファクターとなっている。

「モジュール生産」(組み合わせ生産)とは、規格に合った部品やモジュールを世界中の部品メーカーから外部調達し、組み合わせて最終製品を造る方式であり、部品の標準化が進み、様々なメーカーの部品を組み合わせられる(国際的な)「水平分業モデル」の実現に大きく寄与している(この点で、従来の「垂直統合モデル」の下での「インテグラル生産」(すり合わせ生産:部品やモジュールを独自に設計し、発注元と部品メーカーが互いに調整しながら組み合わせる方式)とは一線を画している)。

近年は、大手EMS・ファウンドリは単なる製造工程だけにとどまらず、設計など上流工程やサービス等にも業容を拡大しつつあり、また、鴻海精密工業のように、歴史ある大手メーカーであるシャープを買収するという動きも見られている。

電気・電子産業における上記のような変化の中で、今後、企業間関係や大手プレーヤーの勢力図がどのような変化を見せるのか、また、インテグラル生産の代表とされる自動車産業において、電気自動車という家電製品的な製品の増加・普及というトレンドにおいて、今後、モジュール生産化や製造・組み立ての委託といった流れが加速するのかは、関心を持って注視すべき重要なポイントであろう。 【関連レポート】 サービス・グローバル企業のアジアにおける事業展開の研究(4):外資とアジア地場の有力小売企業の動向
「アジア諸国の有力企業動向」-フォーチュン・グローバル500社ランキングの変遷から:中国企業は100社超がランクイン
日本企業の海外進出を阻む病、「NATO」「4L」ってなに?-実例に学ぶ海外事業拡大の秘訣
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保険研究部兼 経済研究部 主席研究員 アジア部長 General Manager for Asia平賀 富一 企業経営・産業政策
<![CDATA[みんなのブロックチェーン入門(1)~ブロックチェーンは世界を変えるかもしれない~]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55597 55597 Thu, 27 Apr 2017 11:35:30 +0900 1。日本でも2015年後半からメディアで報じられる機会が増え、関心が高まっている。

しかし、ブロックチェーンを理解することは容易ではない。特に多くの読者を悩ませるのが、専門用語の多さではないだろうか。そこで、これから数回にわたり、特に「IT苦手」な読者に向けて、なるべく専門用語を使わずにブロックチェーンを紹介していきたい。第一回である本稿では、導入としてブロックチェーンの注目されるポイントを概観する。
 
1 ネットスケープ社を創業したマーク・アンドリーセン氏は、2014年時点のブロックチェーンを「1975年のパーソナル・コンピュータ、1993年のインターネットに匹敵する技術」と述べている(New York Times 紙、2014年1月21日)。
IT技術の進展により、紙で記録されてきた多くの情報が電子化された。しかし、大事な情報については、「管理者」が「特定の場所」に保管し、信頼性を担保するという構造は、電子化された今も変わっていない。

大事な情報とは、お金や権利、プライベートに関する情報などを思い浮かべてもらうと分かりやすい。大事な情報は、誤って記録されても、また消えてもいけない。データを改ざんされても、システムが止まってもいけない。例えば預金の情報は、「銀行(管理者)」が何重もの対策を施した「銀行のサーバー(特定の場所)」で保管し、データの正確性やシステムの安定稼動を保証してきた。

ブロックチェーンは、大事な情報を「複数の場所」で共有することなどの「仕組み」によって、「管理者」がいなくても、データの正確性を保証し、改ざんなどの不正を困難にしたのである。この「管理者」を「仕組み」で代替することを可能にしたというのが、ブロックチェーンを理解する上で重要なポイントである。ブロックチェーンは、「管理者」を「仕組み」に置き換えることで、大幅なコスト削減が実現できると期待されている。なお削減されるコストは大きくわけて以下の二つである。

第一に、システムコストの削減が期待される。これまでは「特定の場所」でデータを管理していたため、「特定の場所」で問題が生じると、システムが停止する恐れがあった。例えば、預金の情報を保管する銀行サーバーが壊れると、預金が引き出せなくなってしまう。またハッキングなどによりデータが改ざんされてもいけない。そのため、システムが止まらないよう、また改ざんなどがないよう、多額のコストをかけ何重にも対策を講じていた。一方、ブロックチェーンの場合、「複数の場所」で同様のデータを保管しているため、1箇所が止まっても、システムは稼動し続ける。また改ざんが極めて困難な「仕組み」のため、セキュリティに要する費用も安くすむ。

第二に、事務コストの削減が期待される。これまではデータが特定の場所にしかなかったため、「管理者」を経由するなど複雑なやり取りが発生し、その都度、情報の確認・照合を行うことも少なくなかった。ブロックチェーンでは「管理者」が不要となり、情報が共有化されるため、複雑だった事務プロセスを簡素化することが可能になる。例えば、貿易金融などの分野では、取引関係者が多く、煩雑な事務プロセスが大幅に効率化されることが期待できる。

ブロックチェーンには課題も多い。ブロックチェーンは高速・大量処理が苦手で、データの修復が困難なことは、よく指摘される。またブロックチェーンで既存システムを置き換える場合には、その移行コストが膨大だとの声もある。すでに大規模なシステムが構築されている分野でブロックチェーンを導入するのは容易ではない。

そのため、インフラが未整備な新興国や経済規模の小さな国で、ブロックチェーンが先行的に導入されていく可能性がある。政府の汚職などで「管理者」が信頼できない新興国では、特にブロックチェーンの活用が進みやすいだろう。ブロックチェーンでは、新興国で最初に導入され、それが先進国市場に逆流し席巻する「リバース・イノベーション」が十分想定される。ブロックチェーンは、Fintech(フィンテック)の中核技術として位置づけられることも多い。多くの金融機関がブロックチェーンの研究・開発に取り組んでいる。また複数の金融機関がコンソーシアムを組み、業界標準を作ろうという動きもある。

金融機関の注目を集めるのは、ブロックチェーン導入のコストメリットが大きいためだ。大手金融機関はブロックチェーンを活用することで、30%のコストを削減できるとの試算もある2。しかし、伝統的な金融機関が熱心にブロックチェーンに取り組む理由は、コストだけではないだろう。

ブロックチェーンは金融業界を一変させ、業界地図を塗り替える可能性がある。中国ではスマホ決済が急拡大しているが、サービスを提供しているのは伝統的な金融機関ではなく、アリババ3やテンセントなどのIT企業である。同様に、ブロックチェーンによる金融サービスを提供するIT企業が、伝統的な金融機関のシェアを奪う可能性がある。大手金融機関は、新興企業が台頭する前に、自らブロックチェーンを取り込むことで、生き残りを図ろうとしているという見方もできる。ブロックチェーンをめぐる伝統的な金融機関と新興IT企業の覇権争いは今後も注目である。
 
2 Accenture(2017).“Banking on Blockchain: A Value Analysis for Investment Banks” では、世界の大手投資銀行8行のコスト構造を分析し、ブロックチェーンを活用することで年間のインフラコストを平均30%削減できると試算している。これは8行合計で年間80~120億ドルのコスト削減に相当する。
3 正確には、アリババ・グループ・ホールディング傘下のアント・フィナンシャルがサービスを提供している。
金融以外にも応用が期待される分野は多岐にわたる。土地登記や戸籍などの権利証明やサプライチェーン、シェアリング・エコノミーなど様々である。

注目される応用事例の一つが、「スマートコントラクト」である。ブロックチェーンに契約を書き込み、設定された条件が満たされれば、契約を自動で執行する仕組みである。スマートコントラクトの概念はブロックチェーンが開発される前の1990年代からある。例えば、自動販売機もスマートコントラクトだといわれている。自動販売機は、「必要な代金を投入」、「特定の商品のボタンを押す」という2つの条件が満たされると、「特定の商品が提供される」という契約が自動で実行される。

自動販売機とは異なり、従来のデリバリーを約束する契約などでは、契約の執行が契約の相手方に委ねられることが多い。そのため、相手方が信頼できるか、第三者保証がないと、契約は成立しづらい。しかし、ブロックチェーン上で契約と執行をプログラム化すれば、契約が機械的に執行されるため、相手方への信頼や第三者の保証は不要となる。ブロックチェーンによる「スマートコントラクト」が広まることで、様々な契約締結や執行プロセスが自動化され、新たな市場が生まれるという期待も大きい。ブロックチェーンはすでにビットコインなどで実用化されており、将来的に社会を変革する可能性のある技術だ。しかし、まだ発展途上の技術であり、今すぐに本格的に普及するような段階ではない。パソコンやインターネットも、本格的に普及するまでには時間がかかった。

世界経済フォーラムは、ブロックチェーンが社会に変革をもたらすのは2027年との調査結果を示している4。言い換えれば、専門家の多くは、ブロックチェーンが私たちの生活の一部となるのは、10年後だと見ている。ブロックチェーンは、遠くない将来に世界を変える可能性があり、今後の動向が注目される。
 
4 World Economic Forum(2015),”Deep Shirt: Technology Tipping Points and Societal Impact” では、「GDPの10%がブロックチェーン上で計上される」ことをブロックチェーンの転換点とし、サーベイによると2027年にこの転換点を迎える見通しである。
【関連レポート】 欧米で広がるシェア経済(シェアリングエコノミー)-日本の働き方にも影響
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Fintech(フィンテック)100、1位の衆安保険を知っていますか?【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(20)
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金融研究部研究員佐久間 誠 企業経営・産業政策 企業経営・産業政策
<![CDATA[欧州大手保険グループの2016年決算状況について(2)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55591 55591 Wed, 26 Apr 2017 13:40:40 +0900
欧州大手保険グループの2016年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。

前回のレポートでは、「全体の状況とAXA、Allianz、Generaliの3社の状況」について報告した。今回のレポートでは、「Prudential、Aviva、Aegon、Zurichの4社の状況と全体のまとめ」について報告する。

■目次

1―はじめに
2―欧州大手保険グループ各社の決算状況(前回のレポートからの続き)
  -Prudential、Aviva、Aegon、Zurich -

  4|Prudential
  5|Aviva
  6|Aegon
  7|Zurich
3―まとめ
  1|地域別の事業展開及び業績状況
  2|低金利環境下での投資関係損益等を巡る状況や各社の対応a
  3|各種規制(ソルベンシーII等)への対応
  4|日本の生命保険会社への示唆欧州大手保険グループの2016年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。

前回のレポート1では、「全体の状況とAXA、Allianz、Generaliの3社の状況」について報告した。今回のレポートでは、「Prudential、Aviva、Aegon、Zurichの4社の状況と全体のまとめ」について報告する。  

2―欧州大手保険グループ各社の決算状況(前回のレポートからの続き)

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV(Embedded Value)2及び新契約価値の状況を地域別に報告している。

さらに、低金利環境下での投資関係損益を巡る状況や新契約の収益率等の状況を、各社毎に得られる情報に基づいて、報告している。

4|Prudential
(1)地域別の業績-2016年の結果-
Prudential は、自国の英国に加えて、米国やアジアの14カ国及びアフリカの4カ国と、ほぼ20カ国程度で事業展開している。

米国子会社のJackson National Groupは、2016年9月末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第10位となっている。収入保険料や営業利益では米国のウェイトが最も高いが、将来の利益に基づくEEVや新契約価値ベースではアジアの位置付けが最も高いものとなっている。
 
2 欧州大手保険グループは、EEV(ヨーロピアンEV)とMCEV(市場整合的EV)のいずれかに基づくEV(Embedded Value:エンベデッド・バリュー)を公表している。
(2)地域別の業績-2015年との比較-
2015年との比較では、アジアが2割を超える増収増益で、全体の増収増益に大きく貢献している。米国の営業利益も2割程度増加している。これらのアジアや米国の高進展のうち12%~13%程度は為替要因によるものであるが、これらを除いても高い伸びとなっている。特に、アジアでは、エージェンシーや銀行窓販を通じて、成長する中間所得層向けに保障・貯蓄性商品の販売が好調で、新契約利益、営業利益及び資本形成において、7年連続で2桁成長を遂げてきた、としている。

英国については、バルク年金市場からの撤退により、年金からの利益が大幅に減少したことに加えて、過去の助言無年金商品の販売実務や関連する補償のレビューを行うコストとして175百万ポンドの準備金設定等を行った影響で、営業利益は大きく減少した。

米国では、スプレッドは低下したが、資産残高の進展に伴う手数料収入が増加したことにより、営業利益が増加した。(3)投資関係損益等を巡る状況
Prudentialは、投資関係損益を含む営業利益の源泉の状況を地域別に公表しているので、それを報告すると、次ページの図表の通りとなっている。

これによると、低金利環境下での利回り低下に伴い、会社全体のスプレッドは、2015年の158bpsから2016年の141bpsへとさらに低下したが、為替の影響があり、スプレッド収入は1,153百万ポンドから1,171百万ポンドの微増(為替横ばいベースでのスプレッド収入は2015年の1,267百万ポンドから8%減少、以下同様)にとどまった。一方で、手数料収入が1,888百万ポンドから2,175百万ポンドに15%増加(2,118百万ポンドから3%増加)し、保険引受けマージン等が3,493百万ポンドから4,117百万ポンドに19%増加(3,858百万ポンドから7%増加)している。これらは会社の高効率資本商品へのシフト戦略の結果によるものである。(4)新契約の状況
(4-1)新契約年換算保険料の地域別内訳
アジアは、新契約価値だけでなく、新契約年換算保険料でも6割を占め、主要各国で有意な水準を計上している。特に、最近は、中国、香港、台湾やインド、ベトナム等で高い成長率を確保している。香港ではこの2年間で3倍近くになる高成長を確保したが、これは、1) エージェンシーの数と生産性の向上、2) ブローカー・ネットワークへの進出に加えて、3) 中国本土をベースとした顧客への対応に積極的に取り組んだ、ことが理由として挙げられている。(4-2)新契約マージンの状況 
新契約マージンの地域別内訳は、次ページの図表の通りである。

マージン率については、前年との比較では、グループ全体ではほぼ横ばいである。

地域別ではアジアのマージン率が相対的に高くなっている。5Aviva
(1)地域別の業績-2016年の結果-
Avivaは、世界の16カ国で事業展開している。

Avivaの保険料、営業利益及び資産の9割程度は欧州からのものである。その他では、カナダとアジアが占めている。欧州では、英国&アイルランド(生保)が保険料では2割だが、営業利益では半分を占めており、それ以外は英国&アイルランド(損保・医療)とフランスの構成比が高く、これらにポーランド、スペイン、イタリアの国々が有意な水準で続いている。

欧州における英国&アイルランド以外の保険料11,772百万ポンドのうち、損害保険は1,030百万ポンドであり、9割以上が生命保険である。また、アジアも殆どが生命保険であるが、カナダは全て損害保険となっている。(2)地域別の業績-2015年との比較-
2015年との比較では、欧州とカナダで順調に業績を進展させている。

生命保険の営業利益は2,642百万ポンドで対前年8%増加した。英国の生命保険事業が、Friends Lifeの四半期分の追加(Avivaは2015年4月にFriends Lifeを買収)と統合シナジー効果に加えて、保障、企業年金及び個人年金の成長による恩恵を受けた。これが、バルク年金販売の低迷と他の収入の減少を上回った。さらには、為替レートの影響と保障事業の成長が、フランスにおけるボラタイルな金融市場による逆風とポーランドにおける規制資産賦課による影響を上回った。

なお、Ogden割引率3の引き下げによる影響額475百万ポンドについては、現段階でのOgden割引率を巡る状況の不透明性等を考慮して、営業利益からは控除している、としている。
 
3 Ogden割引率とは、傷害請求額の算出に使用される割引率で、2001年に2.5%に設定された現在の率について、Lord Chancellor(大法官)から、2017年2月に▲0.75%に引き下げることが公表されたが、これによる影響が大きいことから、業界が大反対している状況にある。
(3)投資関係損益を巡る状況
(3-1)投資マージンの状況
生命保険の投資リターンの内訳が次の図表の通りとなっている。

資産残高の増加等に伴い、ユニットリンクの管理手数料が大幅に増加し、投資リターン全体の55%を占めている。

なお、Avivaにおける投資マージンの率はここ3年間ではあまり低下していない。(3-2)保証利率の状況
Avivaは継続する低金利下で影響を受ける可能性があるフランスとイタリアの有配当契約の平均保証利率の状況を公表しているが、資産利回りとのスプレッドは2.6%ポイントを超える水準となっている。(4)新契約の状況
(4-1)新契約価値の商品別内訳
英国生命保険事業の新契約価値の商品別内訳は、以下の図表の通りとなっている。(4-2)新契約マージンの状況 
新契約マージンの地域別内訳は、以下の図表の通りである。

マージン率については、前年との比較では、グループ全体ではほぼ横ばいである。

地域別では、アジアやポーランド等の新興国でのマージン率が相対的に高くなっている。(5)営業利益の商品別内訳
英国生命保険事業の営業利益の商品別内訳は、以下の図表の通りとなっている。(6)ROE(資本収益率)の地域別状況
Avivaは、地域別のROEを開示しているが、各地域で10%を超える高いROEを計上している。6Aegon
(1)地域別の業績-2016年の結果-
Aegonは、世界の20カ国以上で事業展開している。

資産ベースで、自国のオランダの構成比が2割強、英国も2割程度を占めているが、米国を中心とした北米・中南米の構成比が5割程度と高くなっている。

Transamericaのブランドを中心とする米国子会社グループは、2016年9月末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第9位となっている。ブラジルとメキシコで事業展開しているが、カナダの生命保険事業や資産管理事業は2015年7月に売却している。

また、損害保険事業は欧州でのみ展開しているが、その全体における位置付けは高くない。

なお、Aegonは、2015年11月3日にFSB(金融安定理事会)が公表したG-SIIsのリストに、Generaliに代わって、新たに加えられている。(2)地域別の業績-2015年との比較-
2015年との比較では、全体では、増収増益となっている。

米国では、事業費の削減と支払率の改善があったものの、2015年に引き続き、変額年金の販売が低迷し、2015年の第3四半期に行った責任準備金の評価替えやモデルの更新がマイナスの影響を与えていたこと等から、若干の減益となっている。

欧州では、顧客を新たな退職プラットフォームにアップグレードさせたことにより、英国における繰延新契約費の償却額が低下したことを主要因として、基礎利益が17%と大幅に増加した。

アジアでは、低金利環境下で、香港やシンガポールでのユニバーサル保険の販売が低迷したことや、アジア各国で収益性確保の観点からの商品・価格戦略や事業の見直しを進めたことによる。

新契約価値については、各地域で大きなマイナスとなっている。北米は、1) 低金利によって米国での変額年金の販売が低迷したこと、2) カナダ事業からの撤退による影響、によるものであり、欧州では、英国での年金事業を売却したこと等が要因に挙げられている。(3)投資関係損益を巡る状況
米国における運用利回りと保証利率の関係を見てみると、運用利回りの低下を理由として、両者の差額としてのスプレッドは毎年低下してきている。ただし、依然1.5%程度の水準を確保している。(4)新契約の状況
新契約マージンの地域別状況は、以下の図表の通りとなっている。

マージン率については、前年との比較では、グループ全体では若干低下している。

地域別では、北米・中南米でのマージン率が高くなっている。(5)ROE(資本収益率)の地域別状況
Aegonは、地域別のROEを開示しているが、その状況は次ページの図表の通りである。

これによれば、AXAとは異なり、アジアのROEは高くなく、オランダや中東欧が高くなっている。7Zurich
(1)地域別の業績-2016年の結果-
Zurichも、世界の210以上の国と地域で、生命保険・損害保険のサービスを提供している。

欧州では、自国のスイス以外に、ドイツや英国から高い営業利益を上げている他、スペイン、イタリア、アイルランド等からの営業利益も有意な水準となっている。ただし、こうした欧州各国からの構成比は全体の7割弱であり、残りの3割は米国4、中南米、アジア・太平洋等が占めている。

特に、他社との比較では、アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ等の中南米の位置付けが高いのが特徴的である。Banco Santanderとの提携によるZurich Santanderにおける販売が貢献している。
 
4 Zurichの米国子会社グループは、他の米国事業を有する4社の米国子会社グループの規模とは異なり、2015年末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第92位である。
(2)地域別の業績-2015年との比較-
Zurichの決算数値は米ドル建で報告されているため、2015年との比較を見る上では、2016年の米ドルの主要通貨に対する状況を考慮しておく必要がある。

営業利益の進展率については、全体 9%(米ドルベースは、以下の図表の通りで3%、以下同様)、欧州・中東・アフリカ 6%(2%)、中南米 32%(28%)、となっている。会社全体の新契約価値も、現地通貨ベースではほぼ横ばい(▲5%)となっている。北米では、継続率の悪化により、34%減少したが、中南米では、高い投資リターンが得られたことから、大幅に増加した。アジア・太平洋の営業利益は、日本における成長、香港における継続率の改善や(赤字続きの)シンガポール生命保険ポートフォリオをノンコア事業に移転したこと等により、倍増している。マレーシアやオーストラリアにおける最近の買収によるプラス効果は統合のコストが上回る形になっている。(3)投資関係損益を巡る状況
2016年の生命保険事業の投資マージン(現地通貨ベースの一時的要因除き)は、前年に比べて、米国において若干低下したが、他の地域では上昇し、年間では18%(12%)増加した。欧州・中東・アフリカでは、スイスやドイツにおける保証利率の低下やブラジルやメキシコにおける高い投資リターンが貢献した。中南米やアジア・太平洋では、2%程度の高い投資マージンの水準を確保している。なお、Zurichの生命保険事業の投資利回り(ネット)は、3.43%(2013年)、3.38%(2014年)、3.09%(2015年)と低下してきていたが、2016年度は3.12%と若干反転している。(4)新契約の状況
(4-1)新契約の商品ポートフォリオと新契約マージンの推移
新契約年換算保険料は、中南米での高い進展により、現地通貨ベース5で7%増加したが、そのうち保障商品が23%増加し、ユニットリンクや企業年金と合わせた軽資本商品がほぼ80%を占めた、としている。Zurichは、マージン率の高い保障商品やユニットリンク商品に注力してきている。

2016年の貯蓄・年金の新契約価値は、金利低下の影響を受けて、マイナスとなっている。
 
 
5 為替レートが変化しなかったとした場合の合計数値でみた場合
(4-2)新契約マージンの地域別状況
新契約マージンの地域別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

マージン率については、前年との比較では、グループ全体ではほぼ横ばいであった。

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2016年の生命保険事業について、地域毎の業績及び低金利環境下での投資関係損益を巡る状況等について報告してきた。ここで、今一度欧州大手保険グループの状況を総括するとともに、日本の生命保険会社への示唆について考えてみる。昨年度のレポートの繰り返しになる部分も多いが、改めてこの1年間の状況を踏まえて述べておく。

1|地域別の事業展開及び業績状況
各社の自国以外の地域への事業展開の方針等は必ずしも一律ではなく、さらには、各社毎に、重点を置く事業種類等も考慮した上で、地域選定等に特徴を有した形になっている。その中には、積極的に海外進出するだけでなく、一旦進出した地域からの事業撤退等を行うケースも含まれている。具体的には、Allianzの韓国生命保険事業、Aegonのカナダ生命保険事業に加えて、Generaliが新興市場を含めて最大15の市場の合理化を進めることを公表しているケースが挙げられる。さらには、事業単位で考えれば、Prudentialが英国でのバルク年金市場から撤退したこと等が挙げられる。

ただし、基本的には、各社とも、自国以外の保険先進国や新興国への進出を通じて、自国以外でも一定規模の収益を確保してきている。特に、ここで取り上げた欧州大手保険グループでは、GeneraliとAvivaを除いて、各社とも米国において一定のプレゼンスを有し、高い収益を上げてきている。さらには、これらの地域に加えて、アジアや中南米等での展開を積極的に進めることで、収益機会を拡大させてきている。

前年からの地域別の進展率等については、各社毎の異なる地域展開の方針及び地域毎の市場環境の違い等を反映して、必ずしも一律ではない。ただし、これらを合算した会社全体の数値は、分散効果も一定程度見られる中で、比較的安定した形になっている。自国以外の地域への事業展開は、こうした点での意味合いも一定有する形になっている。2|低金利環境下での投資関係損益等を巡る状況や各社の対応
低金利環境下で、各社は、新契約の保証利率の引き下げや、伝統的な保証商品に比べて保証を限定した商品(満期時保証、年金総額保証等)への代替を図ることで、負債コストの引き下げを図ってきている。一方で、今回のレポートの中では触れなかったが、リスク対応も図りつつ、安定的に高い運用利回りを確保するために、新たな分野での投資の拡大等の資産運用面での取組みも積極的に行ってきている。その結果として、再投資利回りと負債コストとのスプレッドを一定確保し、投資収益の減少をできる限り抑制するポートフォリオを構築してきている。欧州の多くの生命保険会社においては、投資関係損益が重要な収益源となっていることから、適正なマージンを確保すべく、各種の対応を図ってきている。

一方で、金利リスクに対するエクスポジャーを低下させ、その耐性度を高めるために、デュレーション・ギャップの解消等も図ってきている。これらを通じて、新たなソルベンシーIIという資本規制下で、適正な資本水準を効率的に確保しつつ、高い収益を目指す経営を追求してきている。

なお、従前の投資関係損益への大きな依存から脱却すべく、各社とも、1) 市場に左右されない保障や医療商品にシフトすることで、保険引受けによる損益の位置付けを高めていくことや、2) 着実に資産の積み上げを図ることで手数料収入の確保を目指していく、運営を進めてきている。3|各種規制(ソルベンシーII等)への対応
今回採り上げた欧州大手保険グループのソルベンシーIIに伴う2016年のSCR比率の状況については、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(1)及び(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2017.4.17及び2017.4.18)で報告した。

さらには、ソルベンシーIIへの対応という観点からの各社の対応については、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年上期末の SCR 比率の状況等について -SCR 比率及び感応度の推移等-」(2016.10.11)で報告した。

そこで述べたように、各グループとも、2016年のソルベンシーIIの導入に向けて、SCR比率の水準や安定性の最適化に向けて、資本の増強やリスクの低減等の各種の対応を行ってきた。毎期の事業を通じて着実に収益を計上するとともに、劣後債等の発行で自己資本を積み上げ、リスク面では、特に金利リスクへの対応について、2|で述べたように、ミスマッチの解消やヘッジの活用等でその低減を図ってきた。

ただし、昨今の金利の低下等の市場環境のさらなる悪化により、より一層の対応の検討を求められる状況になってきている。これに対しては、従前の延長的な考え方や手法に拠らずに、新たな考え方に基づく対応も必要になってきている。

各社の主要な対応策を巡る状況については、具体的に、以下の(1)から(5)の5点について、前述のレポート及び今回の2回のレポートで報告してきたが、今回の2016年決算の状況は、こうした動向を裏付けるものとなっている。

(1)資産と負債のマッチング
資産と負債のマッチングのうちのデュレーション・マッチングについては、各社とも過去からミスマッチの解消を進めてきており、ほぼ対応がついてきている状況にある。ただし、キャッシュフロー・マッチングを含めて、資産と負債のマッチングをさらに進めていくことについては、UFRという市場金利とは直接的にリンクしていない規制上の金利が存在していることもあり、そのインセンティブは低いものと思われる。さらには、昨今のような低金利環境下において、マッチングをさらに進めることは、必ずしも最適な戦略とは考えられない状況になってきている。今後は、将来の全体的なリスクを考慮して、金利上昇リスクも見据えた上での対応が求められてきていると考えられる。一方で、低金利環境下での利回り向上の観点からは、資産のデュレーションの長期化等の対応が避けられない状況も考えられることになる。

(2)株式等のリスク性資産の圧縮によるリスク低減
株式等のリスク性資産の圧縮によるリスク低減は、短期的にはSCR比率の改善に貢献することが期待される一方で、長期的な観点からは、収益力及び自己資本の形成能力の低下につながることになりかねない。今後は、リスク性資産の圧縮によるメリット・デメリットの両者のバランスをより一層考慮して対応していく必要がある。特に、昨今のような環境下で、債券中心の運用では極めて低い運用利回りしか確保できないことから、例えば配当ベースで高い利回りを確保できる株式等により注目していかざるを得ない状況にもなってきている、と思われる。

(3)再保険の活用
SCR比率の改善に向けては、再保険を利用したリスク回避策も多くの会社で利用されてきている。

例えば、Avivaは、グループ内の再保険会社を積極的に利用することで、SCR比率の改善を図っている。具体的には、リスクの分散効果は同一会社内でしか認められないことから、グループ内のリスクを内部再保険会社に移転させることで、グループ内の異なる会社が抱える様々なリスクに対して、高い分散効果を享受しようとしている。

(4)ヘッジの活用
各社ともヘッジ戦略を洗練化することを通じて、自社の目指す方向でのSCR比率の水準や安定性の最適化を図ろうとしている。ただし、例えば、超長期での金利リスクのヘッジについては、市場参加者が限定されていることから、高い流動性リスクや価格変動リスク等を抱えることにもなりかねない等の課題もある。こうしたリスクも十分に考慮した上で、ヘッジ戦略を構築していく必要がある。

(5)商品ポートフォリオの見直し
2|で述べたように、各種商品ポートフォリオを見直して、ユニットリンク型商品や保証水準を低めた商品等の資本負担の少ない商品へのシフトを図ろうとしている。ただし、顧客ニーズとの関係で、どの程度まで保証水準を低くした商品が市場に受け入れられるのかといった点を十分に考慮した上で対応していく必要がある。その効果は短期的に現われてくるものではないが、長期的に累積されていくことで、SCR比率や資本効率性に大きなプラス効果を与えていくことになることから、着実に取り組んでいくことが求められている。

即ち、各社とも、市場環境の変化や市場動向等を踏まえた上で、それぞれが置かれている状況に応じて、必要な対応策を講じていくことが求められてきており、実際にそのような方向で対応してきている。

なお、SCR比率という観点からは、各社とも、2016年はVA(ボラティリティ調整)変更が大きな影響を与えたとしているが、VAの見直しは今後も毎年行われていくことになる。さらには、現在EIOPAが提唱しているUFR水準の見直しがどうなっていくのかによっても保険会社が影響を受けていくことになる。英国の保険会社については、Brexitの影響やリスクマージンの見直しの動向に加えて、直近ではOgden割引率の改定の動向も損害保険事業において重大な関心事となっている。

さらには、規制ということではないが、IASB(国際会計基準審議会)が検討している新しい保険契約の会計基準であるIFRS 17が採択されていくことになると、財務諸表の数値が大きく変化していき、保険会社の業績を適正に見るための新たな指標のコンセンサス作りが必要になってくることになる。

欧州大手保険グループは、こうした規制等の動向に目配せをしつつ、自社のビジネススタイルに見合った適正な業績判断指標に基づいて、契約者や株主等の利害関係者に説明責任を果たしていくことが求められることになる。4|日本の生命保険会社への示唆
(1)海外事業展開
昨今、日本の生命保険会社も、アジアでの事業展開に加えて、米国や豪州の会社の買収等を通じて、先進国も含めた海外での保険事業の展開を積極化させてきている。ただし、欧州大手保険グループが以前からより積極的に海外事業展開に取り組んできたことに比べれば、日本の生命保険会社の海外事業展開やそのグループの中におけるプレゼンスは、まだまだ高いといえる状況にはない。日本の大手各社が公表している経営計画等によれば、今後海外事業からの収益を拡大していく方向性が示されてきている。この際、グループでのガバナンスやリスク管理、有効な資本政策のあり方等いろいろな意味で、欧州の大手保険グループの先行的な事例に学ぶべきことは多いものと考えられる。

ただし、欧州大手保険グループの海外事業戦略においては、一方的に事業地域の拡大を図るだけではなく、各国の保険市場の特性等を分析する中で、収益状況や成長可能性等を見極めながら、コア事業となりうるものに集中し、コアでない市場からは速やかに撤退する等の方針が明確に示され、実際にその方針が実行されてきている、単純な規模やプレゼンスの拡大を目指して、グローバル展開を進めるのではなく、自社の強みを十分に認識した上で適時適切な判断を行っていくことがより重要になってきているといえる。特に、最近の(保険会社ということではないが)日本企業による買収事例において、多額の減損を行うケースが見られていることは、既存保険会社の買収を通じて海外事業を展開していく場合において、買収に伴うプレミアムに見合うリターンをいかに獲得していくのかについての会社の方針・戦略を明確化していくことの重要性を再認識させられているものと思われる。

(2)低金利環境への対応
低金利環境については、日本の生命保険会社が先行的に長期にわたって経験している状況であるが、欧州大手保険グループは、日本における先例も参考にしながら、そうした環境への対応を進めてきている。

例えば、ソルベンシーIIという新たな規制への対応という観点も踏まえて、総合的なリスク管理を推進する中で、利率保証を限定した商品へのシフトやデュレーション・マッチングを推進することにより、逆ざやリスクや金利リスクの抑制を行い、必要資本の効率化への対応を着実に図ってきている。

これにより、少なくとも欧州の大手保険グループについては、現在のような低金利環境下においても、適正な投資マージンを確保できる資産・負債ポートフォリオを構築してきている。

日本の生命保険会社は、欧州以上の長期かつ超低金利環境を経験している。従って、欧州の大手保険グループがこれまで進めてきたような対策を現時点で推進することが必ずしも現在の日本において適切だとは考えられないかもしれない。例えば、現在のような状況下では、マッチングを進めることで現時点で将来の逆ザヤを固定するのではなく、将来の金利上昇の機会に備えるために、デュレーション・ギャップを一定維持することも適切な判断かもしれない。

負債サイドの保障・医療商品へのシフトについては、日本の生命保険会社によって以前から追求されてきたことであり、この分野においては、ある意味で欧州の保険会社以上に進展しているといえる。今回の標準利率の0.25%への引き下げに伴う各社の商品価格戦略は、来年度に予定されている標準死亡率の引き下げと相まって、保障・医療商品や年金・貯蓄商品というプロダクトミックスを考える中で、それぞれの商品特性等に対応して、非常に難しい判断を迫られた結果であることが窺い知れる。いずれにしても、こうした判断はそれに伴う各種のリスクや中長期的な収益性等の幅広い影響も総合的に判断した上でのものとなっているようである。

こうした判断は、欧州の大手保険グループでも行われているものであり、昨今のような環境下での保険会社や保険契約者さらには社会にとって適切な商品・価格設定はどうあるべきかが問われているものと思われる。

(3)新たな経済価値ベースのソルベンシー規制への対応
日本における経済価値ソルベンシー規制等が今後どのような形で進展していくのかについては、現段階では不透明であるが、国際的な資本基準や会計基準の設定とそれらを日本が基本的には採択していくことを前提にするならば、経済価値ベースの評価の拡大を踏まえた上での対応が、より一層求められてくることになる。

ただし、規制を過度に意識するあまり、リスクを回避し、収益の機会を失ってしまうことは適切ではない。真の意味での保険契約者保護を達成していくためには、保険会社も監督当局も幅広く各種の要素を考慮した上での対応が必要になってきている。昨今の欧州や米国での規制を巡る各種の動向は、こうした考え方を反映したものとなっているものと思われる。日本の保険会社は、こうした世界における監督規制の動向及びそれらを通じての日本の監督規制への影響も踏まえつつ、会社の戦略を構築していくことが求められてきている。

以上、ここまで、2016年における欧州大手保険グループの海外事業展開、低金利環境への対応、各種規制への対応等の状況を報告するとともに、これらを踏まえての日本の生命保険会社にとっての示唆について考えてきた。

欧州大手保険グループは、ある意味、最も先駆的にこれらの課題に取り組んできていることから、今後もこうした会社の戦略や方針は、今後のグローバル展開を考えていく日本の生命保険会社にとって、いろいろな点で大変参考になるものがあると思われる。
今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。 【関連レポート】 欧州大手保険グループの2016年決算状況について(1)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-
欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-
欧州大手保険グループの2015年決算状況について-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-
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保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 欧米保険事情
<![CDATA[中国経済:17年1-3月期を総括した上で今後の注目点を探る~「新常態」の本気度が試される局面]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55590 55590 Wed, 26 Apr 2017 10:15:55 +0900
  • 中国経済の成長率が加速してきた。中国国家統計局が公表した17年1-3月期の実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で上昇、3月開催の全国人民代表大会で決めた成長率目標「6.5%前後」を上回る好スタートとなった。また、名目成長率は前年同期比11.8%増と2013年10-12月期以来の2桁成長復帰となった。一方、インフレ面を見ると、消費者物価は前年同期比1.4%上昇と落ち着いているものの、工業生産者出荷価格は同7.4%上昇した。
     
  • 供給面の動きを見ると、17年1-3月期の工業生産は前年同期比6.8%増と16年10-12月期の同6.0%増を大きく上回り、2014年以来の高い伸びとなった。製造業PMIは16年2月の49.0%を底に17年3月には51.8%まで回復、非製造業PMIは55.1%と高水準を維持した。
     
  • 需要面の動きを見ると、17年1-3月期の消費は小型車減税縮小の影響で16年10-12月期の伸びをやや下回ったものの堅調を維持している。17年1-3月期の投資はインフラ投資が牽引して2四半期連続の加速となった。また、世界経済の回復を受けて輸出は底打ちし、17年1-3月期は前年同期比8.2%増と16年10-12月期の同5.2%減からプラスに転じた。
     
  • 以上のように景気は回復したものの、金融緩和の副作用で住宅バブルが深刻化した(下左図)。16年秋には地方政府が相次いで住宅購入規制を強化、17年3月の全国人民代表大会(国会に相当)では金融政策を16年の「穏健」から「穏健・中立」へと引き締め方向に変更した。また、中国人民銀行は17年1月下旬以降、オペ金利を2度に渡り引き上げている(下右図)。
     
  • 中国政府は、住宅バブル退治や小型車減税縮小など景気にブレーキを踏む政策を実行、高成長へ復帰するよりも安定成長を長く続ける「新常態」を選択した。しかし、住宅バブルは依然として膨張を続けており抑制効果は十分とは言えない。基準金利引き上げなどもう一段強いブレーキを踏むことができるのか、「新常態」の本気度が試される局面となりそうだ。
  • ■目次

    1.2017年1-3月期の経済概況
    2.製造業は順調な回復、非製造業は堅調維持
    3.消費はやや減速、投資は回復、輸出は底打ち
    4.金融政策は「穏健」から「穏健中立」へ
    5.今後の注目点中国経済の成長率が加速してきた。4月17日に中国国家統計局が公表した17年1-3月期の実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で上昇、3月開催の全国人民代表大会(国会に相当)で決めた成長率目標「6.5%前後」を上回る好スタートとなった(図表-1)。内訳を見ると、第1次産業は前年同期比3.0%増、第2次産業は同6.4%増、第3次産業は同7.7%増だった。第3次産業が引き続き最も高い伸びを示し中国経済を牽引した。また、ここもと足かせとなっていた第2次産業も、16年1-3月期の伸び(同5.9%増)を底に持ち直しつつある。また、国内総生産(名目)は18兆683億元(日本円に換算すると約298兆円)と、16年1-3月期の16兆1573億元を1兆9110億元上回り、前年同期比11.8%増となった。これは2013年10-12月期の同10.6%増以来となる2桁成長復帰である(図表-2)。鋼材や石炭などの価格上昇で実質的には付加価値が目減りしているとはいえ、2桁成長復帰は景況感を明るくしている。一方、インフレ面を見ると、消費者物価は落ち着いているものの、工業生産者出荷価格は上昇した(図表-3)。17年1-3月期の消費者物価は前年同期比1.4%上昇と2016年通期の同2.0%上昇を0.6ポイント下回った。好天候に恵まれたことで食品が同2.1%下落したことが主因である。食品とエネルギーを除いたコアでは同2.0%上昇と16年10-12月期の同1.9%上昇を小幅に上回った。他方、17年1-3月期の工業生産者出荷価格は前年同期比7.4%上昇と16年10-12月期の同3.3%上昇を大きく上回った。資源高や人民元安といった価格上昇要因もあるが、中国政府が進めた過剰生産能力の削減に伴う供給減と、中国国内のインフラ投資加速に伴う需要増で、需給バランスが改善した面もある。このように供給過剰によるデフレ圧力は薄れてきたものの、鋼材価格は3月中旬をピークに下落に転じており、世界経済や不動産開発の動向次第では再び過剰感が強まる可能性も否定できない。需給バランスの変化には今後も注意が必要である。
     

    2.製造業は順調な回復、非製造業は堅調維持

    工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移を見ると、17年1-3月期は前年同期比6.8%増と16年10-12月期の同6.0%増(推定1)を大きく上回り、2014年以来の高い伸びとなった(図表-4)。内訳を見ると、鉱業は前年同期比2.4%減と2016年通期の同1.0%減に続く前年割れだったものの、製造業は同7.4%増と2016年通期の同6.8%増を0.6ポイント上回り、電力エネルギー生産供給業も同8.9%増と2016年通期の同5.5%増を3.4ポイント上回った(図表-5)。また、製造業・非製造業の区分で見ると、製造業は順調に回復してきており、非製造業は堅調を維持している。製造業PMIは、景気が失速しかけた16年2月には拡張・収縮の境界となる50%を割り込み49.0%まで低下したが、17年3月には51.8%まで回復した。特に生産指数が54.2%と好調だった。同予想指数も58.3%と高水準を維持しており、製造業の回復は当面続きそうである。(図表-6)。一方、商務活動指数(非製造業PMI)は、17年3月も55.1%と高水準を維持した。同予想指数も61.3%と高水準を維持しており、非製造業の堅調は当面続きそうである(図表-7)。
     
    1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
     

    3.消費はやや減速、投資は回復、輸出は底打ち

    消費の代表指標である小売売上高の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比10.0%増と、16年10-12月期の同10.4%増(推定)を0.4ポイント下回った(図表-8)。特に自動車売上高が前年同期比2.3%増と10-12月期の同13.1%増(推定)を大きく下回った。17年に入って小型車(排気量1.6L以下)を取得する際に掛かる自動車取得税が引き上げられた(5%⇒7.5%)影響と見られる。他方、飲食は同7.3%増(10-12月期は同5.4%増(推定))、化粧品は同9.9%増(10-12月期は同8.0%増(推定))と好調なものが多い。また、消費者信頼感指数が高水準を維持していることから、消費が大きく落ち込むとは考えにくい。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比9.2%増と、16年10-12月期の同7.8%増(推定)を1.4ポイント上回った(図表-9)。インフラ投資が同23.5%増と10-12月期の同11.4%増(推定)を大きく上回ったことが背景にある。但し、不動産開発投資が同9.1%増と10-12月期の同10.2%増(推定)を下回ったのに加え、17年に入り新しく着工したプロジェクトが減少に転じたことから、投資の好調は長続きしない可能性がある。海外需要の代表指標である輸出額(ドルベース)の動きを見ると、17年1-3月期は前年同期比8.2%増と、16年10-12月期の同5.2%減からプラスに転じた(図表-10)。米国経済の拡大を受けて、米国向け輸出が同10.0%増と好調だったほか、欧州EU向けも同7.4%増、ASEAN向けも同11.4%増と高い伸びを示した。但し、輸出の先行指標となる貿易輸出先行指数(中国税関総署)を見ると、17年3月は40.2%で前月と同じだった。15年12月の31.2%を底に上昇傾向を続けてきたが、先行き不透明感がでてきた。世界経済の動向を注視したい。以上のように景気は回復してきたものの、金融緩和の副作用で住宅バブルが深刻化してきた。ニッセイ基礎研究所で何年分の所得で住宅を購入できるか(住宅価格÷所得の倍率)を試算したところ、全国では約7.5倍だが北京や上海では14倍を超えている(図表-11)。合理的とされる4~6倍を遥かに超えるとともに、日本でバブルがピークを付けた1990年の東京都区部の16倍に接近してきている2

    これまでの住宅価格(70都市平均)3の推移を簡単に振り返ると、前回高値を付けた14年5月前後にも住宅バブルは問題となっていた。13年春には、中国政府が住宅価格の急騰を抑えようと「国五条」と呼ばれる住宅購入規制を実施した上で監視を強化した。その効果で、住宅販売が落ち込むと住宅在庫は積み上がり、販売業者が在庫を消化しようと値引き販売に走って住宅価格は下落、景気を一気に悪化させた。これを受けて14年11月以降、中国人民銀行は基準金利を6度に渡って累計1.5ポイント引き下げ、景気下支えに動き出した。この金融緩和で住宅販売は持ち直し、住宅在庫は減少に転じて住宅価格は上昇、16年7月には前回高値を超えてきた(図表-12)。しかし、16年の成長率目標(6.5-7.0%)の達成が不安視されていた中で、中国人民銀行は「穏健」な金融政策を継続したため、住宅価格は最高値更新を続け、住宅バブルを深刻化させる結果となった。

    但し、景気テコ入れには成功したといえる。住宅販売・住宅着工の回復で鋼材需要が増加、鋼材価格は15年12月の底値を基準にすると17年3月の高値まで約2倍に急騰した(図表-13)。需要が増加したことで、過剰だった生産能力との需給バランスも改善に向かった。住宅バブルが深刻化する中で、中国政府は経済政策を引き締め方向に調整し始めた。16年9月末前後には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化した。また、同年10月には中国人民銀行が商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も不動産融資を巡るリスク管理を強化した。そして、同年12月には中央経済工作会議で「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出し、17年3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)では「穏健・中立」な金融政策を実施するとし、16年の「穏健」よりも引き締め方向に軸足を移すこととなった。そして、全人代閉幕後にも、地方政府が相次いで住宅購入規制の強化に動いている。また、中国人民銀行は17年1月下旬以降、リバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどの短期金利を2度に渡り引き上げており、基準金利の引き上げも視野に入ってきている(図表-14)。
     
     
    2 住宅バブルに関しては「図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点」基礎研レター 2016-11-1を参照
    3 住宅価格は、中国国家統計局が毎月公表する「70大中都市住宅販売価格変動状況」の中で、新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)を用いている。また、2016年1月以降の2010年基準指数及び70都市平均を定期公表されてないためニッセイ基礎研究所で推定している。
     

    5.今後の注目点

    17年1-3月期の中国経済を総括すると、消費はやや減速したものの消費者信頼感指数が高水準を維持するなど堅調で、世界経済の回復を受けて輸出は底打ちし、投資はインフラ投資が牽引して2四半期連続で伸びを高めた。そして、実質成長率は前年同期比6.9%増と2四半期連続で加速した。

    一方、中国政府(含む地方政府、中国人民銀行)は景気にブレーキを踏むような政策を相次いで実行に移した。16年秋には前述のとおり住宅バブル退治に乗り出し、17年1月には景気対策として実施していた小型車減税を縮小、17年3月開催の全人代ではこれまでの鉄鋼・石炭に加えて石炭火力発電の過剰生産能力の淘汰を決めた。即ち、中国経済の「新常態(ニューノーマル)」4移行を決めた中国政府は、7%台の高成長へ復帰する道を選ばず、6%台半ばの安定成長を長く続ける道を選んだものと見られる。17年の成長率目標を「6.5%前後」と直近発表された実質成長率(6.8%)よりも低く設定したのは景気抑制に動くためだと考えられる。中国政府がブレーキを踏んだことで、17年1-3月期の自動車販売は伸びが鈍化し、新しく着工したプロジェクトは減少し、3月には鋼材価格も下落に転じた。今後はタイムラグを置いて成長率を抑制する要因となってくるだろう。

    しかし、住宅バブルを抑えるという点では不十分だった。17年1月前後には上昇率が一時鈍化したものの、3月には再び上昇率が高まった(図表-12)。もう一段強いブレーキを踏む必要があるといえるだろう。17年秋に最高指導部人事を決める共産党大会を控える中で、基準金利引き上げなどもう一段強いブレーキを踏むことができるのか、「新常態」の本気度が試される局面となりそうだ。
     
    4 新常態に関する筆者の見方に関しては「中国経済の“新常態”とそれを揺るがす“4つの問題”」基礎研レポート2014-9-22を参照
     
     

    (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    【関連レポート】 図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点
    中国経済の“新常態”とそれを揺るがす“4つの問題”
    中国経済:景気指標の総点検(2017年春季号)~回復の動きに死角は無いか?
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    経済研究部上席研究員 ・ 保険研究部兼任三尾 幸吉郎 中国経済
    <![CDATA[欧州大手保険グループの2016年決算状況について(1)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55580 55580 Wed, 26 Apr 2017 11:19:53 +0900
    欧州大手保険グループの2016年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制の強化への対応等、困難な課題を抱えている状況にある。ただし、各社ともこうした環境下で、基本的には積極的な海外事業展開等を進め、各種リスクへの対応策を講じつつ、収益基盤の拡大を図ってきている。

    今回の基礎研レポートでは、各社の2016年の生命保険事業について、昨年度の基礎研レポートと同様に、地域別の業績や投資関係損益を巡る状況等に焦点を当てて報告する 。

    昨年度の基礎研レポートでも述べたが。以下の報告においては、例えば、保険料の地域別内訳のベースが各社毎に異なっていたり、地域区分の考え方も各社独自の方式によっている等、各社の公表データのベースが必ずしも統一されていない。このため、厳密な意味での各社間の比較等を行うことはできないが、筆者の判断で各種の前提をおいて、一定程度比較可能な数値を作成して分析を行っている。

    また、当レポートでは、「全体の状況とAXA、Allianz、Generaliの3社の状況」、次回のレポートでは、「Prudential、Aviva、Aegon、Zurichの4社の状況と全体のまとめ」と2回に分けて報告する。

    ■目次

    1―はじめに
    2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-
      1|会社全体の業績
      2|生命保険事業の地域別業績
    3―欧州大手保険グループ各社の決算状況-AXA、Allianz、Generali-
      1|AXA
      2|Allianz
      3|Generali欧州大手保険グループの2016年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制の強化への対応等、困難な課題を抱えている状況にある。ただし、各社ともこうした環境下で、基本的には積極的な海外事業展開等を進め、各種リスクへの対応策を講じつつ、収益基盤の拡大を図ってきている。

    今回の基礎研レポートでは、各社の2016年の生命保険事業について、昨年度の基礎研レポートと同様に、地域別の業績や投資関係損益を巡る状況等に焦点を当てて報告する1

    昨年度の基礎研レポートでも述べたが、以下の報告においては、例えば、保険料の地域別内訳のベースが各社毎に異なっていたり、地域区分の考え方も各社独自の方式によっている等、各社の公表データのベースが必ずしも統一されていない。このため、厳密な意味での各社間の比較等を行うことはできないが、筆者の判断で各種の前提をおいて、一定程度比較可能な数値を作成して分析を行っている。

    また、当レポートでは、「全体の状況とAXA、Allianz、Generaliの3社の状況」、次回のレポートでは、「Prudential、Aviva、Aegon、Zurichの4社の状況と全体のまとめ」と2回に分けて報告する。
     
    1 なお、2016年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2017.4.17及び18)を参照していただきたい。
     

    2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-

    欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、昨年度の基礎研レポートで取り上げたAXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Prudential(英国)、Aegon(オランダ) 、Zurich(スイス)の6社に加えて、今回のレポートではAviva(英国)を加えている。このうち、AXA、Allianz、Prudential、Aegon、Avivaの5社はFSB(Financial Stability Board:金融安定理事会) が選定するG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:システム上重要なグローバルな保険会社)に指定されている。Generaliも2015年11月まではG-SIIsに指定されていた。

    以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。

    1|会社全体の業績
    欧州大手保険グループは、生命保険事業だけでなく、損害保険事業も行っており、さらには、資産管理事業2も会社によっては大きな位置付けを占めてきている。

    まずは、保険料と営業損益について、生命保険事業と損害保険事業の内訳を示しておく。下記の図表からわかるように、グループ全体における生命保険事業の位置付けは、会社毎に異なっているが、PrudentialとAegonの2社以外は、損害保険事業も大きな位置付けを有している。

    前年との比較では、グループ全体の業績としては、各社ともほぼ安定した状況にある。

    このうち、生命保険事業については、各国において低金利の影響を受けて、厳しい経営環境下にあったが、ほぼ前年並みか前年を上回る営業利益を確保している。損害保険事業については、生命保険事業と比較して、収益が安定しない傾向があるが、2015年に多額の損失の計上で大幅な営業減益となっていたZurichが2016年は大きく回復している。なお、以下の分析では、生命保険事業に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくことにするが、その前に各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を、次ページの図表に示しておく。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも各社が掲げている経営目標の1つとなっているので、参考として掲載しておく。

    ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業のみの数値も公表しており、AXAとGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、生命保険事業に対するROEを開示している。

    これによれば、各社のROEはほぼ10%から15%の範囲内にあり、生命保険事業のROEもグループ全体とほぼ同じ水準を確保している。
     
    2 2016年の資産管理事業の営業損益は、AXA  943百万ユーロ、Allianz 2,205百万ユーロ、Prudential 589百万ポンド、Aviva 138百万ポンド、Aegon 149百万ユーロ、またGeneraliの金融セグメントの営業損益は370百万ユーロ等、各社とも大きな位置付けを占めてきている。
    2|生命保険事業の地域別業績
    ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、生命保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている34

    2-1.保険料の状況
    まずは、保険料の地域別内訳を見てみる。ここでの保険料の数値には、例えばユニット・リンク等の投資型保険からの収入が反映されていなかったりするが、各社の地域間の分布等を比較するための1つの基準として採用している。

    なお、地域別の保険料分布の数値を得るために、AllianzとPrudential の保険料については、前ページの図表とは異なるベースの数値を使用している。

    (1)2016年の結果
    これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険料が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな意味を有している。各社の地域別の構成比の概要は以下の通りとなっている。

    AXAは自国のフランスが29%、その他の欧州が34%、米国が22%、アジア・太平洋が14%で、欧州以外で全体の1/3以上を占めている。

    Allianzは自国のドイツで56%と高いが、ドイツ以外の欧州で27%となっており、米国やアジア・太平洋等も有意な水準となっている(なお、32|で述べるように、法定保険料ベースでは、米国は18%と、ここでの5%よりもかなり高い水準となっている)。

    Generaliは自国のイタリアが36%であるが、イタリア以外の欧州で57%と高くなっている。

    Prudentialは自国の英国は31%で、米国が42%、アジアが27%となっている。

    Zurichは自国のスイスは9%で、スイス以外の欧州が63%となっているが、中南米を含むその他が18%と他社とは異なり高くなっている。

    なお、以下の図表にはないが、Avivaの場合、欧州が9割程度と殆どを占めている。
    Aegonの場合、欧州が6割弱、北米・中南米が4割弱となっている。
     
    3 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。
    4 2016年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、前回の基礎研レポートで報告した2015年の数値を変更している場合もある。
    (2)2015年との比較
    2015年との比較では、以下の図表にある5社については、一般的に欧州、米国での進展率が低く、アジア・太平洋での進展率が高くなっている。2015年は、米ドルがユーロやポンドに対して強くなったという為替レートによる影響で、米国での進展率が高いものとなっていたが、2016年はユーロとの関係では米ドルの為替レートの影響はそれほど大きなものではない。むしろ、Brexit(英国のEU離脱)の影響で、ポンドがユーロやドルに対して弱くなった影響が出ている。

    また、以下の図表にはないが、Avivaは欧州で2桁の進展となっており、Aegonも欧州での進展率が高いものとなっている。このように、会社全体の数値を前年と比較する場合においては、為替レートの変化による影響も小さくないことに注意が必要になる。因みに、主要通貨間の為替レートは、以下の通りとなっている。2-2.営業利益の状況
    次に、営業利益の地域別内訳を見てみる。地域別の利益配分等にも各社毎の考え方が反映されているが、各国における子会社毎や各社間の収益状況の差異等を一定程度比較できるものと考えられる。

    (1)2016年の結果
    営業利益ベースでも、各社の地域別の構成比の状況は、保険料と傾向は大きくは変わらない。

    AXAは、アジアが29%とさらに高くなっており、米国と合わせた2つの地域で51%を占めている。

    Allianzは、米国が23%と高くなっているが、アジア・太平洋やその他は各2%程度にとどまっている。

    Generaliは、イタリアが42%と保険料の構成比以上に高くなっている。

    Prudentialは、アジアが35%となり、2015年の30%に比べて、さらに高くなっている。

    Zurichは、中南米等のその他が17%と、営業利益の面でも他社と比べて際立って高くなっている。

    なお、以下の図表にはないが、Avivaの場合、欧州が9割、残りの1割がアジアとなっており、Aegonの基礎利益は、欧州が1/3、米国が2/3となっている。

    このように営業利益ベースでみると、米国事業を有する会社においては、そのグループ内での位置付けがさらに高いものとなっている。アジア・太平洋については、保険料規模の大きいAXAやPrudentialと、これら2社までの水準には達していないAllianzやGeneraliとは状況が異なっており、先の2社では営業利益ベースでの構成比は保険料ベースよりもさらに高く3割程度となっている。

    いずれにしても、営業利益においても、各社とも、自国以外での構成比が6割から8割となり、重要な位置付けを占めてきている。(2)2015年との比較
    2015年との比較では、AXAは微減益であるが、AXA以外の4社は順調に営業利益を増加させている。ただし、親会社国での営業利益については、Generali以外は減少している。米国ではZurich以外、アジア・太平洋地域ではGenerali以外は、営業利益を伸ばしている。なお、前年との比較を見る上においても、保険料の項目で述べたように、為替レートの影響を考慮する必要がある。

    以下の図表にはないが、Avivaは欧州が好調だが、アジアでは減益となっており、Aegonも欧州と北米・中南米で増益だが、アジアでは減益となっている。

    3―欧州大手保険グループ各社の決算状況-AXA、Allianz、Generali-

    ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV(Embedded Value)5及び新契約価値の状況を地域別に報告する。

    さらに、低金利環境下での投資関係損益等を巡る状況や新契約の収益率等の状況を、各社毎に得られる情報に基づいて、報告する。

    1|AXA
    (1)地域別の業績-2016年の結果-
    AXAは、世界の64カ国で保険事業と資産管理事業を展開している。

    AXAの営業利益は、1) 自国のフランス、2) 自国以外の欧州、3) 米国、4) 日本を含むアジア、の4地域でそれぞれほぼ1/4程度を占めている。

    Annual Reportによれば、収入保険料や新契約保険料等の規模で、自国のフランスでのシェアは9.2%で第3位であるものの、最大の米国市場では、AXAの子会社グループは、2016年9月末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第12位となっている6。さらに、スイスでは26.0%のシェアで第2位、ベルギーでは8.6%のシェアで第3位であることに加えて、インドネシアでは9.7%のシェアで第2位、タイでは11.9%のシェアで第4位等、欧州やアジアの国々で高いプレゼンスを確保している。なお、ドイツでは2015年ベースで、生命保険が3.8%のシェアで第8位、医療保険は7.6%のシェアで第4位となっている。

    新契約価値ベースでみると、日本を含むアジアが4割を超える構成比となっている。日本でのシェアは2.0%で第15位であるが、その市場の規模から、AXAグループ全体の中では、営業利益で16%、新契約価値でも19%と大きな位置付けを有している。(2)地域別の業績-2015年との比較-
    2015年との比較では、欧州での業績は新契約価値を除いてマイナスであるのに対して、日本を含むアジアにおいて順調に業績を伸ばしている。

    グループ全体として、ユニットリンク型商品の販売は思わしくなかったが、一般勘定の貯蓄商品や保障・医療商品、ミュチュアル・ファンド等において進展した。低金利の影響を受けながらも、より望まれるプロダクト・ミックスの構築とコスト削減を進めたことにより、営業利益を確保した、としている。
     
    5 欧州大手保険グループは、EEV(ヨーロピアンEV)とMCEV(市場整合的EV)のいずれかに基づくEV(Embedded Value:エンベデッド・バリュー)を公表している。
    6 AM Best社のデータに基づく(以下、同様)。
    (3)投資関係損益を巡る状況
    AXAは、投資スプレッドの状況を、会社全体及び主要国別に、保有・新契約ベースで開示している。

    金利低下で保有資産利回りは低下してきているが、一方で新契約の保証利率も低下させてきているため、保有契約のスプレッドについては、グループ全体で140bps(2015年160bps、2014年 160bps、以下同様)と、前年に比べて低下したものの、引き続き高い水準を確保している。これから経費等を差し引いた投資マージンは73bps(79bps、80bps)となっている。

    なお、AXAの固定利付資産のデュレーションは8.3年(2015年は8.0年)で、長期化を進めてきたことから、この6年間での保有利回りの低下は70bps(4.0%→3.3%)に止まっている、としているが、2015年から2016年の1年間では30bps(3.6%→3.3%)と大きく低下している。

    一方で、新契約ベースでは、再投資利回りの低下により、スプレッドは140bps(160bps、230bps)に低下している。

    国別に見た場合、例えば、本国のフランスでは、1998年に長期保証付一般勘定貯蓄性商品の新契約販売を停止しており、さらに、貯蓄性商品については、一般勘定における貯蓄性商品から、高い新契約価値を有するユニットリンク型商品へシフトさせてきているため、新契約の平均保証利率は0.0%となっている。この結果として、保有ベースで310bps(320bps、310bps)、新契約ベースで190bps(200bps、240bps)と、引き続き高いスプレッドを確保している。

    一方で、ドイツにおいては、平均保証利率が3.4%と高いことから、保有契約のスプレッドは4bps(40bps、40bps)と他の国に比べて、極めて低い水準となっている。ただし、新契約ベースでは、保証水準を低下させた商品を販売してきていることから、110bps(130bps、120bps)のスプレッドを確保している。(4) 新契約の状況
    (4-1) 新契約の商品ポートフォリオと新契約価値マージンの推移
    グループ全体の新契約商品ポートフォリオの推移と新契約価値マージン(対年換算保険料)は、以下の図表の通りとなっている。

    2015年から2016年にかけては、一般勘定保障・医療商品の構成比が45%とさらに高まっている。一方で、一般勘定貯蓄商品の構成比も高まっているが、これは軽資本商品の増加によるものである。このような商品シフトにより、現在のような低金利下においても、販売や収益への影響を相対的に軽減できる対策を講じてきており、その結果として、全体の新契約価値マージンは2015年の34%から2016年は40%へとさらに上昇している。(4-2) 新契約マージン及び内部収益率の地域別状況
    新契約マージン及びIRR(内部収益率)の地域別の状況は、次ページの図表の通りである。これによれば、日本や香港の新契約マージンや香港を初めとするアジアでのIRRが相対的に高いものとなっている。(5)営業利益の商品別内訳
    営業利益の商品別内訳は以下の通りで、「保障・医療」の構成比が5割以上でさらに高くなっている。Allianz
    (1)地域別の業績-2016年の結果-
    Allianzは、世界の40カ国以上で生命保険事業を展開している。

    Allianzの営業利益は、自国のドイツが3割強を占めているが、フランス、スペイン、イタリア等の主要国からも有意な収益を上げており、欧州全体で73%の構成比となっている。

    米国の子会社グループは、2016年9月末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第16位となっており、その営業利益のグループ全体における構成比は23%となっている。

    アジア・太平洋は、新契約価値では12%を占めており、高い位置付けを有してきている。(2)地域別の業績-2015年との比較-
    2015年との比較では、会社全体では減収増益となっている。

    これは、低金利環境下で、自国のドイツやイタリアにおいて、引き続き、保証を制限した高効率資本商品へのシフトを進めたこと等による影響であり、さらに、より高い投資マージンが貢献した、としている。

    アジアでの営業利益やMCEVは、2016年12月に韓国の生命保険事業を安邦保険グループに売却し、これに関する損益を非営業利益に計上していること等から、前年のマイナスからプラスに転じている。2015年の韓国での営業利益は▲244百万ユーロであった。また、2015年のアジア・太平洋のMCEVは、韓国を除けば10億ユーロのプラスであったが、それと比べても2割程度増加している。(3)投資関係損益を巡る状況
    (3-1)投資マージンの状況
    営業利益のうち、投資マージン(キャピタル・ゲインを含む投資収益から、保証利率や契約者配当等の投資関係経費を控除したもの)の率が107bps と前年の98bpsに比べて9bpsプラスになったことによって、投資マージンの絶対額が4,062百万ユーロから4,401百万ユーロに339百万ユーロ増加した。

    なお、保険負債の平均保証利率は2.1%となり、対前年0.2%ポイント低下している。新契約ベースでの会社全体の数値は、次ページの図表の通りとなっている。2016年は、新契約の保証利率(責任準備金ベース)が0.7%であるのに対して、経済再投資利回りは2.0%で130bpsのマージンを確保している。ただし、この水準は2015年の170bpsよりは低下している。(3-2)保証利率の状況
    Allianzの主要国における保有契約の平均保証利率の状況は、以下の図表の通りとなっている。

    絶対的な保証利率の水準では、ドイツとベルギーが高く、イタリアとスイスがこれに続いており、フランスの保証利率が最も低いものとなっている。これは、同様の数値を公開しているAXAの状況とほぼ同じである。なお、これらの主要国の責任準備金が全体の86%(2015年は84%)を占めている。

    2015年との比較では、元々低いフランス以外の各国の平均保証利率が0.1%~0.2%程度低下している。(3-3)デュレーション・マッチングの状況
    Allianz は、資産と負債のデュレーション・マッチングを進めてきており、2016年末の生命保険事業においては、資産9.5年、負債9.7年と、デュレーション・ギャップはわずか0.2年となっている。この点、他の多くのドイツの生命保険会社が引き続き大きなデュレーション・ギャップを抱えているのとは状況を異にしている。(4)新契約の状況
    (4-1) 新契約の商品ポートフォリオと新契約マージン
    グループ全体の新契約商品ポートフォリオの推移と新契約マージン(対保険料現在価値)は、次ページの図表の通りとなっている。

    保険料現在価値の構成比では、保証付貯蓄・年金が低下し、高効率資本商品や保障・医療が上昇した。

    その結果、グループ全体の新契約マージンは2.7%(2015年は2.2%)に上昇し、新契約価値は21.7%増加している。

    また、2016年は2015年に比べて、保障・医療を除く商品で新契約マージンが改善した。(4-2) 新契約マージンの地域別状況
    新契約マージンを地域別にみてみると、以下の図表の通りとなっている。ドイツの生命保険では、高効率資本商品が新契約保険料現在価値ベースで42%増加したこと等から、その全体の新契約価値における構成比が25%から37%へと12%ポイント増加するとともに、新契約マージンも2.1%から3.4%に大きく改善した。(5)営業利益の商品別内訳
    営業利益の商品別(韓国事業は別建)の内訳は以下の図表の通りで、保有ベースでは引き続き「保証付貯蓄・年金」の構成比が5割以上となっている。また、高効率資本商品の営業利益は着実に増加している。3|Generali
    (1)地域別の業績-2016年の結果-
    Generaliは、欧州を中心に世界の40カ国程度で事業展開をしている。

    各種の指標において、自国のイタリアに加えて、ドイツとフランスで高い構成比を有しているが、さらにその他の欧州における構成比も高いものとなっている。

    生命保険の市場シェアについて、イタリアでは第1位、ドイツで第2位、フランスで第7位のほか、チェコとハンガリーで第2位、スロバキアとオーストリアで第3位等となっている。

    一方で、他の欧州大手保険グループとは異なり、欧州域外でのプレゼンスは高くない。なお、Generaliは、過去に保有していた米国の生命保険事業等を売却している。 

    さらに、2014年7月には、スイスのプライベート・バンキング・ユニットのBSIを売却する等して、資本ポジションを高めるとともに、非伝統的非保険事業(non-traditional and non-insurance activities)の規模を引き下げてきている。こうした動き等を受けて、Generaliは、2015年11月3日にFSBが公表したG-SIIsのリストから外されている。

    なお、Genaraliは、2016年11月26日に開催した「投資家の日(Investor Day)」において、現在事業展開している市場を、1) 既に一定のプレゼンスを有して、規模があり魅力的な市場(6~9市場)、2) プレゼンスが十分でないが魅力的な市場(16~18市場)、3) 魅力的な市場でもなくプレゼンスも無い市場(13~15市場)、の3つに分類して、3) については合理化を進めることを計画している、と述べている。(2)地域別の業績-2015年との比較-
    2015年との比較では、全体では、減収増益となっている。

    主力の欧州が減収増益となっているのは、計画された伝統的な貯蓄商品の減少(5.7%)とよりよいリスク・リターン特質を有する商品へのリバランスを行ったことによる。ユニットリンク型商品の収入は株式市場のボラティリティの影響を受けて10.9%減少した。保障・医療商品も、ドイツにおいて2015年に医療保険が大幅に進展したことの反動で12.4%減少したことにより、全体でも2.8%減少した。以上の結果、新契約価値は1,256百万ユーロで14%増加した。(3)投資関係損益を巡る状況
    (3-1)投資スプレッドと保証利率の状況
    2016年末の平均保証利率は1.73%であり、2010年の2.30%からの5年間で0.57%ポイント低下している。これに対して、投資利回りは2016年に3.21%で、2010年の4.30%からの5年間で1.09%ポイント低下している。その結果、両者の差額としてのスプレッドは1.48%と、この5年間で0.52%ポイント低下している。一方で、2016年の新契約の保証利率は0.44%であるのに対して、再投資リターンは2.02%となっており、両者の差額としてのスプレッドは1.58%となった。一定水準のプラスを確保しているが、こちらの水準も毎年低下してきている。(3-2) デュレーション・マッチングの状況
    Generaliの2016年末の債券のデュレーションは8.4年で、固定利付資産と負債とのデュレーション・ギャップは▲0.9年(負債が長い)となり、資産のデュレーションの長期化を図ることで、着実にデュレーション・ギャップの解消を図ってきている。(4)新契約の状況
    (4-1)新契約の商品ポートフォリオ
    Generaliは、欧州において金利低下が進む中で、イタリアやドイツを中心に、保証利率の引き下げに加えて、無保証等の低資本集約保証商品のウェイトを高めてきており、2015年においては新契約保険料の8割、保有責任準備金の6割弱を占める形になっていた。

    以下の図表にはないが、2016年には、低資本集約保証商品の責任準備金のウェイトがさらに2%ポイント上昇したとしている。また、新契約ポートフォリオの地域別状況については、以下の図表の通りとなっている。
    2015年から2016年にかけては、ほぼ各国で、貯蓄商品の構成比が低下して、保障商品の構成比が上昇しており、グループ全体では、貯蓄商品の構成比が59%から57%に低下し、保障商品の構成比が16%から19%に上昇している。(4-2)新契約マージンの状況
    新契約マージンとIRR(内部収益率)の地域別状況は、以下の図表の通りとなっている。
    構成比は低いものの、中東欧やその他欧州の新契約マージンが高くなっている。一方で、フランスのマージンやIRRは他国に比べて低い水準となっている。 【関連レポート】 欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-
    欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-
    欧州大手保険グループの2015年決算状況について-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-
    ]]>
    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 欧米保険事情
    <![CDATA[伝統的メディアとSNS・新興メディア]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55578 55578 Wed, 26 Apr 2017 09:51:41 +0900
    一方で、台頭してきているのが、インターネットを通じたSNSや新興メディアである。トランプ大統領は毎日のように重要な政策情報をツイッターで発信するなど、活用は大きく広がっている。また米国では、ネット広告費がテレビ広告費を上回りつつあると報道されている。それでは、今後伝統的メディアはその存在感をどんどん低下させて行くのであろうか。日本でキュレーションサイトが相次いで閉鎖されたのは記憶に新しい。PVの獲得をひたらすら求めた結果、著作権の侵害などの不適切な情報管理・発信があったからだ。みなさんも最近は、検索エンジンを使って検索をかけるとあちらこちらの情報をかき集めたまとめサイトにばかり行ってしまい、なかなか信頼のおける情報にたどりつけないという経験をされているのではないだろうか。

    海外においても、多くのスポンサーが、不適切な動画と共に自社の広告が掲載されていることを嫌い、ユーチューブから離反している。テレビを見る時間より、ネットに接する時間が長くなり、ネットの影響力が強大になっていることは事実である。しかし、情報の入手先として、SNSや新興メディアが信頼を獲得できているわけでは決してない。今、日本国内においても北朝鮮問題など国民行動に大きな影響を与えるようなセンシティブな情報が伝統的メディアでも、SNSを含めたネット上でも発信されている。東日本大震災の際もSNSは大きな役割を果たしたが、この6年間で国内のSNSアクティブユーザー数は大きく増加しており、その影響力は6年前とは比べ物にならないくらい大きくなっている。SNSに頼ると情報源が偏り、暴走行動を引き起こすという意見もある。本当だろうか。来月からトイレットペーパーが値上げされるそうだ。石油ショックを経験された読者は少ないかもしれないが、当時「トイレットペーパーがなくなる」といった正しくない情報は伝統的メディアでも簡単に拡散され、買占め、買いだめを引き起こした。

    伝統的メディアとSNS・新興メディアの信頼性を試される機会が案外早く来るかもしれない。伝統的メディアが信頼を取り戻せるのか、SNSなどが信頼を勝ち取ることができるのか注目していきたい。 【関連レポート】 コミュニケーションの「作法」-多様なメディア選択に求められること
    若年層の消費実態(5)-どこまで進んだ?デジタル・ネイティブ世代の「テレビ離れ」と「ネット志向」
    企業のSNS活用状況は-企業間に拡がる潜在的なSNSの経験較差
    デジタル・ネイティブ世代の「インスタ映え消費」~情報の流れは縦から横へ
    ]]>
    経済研究部常務取締役 部長宮垣 淳一 マーケティング マーケティング
    <![CDATA[予定利率の開示について-顧客にとってわかりやすい開示とは]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55577 55577 Tue, 25 Apr 2017 10:41:30 +0900
    保険料は、3つの予定率(契約時に予定された基礎率)をもとに計算されている。

    過去の統計をもとに、性別・年齢別の死亡者数(生存者数)を予測した数値である予定死亡率、契約の締結・保険料の収納・契約の維持管理などの事業運営に必要な諸経費をあらかじめ見込んだ数値である予定事業費率、資産運用による一定の収益をあらかじめ見込んだ保険料の割引率である予定利率である。

    このうち予定利率は保険契約者にとってきわめて重要な指標であるが、その開示について、とくに生保会社に義務付けられたルールなどは存在しない。

    標準利率引き下げに伴う予定利率の引き下げなどについてのプレス発表の状況を通じて、課題を浮き彫りにしたい。

    ■目次

    1――はじめに
    2――予定利率とは
    3――予定利率の開示ルールは存在しない
    4――各生保会社の保険料率改定や予定利率改定の開示の状況
    5――おわりに(私見)2017年4月に、平準払契約の標準利率が、1%から0.25%に引き下げられたことに伴う生保会社の対応については、先日、小著「標準利率の引き下げと生保会社の対応 経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制1で紹介した。

    同稿では、

    (1) 顧客保護のための標準責任準備金制度における、責任準備金を積み立てる利率である標準利率と、保険料計算上の予定利率とは別の概念であり、標準利率の引き下げは予定利率の引き下げと必ずしもリンクしないこと

    (2) 一方で、標準利率の引き下げに当たり、保険料計算上の予定利率を引き下げない場合には、生保会社において予定利率以上の資産運用が困難となるのではないかとの懸念があることから、従来の標準利率引き下げ時には、保険料計算上の予定利率も連動して引き下げられる例が多かったこと

    (3) 予定利率を単純に引き下げると、以降の新規契約の保険料が引き上げられることとなるが、従来の標準利率引き下げ時には、生保各社のさまざまな創意工夫により、保険料の単純な値上げを抑制する取り組みが行われてきており、今回の標準利率引き下げ時にも、生保会社は従来にも増して、新規契約に対する保険料の引き上げをなるべく抑制する取り組みを行っていること

    を示した。

    本レポートでは、保険料計算上の予定利率にスポットを当て、その沿革や生保会社による開示の状況などを紹介することとしたい。
     
    1  小著「標準利率の引き下げと生保会社の対応 経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制」『保険・年金フォーカス』、2017年4月5日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55433?site=nli
     

    2――予定利率とは

    生命保険の保険料は、3つの予定率(契約時に予定された基礎率)をもとに計算されている。

    過去の統計をもとに、性別・年齢別の死亡者数(生存者数)を予測した数値である予定死亡率、契約の締結・保険料の収納・契約の維持管理などの事業運営に必要な諸経費をあらかじめ見込んだ数値である予定事業費率、資産運用による一定の収益をあらかじめ見込んだ保険料の割引率である予定利率である2

    予定利率については、保険業法第4条において、保険会社の免許申請時の添付書類として、「定款」、「事業方法書」、「普通保険約款」とともに、いわゆる基礎書類として規定されている「保険料及び責任準備金の算出方法書」に記載されている。

    保険業法施行規則第10条において、保険料及び責任準備金の算出方法書に記載すべき事項として、「保険料の計算の方法(その計算の基礎となる係数を要する場合においては、その係数を含む)」が規定されており、予定利率は、保険料の計算の基礎となる係数であるということができる。

    金融庁が定めた「保険会社向けの総合的な監督指針」においては、「保険料の算出方法については、十分性や公平性等を考慮して、合理的かつ妥当なものとなっているか」、「予定利率については、保険種類、保険期間、保険料の払方、運用実績や将来の利回り予想等を基に、合理的かつ長期的な観点から適切な設定が行われているか」などが保険商品審査上の留意点として定められている3

    なお、保険業法は1996年に全面改正されているが、改正前の保険業法(1939年制定)下の保険業法施行規則第6条では、保険料の計算の基礎となる係数として、予定死亡率、予定事業費率、予定利率などが明記されていた。

    この予定利率という用語は、保険監督に関する規定を含む旧商法の規定(1898年7月施行)にもとづき、1898年8月、当時の主務官庁である農商務省から発出された農商務省令第5号に記載されており4、法的には、120年近い歴史を有する用語である。

    ところで予定利率という用語は、保険料計算のほか、生保会社の経営破綻などの際にも使用される。

    たとえば、生保会社の経営が破綻した場合には、「生命保険契約者保護機構」により一定の契約者保護が図られ、「高予定利率契約」を除き、生保会社が将来の保険金などの支払いに備えて積み立てた責任準備金の90%までは補償される。

    ここでいう高予定利率契約とは、破綻時に過去5年間で常に予定利率が基準利率(3%)を超えていた契約であり、補償割合が、90%から[(過去5年間における各年の予定利率-基準利率)の総和÷2]を控除した割合となる5

    さらに、2003年8月の保険業法改正により、保険業の継続が困難となる蓋然性のある保険会社について、保険契約者などの保護の観点から、すでに締結された保険契約の予定利率の引き下げなど、契約条件の変更を可能とする手続が整備された。この契約条件の変更の際の予定利率引き下げの下限も3%とされている6

    このように予定利率という概念は、保険契約者にとってきわめて重要な指標となっている。

    なお、これまでの主な予定利率の変遷としては、5%(1976年3月~)、5.5%(1985年4月~)、4.75%(1993年4月~)、3.75%(1994年4月~)などとなっている7

    1996年4月以降、標準責任準備金制度が導入され、標準利率などにもとづいて生保各社が独自に予定利率を設定している[なお、標準利率の水準は2.75%(1996年4月~)、2%(1999年4月~)、1.5%(2001年4月)、1%(2013年4月)、0.25%(2017年4月~)]。
     
    2  「保険料の仕組」、生命保険文化センターホームページ。
    3  「保険会社向けの総合的な監督指針 平成28年9月」、金融庁ホームページ。
    4  小著「『普通保険約款』という用語-『保険規則』から『普通保険約款』へ」『保険・年金フォーカス』、2017年2月28日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55162?site=nli
    5  「『保険業法等の一部を改正する法律』の一部の施行に伴う保険業法施行令(案)、内閣府令・財務省令(案)、内閣府令(案)等の公表について」、2005年10月12日、金融庁ホームページ。
    6  「『保険業法の一部を改正する法律の施行に伴う保険業法施行令の一部を改正する政令(案)』に対する意見募集の結果について」、2003年8月7日、金融庁ホームページ。
    7  猪ノ口勝徳「民間生保会社の予定利率の変遷と生保商品動向」『共済総研レポート』No.125、2013年12月。
     

    3――予定利率の開示ルールは存在しない

    予定利率の開示について、とくに生保会社に義務付けられたルールなどは存在しない。
     ただ、生保会社においては、保険業法第111条により、業務および財産の状況に関する説明書類(いわゆるディスクロージャー資料)を作成し、本店や支店などに備え付けて公衆に縦覧させなければならないとされている。

    この「○○生命の現状」などと称されるディスクロージャー資料については、法律で定められた開示項目のほか、生命保険協会において、自主的に開示すべき項目のガイドラインとして「ディスクロージャー開示基準」を定めている。

    法律で定められた開示項目としては、「責任準備金残高」があり、ディスクロージャー開示基準においては、「個人保険および個人年金保険の契約年度別責任準備金残高」を記載することとなっているが、生保各社では、各年度の責任準備金残高の右欄に、その責任準備金にかかる主な予定利率を記載するのが通例となっている。

    さらに、先述の保険料の3つの予定率(予定死亡率、予定事業費率、予定利率)による予定額と実際の額との差額である死差、費差、利差についても一部生保会社で開示されている(なお、死差、費差、利差の合計額である基礎利益は全社が開示している)8
     
    8  安井義浩「日本の生命保険業績動向 ざっくり 30 年史(7)基礎利益、3利源、逆ざや 最初からこれだけ言えば充分だった?」『基礎研レター』、2016年5月17日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52919?site=nli
    冒頭の小著でも紹介したとおり、2017年4月3日現在、生保商品を販売中の40社のうち、標準利率引き下げに伴う対応として予定利率の引き下げなど、保険料率の改定についてプレス発表している会社は14社で、うち予定利率を開示している会社は11社となっている。

    一方、標準利率引き下げに伴う対応として予定利率の引き下げなどについてプレス発表が行われていない会社は26社である(このほか、前述のとおり、標準利率の引き下げに伴い保険料率を改定するとプレス発表しているが、予定利率を開示していない会社が3社ある)。

    この26社については、プレス発表が行われていないことから、予定利率の引き下げなどの保険料率の改定の有無やその内容は不詳となっている。

    なお、標準利率の改定が適用されない外貨建保険、変額保険などを銀行窓販を中心に販売している会社がうち数社あり、こうした会社や、保障性商品を中心に販売している会社などは、保険料率の改定が行われていない可能性もある。

    実際には、保険料率の改定を実施しているにもかかわらず、対外的に保険料改定の事実についてプレス発表を行わず、ディスクロージャー資料においても特段の言及を行わない会社が複数存在するようである。
     

    5――おわりに(私見)

    生保各社は、マイナス金利など異常な低金利下においても、新規契約の保険料負担をなるべく抑制するため、保険料率の改定についてさまざまな創意工夫を行っている。

    一方で、保険料率の改定を実施しているにもかかわらず、対外的に保険料率改定の事実についてプレス発表を行わない会社もあるようである。

    一般に、値上げや販売停止の前には駆け込み需要があるのが常であり、こうした状況などを勘案して各社が判断しているのであろうが、個人的には、保険料率が改定されるのにアナウンスがされないことに違和感を覚える。

    当然、顧客が保険商品の購入を検討している場合には、保険会社から保険料が明示されているし、間近に保険料率の改定が想定される場合には、その旨も個々の顧客には知らされるのであろうが、保険商品の対価である保険料率の改定について、保険商品の購入を検討している顧客だけではなく、広く一般顧客にもホームページなどを通じて開示することが望ましいのではないか。

    その際には、保険料率の改定の概要として、保険契約者にとってきわめて重要な指標である予定利率の改定内容を示すとともに、経営努力の結果である保障性商品の保険料引き下げなどの事実も示すべきではないか。 【関連レポート】 標準利率の引き下げと生保会社の対応-経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制
    「普通保険約款」という用語-「保険規則」から「普通保険約款」へ 
    日本の生命保険業績動向 ざっくり30年史(7) 基礎利益、3利源、逆ざや-最初からこれだけ言えば充分だった?
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    保険研究部上席研究員小林 雅史 保険会社経営
    <![CDATA[先週のレポート・コラムまとめ【4/18~4/24】:「えひめ方式」未婚化への挑戦(1)-世界ランキングお年寄り大国第1位日本・少子化社会データ再考-地方を揺るがす「後継者問題」]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55579 55579 Tue, 25 Apr 2017 10:14:05 +0900 「年の差婚」の希望と現実-未婚化・少子化社会データ検証
    -データが示す「年の差」希望の叶い方

     
    No.9
    天才数学者ラマヌジャン-「奇蹟がくれた数式」を観て-
     
    No.8
    混迷深まるフランス大統領選挙-極右対極左の決選の可能性も浮上
     
    No.7
    EUソルベンシーIIの動向
    -EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(2)-

     
    No.6
    EUソルベンシーIIの動向
    -EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(1)-
    ▼研究員の眼
     
    「人生100年時代」の到来~長生きを「恩恵・特権」にしていくために
     
    「人口統計」にみる時代の変化-「統計データ」を“深読み”する
     
    -----------------------------------
    ▼基礎研REPORT(冊子版)
     
    5月上旬が為替相場の分岐点に~マーケット・カルテ5月号
     
    -----------------------------------
    ▼基礎研レター
     
    地域医療構想と病床規制の行方
     -在宅医療の体制づくりが急がれるのは、どのような構想区域か?

     
    ヘッジ付き米国債の利回りに復活の兆し
     -日本円と米ドルの短期金融市場が示唆していること

     
    図表でみる中国経済(株式市場編)~日本との相違点及びMSCI問題
     
    最近の自然災害の状況-災害・防災、ときどき保険(1)
     
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    ▼Weeklyエコノミスト・レター
     
    米通商政策
     -二国間交渉重視の姿勢を明確化も、依然として通商政策の不透明感が強い

     
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    ▼保険・年金フォーカス
     
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     【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(25)

     
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     許可件数は前月、予想を上回る結果

      No.5
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    建物
    <![CDATA[「こども保険」に期待すること-社会全体で子どもを支える]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55576 55576 Tue, 25 Apr 2017 09:48:04 +0900
    提言では、第一歩として勤労者と事業者の厚生年金保険料を0.1%引き上げ、国民年金加入者からは月額160円程度を徴収し、新たに得られる財源約3,400億円を元に未就学児一人当たり月額5千円を児童手当に加算給付する。さらに保険料率を段階的に0.5%まで引き上げると財源は約1.7兆円にのぼり、加算支給額も2万5千円になり、幼児教育費の実質無償化が実現するというのだ。

    教育費の無償化に向けては、「教育国債」の発行、「消費税」の引き上げ、「所得税」の累進課税強化等の選択肢が考えられる。「こども保険」については、高齢世代の負担がなく世代間の公平性を欠くこと、子どもがいない人など受益者と負担者が一致しないことから「保険制度」になじまないという声もある。また、すでに年金特別会計には「子ども・子育て支援勘定」があり、「事業主拠出金制度」が存在する。

    ソーシャル・キャピタル研究の第一人者であるロバート・D・パットナムは、近著『われらの子ども~米国における機会格差の拡大』(2017年3月、創元社、原題“OUR KIDS:The American Dream in Crisis”)の中で、『かつての米国の子どもには、その出自によらずアメリカンドリームを体現する一定の機会があった。しかし、今日では所得格差が拡大し、居住地域や教育や結婚などによる階級分離が進展し、人々は大きな不平等の世界で暮らしている』という主旨のことを述べている。

    これまで米国が「結果の平等」にあまりこだわらず自己責任社会を受け入れてきた背景には、だれもが「機会の平等」のもとに人生の公平なスタートを保証されていたからではないだろうか。パットナムは、格差拡大を解消するためには、自分の子ども以外にも「われらの子ども」に投資を行うことなど、社会全体で子どもを支えることが重要だと主張する。

    最近の小学校の運動会では、親は必死にわが子の姿をビデオカメラで追っているが、ファインダーの中にはわが子以外の姿はない。今回の「こども保険」構想が、持続可能社会をつくるために子どもを社会共通財産とし、子どもの有無に関わらず社会全体で子どもを支える契機になることを期待したい。われわれ一人ひとりがファインダーに「われらの子ども」の姿を映すことが求められている。
      【関連レポート】 少子化社会と婚外子差別 - 「子育ての社会化」に向けた発想転換を!
    「少子化」進む“根深い”理由-子ども忌避する社会構造
    「給付型奨学金」に期待-「貧困の連鎖」止める教育機会の平等を!
    ]]>
    社会研究部主任研究員土堤内 昭雄 子ども・子育て支援 子ども・子育て支援
    <![CDATA[地域医療構想と病床規制の行方-在宅医療の体制づくりが急がれるのは、どのような構想区域か?]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55570 55570 Mon, 24 Apr 2017 15:00:31 +0900
    日本では、疾患を抱えた高齢期の患者の数が増加すると見込まれている。これに伴い、患者の健康寿命を延伸させつつ、医療費の抑制を目指して、病床機能の見直しが図られている。各都道府県は、2017年3月までに地域医療構想を策定した。今後、この構想をもとに、2018年度開始の第七次医療計画の立案が進められる。

    本稿では、病床機能の変更を中心に、今後の地域医療の変化について概観することとしたい。

    ■目次

    1――はじめに
    2――地域医療構想とは
      1|将来の医療需要と病床の必要量を推計し、医療提供体制実現の施策を立てる
      2|地域医療構想調整会議は、地域医療構想の中身を議論する
      3|病床機能報告制度は、病床の現状を把握するための仕組み
      4|地域医療介護総合確保基金は、地域医療・介護体制の整備費用に充てられる
    3――地域医療構想の策定
      1|地域医療構想は8つのプロセスを経て策定される
      2|二次医療圏と異なる構想区域を設定した都道府県が5つあった
      3|各機能別の病床と在宅医療等について、患者数が見積もられ、
        そこから必要病床数が推計される
      4|必要病床数の推計は、病床機能報告制度結果と比較される
    4――構想された病床体制と、現状の病床の比較結果
      1|国全体では、高度急性期・急性期の一部を回復期に振り替え、
        慢性期病床を減少させる
      2|大都市型と過疎地域型で必要病床数と在宅医療等のギャップが大きい
    5――おわりに (私見)日本では、疾患を抱えた高齢期の患者の数が増加すると見込まれている。それに伴って、医療は、従来の、治療による完治を目指すものから、病気が軽減する寛解を目指すものへと変化が求められる。これに伴い、患者の健康寿命を延伸させつつ、医療費の抑制を目指して、病床機能の見直しが図られている。各都道府県は、地域の実状に照らして将来の病床構想を立てるべく、2017年3月までに地域医療構想を策定した。今後、この構想をもとに、2018年度開始の第七次医療計画の立案が進められる。

    本稿では、病床機能の変更を中心に、今後の地域医療の変化について概観することとしたい。1
     
    1 本稿は、「地域医療構想をどう策定するか」松田晋哉(医学書院, 2015年)を参考にしている。
     

    2――地域医療構想とは

    そもそも地域医療構想とは、どういうものか。まずは、これについて、見ていくこととしよう。

    1将来の医療需要と病床の必要量を推計し、医療提供体制実現の施策を立てる
    地域医療構想としてまとめる事項は、大きく2つに分けられる。1つは、将来(2025年)の医療の必要量。これは、構想区域(原則として、二次医療圏)ごとに、所定の計算式で算定された病床の機能区分(次章にて詳述)別の床数と、在宅医療等の患者数である。もう1つは、目指すべき医療提供体制を実現するための施策。この施策は、例えば、医療機能の分化・連携推進のための施設整備策、人材確保・養成策、在宅医療の充実策などを指す。

    地域医療構想は、都道府県が医療計画2の一部として策定する。この策定を通じて、各医療機関の機能分化が図られる。また、構想の策定、実施を後押しする仕組みとして、地域医療構想調整会議、病床機能報告制度、地域医療介護総合確保基金の仕組みが整備されている。以下、簡単に見ていこう。
     
    2 医療計画は、医療法第30条の4により、都道府県が定めるものとされている。これまでに、1985年の第一次計画から、数年ごとに策定されてきた。2014年には、第六次計画が策定された。そこでは、メンタルヘルスや認知症の問題の深刻化を受けて、精神疾患が医療提供体制の整備計画の対象として追加された。また、地域包括ケアの推進に向けて、居宅などでの医療体制構築についても、他の疾患・事業と同様、県の数値目標等の記載が求められることとなった。地域医療構想は、医療介護総合確保推進法に基づいて、2015年度から策定することとされている。策定期限は、法律上は2018年3月末であるが、厚生労働省は2016年半ば頃までの策定が望ましいとしてきた。各都道府県は、2017年3月までに策定している。
    2地域医療構想調整会議は、地域医療構想の中身を議論する
    地域医療構想調整会議(以下、「調整会議」)は、地域医療構想を策定する際の、協議の場である。調整会議のメンバーは、地域医療を提供する医師会・病院団体と、医療費の支払側である保険者、地域医療を監督する都道府県。介護関係の検討を要することがあるため、合議内容によっては、介護関係者や介護保険の保険者としての市町村、医療・介護の保険制度を支えてサービスを受ける立場の住民の代表も加わる。そして、地域の患者数や医師数などのデータを、分析・解釈する研究者も加わる。

    調整会議には、地域の医療市場を規定する側面がある。このため、医療関係者は大きな関心を持って臨む。ともすれば、議論が具体根拠を欠いたまま、観念的なやり取りに終始しかねない。また、住民の代表は、地域医療の実状がつかみにくく、議論に加わること自体が難しい場合もある。そこで、合理的な議論や決定のために、DPC、NDBデータ等3による、科学的なアプローチが有用とされている。
     
    3 DPCは、Diagnosis Procedure Combinationの略。診療報酬の包括評価を行うDPC対象病院の医療費等のデータを指す。一方、NDBは、National Databaseの略。2008年から国が収集している、レセプトデータや、特定健康診査等のデータを指す。
    3病床機能報告制度は、病床の現状を把握するための仕組み
    病床機能報告制度は、調整会議の議論の前提として、病床の現状を医療機関から報告するための仕組みである。この制度は、2014年より始まっており、毎年、7月1日時点の病床数を、機能別に報告する。併せて、各病院の、今後の病床の方向性についても、報告してもらうものとなっている。4地域医療介護総合確保基金は、地域医療・介護体制の整備費用に充てられる
    地域医療介護総合確保基金は、都道府県が設けるもので、地域医療構想の実現のために、医療従事者の確保・養成、在宅医療や介護サービスの充実などの経費に充てるものとされている。従来より、医療政策の実現には、診療報酬制度が用いられている。しかし、診療報酬は、診療の対価であり、医療体制の整備の評価には用いづらい。また、診療報酬は全国一律のものであり、地域に応じた医療政策は反映させにくい。こうしたことを受けて、2014年に、税負担による基金が設立されている4
     
    4 基金造成にあたり、費用の2/3は、国が負担することとされた。
     

    3――地域医療構想の策定

    続いて、地域医療構想の策定プロセスを見ていこう。

    1地域医療構想は8つのプロセスを経て策定される
    地域医療構想策定ガイドラインによると、8つのプロセスを通じて、策定を進めていくこととされている。各都道府県は、このプロセスに従って地域医療構想を策定し、報告書として公表している。2二次医療圏と異なる構想区域を設定した都道府県が5つあった
    上記の3.のプロセスで、構想区域は、原則として二次医療圏であるが、患者の受療行動等を勘案して、別の区分で設定することもできる。今回、都道府県が公表した地域医療構想によると、福島、神奈川、愛知、三重、香川の5つの県で、二次医療圏とは異なる構想区域を設定している。この結果、全国で、344の二次医療圏に対して、構想区域の数は342と、若干異なる結果となっている。3各機能別の病床と在宅医療等について、患者数が見積もられ、そこから必要病床数が推計される
    上記の4.~6.のプロセスでは、医療需要の推計を立て、それをもとに必要病床数の推計が行われる。推計にあたり、まず、病床機能を4つに分ける。この機能区分は、DPCデータを用いて行われた5。そして、各機能間の医療資源投入量6の境界線が設定され、患者数の推計方法が定められた。この推計方法に基づいて、各構想区域で、域内の医療機関で発生した症例を、それぞれ、4つの機能区分に分解する7。そして、機能区分ごとに集計して、患者数を推計する。その患者数を、機能区分ごとの病床稼働率で割り算して、必要病床数を割り出す8。併せて、在宅医療等の患者数も推計される。

    なお、慢性期病床の必要数の見積もりにおいては、現在、療養病床9に入院している医療区分110の患者の70%が、在宅あるいは介護施設での医療で対応可能との前提が置かれた。併せて、療養病床の入院受療率の地域差を縮小させることが盛り込まれた。そのために、3つの具体手法が示されている11
     
    5 具体的には、DPCにおける、1日あたり出来高換算コストの分布状況が参考にされた。
    6 入院基本料相当分・リハビリテーション料の一部を除いた1日当たりの診療報酬出来高点数。1点は、10円に相当する。
    7 DPCの医療機関については、患者ごとに、入院日数を4つの機能に分解・集計して、それぞれの医療需要を算出。DPC以外の医療機関については、ナショナルデータベースとして収集されたレセプト(診療報酬明細書)をもとに計算する。
    8 病床稼働率は、ある一時点の病床利用率に、その日の退院患者数を加えたものとして、実績をもとに設定されている。具体的な水準は、高度急性期75%、急性期78%、回復期90%、慢性期92%、とされている。
    9 主として、長期にわたり療養を必要とする患者のための病床のこと。主に、急性期の入院治療を必要とする患者のための病床である一般病床とは、別の概念。医療保険対象の医療療養型病床と、介護保険対象の介護療養型病床の2種類がある。
    10 医療制度上、患者は、24時間持続点滴などを行う医療区分3、(医療区分3以外で)筋ジストロフィーや肺炎などを患う医療区分2、それ以外の医療区分1、の3つの区分に分けられる。
    11 2013年の療養病床の入院受療率(人口10万人あたり入院患者数)は、最小: 山形(81%)、最大: 高知(391%)、中央値: 滋賀(144%)。
    4必要病床数の推計は、病床機能報告制度結果と比較される
    上記の7.と8.のプロセスで、必要病床数の推計結果と、病床機能報告の結果が比較される。

    なお、2015年6月には、各都道府県による地域医療構想の策定の取り組みに先立って、「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」(以下、「調査会」)が、2025年の必要病床数の推計結果を115万~119万床程度と公表した。これは、病床の機能分化等をせずに高齢化を織り込んだ場合の152万床程度と比べて、少ない結果であった。この結果は、一部のメディアで、病床の削減目標として取り上げられ、医療関係者を中心に波紋を呼んだ。実際には、あくまで参考値に過ぎない。
     

    4――構想された病床体制と、現状の病床の比較結果

    2017年3月までに、都道府県の地域医療構想が出揃った。これをもとに、病床数を比較してみよう。

    1国全体では、高度急性期・急性期の一部を回復期に振り替え、慢性期病床を減少させる
    各都道府県の報告書をもとに、必要病床数を集計した。高度急性期と急性期が合計で24万床減少、回復期は24万床増加となった。即ち、高度急性期・急性期を、回復期に振り替える内容となっている。慢性期については、7万床の減少となっている。在宅医療等の患者数は、病床数合計の1.5倍となる。介護施設や高齢者住宅を含めて、在宅医療等へのシフトを進めていくことが必要と言える。なお、上記の集計は、調査会の公表内容とほぼ同じ結果となっている。これは、都道府県が推計の際に、国から提供された「必要病床数等推計ツール」を用いているためであり、当然の結果と言える12
     
    12 調査会が公表した推計では、療養病床の入院受療率の地域差を縮小させるためのパターンA~Cについて、それぞれ推計値を示している。上記の集計結果は、地域差縮小が一番緩やかに進むパターンCのものと、ほぼ同じ水準となっている。
    2大都市型と過疎地域型で必要病床数と在宅医療等のギャップが大きい
    次に、構想区域を、大都市、地方都市、過疎地域に分けて、それぞれの病床体制を見てみよう。全国342の構想区域を、人口と人口密度により、大都市型、地方都市型、過疎地域型に分類する13。大都市型は、高度急性期、急性期、慢性期の減少よりも、回復期の増加が大きく、全体の病床数は増える。在宅医療等の患者数は、病床数の1.6倍となる。在宅医療等へのシフトが必要と言える。

    地方都市型は、回復期の増加よりも、高度急性期、急性期、慢性期が大きく減少。この結果、全体の病床数も減少。在宅医療等の患者数は、病床数の1.3倍となる。入院患者数の減少が必要と言える。

    過疎地域型は、回復期の増加よりも、急性期、慢性期が大きく減少。全体の病床数も減少する。在宅医療等の患者数は、病床数の1.5倍。入院患者数の減少と、在宅医療等へのシフトが必要と言える。
     
    13 人口100万人以上または人口密度2,000人/km2以上を大都市型、大都市型以外で人口20万人以上または人口密度200人/km2以上を地方都市型、それ以外を過疎地域型とした。なお、人口と面積は、「平成22年 国勢調査」(総務省統計局)による。
     

    5――おわりに (私見)

    病床規制は、構想全体の一面に過ぎない。しかし、従来、病床規制によって、医療の実態(サービスの量や質)が決まってきた経緯もある。特に、この構想では、大都市や過疎地域で、在宅医療等へのシフトが求められることが示唆されている。今後、介護施設や高齢者住宅を含めて、在宅医療の体制づくりを加速させる必要があろう。引き続き、構想実現に向けた取組みに、注目が必要と考えられる。 【関連レポート】 在宅介護サービスの整備-家族の介護負担は、どこまで減らせるか?
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    保険研究部主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任篠原 拓也 医療制度
    <![CDATA[ヘッジ付き米国債の利回りに復活の兆し-日本円と米ドルの短期金融市場が示唆していること]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55569 55569 Mon, 24 Apr 2017 10:57:22 +0900  
    • 昨年後半から、ヘッジ付き米国債の利回りが上昇している。利回り上昇の要因として、昨年末までは米国債利回りの上昇が寄与しており、今年に入ってからはヘッジコストの低下が寄与している。
       
    • ヘッジコストの低下の要因は、日本円の短期金融市場と比べて、米ドルの短期金融市場が緩和傾向にあることに起因している。
       
    • 米ドル短期金融市場の緩和傾向はしばらく継続するものと考えられ、イールドカーブコントロールにより日本10年国債利回りが0%近辺を推移している状況から、ヘッジ付き米国債は国内債券投資の代替として検討に値する。

    ■目次

    1――昨年後半より、ヘッジ付き米国債の利回りが上昇
    2――ヘッジ付き米国債の利回りが上昇した理由ヘッジ付き米国債の利回りが上昇している。図表1は、米国債の元本の為替変動リスクを3ヶ月間ヘッジしたときの運用利回り(年率換算)の推移である。ヘッジ付き米国債の利回りは2013年末にピークを付けてから、長らく低下傾向にあった。しかし、2016年9月に-0.13%まで低下してからは上昇トレンドに転じており、2017年3月末時点では0.91%に回復している。日本10年国債の利回りが、イールドカーブ・コントロール(YCC)によって0%近辺を推移している状況と比較すると、国内債券投資の代替手段として、ヘッジ付き米国債の利回りは魅力的な水準にある。

    2――ヘッジ付き米国債の利回りが上昇した理由

    ヘッジ付き米国債利回りが上昇した理由について考えてみたい。ヘッジ付き米国債の利回りをヘッジコストと米ドル建て利回りに分解して示したのが図表2である。ヘッジコストはさらに内外金利差の要因と内外金利差以外の要因に分解できる。図表2から、2016年末までは米国債利回りの上昇、2017年に入ってからは内外金利差以外の要因によるヘッジコストの低下によって、ヘッジ付き米国債の利回りが上昇していたことが分かる。

    米国債利回りの上昇は、2016年11月のトランプ氏の米大統領選勝利から財政刺激策によるインフレ高進が予想され名目利回りにその期待が織り込まれたこと、その後に2016年12月にFRBが利上げしたことが大きな要因と思われる。しかし、2017年に入ってからは、米国債利回り上昇は一服しており、ほぼ横ばいで推移している。

    ヘッジコストの低下については、米ドル短期金利が上昇していることもあって、内外金利差による要因が上昇方向に寄与しているものの、内外金利差以外の要因がそれ以上に下落方向に寄与していることが分かる。特に2017年に入ってからこの傾向が顕著である。内外金利差以外の要因は、内外の短期金融市場の相対的な需給関係の影響を受ける。具体的には、日本円の短期金融市場と比較して、米ドルの短期金融市場の需給が悪化すると、ヘッジコストに上昇圧力が働くことになる。

    短期金融市場の需給状況は、LIBOR/OISスプレッド2(LIBORとOISの差分)を見ることで捉えることができる。LIBOR/OISスプレッドが拡大すると、短期金融市場の需給状況が悪化傾向にあることを意味している。日本円のLIBOR/OISスプレッドは、2016年11月末に-0.9bpとLIBORとOISが逆転していたが、2017年3月末時点で6.7bpにまで拡大している。一方で、米ドルの3ヶ月のLIBOR/OISスプレッドは2016年9月末に36.4bpまで拡大したが、それ以後は縮小に転じ、2017年3月末時点には21.8bpまで縮小した(図表3)。つまり、ここ数ヶ月間は、日本円に比べて米ドルの短期金融市場の需給が緩和傾向にあり、ヘッジコストに低下圧力がかかっている。2016年9月までの米ドルの短期金融市場における需給悪化は、レバレッジ比率規制の導入やMMF規制の変更といった金融規制による影響や、米国の金融政策のみ引き締め方向に舵を切っていることに起因していた。レバレッジ比率規制は、銀行のバランスシート拡大に抑制をかけるもので、米ドルの資金調達コストを増大させる効果をもたらした。また、MMFは米ドル資金供給の役割をもつが、規制の変更によりプライムMMFの残高が急減したことで、米ドル資金の需給悪化に繋がった。しかし、トランプ米大統領が金融規制を緩和させるのではないかという期待や、プライムMMFの残高減少にも歯止めがかかっていることもあり(図表4)、米ドルの短期金融市場の需給が以前と比べて改善方向にある。

    また、日本国債に為替スワップや通貨スワップを組み合わせると、米国債よりも利回りの高い運用が出来るため、海外投資家が当該スキームに流れたことも影響しているものと考えられる3。海外投資家が通貨スワップや為替スワップを活用すると、米ドル資金が供給されるため、短期金融市場の需給改善に寄与することになる。米国ではFRBの金融政策により引き締め方向にあり、日本では日本銀行の異次元金融緩和により緩和方向にあると想定しがちだが、実際の短期金融市場では逆の現象が起きているというのが、ここ数ヶ月間の特徴的な動きである。特に米ドルのLIBOR/OISスプレッドについて、2014年後半までの金融緩和政策時の水準(20bp割れ)に回帰するのかが今後の注目ポイントだろう。

    以上の理由から、2017年に入ってから、ヘッジ付き米国債の投資妙味が増しているということである。この背景にある事情から考えると、米ドルの短期金融市場の緩和状況はしばらく継続するものと思われる。利回り確保の手段を模索する必要のある国内投資家にとって、ヘッジ付き米国債は検討に値する金融商品と言えるだろう。
     
     
    1 ヘッジコスト分解の詳細と変動要因に関する分析は、「通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響」(ニッセイ基礎研究所)などを参照されたい。
    2 LIBORはロンドンにおける銀行間取引にて資金の出し手から提示される金利のこと。OIS(Overnight Index Swap)は翌日物金利(日本:無担保コールレート、米国:FFレート)と交換する際の固定金利を指す。OISは無リスク金利として利用される。
    3 当該スキームの詳細については、「通貨スワップ市場がもたらす外貨投資インセンティブの非対称性-外貨を保有する投資家にとって円建て資産への投資が魅力的な理由」(ニッセイ基礎研究所)などを参照されたい。
    【関連レポート】 通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響
    通貨スワップ市場がもたらす外貨投資インセンティブの非対称性-外貨を保有する投資家にとって円建て資産への投資が魅力的な理由
    ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由
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    金融研究部准主任研究員福本 勇樹 金融市場・外国為替
    <![CDATA[米通商政策-二国間交渉重視の姿勢を明確化も、依然として通商政策の不透明感が強い]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55565 55565 Fri, 21 Apr 2017 15:34:34 +0900
  • トランプ大統領は、選挙期間中から保護主義的な通商政策を主張していたことから、世界的な保護主義政策の広がりを懸念する声が強まった。通商政策が選挙の主要な争点となった背景は、米国の貿易赤字が長期間持続しているほか、米国民の間にも中国を中心に製造業雇用が奪われているとの不満がある。
     
  • トランプ政権発足後、閣僚人事で保護主義的な政策を主張する閣僚が任命されたほか、3月初に発表された通商政策課題報告書では、多国間通商交渉の枠組みである世界貿易機関(WTO)を軽視し、超大国である米国の国益をより反映させ易い二国間交渉を重視する米国の姿勢が鮮明となった。
     
  • もっとも、政権発足から3ヵ月が経過したものの、通商政策で中心的な役割を果たす米通商代表部(USTR)で通商代表が未承認となっているほか、政権スタッフの任用は大幅に遅れており、通商政策の立案能力には疑問符が付いている。実際、先日の日米経済対話でも、具体的な政策に踏み込むことが出来なかったことが示されている。
     
  • 一方、対中国政策では、為替操作国認定が見送られたほか、NAFTAの見直しについてもトーンダウンしており、これらの通商政策では選挙公約からの軌道修正もみられる。このため、トランプ政権の通商政策は、当初懸念された貿易戦争の可能性は、現状では低下しているものの、通商政策の政策立案はこれから本格化するため、今後の動向には依然として不透明感が強い。
  • ■目次

    1.はじめに
    2.通商政策が米国で注目される背景
      (1)貿易赤字:70年代半ば以降、赤字基調で推移
      (2)対中国貿易赤字の拡大:製造業雇用喪失懸念と不公正取引慣行の指摘
      (3)米国民世論:自由貿易に対する支持が低下
    3.トランプ政権の通商政策動向
      (1)閣僚人事:政権スタッフ登用の遅れ、各組織の役割分担なども流動的
      (2)通商政策課題報告書:米国益優先、二国間交渉重視の姿勢を明記
      (3)日米経済対話:日米FTAに対する米国の強い意欲を示唆
      (4)その他:対中政策、NAFTA見直し議論など、政策公約からの見直しも
    4.今後の見通しトランプ大統領は、選挙期間中から中国の為替操作国認定や、中国、メキシコの輸入品に対する大幅な関税率引き上げなどを掲げてきたほか、TPPからの離脱やNAFTAの見直しなど、多国間交渉ではなく、二国間FTAなどの二国間交渉を重視する姿勢を示してきた。このため、選挙期間中から米国発で保護主義的な通商政策が世界全体に拡がることへの懸念が高まっていた。

    昨年の大統領選挙で通商政策が争点化した背景には、米国の貿易赤字が長期間持続している中、中国の不公正な貿易慣行などにより、製造業を中心に雇用が喪失されたとの国民感情が一部で高まってきたことが挙げられる。実際、自由貿易協定に米国民の懐疑的な見方が強まっており、トランプ大統領だけでなく、民主党の大統領候補であったヒラリー・クリントン氏までもTPPに反対せざるを得なくなった。このため、以前に比べて通商政策への関心は高くなっていると言えよう。

    一方、トランプ政権発足後、保護主義的な政策を主張する閣僚を登用したほか、公約通りにTPPの離脱を決定したものの、通商政策運営は円滑に進んでいるとは言えない。政権スタッフの不足などから、4月18日に行われた第一回日米経済対話では、具体的な政策に踏み込むことが出来なかったことが示されており、同政権の政策立案能力には疑問符が付いている。さらに、中国やNAFTAに対する政策スタンスに変化がみられるなど、通商政策の一部方針転換がみられていることも、政策の予見可能性を低下させている。

    本稿では、通商政策が米国内で注目される背景について説明した後、これまでのトランプ政権の通商政策について整理するほか、今後の見通しについても解説している。結論から言えば、政策公約で掲げられていた多国間交渉から、日米FTAを軸とした二国間交渉に軸足を移すことが想定される一方、特定国の輸入品に高関税を課すことで引き起こされる世界的な貿易戦争は回避できそうということだ。ただし、通商政策の政策立案はこれから本格化するため、今後の通商政策の動向は依然として不透明感が強い。
     

    2.通商政策が米国で注目される背景

    (1)貿易赤字:70年代半ば以降、赤字基調で推移
    財・サービスを合わせた米国の貿易収支は、70年台半ばまでは、ほぼ収支が均衡していたものの、その後は貿易赤字が増加に転じ、そのまま赤字基調が持続している(前掲図表1)。とくに、08年の金融危機前は、財収支赤字の増加を背景に、赤字額は5,000億ドル超(GDP比5%台)の水準まで増加していた。

    もっとも、トランプ大統領は貿易赤字増加の要因として、オバマ政権時代の通商政策を痛烈に批判しているが、金融危機前後の変動を除けば、顕著な赤字増加はみられておらず、サービス収支黒字額の増加もあって、貿易赤字(GDP比)は足元3%を割れる水準で安定していたことが分かる。(2) 対中国貿易赤字の拡大:製造業雇用喪失懸念と不公正取引慣行の指摘
    貿易収支を主要国別にみると、対中国赤字の拡大が顕著となっており、貿易赤字全体に占めるシェアは00年代前半の2割台から16年は6割を超えている(図表2)。ちなみに、対日本ではほぼ横這いの状況となっており、シェアも1割程度に留まっている。

    一方、対中国赤字の急激な増加は、01年に中国がWTOに加盟したことが大きいとみられている。また、工業製品などを中心に中国からの輸入急増によって、米国の製造業雇用が喪失したとの問題提起もされている。マサチューセッツ工科大学経済学部教授のデビッド・オーター氏らの分析1によれば、99年から11年にかけて中国からの輸入品増加によって、直接競合する分野で56万人の米製造業雇用が喪失したほか、関連産業まで含めた製造業雇用の喪失は98.5万人に上ると試算されている。この期間に減少した米製造業雇用が580万人であったことを考慮すると、その影響の大きさが分かる。トランプ政権は、この見方を支持しており、中国からの輸入急増が米製造業雇用を減少させたと主張している。

    もっとも、中国からの輸入品増加が製造業雇用を脅かしたとの評価については、懐疑的な見方も強い。実際、米製造業雇用の減少に反して、足元の製造業生産は史上最高水準で推移しているため、米製造業の省力化などの生産性向上が、雇用喪失に影響している可能性が指摘されている(図表3)。このように、対中貿易と製造業雇用の関係については議論の余地があるものの、対中国貿易における不公正な貿易慣行に対する米政府の不満は大きい。米国が不公正な貿易慣行に対してWTOに提訴している相手先をみると、95年のWTO発足から直近(4月20日)までで、中国向けが21件と最も多くなっており、全体の2割弱を占めている(図表4)。

    実際、昨年の大統領・議会選挙では、共和党のみでなく、民主党も通商政策の政策公約として、中国の不公正な貿易慣行の是正を盛り込んでおり、与野党を問わず米政府の問題意識が大きいと言えよう。
     
     
    1 “The China Shock: Learning from Labor Market Adjustment to Large Changes in Trade”(16年2月), David H. Auor, David Dorn, Gordon H. Hansen
    (3) 米国民世論:自由貿易に対する支持が低下
    元々、民主、共和党ともに通商政策について、自由貿易を否定するスタンスではない。しかしながら、米国民の間で自由貿易協定、とくに多国間協定では米国が条件面で不利な条件を飲まされているとの声も大きくなっており、無視出来なくなっている。

    ピュー・リサーチセンターが、選挙前の16年8月に実施した世論調査では、TPPを評価するとの回答が37%と評価しない(39%)を下回っているほか、より一般的な自由貿易協定についても、評価するとの割合が45%と評価しないとする割合(47%)を下回っている(図表5)。

    このため、トランプ政権が目指す多国間協定の見直しは、米国民からは一定の支持が得られるだろう。(1) 閣僚人事:政権スタッフ登用の遅れ、各組織の役割分担なども流動的
    トランプ政権の閣僚人事では、16年9月に重商主義的な考え方を色濃く反映したレポート2を発表していた投資家のウィルバー・ロス氏が商務長官に、同じく共著者でカリフォルニア大学経済学部教授のピーター・ナヴァロ氏が新設された国家通商会議(NTC)の委員長に起用された。一方、通商政策で中心的な役割を果たす米通商代表部(USTR)の人事では、鉄鋼業界に近く、これまで中国に対して強硬な通商政策を採用するよう主張してきた弁護士のロバート・ライトハイザー氏の、通商代表としての議会承認が未だ得られていない。

    さらに、閣僚以下のポストについても任用が遅れている。商務省で議会承認が必要な21のポストの内、4月20時点で承認されているのはロス長官のみで、副長官が承認待ち、次官、次官補ともに各1名が指名されたに過ぎず、残り17のポストでは指名すらされていない状況となっている。USTRでも3名の次席代表が指名すらされておらず、政権スタッフの不足が深刻である。

    また、新設されたNTCについては、通商政策立案におけるロス長官と、ナヴァロ委員長の役割分担について明確となっておらず、NTCにどのような機能を担わせるのか、流動的となっているようだ。さらに、国家経済会議(NEC)委員長で、自由貿易支持とされるゲーリー・コーン氏の発言力が高まっているとの報道もあり、通商政策の立案過程で誰が主導権を握るのか依然として不透明感が強い。
     
    2 “Scoring the Trump Economic Plan: Trade, Regulatory, & Energy Policy Impacts” (16年9月29日)https://assets.donaldjtrump.com/Trump_Economic_Plan.pdf
    (2) 通商政策課題報告書:米国益優先、二国間交渉重視の姿勢を明記
    通商政策課題報告書は、USTRが毎年3月1日までに議会に提出することが義務付けられている公文書で、通商政策の方針が示される。公文書で初めてトランプ政権の通商政策が示された今回の報告書3では、米国の国益優先と多国間交渉から二国間交渉に重点を移す方針が明確に示された(図表6)。同報告書では、通商政策の基本方針として、「全ての米国人とって、より自由で、より公正な手段による貿易の拡大」が掲げられており、貿易拡大によって、米国の高成長や、雇用増加、製造業基盤の強化を目指すとするなど、国益優先の姿勢が鮮明にされている。また、通商交渉手続きでは安全保障面も含めた超大国としての米国の立場を反映させて、有利な条件を引き出し易いとみられる二国間交渉を重視する姿勢が示された。

    さらに、同報告書では通商政策の4つの優先課題として、「通商政策における国家主権の優先」、「米国通商法令の厳正な施行」、「市場開放のためのレバレッジの活用」、「新たな、より良い通商協定の協議」が示された。これら優先課題で注目されるのは、紛争解決の過程で、WTOが米国に不利な裁定をした場合に、米国がWTOに従わず、米国内法を優先させる可能性を示唆したことだ。2月の当レポート4で取り上げた国境調整税(BAT)や、トランプ政権が掲げる保護主義的な通商政策では、WTOから提訴される可能が高いとみられているが、米国がWTOの裁定に対してどのような対応を行うか注目される。

    一方、米通商政策の重点が多国間交渉から二国間交渉にシフトすることについては、経済学者や企業から批判が大きい。製造業などでは国際的にサプライチェーンが発達しており、複数国を跨いで部品や半製品が取引される現状では、二国間通商協定次第ではサプライチェーンを大幅に見直す必要が生じるとされる。さらに、通商協定の議会審議が遅れる可能性も指摘されている。通商協定の締結に向けた議会審議は、非常に煩雑であり、それぞれの国毎に審議する必要が生じることは、他国間協議に比べて、議会の審議負荷を増加させ、議会審議が滞ることが懸念されている。

    このため、実際に二国間の通商協定を策定する過程で、様々な問題が発生する可能性が高く、トランプ政権が目指す二国間交渉がスムーズに進展するか予断を許さない。
     
    3 “2017 Trade Policy Agenda and 2016 Annual Report”(2017年3月1日), USTR
    https://ustr.gov/sites/default/files/files/reports/2017/AnnualReport/AnnualReport2017.pdf
    4 Weeklyエコノミストレター「法人税制議論が本格化―注目される国境調整税(BAT)の行方」(2017年2月20日)http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55098?site=nli
    (3) 日米経済対話:日米FTAに対する米国の強い意欲を示唆
    麻生副総理と、ペンス副大統領の間で行われた日米経済対話では、会談後に共同プレスリリースが発表された(図表7)。プレスリリースでは、政策の3つの柱として、「貿易及び投資のルール/課題に関する共通整理」、「経済及び構造政策分野における協力」、「分野別協力」の項目が示された。同経済対話では、米政策スタッフの不足による準備不足から、具体的な政策議論に踏み込まなかったことが報じられている。しかしながら、プレスリリースをみると、貿易ルールの中で「高い貿易及び投資に関する基準についての二国間枠組み」と明記されたことが注目される。これらの表現は、前述の通商政策課題報告書と平仄が合っており、米政府が日米FTAを推進していく強い姿勢を示したものと解釈できる。また、北朝鮮リスクが顕在化する中、安全保障問題を盾に、日本に対して自国に有利な二国間協定を締結できると、トランプ政権が判断している可能性が考えられる。ピーターソン国際経済研究所で2月に行われた通商政策に関するシンポジウム5では、財務次官補や同研究所の所長を歴任したフレッド・バーグステン氏が、トランプ政権は安全保障問題を梃子に米国に有利な条件で日米FTAを先ず締結し、それをテンプレートにして、他国との二国間協定を批准していくだろうとの見通しを示していた。これまでのトランプ政権の動きは、概ねバーグステン氏の見立てに沿った動きにみえる。
     
    5 “Release of US Trade Policy Options in the Pacific Basein ; Bigger is Better”(17年2月16日)
    https://piie.com/events/release-us-trade-policy-options-pacific-basin-bigger-better
    (4) その他:対中政策、NAFTA見直し議論など、政策公約からの見直しも
    トランプ政権発足以降の通商政策には、一部軌道修正の動きもみられる。対中政策では、就任初日に中国を為替操作国認定するとの方針を覆し、4月14日に発表された半期為替報告書6でも、為替操作国認定を見送った。さらに、中国の輸入品に対して45%の関税をかけるとの公約についても、実施する動きはみられていない。4月6~7日の米中首脳会議では、貿易に関する「100日計画」を策定することで両国は合意しており、その内容が注目される。もっとも、北朝鮮絡みの地政学的リスクも顕在化しており、政権発足当時に想定されていたより対中政策は穏やかなもの落ち着く可能性が高いとみられる。

    さらに、NAFTAについても選挙期間中に「全くの災害」と表現していたが、カナダ、メキシコとの見直し交渉で、トランプ政権が大幅な変更を求めない意向を示したと報じられており、NATFAの見直しについても、政策公約からの軌道修正がみられている。
     
    6 “Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States”(17年4月14日)
    https://www.treasury.gov/resource-center/international/exchange-rate-policies/Documents/2017-04-14-Spring-2017-FX-Report-FINAL.PDF
     

    4.今後の見通し

    トランプ大統領は、3月31日に貿易赤字の原因となる貿易上の不正行為を特定するための大統領令に署名しており、90日以内に調査結果が報告されることになった。今回の調査では、どの程度の貿易赤字が、詐欺や不適切な行為によるものであるかを判断するため、国、商品ごとに調査することが決められた。調査結果次第では、特定の国や商品に対して具体的な対抗措置が取られる契機となるため、注目される。

    これまでみたように、トランプ政権の通商政策は国益を優先し、多国間交渉から二国間交渉を重視する姿勢を明確にしており、安全保障問題で米国の存在が重要な日本は、他国のテンプレートとなるように、米国に有利な日米FTAを締結させられる可能性が高いとみられる。

    一方、対中戦略やNAFTAの見直しでは、選挙公約からは軟化がみられており、貿易戦争という最悪のシナリオは回避できそうだ。

    もっとも、他の主要な政策と同様、政権スタッフの不足などから通商政策の立案が遅れており、政策議論は深まっていない。このため、今後の通商政策の動向は、安全保障問題なども複雑に絡み予断を許さない状況が持続しそうだ。 
     

    (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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    トランプ政権で軽んじられる経済専門家の声~大統領経済諮問委員会が准閣僚ポストに格下げ
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    経済研究部主任研究員窪谷 浩 米国経済
    <![CDATA[5月上旬が為替相場の分岐点に~マーケット・カルテ5月号]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55560 55560 Fri, 21 Apr 2017 16:06:37 +0900
    今後も当面は円高圧力が強い時間帯が続く。北朝鮮情勢の緊迫が続くなか、仏大統領選(4月23日、5月7日)、米暫定予算期限(4月28日)などの要警戒イベントが続き、リスク回避的な地合いが続くためだ。ただし、5月7日の仏大統領選(決戦投票)以降はドルが持ち直すと見ている。本命視される中道のマクロン氏が勝利し、市場のリスク回避姿勢が一服、円の売り戻しが入る可能性が高い。また、政治イベントを無難に通過することで、FRBの金融引き締めに市場の目が再び向かいやすくなることもドル高要因になる。ただし、地政学リスクの払拭は困難であるうえ、米政権からの円安・ドル高けん制への警戒も残ることから、大幅な円安ドル高は見込み難い。3ヵ月後の水準は1ドル112円前後と予想している。

    ユーロ円は、仏大統領選への警戒に伴うユーロ売りとリスク回避的な円買いに伴って、足元で116円台に下落している。当面、ますます政治リスクが意識され、ユーロ安圧力が強い状況が続きそうだ。ただし、既述の通り、5月上旬以降は仏大統領選でマクロン氏が勝利することでユーロが買い戻されると見ている。3ヵ月後の水準は1ユーロ120円手前と予想する。

    長期金利は、リスク回避と弱めの米経済指標を受けて低下し、近頃は0.0%の節目に肉薄している。今後も当面低位で推移するが、5月上旬以降はリスク回避地合いの後退と日銀の国債買入れ減額への警戒感などからやや上昇しそうだ。3ヵ月後の水準は0.0%台後半を見込んでいる。
    (執筆時点:2017/4/20)
    【関連レポート】 円相場の材料点検と見通し~金融市場の動き(4月号)
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    海外発の円高リスクがくすぶる~マーケット・カルテ4月号
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    経済研究部シニアエコノミスト上野 剛志 金融市場・外国為替
    <![CDATA[貿易統計17年3月~1-3月期の外需寄与度は前期比0.1%程度のプラスに]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55559 55559 Thu, 20 Apr 2017 10:18:07 +0900
    輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比6.6%(2月:同8.3%)、輸出価格が前年比5.0%(2月:同2.8%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比4.1%(2月:同▲4.3%)、輸入価格が前年比11.2%(2月:同5.7%)であった。季節調整済の貿易収支は1,722億円の黒字となり、2月の6,090億円から黒字幅が大きく縮小した。輸出が前月比▲3.5%(2月:同6.3%)と8ヵ月ぶりの減少となる一方、輸入が前月比3.4%(2月:同▲1.6%)と2ヵ月ぶりに増加した。

    貿易黒字(季節調整値)は1月に急減、2月に急増、3月に急減と振れが大きくなっているが、これは中華圏における春節の時期が昨年とずれたことが大きく影響しているとみられる。1-3月期の貿易黒字は3.6兆円(季節調整済・年率換算値)となり、10-12月期の4.3兆円から若干縮小したものの、基調としては明確な黒字を維持していると判断される。3月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比4.5%(2月:同2.2%)、EU向けが前年比▲0.0%(2月:同4.9%)、アジア向けが前年比7.6%(2月:同16.0%)となった。

    1-3月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲1.7%(10-12月期:同2.8%)、EU向けが前期比0.4%(10-12月期:同0.5%)、アジア向けが前期比3.1%(10-12月期:同5.2%)、全体では前期比1.7%(10-12月期:同3.0%)となった。

    世界経済の回復を受けて、輸出数量全体は4四半期連続の上昇と堅調を維持しているが、地域別には、1-3月期は米国向けが弱め、アジア向けが強めとばらつきが見られた。アジア向けはIT関連財を中心に好調を維持しているが、米国向けは米国内の販売低迷を反映し自動車輸出が減少したことから弱めの動きとなった。

    一方、1-3月期の輸入数量指数(当研究所による季節調整値)は前期比0.8%(10-12月期:同1.5%)と3四半期連続で上昇した。輸出に比べれば伸びは低いが、国内需要の持ち直しを背景に輸入も上向いている。3月までの貿易統計と2月までの国際収支統計の結果を踏まえて、17年1-3月期の実質GDPベースの財貨・サービスの輸出入を試算すると、輸出が前期比1%台半ばの増加、輸入が前期比1%程度の増加となることが見込まれる。この結果、1-3月期の外需寄与度は前期比0.1%(10-12月期:前期比0.2%)と3四半期連続のプラスとなることが予想される。

    当研究所では鉱工業生産、家計調査、建築着工統計等の結果を受けて、4/28のweeklyエコノミストレターで1-3月期の実質GDP成長率の予測を公表する予定である。現時点では、外需が成長率を押し上げることに加え、民間消費を中心に国内需要も底堅い動きが見込まれることから、前期比年率1%台半ばのプラス成長を予想している。 
     

    (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    【関連レポート】 2017・2018年度経済見通し
    鉱工業生産17年2月~1-3月期は4四半期連続の増産へ、世界的なITサイクルの改善を受けて好調が続く
    家計調査17年2月~プレミアムフライデーが押し上げも、月間の消費支出への影響は限定的
    消費者物価(全国17年2月)~物価の基調は弱いが、コアCPI上昇率は夏場にかけてゼロ%台後半へ
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    経済研究部経済調査室長斎藤 太郎 日本経済
    <![CDATA[「人生100年時代」の到来~長生きを「恩恵・特権」にしていくために]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55558 55558 Thu, 20 Apr 2017 09:48:58 +0900 “人生100年”に関連する言葉を最近よく見聞きする。昨年発刊されメディアからも注目された書籍「LIFE SHIFT(ライフシフト) ~100年時代の人生戦略1」だったり、神奈川県の黒岩知事が進める「人生100歳時代の設計図策定プロジェクト」2、また自民党内に設置された「人生100年時代の制度設計特命委員会」(小泉進次郎氏が事務局長)など、様々な場面で人生100年(歳)という文字を見る。  

    日本人の平均寿命が戦後から延び続けるなか3、人生の長さを表す表現も「人生60年、70年、80年、90年」と移ろい変わってきたわけだが、ついに人生100年の時代まで来たかと改めて思うところがある。確かに、現在でも女性の4人に1人は95歳まで生きられるという推計結果だったり4100歳以上の人口が2050年には約70万人になるという推計結果5、また上記書籍「LIFE SHIFT」の中で紹介されている「2007年生まれの子どもの“半数”が到達する年齢(寿命)が、日本の場合は107歳」という推計結果などを踏まえると、もはや人生90年という表現では足りず、「人生100年」に更新することが適当なのであろう。蛇足になるが、筆者も共同執筆している「東大がつくった高齢社会の教科書(改訂版)」6においても、4年ぶりの改訂作業の中でこうしたことを踏まえながら「人生90年」と表現していた部分をすべて改訂後『人生100年』に洗い替えたところである。

    表現の問題はさておき、考えるべき本質は「人生100年」という人生の長さ(可能性)及びこうした長寿化の実態を、改めて個人また社会(行政や企業等)がどのように受け止め、何を考えていくかということであろう。

    戦後まもない頃の「人生60年時代」と「人生100年時代」を比べれば、人生の長さはほぼ倍、20歳を起点に大人としての人生の長さ(大人生活)で見れば、実に「倍」の長さがある。先人達に比べれば、私たちは倍の人生を楽しめて、また多くのことを成し遂げられる期待を有している。いまを生きる私たちにもたらされた「恩恵・特権」と言えることである。しかしながら、延長した高齢期の生活に不安を抱き、長生きが「厄介」なものとして受け止めてしまう人も中にはいるであろう。人生100年の長寿を「厄介」ではなく「恩恵・特権」として受け止められるようにしていくことが必要である。そのために個人としては、特に延長した高齢期の生活について、100歳までのお金をどうするか、家をどうするか、親や配偶者の介護にどう備えるか、そして、日々何をするか(できるか)、考えるべきことは多い。現実的な生活基盤をどのように構築していくか切実な問題である。ただ、そうしたことを考えるだけでは不安が高まり、何となく下を向いてしまうであろう。不安を抱えながら日々漠然と過ごす生活ではなく、目標に向ってポジティブな人生をおくれるようにするためには、例えば、65歳からの『Wish List(願いごと・やりたいことリスト)』を作成してみてはどうだろうか。すでに行っている人も少なくないと思われるが、「親を旅行に連れて行く」「初恋の人に会いに行く」「夫婦で海外のロングスティを楽しむ」「大学に入り直す」「英語をマスターする」「音楽(楽器演奏)を始める」など、50でも100でも書き上げて、それを満たしながら100歳まで到達できたら、とても素晴らしい人生にならないだろうか。映画「最高の人生の見つけ方」(2007年アメリカ)でも、余命僅かと宣告された高齢男性2人(ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン)が「やりたいことリスト」を作成し、それを実行しながら残された人生を前向きに過ごしていった姿が描き出されている。人生はたった1回であり、その長さが延長したことを最大限「恩恵」として享受するためにも、些細なことではあるがWish Listの作成をお薦めしたい。

    社会(行政、企業等)としても、そのWishに注目してみてはどうだろうか。個人が高齢期に何をしたいのか、何を叶えたいのかを聞くことは、地域の高齢化対策だったり、企業の高齢者向け商品サービス開発の原点になることである。その中には新たなビジネス・アイディアが埋もれている可能性もある。この点、弊社を含む日本生命グループはこの3月に2020年までの中期経営計画を公表したが、「“人生100年時代”をリードする日本生命グループに成る」ことを大きなテーマとして掲げている。人生100年を前向きに生きていくための支援を行っていく方向にある。

    このように個人が抱くWishを社会全体がサポートする流れを創っていければ、長生きを「恩恵・特権」と感じられる未来になると考える。そうした未来の実現を期待している。
     
     
    1 リンダ ・グラットン/アンドリュー・スコット著、池村千秋(訳)、東洋経済新報社、2016年11月発刊
    2 2016年1月の年頭記者会見で発表。「人生100歳時代」を生涯現役で過ごすあり方を探っていくプロジェクトチーム(PT)を庁内に発足させ、現在その設計図の策定を進めている。
    3 1947年当時の日本人の平均寿命は、男性50.06年、女性53.96年であったものが、直近判明の2015年時点では、男性80.79年、女性87.05年まで実に約30年延長した(厚生労働省「完全生命表」「簡易生命表」より)
    4 厚生労働省「平成27年簡易生命表」における「特定年齢までの生存者割合」より
    5 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」。2015年時点の100歳以上人口は約6万人
    6 東京大学高齢社会総合研究機構編/ニッセイ基礎研究所編集協力「東大がつくった高齢社会の教科書~長寿時代の人生設計と社会創造」(東京大学出版会、2017年3月発刊)。一般社団法人 高齢社会検定協会が実施する「高齢社会検定試験」の公式テキスト
    【関連レポート】 高齢者は何歳からか?~求められる65歳からの“意識改革・生き方改革”
    認知症がなくなる日も近い?
    生涯現役促進地域連携事業の本来の意味
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    生活研究部主任研究員前田 展弘 高齢化問題(全般) 高齢化問題(全般)
    <![CDATA[図表でみる中国経済(株式市場編)~日本との相違点及びMSCI問題]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55549 55549 Thu, 20 Apr 2017 14:00:02 +0900
    本稿は、中国経済をこれから学ぼうとお考えの方々を対象に、新聞記事やレポートでは通常前提として省略されることが多い基礎的な経済データを、図表を用いて分かり易く解説し、理解を深めていただくことを趣旨としている。今回はその第十二回目として、「中国の株式市場」を取り上げ、最近の株価の動き、業種構成や投資家構成の日本市場との相違点、MSCI新興国株指数への組み入れ問題を各種の図表を用いて解説している。中国経済に関する新聞記事やレポートを読む上で、その一助となれば幸いである。

    ■目次

    1――中国株は底打ちも上値は重い
    2――業種構成の日本との違いに注意
    3――投資家構成の日本との違いにも注意
    4――MSCI新興国株指数への組み入れ問題中国株は2015年6月から2016年1月にかけて数度に渡る急落を演じて注目を集めたが、その後はじりじりと上昇している。上海総合は2016年1月28日の2655.66(終値)を底に上昇、2017年3月末には底値より約2割高い3222.51(終値)まで値を戻した(図表-1)。景気が持ち直してきたことや、2015年夏に急落原因となった個人投資家の信用買い残高はその整理が進んでおり、新たに年金基金(養老保険基金)の株式投資が始まったことで需給が改善したこと等が背景にある。但し、急落時に買い支えた政府系ファンドが売却に回ったこともあって上値は重かった。2016年度(16年4月~2017年3月)の世界の株価上昇率を見ると、中国の上海総合は他国の株価指数に比べて冴えない上昇率に留まった(図表-2)。なお、深セン総合も2016年度はほぼ同様の値動きだったが、上海総合が2007年10月の最高値(6092.06)を大きく下回る水準であるのに対して、成長株を多く含む深セン総合はそれを上回る水準で推移している(図表-1)。

    2――業種構成の日本との違いに注意

    上海総合の値動きを見る上では日本の業種構成との違いを意識しておく必要がある。上海総合の業種構成を見ると、第1位は金融で34.2%、第2位は資本財・サービスで17.2%、第3位はエネルギーで9.5%などとなっている。日本の東証株価指数(TOPIX)と比べると、上海総合は金融が20.6ポイント、エネルギーが8.6ポイントより多い一方、一般消費財・サービスが11.7ポイント、情報技術が7.7ポイント少ない(図表-3)。こうした業種構成の日中両市場の違いは、国際情勢や経済環境が変化した場合に、株価の反応の違いとして表れてくる。

    また、業種構成は上海市場と深セン市場でも異なる。中国では構造改革が進められており、国有大手銀行やエネルギー関連企業などが強い逆風を受ける一方、今後の主役とされる情報技術、ヘルスケア、消費関連などには追い風が吹いている。深セン総合の業種構成を見ると、追い風の吹く情報技術、ヘルスケア、消費関連が上海総合より多い一方、強い逆風を受ける金融やエネルギーは少ない(図表-4)。従って、今後構造改革が進みだすと、深セン総合は堅調に推移しているのに、上海総合は冴えない値動きが続いているというような現象が見られるかもしれない。

    3――投資家構成の日本との違いにも注意

    投資家構成の違いにも注意が必要である。上海証券取引所の公表資料によると、保有構成では一般法人が59.8%で過半を占めており、個人が25.2%、投資基金が2.9%、滬港通(香港と上海証券取引所の相互接続)が0.5%、その他機関(証券会社(自己勘定)、社保基金、保険資金、資産管理、QFII(適格海外機関投資家))が11.6%となっている(図表-5)。なお、上海証券取引所に問い合わせたところ、滬港通やQFIIを通じた海外投資家の株式保有比率は2%程度とのことだった。

    また、売買構成を見ると、個人が86.9%と大半を占めており、一般法人が2.1%、滬港通が0.6%、投資基金が2.3%、その他機関が8.2%となっている(図表-6)。日本株市場と比較すると、一般法人の株式保有の多さ、機関投資家や海外投資家の株式保有の少なさ、個人の株式売買の多さなど様々な違いがあるが、なかでも特に注目すべき相違点は海外投資家の存在感の薄さだろう。日本では海外投資家が3割の株式を保有し6割の株式売買を担うメインプレーヤーだが、中国では海外投資家は保有も売買も少なく売買のメインプレーヤーはむしろ個人が担っている。なお、中国国家外貨管理局が批准した投資限度額はQFIIで902.64億ドル、RQFII(人民元適格海外機関投資家)で5414.04億元と、上海総合の時価総額の約4%に達しているのに加えて、2014年11月には滬港通がスタートし、2016年12月には深港通(香港と深圳証券取引所の相互接続)もスタートしたため、今後は海外投資家の存在感が徐々に高まってくる可能性もあるだろう。

    4――MSCI新興国株指数への組み入れ問題

    以上のように中国の株式市場は、海外投資家の存在感が極めて薄いドメスティックな市場だが、そこに一石を投じそうなのがMSCI社(Morgan Stanley Capital International)の動向である。同社は例年6月に新興国株指数の組み入れ銘柄を見直すが、今年もその時期が近づいてきた。注目されるのは中国のA株(中国本土に上場する人民元建て株式)を新興国株指数に組み入れるか否かである。昨年は、QFIIの使い勝手の悪さ、不透明な売買停止、新金融商品組成時の事前審査の3点が障害となって、新興国株指数への組み入れは見送られた。今年3月発表されたMSCI社の提案は、組み入れ対象(Universe)を大型株に限定し香港との重複上場銘柄を除外するなど海外投資家にとっての投資しやすさ(Investability)を重視した内容となっている。その結果、組み入れ銘柄数は昨年の448銘柄から169銘柄に絞られており、MSCI新興国株指数に占める比率も昨年の1.0%から0.5%へ引き下げられている。同社はこれをたたき台に投資家の意見を聞いた上で結論を出すことになると見られる。MSCI社が6月にどんな決定をするのか、グローバル株式投資家への影響が大きいだけに注目される。 【関連レポート】 図表でみる中国経済(国際収支編)~資金流出を分析した上で人民元の行方を探る
    図表でみる中国経済(人民元国際化編)
    中国、年金積立金の株式運用が本格始動【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(25)
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    経済研究部上席研究員 ・ 保険研究部兼任三尾 幸吉郎 中国経済
    <![CDATA[【3月米住宅着工、許可件数】着工件数は前月から減少し、予想を下回ったものの、許可件数は前月、予想を上回る結果。]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55550 55550 Wed, 19 Apr 2017 10:28:21 +0900
    住宅着工に先行する住宅着工許可件数(季節調整済、年率)は、126.0万件(前月改定値:121.6万件)と、こちらは121.3万件から上方修正された前月改定値を上回ったほか、市場予想の125.0万件も上回った(図表2、図表5)。住宅着工件数の伸びは、前月比▲6.8%(前月:+5.0%)と前月からマイナスに転じたものの、前年同月比では+9.2%(前月:+7.4%)と4ヵ月連続のプラスとなるなど、回復基調が持続している(図表3)。これは2月までみられた暖冬が一部影響している可能性がある。

    住宅着工件数(前月比)を戸建てと集合住宅に分けてみると、戸建てが▲6.2%(前月:+7.6%)と3ヵ月ぶりにマイナスに転じたほか、集合住宅も▲7.9%(前月:横這い)とマイナスとなった。

    一方、住宅着工件数(前月比)の地域別寄与度は、北東部こそ+1.2%ポイント(前月:▲0.8%ポイント)と前月からプラスに転じたものの、それ以外の地域では、中西部が▲2.3%ポイント(前月:▲1.4%ポイント)、南部が▲1.5%ポイント(前月:▲1.4%ポイント)、西部が▲4.1%ポイント(前月:+8.5%ポイント)と全てマイナスとなった(図表4)。住宅着工の先行指標である住宅着工許可件数は、前月比が+3.6%(前月:▲6.0%)と前月からプラスに転じた。さらに、前年同月比は+17.0%(前月:+4.6%)と15年11月(+19.9%)以来の伸びとなったほか、4ヵ月連続でプラスとなっており、回復が続いている(図表5)。

    住宅着工許可件数(前月比)を戸建て、集合住宅でみると、戸建ては▲1.1%(前月:+3.1%)と前月からマイナスに転じた一方、集合住宅は+13.8%(前月:▲21.0%)と前月の大幅なマイナスからプラスに転じた(図表6)。これまでみたように、住宅着工件数は減少したものの、先行指数である許可件数の増加が続いており、住宅市場の回復が持続していると判断できる。

    また、建設業者のセンチメントを示す住宅市場指数は、4月が68(前月:71)と、前月からは小幅に低下したものの、高い水準を維持しており、景況感は堅調である(図表7)。さらに、足元では長期金利が低下していることも、住宅市場の回復を下支えしよう。 
     

    (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    【関連レポート】 【3月米雇用統計】雇用者数は9.8万人増と、前月から大幅に伸びが鈍化も、失業率は4.5%と07年5月以来の水準に低下。
    【2月米個人所得・消費支出】個人所得は堅調も、個人消費は実質ベースで2ヵ月連続のマイナス
    米国経済の見通し-経済への影響が大きいトランプ政権の経済政策は依然として視界不良
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    経済研究部主任研究員窪谷 浩 米国経済
    <![CDATA[中国、年金積立金の株式運用が本格始動【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(25)]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55547 55547 Tue, 25 Apr 2017 14:40:20 +0900  
    • 中国において、年金積立金による株式運用など、リスク資産への投資が本格始動する。
       
    • 主な目的は、少子高齢化が進む中で、年金積立金を市場で運用し、その収益を活用することで、将来世代の負担が大きくならないようにすることにある。また、もう一方で、機関投資家としてのプレゼンスを向上させ、将来的には市場における機関化の一端を担うことも期待されている。
       
    • 2015年8月、国務院が年金積立金によるリスク資産への投資解禁の意向を発表し、2016年に、運営機関となる「全国社会保障基金」(全国社保基金)の理事会が、運用を受託する21の金融機関、資産管理を受託する4銀行を発表した。
       
    • 全国社保基金は、この間、年金積立金を管理する各地方政府から運用資金を募った。当局である中国人力資源・社会保障部によると、2016年末時点で、7つの省などと合計3,600億元(約6兆円)の運用委託契約を結んでおり、本格始動への準備が整った。

    ■目次

    1-全国社会保障基金が新たに21の運用受託機関・4銀行を選出
    2-運用委託された3,600億元のゆくえ-株式市場への影響は小さい?
    3-年金財政が厳しい地域ほど高まる運用収益率への期待中国において、年金積立金による株式運用など、リスク資産への投資が本格始動する。

    主な目的は、少子高齢化が進む中で、年金積立金を市場で運用し、その収益を活用することで、将来世代の負担が大きくならないようにすることにある。また、もう一方で、機関投資家としてのプレゼンスを向上させ、将来的には市場における機関化の一端を担うことも期待されている。

    2015年8月、国務院が年金積立金によるリスク資産への投資解禁の意向を発表し、2016年に、運営機関となる「全国社会保障基金」(全国社保基金)の理事会が、運用を受託する21の金融機関、資産管理を受託する4銀行を発表した。

    全国社保基金は、この間、年金積立金を管理する各地方政府から運用資金を募った。当局である中国人力資源・社会保障部によると、2016年末時点で、7つの省などと合計3,600億元(約6兆円)の運用委託契約を結んでおり、本格始動への準備が整った。
     

    1-全国社会保障基金が新たに21の運用受託機関・4銀行を選出

    地方政府は、これまで、給付に充てられなかった年金積立金を銀行預金、国債の売買に限定し、自家運用してきた。このような手法は、積立金を安全に運用できる反面、利回りは低く、近年は物価上昇分をカバーできていない年もあった。

    今後、委託運用の運営を担う全国社会保障基金(全国社保基金)は、日本の年金積立金運用独立行政法人(GPIF)とは異なり、年金積立金の運用を専門とする機関ではない。全国社保基金は、将来の年金積立金の赤字を補填する目的で2000年に創設された。管轄する赤字補填金の財源は年金保険料ではなく、国庫拠出金、国有企業の株式売却益、宝くじの収益となっている。運用は、当該基金の理事会が担い、運用先も国内外の株式、証券ファンドなどボラティリティの高い資産への投資や海外投資も行っており、2015年の収益率は15.2%と高い。加えて、年金積立金の運用に関する将来的な規制緩和を視野に、2012年以降、広東省や山東省などからも実験的に運用を受託し、高い利回りを確保している。政府は、このような取組みから、年金積立金の委託運用について新たに独立した機関を設けず、全国社保基金に決定したと考えられる。

    ただし、年金積立金は国民の老後の生活を支える資金であり、その運用は前述の赤字補填金と全く同様というわけではないようである。運用、資産管理の受託機関は、長期的に安全かつ効率的に運用するという観点からも、原則として、これまで企業年金または赤字補填金の受託実績がある金融機関から選出している(図表1)。2015年に発表された投資・運用先などの範囲が企業年金のそれとほぼ同様であることから、運用受託機関には、企業年金の運用実績がある保険会社傘下の資産管理会社や、年金専門の保険会社が選ばれている。今後は、その運用状況に応じて、新たな金融機関の増加も考えられるが、現時点で、海外大手の運用機関を選出していない点や、投資についても海外投資を行わない点など、赤字補填金の運用手法とは一線を画している。各地域で管理している年金積立金を合計すると、2015年末時点でおよそ4兆元(73兆円)に達する。これはアジアで日本に次いで2番目の規模に匹敵するであろう。当局は、このうち、最大で2兆元ほどが運用を委託できるのはないかと推算している。

    第一弾となった2016年は、全国の7つの省などから資金が集まったが、全国の地域数をベースに考えると、運用を委託したのは全体の2割程度にとどまった。年金積立金の収支状況や規模は地域によって大きな格差があり、広東省など積立金のある程度余裕がある一部の地域を除いて、多くは収支が厳しいのが現状だ。

    広東省は、若年の出稼労働者を受け入れ、若年人口の流入が激しい地域である。年金積立金の規模が全国で最も大きく、2015年は6,158億元であった。これは、広東省の年間の年金支給額の4.4年分にあたる。その他の省がおおよそ1.5年分であることからも、その規模が巨大であることがわかる。また、受給者1人を加入者何人で支えているかを示す年金扶養比率は9.74となっており、受給者1人を加入者およそ10人で支えていることになる(全国平均の年金扶養比率は2.87)。一方、年金積立金の規模が最も小さい黒龍省は88億元で、これは同省の年金支給額のわずか1ヶ月分である。受給者1人をわずか1.3人の加入者で支えており、少子高齢化の進展とともに赤字が続き、制度の維持も厳しい状態にある。

    3,600億元について、当局は、どの地域がどれくらい委託したかを公表していないが、報道ベースで確認すると、広西チワン族自治区が400億元、北京市が500億元を拠出しているようだ。また、委託金額は未公表ではあるものの陜西省なども名前が挙がっている。これに、委託運用の実験段階から参加し、2017年まで契約延長をした広東省(2015年は1,000億元)はもとより、山東省(2015年は500億元)の参加も考えられる。

    集まった資金の運用・投資先としては、株式のみならず、その範囲は多岐にわたっている(図表2)。注目される株式関連の投資であるが、純資産の30%までと規定されている。純資産部分が最大で2兆元とすると、最も多くて6,000億元程度まで株式投資が可能となる。しかし、市場の予測としては、当初、上限の30%まで投資される可能性は低いとしている。これまでの保険会社や全国社保基金の運用の傾向性から、運用は12%程度で、最大でも2,400~2,500億元が株式市場に投資されると予測している。これは、上海、深セン両取引所(A株市場)に上場している企業の株式時価総額のおよそ0.5%にあたり、当面、株式市場への影響はそれほど大きくないと考えられている。
     

    3-年金財政が厳しい地域ほど高まる運用収益率への期待

    委託運用の資金をどれくらい拠出するかの判断は、各省などに委ねられている。当局は当初、年金積立金の規模が大きく、資金に余裕のある地域が中心となって拠出をすると考えていた。しかし、いざ募集してみると、広西チワン族自治区や陜西省など、もともと年金積立金の規模が小さく、資金繰りの比較的厳しい地域が参加をしている。

    今般、400億元を拠出した広西チワン族自治区は2015年の年金積立金の残高が456億元であることから、その多くを委託運用に拠出したことになる。2015年の収支をみると、収入479億元のうち、334億元が保険料で、税金による補填が116億元であった。2015年の最終的な支出は471億元であったことから、税金による補填がなければ収支が赤字となっていた。広西チワン族自治区が年金積立金の多くを委託運用した背景には、前掲の広東省や山東省の実験的な取り組みに際して、高い利回りを確保している点が挙げられるであろう(図表3)。今後は、懐事情の厳しい地域ほど運用収益への期待が高く、より多くの資金を委託するという可能性も考えられる。広西チワン族自治区には、元本保証つきの5年契約の案が出されたという報道もあるが、原則として、運用で損失が発生した場合は、全国社保基金が純利益の1%を準備金として積み立てた資金から補填ができるよう制度が設けられている。株式投資など、リスク資産への投資が開始され、今後、市場の運用を通じて収益をどう確保、維持していくのか、アジアで2番目に大きい年金積立金だけに、その動向が注目される。 【関連レポート】 【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(15)偶然か必然か、怪我の功名か。-年金積立金の株式投資解禁へ
    【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(14)「年金積立金」より注目が集まる、「赤字補填金」
    中国保険市場の最新動向(10)理財関連商品への投資増加・・・の裏にあるもの
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    保険研究部准主任研究員片山 ゆき 中国・アジア保険事情
    <![CDATA[欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55546 55546 Thu, 20 Apr 2017 18:42:22 +0900
    欧州大手保険グループの2016年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。

    前回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告したが、今回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。

    ■目次

    1―はじめに
    2―各社のSCR比率や感応度の推移
      1|AXA
      2|Allianz
      3|Generali
      4|Prudential
      5|Aviva
      6|Aegon
      7|Zurich
    3―まとめ欧州大手保険グループの2016年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。

    前回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告したが、今回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
     

    2―各社のSCR比率や感応度の推移

    各社とも、2016年1月からのソルベンシーII制度の実施に向けて、SCR比率の充実や感応度の抑制に向けた対応を行ってきていたが、2016年に入ってからも、着実に営業利益を積み上げることに加えて、劣後債の発行等で資本の充実を図ってきている。

    なお、以下のSCR比率の推移の要因分解は、各社の公表資料に基づいているが、例えば「経営行動(management action)」に何を含めるのか等が、必ずしも統一されているわけではない。さらには、感応度の対象内容やシナリオも各社各様である。

    加えて、要因分解に関する情報提供が行われている時期も必ずしも統一されておらず、各社の情報提供に基づいている。1|AXA
    AXAは、着実に営業利益を計上することに加えて、2016年3月に2047年に満期を迎える15億ユーロの劣後債を発行、2016年9月に8.5億ユーロの無期限劣後債を発行する等して、自己資本の充実を図っている。

    ただし、不利な金融市場環境の影響等で、SCR比率は2015年末から2016年末にかけて8%ポイント低下している。

    感応度については、2014年末から2015年末にかけて、金利感応度を大きく低下させていたが、2015年末から2016年末にかけては、ほぼ横ばいとなっている。2|Allianz
    Allianzは、2016年第1四半期において、市場環境の影響を強く受けたことに加えて、2016年初にモデル変更等を行ったため、自己資本を大きく低下させていた。さらに、上期においては、(1)ソブリンスプレッドや為替変動に対するヘッジ、(2)欧州銀行部門への株式エクスポジャーの軽減、が市場のボラティリティに比較してSCR比率を維持することに貢献した、としていた。

    ただし、年間ベースでは、着実に営業利益を計上することで資本を積み上げたこと(その影響+11%ポイント、以下同じ)に加えて、韓国生命保険事業を2016年12月に売却したこと(+9%ポイント)が大きく貢献して、年間ベースではSCR比率を200%から218%へと18%ポイント上昇させた。感応度については、2015年末に比べて、2016年末は、金利リスクの感応度を11%ポイントへと3%ポイント低下させており、2018年以降さらに低下させる目標である、としている。なお、マイナス金利を認識した場合、2016年末のSCR比率は3%ポイント低下していた、としている。3|Generali
    Generaliも、2016年上期末は市場環境の影響で、ソルベンシー比率を大きく低下させていたが、年末に向けては水準を回復させている。

    特に、会社は、完全な内部モデルの使用に向けて、引き続き監督当局のIVASSと交渉中としているが、2016年にフランスの生命保険事業において内部モデルの適用が認められたことから、SCR比率は大きく改善し、2015年末との比較でも6%ポイント上昇となった。この結果として、会社ベースと監督ベースのソルベンシー比率の差異が2015年末の31%ポイントから2016年末は17%ポインに大きく低下した。

    以下の図表の数値は、会社の内部モデルベースのソルベンシー比率によるものである。こちらは、着実な資本形成を進めたにも関わらず、不利な経済環境やVA(ボラティリティ調整)の算出方法の変更等の影響もあり、2015年末からは8%ポイント低下している。

    感応度については、UFR(終局フォワードレート)を変化させた場合の影響についても開示しており、「UFRを50bps引き下げた場合でもSCR比率は5%ポイントの低下に留まる」ということで、影響が一定程度の水準に収まることが示されている。4|Prudential
    Prudentialも、ハイブリッド資本の発行により、自己資本の積み上げを行ってきており、2016年には6月に10億ドル、9月に7.25億ドルの新規発行を行っている。

    また、上記3社に比べて、2014年末から2016年上期末に向けてのSCR比率が218%から175%へと大きく低下していたが、これについて、会社は、欧州所在の会社とは異なり、「アジアの子会社のリスクマージンのボラティリティを軽減するための経過措置が使用できない」ことが大きな要因であると説明していた。

    ただし、為替の影響等もあり、下期に大きく改善させ、年間ではSCR比率を193%から201%へと8%ポイント増加させた。Prudentialは、ポンド建の業績表示ということもあり、上記3社に比べて、為替による影響を比較的大きく受けている。なお、会社はソルベンシーIIの算出に反映していない経済的資本のソースとして、(1)米国の分散効果、(2)アジアの認識の中止、(3)不動産の株主持分、(4)有配当資本、(5)米国における認められた慣行、を揚げており、これらを加味した場合のソルベンシー比率は240%になるとしている。

    また、地域別にソルベンシー比率をみると、以下の通りとなっている。さらに、移行措置適用による影響は25億ポンドで、SCR比率への影響は20%ポイントであるとしている。5|Aviva
    Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド(2016年末で29億ポンド)、職員年金制度(2016年末で11億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。殆どの重要な完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、と経営は考えている。

    Avivaも、2016年中に営業利益の計上やモデルの変更等で35億ユーロの資本形成を行うことで、市場の影響等のマイナス要因をカバーして、SCR比率を180%から189%へと9%ポイント上昇させた。

    なお、2016年末のソルベンシーIIポジションには、(1)Crédit du Nord(Société Généraleの子会社)との生命保険ジョイントベンチャーであるAntariusにおけるAvivaの株式持分の50%のSogecap(Société Généraleの子会社)への売却(剰余が2億ポンド増加)、(2)税務上の欠損金に関する税控除を制限する英国の税制改正による将来の影響(剰余が4億ポンド減少)、という2つの見積もり調整が含まれている。

    また、2016年には、Friends Life Limited とFriends Life and Pensions Limitedの無配当ファンドを含むように内部モデルの適用範囲を拡大している。6|Aegon
    Aegonは、SCR比率の動向分析を四半期毎に説明している。

    2016年上期末において、英国年金事業の売却とオランダにおいて採られた経営行動により、7%ポイントのSCR比率の改善が見られたとしていた。具体的なオランダにおける経営行動については、「(1)オランダにおける、ボラティリティ調整のより完全な適用、(2)追加的な金利ヘッジ、(3)将来の事業費水準に関連したより低いリスクマージン」と説明していた。また、金利低下による市場の影響は、一部、オランダにおけるスプレッドのタイトニングで相殺されたとしていた。「その他」には、ティアリングの制限、分散化及びFXの影響が含まれていた。

    2016年第3四半期末から2016年末に向けては、信用スプレッドの動きと金利上昇により、SCR比率は3%ポイント改善した。

    ただし、以上の動きを通じて、年間では2015年末の160%から159%に1%ポイント低下した。感応度は、2015年末と2016年上期末では、(1)オランダにおけるALMとヘッジプログラムの変更、(2)英国の年金事業売却、(3)さらなる金利の低下、により、かなり大きく変化したと説明していた。

    AegonもUFRを変化させた場合の影響を開示しているが、2015年末では100bpsの引き下げで、6pts(オランダは18pts)の影響であったものが、2016年末には50bpsの引き下げで、4pts(オランダでは13bps)と、影響度が増加している。なお、地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。7|Zurich
    Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIに同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表している。SST比率は2015年末に、規制の変更等により、低下している。SSTの報告は年1回である。

    ZurichのZ-ECMの目標範囲は、100%~120%となっている。

    資本構造は、2016年末で、株式が73%、ハイブリッド債務が19%、優先債務が9%となっている。Z-ECMはソルベンシーIIやSSTとは異なり、UFRを使用していないことから、金利低下の影響を受けて、2016年上期末に、他社のSCR比率に比べて、割合的に大きく低下していた。ただし、金利が上昇したことに加えて、株式市場の好転や農業再保険会社からの資本送金やモロッコと南アフリカ事業の売却等により、2016年末に向けては、大きく比率を回復させた。感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めている。

    3―まとめ

    以上、欧州大手保険グループの2016年末のSCR比率の状況等について報告してきた。

    今回の決算発表においても、SCRの算出方法等の説明は一定程度行われているが、具体的な内部モデルの説明等についての開示は行われていない。

    加えて、課題とされていた各国監督当局間の整合性の問題も、完全には解決せずに、引き続き未解決のまま残されており、大手会社間の取扱いも統一されているわけではない。

    前回のレポートでも述べたように、5月下旬以降、SCSR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)が作成され、パブリック・ディスクロージャ―資料として、一般に公開されてくることから、より詳細な情報が得られることが期待されている。

    いずれにしても、欧州の大手保険グループを中心とした各社の内部モデル等に基づくSCRの算出方法等については、今後の日本におけるソルベンシー規制やその中での各社のソルベンシー管理等を検討していく上において、大変参考になるものがあることから、継続的にウォッチしていくこととしたい。 【関連レポート】 欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-
    欧州大手保険グループの2016年上期末のSCR比率の状況等について-SCR比率及び感応度の推移等-
    欧州大手保険グループの2015年決算状況について-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-
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    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 欧米保険事情
    <![CDATA[最近の自然災害の状況-災害・防災、ときどき保険(1)]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55548 55548 Thu, 20 Apr 2017 15:13:33 +0900
    起こりうる自然災害には、地震、津波、噴火、豪雨、豪雪といったものがある。自然災害のうち規模の大きなものは、特に命名されたり、災害救助法が適用されたり、自衛隊の災害派遣があったりする。今回は最近の事例を振り返り、次回以降で、こうした災害に対して、事前・事後にどのような対策が講じられるのかをみていく予定である。また、保険・共済の役割についても改めて確認したい。

    ■目次

    1――はじめに
      1|顕著な災害を起こしたことにより、気象庁により「命名」されたもの
      2|「災害救助法」が適用された災害
      3|自衛隊の「災害派遣」があった災害
    2――おわりに我々の日常には、様々な災害がおきている。気象災害や地震・噴火災害など人の手におえないものもあれば、自動車事故や航空機事故、大規模な火災などのように、相当以上に人為的なものもある。あるいは戦乱・テロのようなあえて人間に被害を与えることを目的とするような活動もある。

    いろいろある中で、主に自然災害に対して、日ごろからどういう体制で備えているのか、実際の災害の現場、その後の復旧などの局面では誰がどう対応できるのかを見ていきたい。誰が、というのは、国や都道府県がどのように助けてくれるのか、個人として対応すべきことはなにか、そして保険や共済がどの場面でどう役に立っているのか、といったようなことに触れて行きたい。

    まずは、自然災害といっても、どんなことが過去起こっていたのか、みていくことから始める。

    さっそく最近の気象現象・地震などの発生状況を一覧にしようかと思ったのだが、あまりにも多すぎる!実際、地震についてみると、小規模のものを含めればほぼ毎日、日本のどこかが揺れているということになっている1

    というわけで、一定の規模以上のものに限ることにしよう。
     
    1 地震情報(各地の震度に関する情報) 気象庁 http://www.jma.go.jp/jp/quake/
    1顕著な災害を起こしたことにより、気象庁により「命名」されたもの
    地震や豪雨等の規模、被害が大きい場合には、それを気象庁が命名することにより、

    「共通の名称を使用して、過去に発生した大規模な災害における経験や貴重な教訓を後世代に伝承するとともに、防災関係機関等が災害発生後の応急、復旧活動を円滑に実施することが期待される」(気象庁HPより)

    という考え方がとられている。

    【気象庁が命名した地震・火山現象】2地震の場合には、規模が大きい場合、顕著な被害が起きた場合、群発地震で被害が大きかった場合等、に「元号(西暦年)+地震情報に用いる地域名+地震」という名称をつける、とされている。

    地震の名称については、学術的に適切かという問題は当然あるのだが、それとは別に被害とその対応の点で、印象が変わってくるので議論を呼ぶことがある。直近では、「熊本地震」で本当にいいのか、大分県も震源となったり相当の被害があったりしたではないかという議論があった。(が、結局、変更はされていない。)また兵庫県南部地震の震災のことを阪神・淡路大震災と呼ぶ(閣議決定による。)。そして、東北地方太平洋沖地震の震災は「東日本大震災」である。

    また、たとえば上の表にも「1968年十勝沖地震」というのがあるが、この名前だと、北海道で大きな被害がでている印象が強くなるが、実際には対岸の青森県でも被害は大きかったのである。この場合何が問題になるかというと、政府の対応や義捐金のあて先などが北海道内の市町村に集中してしまい、青森県側では復旧が遅れたというような実態があったとされている。地震の命名、あるいは報道に関しては、実際に復旧に向けた支援に影響があるので、地震のメカニズムや地理の都合だけではない慎重な検討が必要だということになったようである。
     
    豪雨、豪雪、台風のような気象現象については、下の表のようなものが起こっている。

    【気象庁が命名した気象現象】命名されるような大きな規模としては、顕著な被害(損壊家屋等1,000棟程度以上、浸水家屋10,000棟程度以上など)が起きた場合とされ、名称は「その都度適切に判断して」決められている。豪雨災害の場合は、被害が広域にわたる場合が多いので、地震と違ってあらかじめ画一的に名称の付け方を定めることが難しいことによるそうだ。
     
     
    2 顕著な災害を起こした自然現象の命名についての考え方 気象庁HP http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/meimei/meimei.html
    2「災害救助法」が適用された災害
    災害救助法という法律名は、なにか災害があるたびに報道でも耳にすることが多いものだろう。この法律の目的は、

    「災害に際して国が地方公共団体、日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に、応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全を図る」(災害救助法第1条)

    というものであり、避難所の供与、食料・飲料水の供給、医療、被災者の救出、などの救助を行う。最近適用を受けた自然災害と地域(実際は市町村等単位で適用されるが、ここでは都道府県までにとどめた。)は下の表のようになる。

    なお生命保険の場合、災害救助法の適用地域では、保険料払込猶予期間が6か月延長されるなどの救済措置が適用されることが多い3。損害保険ではそれに加え、1年更新の契約が多いからか、契約更改手続きが6か月延長されるなどの措置も適用される。各共済事業や少額短期保険会社でもほぼ同様の対応がなされている。

    【災害救助法の適用(H26年度以降)】
    (内閣府HP4の記載を、筆者が一部簡略化して作成)
     
    3 東日本大震災時の東京都などは災害救助法の適用を受けたものの、大量の帰宅困難者の発生という事情なので、保険料猶予期間の延長対象とはなっていない、といったケースもある。
    4 災害救助法の適用状況 内閣府HP  http://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/kyuujo_tekiyou.html
    3自衛隊の「災害派遣」があった災害
    また、もうひとつ別の見方をあげると、自衛隊法の適用により、災害派遣の要請があったような事例をみてみると、以下のようなものになる。

    自衛隊法では、自衛隊の行動につき定められており、「防衛出動」をはじめ20以上の項目が列挙されているが、その一つに「災害派遣」がある。これについては、

    「都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる、」とされている。
     
    【災害派遣(H26年以降の陸上自衛隊の例)】陸上自衛隊の派遣例をみると、被害が実際にでたというよりは、山林火災の消火活動とか、不発弾処理、鳥インフルエンザ発生時の物資輸送など、自衛隊にしかできない危険な処理とか、一般の人々が被害を受ける地震時の支援に比べて特殊な任務が多いようである。また、海上自衛隊の派遣については、逐一の事例がまとまって公表されてはいないようなので、表にはしなかったが、東日本大震災での救援物資の輸送、海難事故における救出活動や、離島における急患輸送などを年間数百件規模で行なっている。さらに航空自衛隊も、台風・豪雨・豪雪・地震などによる被災地への支援・防疫、遭難者の救出活動、重傷患者の空輸、民家・山林火災の消火など、年間100件以上の災害派遣を行なっている。
     

    2――おわりに

    さて今回は、日本における自然災害のうち、いくつかの視点で「規模の大きな」ものが、これまでどんなものがあったかをみて頂ければよいのだが、ほとんど毎年なんらかの災害が発生しているといってよい。自然災害については、発生する時期の予想や規模などの点で、人の手で完全に克服できるとは思えない。しかし、国や都道府県、自衛隊などの機関の体制整備が相当程度なされており、それは今でも何かあるたびに、被害を教訓とするなどして改善されている途上にあるようだ。大きな災害に見舞われないうちに、次回から、そうした防災体制の整備状況や、あるいはそのひとつとしての保険・共済の役割などについて、改めてみていくことを予定している。 【関連レポート】 地震保険の改定-保険料値上げが続く?
    共済事業・少額短期保険の現状-収支・資産状況を中心として
    日本の生命保険業績動向 ざっくり30年史(1) 生命保険会社数の変遷-バブル前夜から現在までに生まれた会社、消えた会社
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    保険研究部主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任安井 義浩 保険会社経営
    <![CDATA[先週のレポート・コラムまとめ【4/11~4/17】:エレベーターの交通計算(待ち時間と輸送能力)-マンションのエレベーターは何台あれば適正なのか-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55545 55545 Tue, 18 Apr 2017 09:51:54 +0900 年金改革ウォッチ 2017年4月号~ポイント解説:国民年金保険料の引上げが終了
     
    No.9
    取締役会評価についての一考察
     
    No.8
    トランプ政権による保険会社規制への影響について
    -国内・国外(EU、IAIS)問題への対応-

     
    No.7
    ROE至上主義の罠-短命に終わったリキャップCBブーム
     
    No.6
    日銀短観(3月調査)~景況感は幅広く改善したが、先行きへの警戒感は強い▼研究員の眼
     
    新幹線の自由席に乗車して
     -乗客の行き先を明示するステッカーを導入してはどうですか-

     
    「てるみくらぶ」の経営破綻-問われる企業経営者の「責務」
     
    -----------------------------------
    ▼基礎研レター
     
    プレミアムフライデーと休日の格差
     -新しい格差が広がらないようにより慎重な働き方改革の実施を!-

     
    -----------------------------------
    ▼Weeklyエコノミスト・レター
     
    混迷深まるフランス大統領選挙-極右対極左の決選の可能性も浮上
     
    人手不足はどこまで深刻なのか
     
    -----------------------------------
    ▼基礎研レポート
     
    株式市場の展望-米政策期待の剥落で、伸び悩む日本の企業業績と株価
     
    -----------------------------------
    ▼保険・年金フォーカス
     
    欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(1)
     -ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-

     
    EUソルベンシーIIの動向
     -EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(2)-

     
    EUソルベンシーIIの動向
     -EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(1)-

     
    -----------------------------------
    ▼経済・金融フラッシュ
     
    貸出・マネタリー統計(17年3月)~銀行貸出では薄利多売化が進行
     
    【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(4月号)
     ~輸出は4ヵ月連続の二桁増を記録

     
    景気ウォッチャー調査(17年3月)
     ~停滞感強まり、人手不足、仕入れ価格の上昇は先行きの不安材料に~

      No.5
    「受動喫煙防止法」の行方-「無煙社会」を“オリンピック・レガシー”に!
     
    No.4
    国際比較で浮かび上がる日本の財政悪化の原因とは?
     
    No.3
    日本は「円安誘導批判」に耐えられるか~批判の妥当性と考えられる対応策
     
    No.2
    標準利率の引き下げと生保会社の対応-経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制
     
    No.1
    エレベーターの交通計算(待ち時間と輸送能力)
    -マンションのエレベーターは何台あれば適正なのか-



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    発行レポートのカテゴリ一覧は、
    http://www.nli-research.co.jp/report/
    でそれぞれ公開中! 【関連レポート】 先週のレポート・コラムまとめ【4/4~4/10】:天才数学者ラマヌジャン-「奇蹟がくれた数式」を観て
    先週のレポート・コラムまとめ【3/28~4/3】:ROE至上主義の罠-短命に終わったリキャップCBブーム
    先週のレポート・コラムまとめ【3/21~3/27】:海外資金による国内不動産取得動向(2016年)~アベノミクス開始以前の状況に後退
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    エレベーター
    <![CDATA[「人口統計」にみる時代の変化-「統計データ」を“深読み”する]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55544 55544 Tue, 18 Apr 2017 09:47:54 +0900 *。50年後には人口が大幅に減少し、「働き手」が激減することは明らかだが、われわれはこの推計結果をどのように読み解くべきだろうか。

    「人口統計」をみると、50年前の高齢化率は6.3%、2015年現在26.6%になり、50年後には38.4%に達する。これまで日本社会の高齢化がいかに急速で、今後も高齢化が進むことがわかる。しかし、この半世紀の間に高齢者をめぐる社会経済環境は一変し、さらに今後半世紀の間にも大きく変化するだろう。その時、65歳以上を高齢者とする年齢区分が果たして妥当なものなのだろうか。

    今年1月、日本老年学会が高齢者の定義を65歳以上から75歳以上に引き上げる提言をまとめた。平均寿命が大幅に延び、加齢による身体的機能の変化の出現が遅くなるなど、高齢者の状況が著しく変わったからだ。現在の年金などの社会保障制度も、高齢者を65歳とすることを前提にしたものだが、雇用延長などで65歳以降も働く人が増え、その見直しが必要になるだろう。

    また、15歳から64歳を「生産年齢人口」というが、今の日本では高等学校等への進学率がほぼ100%に近づき、18歳までは生産年齢人口とは言いがたい状況だ。高等教育を受ける人が増えて就学期間が長くなる一方で、高齢化により就労期間が延び、統計上の生産年齢人口も現実的には5歳引き上げて20歳から69歳と考えた方が実態に即しているのではないだろうか。

    同研究所資料集によると、2015年の「50歳まで一度も結婚していない人の割合」である生涯未婚率は、男性23.4%、女性14.1%で、近々男性の4人にひとりは生涯独身ということになる。しかし、結婚の形が多様になり、事実婚や同性婚のような家族像を描く人もいる。50歳以降の初婚件数も増えており、今後も50歳まで未婚の人を「生涯未婚」と定義することが適当だろうか。

    「人口統計」はあくまでも人口データを提供するものだ。ライフスタイルの多様化の中、それを基にどのような社会像を描くかが重要だ。少子高齢化、人口減少、世帯の縮小など、半世紀後の高齢者や家族の概念は大きく変化し、今後の政策決定に大きな影響を与える。長期時系列データは社会構造の変化を浮き彫りにすると同時に、統計指標自体の時代状況との乖離が新たな時代の変化を映し出す。われわれは、「統計データ」を“深読み”することが求められている。
     
     
    * 「出生中位、死亡中位」推計による。
    【関連レポート】 一億総活躍社会の「働き方」-「生産性向上」、「長寿化社会」、「共働き社会」の実現に向けて
    高齢者は何歳からか?~求められる65歳からの“意識改革・生き方改革”
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    社会研究部主任研究員土堤内 昭雄 ライフデザイン ライフデザイン
    <![CDATA[新幹線の自由席に乗車して-乗客の行き先を明示するステッカーを導入してはどうですか-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55538 55538 Mon, 17 Apr 2017 19:47:35 +0900
    実はこの前の春のお彼岸に実家の浜松に帰省した。この時に東京駅始発であるにも関わらず、東京駅発の「ひかり」号で自由席に空席が無く、三島駅までの45分間立っていかざるをえない経験をした。計画性がないといってしまえばそれまでだが、基本的にはこれまでこの時期にこれほどの混雑を経験したことがなかったので、若干驚いてしまった。東京駅から乗車した私でさえ、このような状態だったので、品川駅や新横浜駅からの自由席の乗客はやはり立っていかざるを得ない状況だった。

    いずれにしても、自由席で立ちながら、三島駅では是非席を確保したいものだと思っていた。もし三島駅で席を確保できなければ、さらに静岡駅まで22分間立っていかざるをえなくなるが、それは勘弁願いたいと思っていた。幸いに、私が立っていた前の席の人が三島駅で下車したので、席を確保することができた。さらに、静岡駅で多くの人が下車したので、静岡駅以降は、少なくとも私が乗車していた車両で立っている人はいなくなっていた。

    実は、こうした経験は、年末年始の繁忙期に実家の浜松から東京に帰ってくる際に、何度か経験していた。浜松駅に停車する「ひかり」号は1時間に1本のため、指定席を確保していないと、浜松駅では自由席に座れないこともたびたびある。ただし、次の静岡駅で下車する人が多いため、通常は静岡駅で席を確保できることが多かった。前置きが長くなったが、自由席で立っている時に、いつも思うのだが、自分の周りにいる席の人がどこで下車するのかがわかれば、本当にありがたいことだと思う。その人の前に立っていれば、その人が下車する際に自分の席を確保できることになる。いつ座ることができるかの将来を予測できることで、立っていてもあまり疲れを感じないような気もするだろう。さらには、運悪く、自分より後の駅から乗車した人が席が確保できたのに、自分は引き続き立ち続けなければならない状況になったときの何ともやるせない思いを経験することもなくなるだろう。ということで、「自由席では、自分の下車駅を示すことになるステッカーを前の席のシートに貼るというような制度を導入してはどうか」と思った次第である。これにより、自由席で立っている人がどの席がどの駅で空く可能性があるのかを知ることができるようになる。

    ステッカーは、窓口で切符購入時に窓口の職員からもらう形にする。自動販売機等で購入した人のためには、どこかにステッカーのためのボックスを置いて、乗客が自分の下車駅のステッカーを持っていくようにする。座席に座ったら、そのステッカーを自分の前の席のシート(最前列の場合には、自分の席のシート)に貼り付ける。

    ただし、こうすると、自分の行き先が他の乗客にわかる形になってしまうので、プライベートな情報が開示されるような感じで拒否したい人もいるかもしれない。その意味では「ステッカー貼り」は強制ではなく、あくまでも自発的なルールとすることが考えられる。

    さらには、コストや実質的な必要性から、このような取扱いは、ピーク時(年末年始、ゴールデンウィーク、お盆、春・秋のお彼岸時、シルバーウィーク等)のみに限定することが適当と考えられる。鉄道会社の観点からは、ステッカーを導入することは確かに新たな負荷になるかもしれないが、これにより乗客の満足度が増し、サービスのレベルが上昇したと感じられるようになるのではないか。

    本当は、自由席で座っている人に、どこで下車するのですか、と聞いて回ればよいのだが、日本人はシャイなので、なかなかそのようなことはできない。以前一度そのような男性に巡り合ったことがあるが、家族のために空きそうな席を探し回っており、いい意味で感心させられた。聞かれた人も何となくプレッシャーを感じてしまうし、自ら「私はどこどこの駅で降ります。」と言う人もあまりいない。精々、次の停車駅が近づいてきた時に、近くに立っている人に「私は次の駅で降りますので、この席は空きますよ。」と言ってくれる人がいるくらいだろう。

    しかし、自分の下車駅をステッカーで示すというルールができれば、多くの人が他の乗客のことも考えて、抵抗感もなく行えるのではないかと思われる。なお、下車する時には、ステッカーをはがしていくことも忘れないことが大切になる。欧州の列車に乗車していると、指定席と自由席の車両が必ずしも分かれているわけではなく、両者が1つの列車の中に並存している。車両の席の上や、コンパートメントの入口に、どの駅からどの駅までは指定席になっている、という情報が示されている。乗客は、自分の乗車区間において、指定されていない席に座ることになる。ただし、このシステムだと、長距離の区間を利用する場合において、自分が座っていた席が、乗車時には指定席ではなくても、急にある駅から指定席になったりするリスクもあるような気もしているが、その点がどのようなシステムになっているのかはよくわからない。

    いずれにしても、欧州ではこのようにある程度乗客の行き先を示すことが行われており、そのこと自体はあまり問題がなく行われているように思われるが、いかがであろうか。「ステッカー貼り」が必要な時期やルートや時間帯は限定されるかもしれないが、少なくともこのような仕組みの導入を有難く思う人はかなりいるのではないか、と感じた次第である。

    本当は、ピーク時には前もって計画的に指定席を取得しておくのが筋であり、仕事等の用事もそれに合わせて計画的にこなしていくことが望ましいが、なかなか自らのスケジュール通りにならないケースもあり、計画的な取得ができないケースも多い。是非このような制度の導入を検討していただきたいと思ったものである。実はこんなことをしなくても、東京駅の始発であれば、他にもいくつか採りうる手段があると言われてしまいそうだ。具体的には、

    (1)「ひかり」号ではなくて、「こだま」号を利用すればよい。
    浜松駅なら、「ひかり」号を利用する場合に比べて、30分程度時間がかかるが、空いている可能性が高くなると思われる。

    (2)次の列車を待てばよい。
    ただし、浜松駅に停車するのは、「ひかり」号の一部(1時間に1本)と「こだま」号に限られる。

    (3)早めにきて、並んだらよい。
    その通りなのだが、時間を有効活用しようと思うと、どうしても駅に到着するのが発車時間の間際になってしまう。

    結局は、時間に追われてしまっているという悲しい性なのかもしれない。実家に帰るときぐらいは、余裕をもっていくのが、本来望ましい姿であると言われれば、返す言葉も無い。

    いずれにしても、これらの手段は、始発駅だから考えられる方策であり、途中乗車する場合には採りえない方策である。

    なお、自由席に座れる確率を高めるためには、いくつかの方策があるようだ。

    (1)「ひかり」号の自由席は1号車から5号車であるが、新幹線は車両によって座席数が異なっている。1号車は運転席があり、奇数号車はトイレや喫煙所があるため、座席数が少なくなっている。従って、駅のホームで同じ人数が並んでいるならば、2号車か4号車に並ぶと座れる確率が高くなることになる。

    (2)自由席で座れなかった場合に、途中の停車駅で席を確保するためには、車両の中央に立つことが望ましい。これによって、確率的には四方の席が空く可能性を享受できることになる。中央に立っていることは何となく気恥ずかしい気がするので、日本人は連結部のデッキに立つ人が多い。

    是非参考にしていただきたいが、多くの人がこうした事実を認識すると、その有効性も失われてしまうことになるかもしれない。 【関連レポート】 エレベーターの交通計算(待ち時間と輸送能力)-マンションのエレベーターは何台あれば適正なのか-
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    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 消費者行動 乗り物
    <![CDATA[欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55539 55539 Mon, 17 Apr 2017 13:03:43 +0900
    欧州大手保険グループの2016年決算の発表が2月から3月にかけて行われており、それに伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。今回は、各社の2016年末のSCR比率の状況等について、SCR比率の水準やその感応度及び2014年末から2016年末にかけての推移等を2回のレポートに分けて報告する。

    今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告する。

    ■目次

    1―はじめに
    2―欧州大手保険グループのSCR比率の推移
    3―各社のSCR比率、内部モデルの適用状況、自己資本、SCRの内訳等(全体像)
    4―各社のSCR比率、内部モデルの適用状況、自己資本、SCRの内訳等(項目毎)
    5―まとめ(中間)欧州大手保険グループの2016年決算の発表が2月から3月にかけて行われており、それに伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。今回は、各社の2016年末のSCR比率の状況等について、SCR比率の水準やその感応度及び2014年末から2016年末にかけての推移等を2回のレポートに分けて報告する。

    今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告する。
     

    2―欧州大手保険グループのSCR比率の推移

    欧州大手保険グループのSCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))の2014年末から2016年末の推移については、下記の表の通りとなっている。なお、ZurichはソルベンシーIIの対象ではないが、参考のためスイスの制度に基づく数値等を掲載している。この表によれば、例えば、2014年末から2015年末にかけては、AXA、Allianz、Generali(会社)の比率が上昇したのに対して、Prudential の比率は大きく低下した。一方で、2015年末から2016年末にかけては、AXAの比率が低下したのに対して、AllianzやPrudentialの比率は上昇した。Aviva(会社)の比率は2014年末から2015年末にかけて若干上昇し、2016年末も上昇した。Aegonの比率は2015年末から2016年末にかけて若干低下した。

    このように、SCR比率の推移は、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、一律ではなく、必ずしも市場環境に応じて同一のトレンドを示しているわけではない。

    さらには、(1)各社の生保と損保等の事業や地域別の構成比率の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている、(2)事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている、(3)規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの変更を実施している会社もある、等の理由から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができない、ことには注意が必要になる。

    3―各社のSCR比率、内部モデルの適用状況、自己資本、SCRの内訳等(全体像)

    まずは、各社のSCR比率や内部モデルの適用状況等の概要や自己資本やSCRの内訳を、次ページ以下の図表の通りにまとめている。

    大手保険グループについては、内部モデルを使用することにより、グループ全体でのSCRを有意なレベルで軽減することができることから、各社とも内部モデルを使用している。

    この図表から見てとれるように、欧州の大手保険グループの間でも、SCRの算出方法等が統一されているわけではない。そのため、表面上のSCR比率の水準だけを比較することは必ずしも適切とはいえないが、各社のSCR比率の算出方法等の考え方を比較してみることは、一定意義があるものと考えられる。(1)SCR比率
    SCR比率の目標範囲については、AllianzとAXAは200%をベースに設定している。Generaliは経営行動を起こす下限水準のみを公表している。Prudentialはセグメント毎に目標を設定している。AvivaはWorking Rangeという名称で水準設定している。Aegonの目標範囲が他社に比較して低いのは、オランダにおいて各種の長期保証措置の適用を行っていないこと等が1つの要因となっている。

    以上のように、監督規制上のソルベンシーへの対応方針は各社各様となっている。

    (2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況)
    Allianz、Aviva及びAegonが部分内部モデルを使用している、としている。なお、完全モデルとはいっても、銀行業務等については、適用可能な規制制度に基づいて算出している。完全モデルと部分モデルの区分けは必ずしも明確でない部分もあるが、ここでは各社の公表内容等に基づいている。

    内部モデルの適用対象については、母国に加えて、欧州の主要国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めているケースが多い。米国については各社とも同等性評価に基づいている。ただし、米国子会社の資本要件のSCRへの反映方法である「転換率」1については、150%~300%と幅がある形になっている。

    (3) SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
    ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる経過措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置2の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。ここでは、基本的には母国市場での適用状況だけを示しているため、この図表に記載されている内容だけでは、適正な比較はできない面もある。

    (4)自己資本の内訳
    ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類3され、 それぞれについて算入制限が設定されている。具体的には、「Tier1(無制限)は無制限、Tier1(制限付)はTier1全体の20%未満、Tier3 はSCRの15%未満、Tier2とTier3の合計でSCRの50%未満」となっている。

    各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうちTier1の自己資本が7割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度を占めている。

    Tier3は、繰延税金資産等が含まれている。

    なお、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用している。

    (5)SCRの内訳
    SCRのリスク別及び地域別内訳の開示内容については、各社の事業構成等を反映する形で、その方式が異なっている。

    リスク別では、各社とも信用リスクのウェイトが高い。ここで、表の「信用」に、(1)デフォールト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要である。

    生命保険と損害保険のウェイトが共に高いAXA、Allianz、Generaliにおいては、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。なお、PrudentialとAegonは生命保険事業が中心であるが、長寿リスクを1つの項目として挙げており、その割合も1割から2割程度と有意な水準になっている。

    株式や金利のリスクはともに、各社における構成比が1割程度となっている。

    オペレーショナル・リスクについては、各社とも数%程度の構成比となっている。

    地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
     
    1 米国RBCのCAL(会社行動水準:Company Action Level)の何%がソルベンシーIIによるSCR比率の100%に相当するのかを示す率
    2 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)~(4)-EIOPAの報告書の概要報告-」(2017.1.10~2017.1.16)を参照していただきたい。
    3 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産 等である。
     

    5―まとめ(中間)

    以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告してきた。

    ただし、決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものではない。今後SCSR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)が作成され、監督官庁への提出締切りが、単体で2017年5月20日、グループで2017年7月1日となっている。

    これらは、パブリック・ディスクロージャ―資料として、一般に公開される報告となっていることから、より詳細な情報が公開されていくことになる4

    次回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
     
    4 なお、今回のレポートの中では記載していないが、各社のSCR比率計算の前提等に関する追加的な情報については、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2015年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」 (2016.4.12)及び「保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年上期末のSCR比率の状況等について-SCR比率及び感応度の推移等-」(2016.10.11)を参照していただきたい。
    【関連レポート】 欧州大手保険グループの2015年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-
    欧州大手保険グループの2016年上期末のSCR比率の状況等について-SCR比率及び感応度の推移等-
    EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの報告書の概要報告-
    EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの報告書の概要報告-
    EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの報告書の概要報告-
    EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの報告書の概要報告-
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    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 欧米保険事情
    <![CDATA[混迷深まるフランス大統領選挙-極右対極左の決選の可能性も浮上]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55529 55529 Mon, 17 Apr 2017 11:24:50 +0900
  • 今月23日に第1回投票が迫るフランス大統領選挙の混迷の様相が深まっている。
     
  • 5月7日の第2回投票(決選投票)は、中道のマクロン候補と極右の国民戦線のルペン候補の対決となりマクロン氏が勝利する見通しだ。しかし、左翼党のメランション候補の支持の急伸で、極右対極左の決選の可能性が浮上するなど、結果は予断を許さない。
     
  • 主要な候補者の公約は結果を占う上でも、経済や金融市場に及ぼす影響を考える上でも重要だ。ルペン対マクロンの決選投票は「愛国主義対グローバリズム」という対立軸が強調されるおそれがある。都市対農村、エリート対非エリートの様相もあるが、世代間の対立という傾向は強くはない。年齢層による濃淡ないことはマクロン氏の強みだ。
     
  • 市場は、愛国主義とEUやユーロの離脱を掲げるルペン大統領の誕生を警戒しているが、法と議会が壁となるため、公約を直ちに、そのままの形で実現することは難しい。
     
  • 「EUの残留か離脱かを問う国民投票」のカードをちらつかせながら、EUにフランスに有利な条件を引き出すことを、当面の目標とするだろう。ドイツとともに統合の枠組み作りを担ってきたフランスが、次々とEUの政策に反旗を翻し、主権の奪還を求めるような事態となれば、EUは立ち行かなくなるおそれがある。
     
  • トランプ氏の勝利後の株高、ドル高、金利高というトランプ・ラリーのようなルペン・ラリーはあり得ない。世界や日本の経済への持続的な影響もないだろう。
  • ■目次

    ・異例ずくめの展開続く。極右対極左の決選の可能性も浮上
    ・第2回投票はルペン対マクロン。マクロン勝利の見通し。だが結果は予断を許さない
    ・非主流派でも立ち位置は異なるルペン氏とメランション氏
    ・ルペン対マクロンの決選投票は「愛国主義対グローバリズム」の対立軸強調のおそれ
    ・都市対農村、エリート対非エリートの様相も
    ・マクロン支持は年齢層が幅広い
    ・ルペン大統領でもEU・ユーロ離脱は直ちには実現しない
    ・反EUのフランス大統領の誕生でEUは立ち行かなくなるおそれ
    ・ルペン・ラリーはあり得ない。過剰債務国にも圧力が及ぶ
    ・EU、ユーロ離脱が具体性を帯びない限り、世界や日本の経済への持続的な影響はないフランス大統領選挙は、これまで異例ずくめの展開が続いてきたが、今月23日の第1回投票を前に、混迷の様相が益々深まっている。

    第1回投票で過半数を超える候補者が現れなかった場合、上位2名で争われる5月7日の第2回投票が、極右対極左の決選となる可能性まで浮上してきた。昨年12月の右派の予備選直後は最有力候補と見られながら、妻や子への議員秘書としての給与の不正支給疑惑で伸び悩んでいた右派の統一候補・フィヨン候補が失速。その後は、極右・国民戦線の党首・マリーヌ・ルペン候補と前経済産業デジタル相で中道のエマニュエル・マクロン候補の決選になると想定されていた。今も、トップがルペン氏、第2位がマクロン氏と上位2名の顔ぶれは変わっていないが、4月4日の第2回テレビ討論以降、微妙に風向きが変わり、ともに勢いは鈍っている(表紙図表参照)。

    台風の目となっているのは、2008年に社会党を離党した左翼党・党首で共産党の支持を受けるメランション候補だ。3月半ばまでは支持率で5番目の候補だったが、以後、急伸し、IfopとFIDUCIAL(以下、特記しない限り調査データは同社のもの)の第1回投票に関する最新の世論調査では支持率19%でフィヨン氏と並んだ。

    メランション氏躍進の背景には、オランド政権の低支持率が象徴する与党・社会党への支持者の失望と社会党の分裂がある。社会党は今年1月の予備選で左派色の強いアモン候補を選出したが、支持率の低下傾向が止まらない。社会党の予備選でアモン氏に敗れたヴァルス前首相やルドリアン国防相など社会党の有力者が中道のマクロン支持を表明している。世論調査でもマクロン氏が社会党の支持者からアモン氏以上に支持されていることが確認できる。マクロン氏は、中道の民主主義運動・バイルー党首の支持を受け、右派のフィヨン氏の伸び悩みからも追い風を受けてきた。他方、より左派色の強い政策を好む社会党の支持者はメランション氏に流れているようだ。

    極右対極左の決選の可能性も浮上するほど、失業やテロ対策に有効な手立てを打てなかったフランスの既存の政治、政党、政策への不信は深刻だ。
     

    第2回投票はルペン対マクロン。マクロン勝利の見通し。だが結果は予断を許さない

    ここにきてマクロン氏がやや失速気味とは言え、第2回投票がルペン対マクロンとなった場合、マクロン候補が勝利という結果は変わっていない。だた、2月7~8日のピーク時は、マクロン氏の支持率62%に対してルペン氏は38%と24%の差が開いていたが、直近は、58.5%対41.5%で差は17%まで縮まっている。

    とは言え、第1回投票から第2回投票で、ルペン氏が得票率を伸ばす見通しであること自体、ルペン氏の父で、国民戦線の初代党首のジャン=マリー・ルペン氏が、当時現職の大統領だった右派・共和国連合のシラク氏に大敗した時と明らかに違う。2002年の大統領選挙では、主流派の政治勢力が極右の大統領阻止で結束したため、ルペン氏の得票率は第1回投票の16.9%に対して、第2回投票でも17.8%と殆ど伸びなかった。

    これに対して、今回は、第1回投票でフィヨン氏を支持するが、第2回投票がルペン対マクロンとなった場合には、40%がマクロン、31%がルペン支持に回ると答えている。メランション氏の支持者では、43%がマクロン、15%がルペン、アモン氏の支持者では69%がマクロン支持に回り、ルペン氏は5%に過ぎない(図表1)。

    但し、世論調査を信頼し過ぎるのは禁物だ。そもそも、IfopとFIDUCIALの支持率の調査は投票の意思がある人だけを対象としている。投票日が近づくに連れて、棄権の割合は低下しているが、それでも最新調査で31%を占める。メランション氏の支持率の急伸は、棄権の割合の低下とともに進んだ。今後の変動の余地はなお大きいと見るべきだ。図表2の第2回投票に関する調査でも、いずれの候補についても「棄権」や「わからない」と答えた割合が高い。マクロン対ルペンの17%という票差は圧倒的な優位を示すものとは言えない。

    世論調査では、2回の投票を終えた後の、大統領選挙の結果に対する予測でも、マクロン氏の勝利が35%とリードしているが(図表2)、3月下旬の40%前後からやや後退している。ルペン氏勝利を予測する割合はマクロン氏に次いで高いが、15%に過ぎない。「わからない」という答えが21%という高い割合を占めており、結果は予断を許さない。マクロン氏は、経済産業デジタル相を務めたものの、政治経験は豊富とは言えず、与党・社会党内の亀裂やフィヨン氏のスキャンダルという敵失で最有力候補に浮かび上がった面もある。右派、左派、中道の支持を広く集めているものの、支持基盤は盤石と言う訳ではない。

    世論調査で各候補への投票の意思を表明した中で「支持を変えない」と答えている割合は、ルペン氏の84%で支持が固い。フィヨン氏が80%と続く。マクロン氏は68%と両者に見劣りする。メランション氏も68%と浮動票に支えられている面がやはり大きい。
     

    非主流派でも立ち位置は異なるルペン氏とメランション氏

    主要な候補者間の公約は、第2回投票での勝敗を占う上でも、大統領選挙の結果が、経済や金融市場及ぼす影響を考える上でも重要だ。

    図表3には、第1回投票の世論調査で上位の5候補について、フランスのル・モンド紙が、今回の大統領選挙の候補者の公約の傾向を8つのカテゴリーについて分析した記事を基に示した。

    図表1のとおり、第2回投票でルペン候補支持に回る割合は、第1回投票でフィヨン候補に投票する層で最も高い。極右のルペン氏と右派のフィヨン氏は、同性婚や生殖医療など社会政策面での保守主義や、多文化主義への慎重な立場、国家のアイデンティティーの重視などで類似した傾向があるからだろう。フィヨン氏の支持者のうち、財政規律や自由主義的な経済政策を尊重する、あるいはEU離脱やユーロ離脱などを望まない有権者は、ルペン氏よりもマクロン氏の支持に回るものと思われる。

    左派のアモン、極左メランション候補からは、ルペン氏よりもマクロン候補に票が流れやすいのは、多文化主義に肯定的で、社会政策面では改革主義の傾向がルペン候補よりも強いからだろう。公共サービスの増強や、社会保障、経済政策といった面では、本来は、格差の是正、地方や弱者支援の強化を掲げるルペン候補の方が、マクロン候補よりも、アモン、メランション両候補に近い。メランション候補は、既存の政治を批判する立場はルペン氏と同じだが、国民戦線を人種差別的、排外主義と批判する。既存の政党や政治への不信感は強く、新自由主義に抵抗があるが、排外主義ではない有権者の受け皿になっていると思われる。

    メランション氏はEUに懐疑的だが、ルペン候補にように「離脱ありき」という立場ではない。自由貿易と競争を促進する新自由主義的な政策を推進し、民主主義や市民生活を脅かしており、抜本的な改革が必要という立場だ。メランション氏は欧州議会の議員であり、左翼党は欧州議会でスペインのポデモスやギリシャのシリザとともに社会主義・共産主義の会派「欧州統一左派・北方緑の左派同盟グループ」に属する。左翼党のHPには、連携する各国の欧州議会議員らと共に今年3月に開催した「プランBサミット」の声明文が掲載されている。そこには、EUへの改革の提案が掲載されている。ECBが金融政策の目的を物価安定から完全雇用に改革し、EUの均衡財政ルールは撤廃、新たな政府債務は共有化し、新自由主義的政策と非民主主義的な財政緊縮よって積みあがった過剰な政府債務から市民を解放するための協議の場を設ける。経済政策の調整を図り、重商主義的傾向の強い政策を改めるといったものだ。こうした抜本的な改革(プランA)が実現出来ないのであれば、ユーロを守ることよりも市民を守ることを優先すべきとして、ユーロを解消し、各国通貨を再導入し、協調体制に戻るプランBの選択もやむを得ないという立場を表明している。
     

    ルペン対マクロンの決選投票は「愛国主義対グローバリズム」の対立軸強調のおそれ

    第2回投票が、現時点での世論調査の結果通り、ルペン対マクロンとなった場合、「愛国主義対グローバリズム」という対立軸が強調されるおそれがある。

    マクロン氏は、EUの成果は大きく、EUが弱体化すれば、フランスはグローバルな脅威に単独で向き合わなければならなくなると主張する。EUとユーロ圏の問題に、域外国境管理やユーロ圏予算の創設など統合を深める解決策を提案する。

    他方、ルペン氏は、愛国主義の立場から、様々な領域でのEUから主権を取り戻すことを主張する。144項目の大統領選挙の公約のトップに掲げるのは残留か離脱かを問う国民投票の実施だ。EUが、フランスの独立性を尊重し、国家の主権を守り、フランス国民の利益にかなうよう交渉をした上で、民意を問うというもので、英国のキャメロン前首相の15年の総選挙での公約と重なる。

    ルペン氏の144項目の公約には、他にも昨年6月の英国の国民投票で離脱派が主張したEUから「コントロールを取り戻す」を思い起こさせる約束が並ぶ。域内の人の自由のための「シェンゲン協定からの離脱」、フランス企業の競争力回復のための自国通貨の復活、EUの企業規制や銀行規制からの解放、農業政策の権限やEU予算からの財源の奪還などだ。ルペン対マクロンの対決は、「都市対地方」、「エリート対非エリート」の様相を帯びるおそれもある。マクロン氏は、都市部、高学歴者、ルペン候補は、地方在住、高等教育以下の学歴の支持の割合が高い。これらも英国の国民投票や、米国の大統領選挙でも見られた構図でもある。

    国民戦線は、15年12月の地域圏(州)議会選挙の第1回投票では、13の地域圏のうち6つの地域圏で第1党になった。結局、第2回投票では、社会党が国民戦線の勝利を阻止するため、立候補者の擁立を取りやめたことなどで、全13地域で国民戦線が第1党になることは阻止されたが、第1回投票で第1党となった6つの地域圏は国民戦線が支持基盤とする地域と見てよいだろう。かつて工業地帯として栄えた北東部や、地中海に面する南部は、他の地域よりも失業率が高い(図表5)。グローバル化による繁栄から取り残された地域、移民の脅威を感じやすい地域と言えるだろう。

    ルペン氏が掲げる愛国主義は、グローバル化やEU内の競争からの不利益を感じる有権者の心に響く。

    マクロン支持は年齢層が幅広い

    ルペン対マクロンは、世代間の対立という傾向は強くはない。

    図表5には、第1回投票に関する世論調査で支持率上位5候補について、年齢層別の支持率を図示した。マクロン氏は年齢層による支持率の濃淡がない。最有力候補である最大の理由だろう。

    ルペン氏は、若年層(18~24歳)でやや低く、高齢層(65歳以上)ではさらに支持が落ちる。EUやユーロとともに育った若い世代にはEU離脱などの公約が、高齢層には極右のイメージが、支持の広がりの妨げとなっていると思われる。

    フィヨン氏は、高齢層(65歳以上)では全体の38%と圧倒的な支持を集めるが、それ以下の年齢層、特に若年層で支持が広がらない。

    他方、若年層の人気が際立って高いのがメランション氏だ。「Le France Insoumise(不服従のフランス)」という政治運動を立ち上げ、ソーシャル・メディアを積極的に活用することで若年層への浸透に成功した。しかし、年齢層が上がるに連れて支持率は低下する傾向がある。決選投票の進出を阻む要因となりそうだ。
     

    ルペン大統領でもEU・ユーロ離脱は直ちには実現しない 

    市場は、愛国主義とEUやユーロの離脱を掲げるルペン大統領の誕生を最も警戒しているが、法と議会が壁となるため、公約を直ちに、そのままの形で実現することは難しい。

    EUの加盟か離脱かを問う国民投票も、実施の前にEUと加盟条件を交渉するプロセスが必要になる。法案に関する国民投票は、憲法第 11 条の規定が適用され、大統領の権限で実施可能だ。しかし、EUの加盟の是非を問う国民投票には、EUに関する憲法第88条の改正も必要という解釈があり、その場合は、憲法第89条の規定が適用され、議会の上下両院の賛同が必要だ。現在、国民戦線の獲得議席は、下院(国民議会)の577議席中2議席、上院(元老院)の348議席中2議席だけだ。下院の選挙は、大統領選挙後の6月11日、18日に予定されている。有効投票の過半数かつ登録有権者の4分の1以上を獲得した候補者がいなければ、第1回投票で12.5%以上を得票した候補者のみで第二回投票を行い、第1位となった候補者が当選する。議会選挙においても第1回投票で他の候補に投票した票の受け皿となれるかどうかが鍵となる。国民戦線が一気に議席を増やすことは困難だ。

    ルペン氏の144の公約には、下院の選挙制度をボーナス議席付きの比例代表制への改革や国民投票制の導入などが盛り込まれている。いかに現在の選挙制度での議席獲得や公約の実行が難しいかの表れでもある。

    とは言え、現行の第5共和政憲法では大統領の権限は大きく、首相の任命権を政府の構成員の任命権を持ち、下院の解散権も有する。公約の実行は困難を伴うだろうが、大統領の方針を議会がブロックし続けることも難しい。公約をそのままの形でないにせよ、何らかの形で実現するような妥協の余地を探ることも求められるだろう。
     

    反EUのフランス大統領の誕生でEUは立ち行かなくなるおそれ

    ルペン氏の公約からは、人の移動の自由や、主権を制限するEUの様々なルールへの不満が伺われるが、EUには様々なベネフィットもある。域内関税ゼロ、関税手続きのない関税同盟、域内で金融サービスの自由な提供を認めるシングル・パスポート。越境して隣国ルクセンブルクに通勤するなど、人の移動の自由からも恩恵を受けている。農業国であるフランスはEU予算からの農業の補助金の配分も多いため、対国民所得比でのネットの拠出額の負担は比較的小さい(図表6)。フランス国民も、EUやユーロに不満があっても、一気に離脱に進むことを望んでいるわけではない。

    仮に、ルペン氏が大統領に選出された場合には、「EUの残留か離脱かを問う国民投票」のカードをちらつかせながら、EUにフランスに有利な条件を引き出すことが当面の目標となるだろう。金融システムの混乱を引き起こしかねないユーロ離脱を強硬することもないだろう。

    先述のとおり、ルペン氏の公約には、EUのルール違反となるものが多く含まれている。離脱を決めた英国は、欧州統合のスタート時点から、経済的利益重視で、ユーロ導入に象徴される統合の深化に距離を置いてきた。その英国の離脱ですら、EUにとって大きな打撃だ。まして、統合の原加盟国で、ドイツとともに統合の枠組み作りを担ってきたフランスが、次々とEUの政策に反旗を翻し、主権の奪還を求める事態となれば、EUは立ち行かなくなるおそれがある。EU条約の第2条には、「同盟は人の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配の尊重、および少数者に属する人々の権利を含む人権の尊重という価値に基礎を置く。これらの価値は多元主義、被差別、寛容、公正、連帯および男女平等による特徴づけられる社会にある加盟国に共通のものである」という規定がある。同第7条には、第2条に言及された価値に対する重大な違反が生じる明確な危険がある場合に、当該国の加盟国の権利の幾つかを一時停止する手続きについての規定がある。ルペン大統領のフランスがEUの基本的価値に違反する政策を打ち出したとしても、フランスにこうした手続きを発動することは考え難い。
     

    ルペン・ラリーはあり得ない。過剰債務国にも圧力が及ぶ

    米国の大統領選挙での予想外のトランプ氏の勝利は、経験不足や保護主義を懸念する事前の予想に反して、減税やインフラ投資、規制緩和など政策期待を追い風に株高、ドル高、金利高というトランプ・ラリーをもたらした。

    しかし、ルペン氏勝利によるルペン・ラリーはあり得ない。ルペン氏の公約は、中小企業の負担を軽減し、警察、軍事費の増強、低所得者支援などを盛り込むなど財政拡張的だ。しかし、144項目の公約に代替の財源についての議論は見当たらない。フランスはEUが求める17年を期限とする名目GDPの3%を超える過剰な財政赤字の解消を辛うじて実現できる見通しとなっていたが、財政出動と国債利回りの上昇で阻まれるかもしれない。EUの新たな財政ルールでは、ユーロ参加国に予算の事前承認を求める体制となっており、過剰な財政赤字を前提とする予算案には欧州委員会が修正を求める。ルペン大統領は、こうしたルールや欧州委員会の勧告は無視するかもしれない。財政ルールからの意図的な逸脱はフランス国債の利回り上昇圧力となるが、ルペン氏は、EU条約123条のいわゆる救済禁止条項違反となる「フランス中央銀行による国債の直接引き受け」も認める方針であり、コントロール可能と考えているのかもしれない。

    ルペン氏の政策は、フランスの高コスト体質をむしろ悪化させるだろうし、ユーロ離脱とリデノミネーション(通貨単位の変更)を連想させるため、フランスへの投資を妨げるだろう。

    ルペン大統領が誕生した場合には、ユーロの制度的な脆弱性も改めて意識され、過剰債務国の国債にも圧力は及ぶだろう。とりわけ、来年春までに総選挙を実施するイタリアは、成長と雇用、格差の問題が深刻で、ポピュリズム政党「五つ星運動」が勢いづいているだけに、リスクを意識されやすい。
     

    EU、ユーロ離脱が具体性を帯びない限り、世界や日本の経済への持続的な影響はない

    フランス国民がルペン大統領を選んだ場合、本当に、EUやユーロ離脱に動き出すのかを見極める必要がある。国民投票から9カ月を経て、英国政府は3月にEUに離脱意思を通知したが、離脱から新たな関係への移行には、EUの基本条約が規定する2年間ではとても実現しないと見られている。ルペン大統領が、離脱へのかなり強固な意志を持っているとしても、年単位の時間が掛かる。EUの中で、大国フランスが反EU的スタンスを採るというのが近い将来の考えられる姿である。EUの政策やフランス経済には混乱が生じるおそれはある。

    ルペン大統領の選出が、世界や日本に及ぼす影響は、EUやユーロ離脱が具体性を帯びない限りは、持続的なものとはならないだろう。世界最大の経済であり基軸通貨国でもある米国とフランスの影響力はまったく異なる。

    日本の輸出に占める比重は米国の20.2%、中国の17.7%に対して、フランスは0.9%。ドイツの2.7%、英国の2.1%を大きく下回る(いずれも2016年)。

    日本企業の拠点数(本邦企業の支店、駐在員事務所、現地法人、区分不明の合計)は726拠点。世界で第15番目に多く、拠点展開の面でもフランスは、ドイツ(世界第4位1777拠点)、英国(世界第12位、1021拠点)に次ぐ3番目の存在だ。個別企業レベルでは、フランスの「経済愛国主義」政策の悪影響を受けるリスクはあるが、マクロ的な影響は限定的だろう。 【関連レポート】 欧州経済見通し-試される欧州の結束-
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    経済研究部上席研究員伊藤 さゆり 欧州経済
    <![CDATA[貸出・マネタリー統計(17年3月)~銀行貸出では薄利多売化が進行]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55528 55528 Fri, 14 Apr 2017 16:22:58 +0900
    不動産向けはもともと残高が突出して多いだけに、貸出全体の伸びに対する寄与度も大きい(全体の伸び2.8%のうち1.0%分が不動産の寄与)。次に、為替変動等の影響を調整した「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)1を見ると、直近判明分である2月の伸び率は前年比2.9%と2009年6月(3.1%)以来の高水準を記録。前述の見た目の銀行貸出の伸び率上昇には、円高の一巡(図表4)に伴って外貨建て貸出の円換算額が持ち直したことも影響しているが、為替変動の影響を除いた実勢としても、増勢は強まっている。

    一方、新規貸出金利は極めて低い水準での推移を続けている(図表5)。10年国債利回りの持ち直しを受けて、長期(一年以上)は下げ止まっているものの、明確な上昇の兆しは見られない。また、短期(一年未満)はまだ低下基調が続いている。
     
    銀行貸出は、金利が極めて低い水準に留まる中で増勢を強めており、「薄利多売」の様相を呈している。貸出の増加については、相次ぐ企業のM&A向け資金需要や、相続税対策の貸家建設に伴うアパートローン需要といった需要側の要因ももちろんあるが、低金利という逆風が続くなかで、銀行側が対策として資金の「薄利多売」を推進している面も大きいとみられる。
     
    1 特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは2月分まで。
    4月4日に発表された3月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベース平均残高は436兆円で、前年比での伸び率は20.3%と、前月(同21.4%)からやや低下した。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比26.4%と前月(28.0%)からやや低下したことが主因である(図表6・7)。マネタリーベースの伸び率は長期にわたって緩やかに低下している。その主たる要因である日銀当座預金の伸び率低下については、分母にあたる前年の残高が増加していることの影響もあるが、日銀当座預金の増勢が昨年から鈍ってきていることも影響している。

    日銀当座預金(末残)の前年比増加額を見ると、ピークである2015年9月には86兆円に達していたほか、昨年前半までは概ね80兆円で推移してきた(図表8)。ただし、以降は縮小ぎみであり、直近3月では72兆円まで落ち込んでいる。日銀が国庫短期証券の残高を縮小させていることが影響している。日銀が4月13日に発表した3月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.3%(前月は4.2%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.6%(前月も同じ)となった(図表9)。やや長めの期間で見ると、伸び率は拡大基調にある。貸出の増勢が強まっていることなどが寄与していると考えられる。M3の内訳では、普通預金など預金通貨の伸び率が前年比9.5%(前月は10.4%)となり、今年年初をピークに伸びがやや鈍化。一方、準通貨(定期預金など)の伸び率が▲1.7%(前月改定値は▲1.9%)、CD(譲渡性預金)の伸び率が▲5.6%(前月改定値は▲14.7%)とそれぞれマイナス幅を縮小している。 

    昨年年初から長らく続いてきた定期預金・CDから普通預金へのシフトは一服しつつある(図表10・11)。M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比2.6%(前月改定値も同じ)と前月から横ばいになったが、昨年9月(1.5%)をボトムとして伸びが回復してきている。

    内訳としては、既述のとおりM3の伸びが拡大基調にあることが大きく寄与している。一方、投資信託(元本ベース)の伸び率は3月時点で前年比2.3%と低下基調が続いているほか、金銭の信託の伸びもマイナス圏での推移が続いている。家計等がリスク性資産への投資を積極化した形跡はまだうかがわれない。 
     

    (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    【関連レポート】 資金循環統計(16年10-12月期)~個人金融資産は過去最高を更新し、初の1800兆円台に、投資を手控える傾向は継続
    円相場の材料点検と見通し~金融市場の動き(4月号)
    日本は「円安誘導批判」に耐えられるか~批判の妥当性と考えられる対応策
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    経済研究部シニアエコノミスト上野 剛志 金融市場・外国為替
    <![CDATA[人手不足はどこまで深刻なのか]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55527 55527 Fri, 14 Apr 2017 11:02:33 +0900
  • 失業率が約22年ぶりの2%台まで低下するなど雇用関連指標は大幅な改善が続いており、企業の人手不足感もバブル期並みの高さとなっている。こうした中、人手不足が経済成長の制約要因になるとの見方が増えている。
     
  • 足もとの人手不足は労働需要の強さが主因であり労働供給力は低下していない。10年前(2007年)の雇用政策研究会の報告書では、2017年の労働力人口は、労働市場への参加が進まないケースでは2006年と比べ440万人の大幅減少、労働市場への参加が進むケースでも101万人の減少が見込まれていた。実際の労働力人口は、女性、高齢者の労働参加拡大が予想以上に進んだことから、10年間(2007~2016年)で9万人増加した。
     
  • 就業を希望しているが求職活動を行っていないため非労働力人口とされている潜在的な労働力は380万人(2016年)いる。人口の減少ペースは今後加速するが、労働力率を潜在的な労働力率まで引き上げることができれば、今後10年間は現状程度の労働力人口の水準を維持することが可能だ。
     
  • 人手不足の一因は、雇用の非正規化などで一人当たりの労働時間が減少し、労働投入量が伸び悩んでいることだ。不本意型の非正規労働者の正規労働者への転換、追加就業を希望する非正規労働者の労働時間増加も人手不足への対応として有効だろう。
     
  • 潜在的な労働力の活用によって当面は労働供給力の急低下は避けられる。人手不足による経済成長への悪影響を過度に悲観する必要はない。
  • ■目次

    ●人手不足はどこまで深刻なのか
      ・労働需要の強さが人手不足の主因
      ・労働力人口は見通しから大きく上振れ
      ・潜在的な労働力の活用
      ・労働力人口の先行き試算
      ・構造的失業率は失業率の下限ではない
      ・正規労働者への転換、労働時間の増加も有効雇用情勢は着実な改善を続けている。失業率は完全雇用とされる3%程度での推移が続いていたが、2017年2月には2.8%と1994年12月以来22年2ヵ月ぶりの2%台まで低下した。また、有効求人倍率は2013年11月以降、求人数と求職者数が一致する1倍を上回り続けており、2017年2月には1.43倍と約25年ぶりの水準まで上昇した。日銀短観2017年3月調査では、全規模・全産業の雇用人員判断DI(過剰-不足)が▲25となり、バブル崩壊直後の1992年以来のマイナス幅となった(図1)。宿泊・飲食サービス、小売、運輸・郵便など労働集約的な業種が多い非製造業、人材の確保が難しい中小企業の人手不足感が特に高くなっている。

    こうした中、スーパーや百貨店の営業時間短縮、ファミリーレストランの24時間営業の取りやめ、宅配業者のサービス縮小などが相次いだこともあり、ここにきて人手不足が日本経済の制約要因となりつつあるとの見方も増えている。(労働需要の強さが人手不足の主因)
    人手不足は労働市場の需要が供給を上回る状態を示すため、需要の拡大によって生じる場合と供給力の低下によって生じる場合がある。

    実際、労働市場の需給バランスを表す指標である失業率や有効求人倍率は、労働供給力が減少すれば労働需要が強くなくても指標が改善することがある。たとえば、「失業者=労働力人口-就業者」で表され、就業者が増加すれば失業者が減少することは言うまでもないが、労働力人口が減少しても失業者は減少する。実際、失業者は2009年7-9月期の359万人(季節調整値)をピークに8年近くにわたって減少を続けているが、2013年初め頃までは高齢化の進展や職探しを諦める人の増加によって労働力人口が減少していたことが失業者の減少をもたらしていた。しかし、その後は就業者が増加に転じ、失業者減少の主因が労働力人口の減少から就業者の増加に変わってきている。2016年10-12月期の失業者数は204万人とピーク時から156万人減少したが、この間に労働力人口は35万人増加しており、このこと自体は失業者の増加要因となる。しかし、就業者が188万人増加したため、失業者が大幅に減少したのである(図2)。また、就業者数の伸びは自営業主、家族従業者が長期にわたって減少を続けていることによって抑えられているが、労働需要の強さをより敏感に反映する雇用者数の伸びは高い。2012年10-12月期を起点とした今回の景気回復局面における雇用者数の増加ペースは1990年以降では最も速くなっている(図3)。

    さらに、内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」によれば、今後3年間の雇用者数の見通しは、2013年度調査から4年連続で増加率を高めており、2016年度調査では2.5%となった。実質経済成長率、業界需要の実質成長率の見通しが1%前後でとどまる中、雇用者数の見通しの強さが際立っている(図4)。このことも企業の採用意欲の高さ、労働需要の強さを示したものといえるだろう。(労働力人口は見通しから大きく上振れ)
    日本は少子高齢化が進む中ですでに人口減少局面に入っており、人口動態面から労働供給力が低下しやすくなっていることは確かだ。生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに20年以上減少を続けており、団塊世代が65歳を迎えた2012年以降は減少ペースが加速している。しかし、生産年齢人口の減少が労働力人口の減少に直結するわけではない。労働力人口は生産年齢人口に含まれない65歳以上の人がどれだけ働くかによっても左右されるためだ。労働力人口は1990年代後半から減少傾向が続いてきたが、2005年頃を境に減少ペースはむしろ緩やかとなり、2013年からは4年連続で増加している(図5)。15歳以上人口の減少、高齢化の進展が労働力人口の押し下げ要因となっているが、女性、高齢者を中心とした年齢階級別の労働力率の大幅上昇がそれを打ち消す形となっている。少なくとも現時点では労働力人口の減少が経済を下押しする形とはなっていない。

    団塊世代が2007年に60歳に到達することが意識され始めた2005年頃から、労働力人口の大幅減少を懸念する声が急速に高まった。しかし、65歳までの雇用確保措置を講じることが義務付けられた「改正高年齢者雇用安定法」が2006年4月に施行されたこともあり、2007年以降に団塊世代が一気に退職するような事態は起こらなかった。高齢者の継続就業とともに女性の労働参加拡大が進んだことも労働力人口の減少に歯止めをかける形となった。10年前の2007年12月に公表された厚生労働省の雇用政策研究会の報告書1では、2017年の労働力人口は「労働市場への参加が進まないケース2」で2006年と比べ440万人減少、「労働市場への参加が進むケース3」でも101万人減少すると見込んでいた。当時は筆者も含めほとんどの人は労働力人口が減少すること自体は避けられず、急速な減少に歯止めをかけることが課題と考えていた。

    しかし、実際の労働力人口は予想を大きく上回り、2016年には6,673万人と2006年の6,664万人から9万人の増加となった(図6)。「労働市場への参加が進まないケース」の見通しと比較すると2016年の労働力人口は400万人以上も多い。さらに、「労働市場への参加が進むケース」の見通しと比べても100万人程度上回っている4

    なお、実質経済成長率の想定(2006~2017年の年平均)は、「労働市場への参加が進まないケース」で0.9%程度、「労働市場への参加が進むケース」で2.1%程度となっていたが、実際の実質経済成長率(2006~2016年の年平均)は0.5%である。経済成長率は当時の想定を大きく下回っているにもかかわらず労働市場への参加が予想以上に進んだことになる。
     
    1 「すべての人々が能力を発揮し、安心して働き、安定した生活ができる社会の実現」~本格的な人口減少への対応~
    2 「労働市場への参加が進まないケース」は、性・年齢別の労働力率が2006年実績と同じ水準で推移すると仮定したケース
    3 「労働市場への参加が進むケース」は、各種の雇用施策を講ずることにより、若者、女性、高齢者等の労働市場への参加が実現すると仮定したケース
    4 ただし、雇用政策研究会の報告書では2017年、2030年の見通しのみ示されているため、その間の年は線形補完した数値を用いて比較した
    (潜在的な労働力の活用)
    このように、現時点では予想されていたような労働供給力の低下は顕在化しておらず、労働需要の拡大が人手不足の主因となっている。しかし、労働需給の逼迫によって企業の人手不足感が大きく高まっていることは事実であり、これに対応するためには現在就業していない潜在的な労働力を活用することが不可欠である。

    潜在的な労働力としてまず考えられるのは、就業を希望しているにもかかわらず求職活動を行っていないために非労働力人口とされている人である。2006年の非労働力人口は4,358万人だったが、このうち就業希望者が479万人(女性:354万人、男性:124万人)いた5。2016年の非労働力人口は4,432万人となり、10年間で74万人増加したが、このうち就業希望者は380万人(女性:274万人、男性:106万人)と女性を中心に大きく減少した(図7)。労働力人口が10年前とほぼ同水準を維持しているのは、少子高齢化の進展で労働力人口の減少圧力が高まる中でも、就業を希望しながら非労働力化していた人の多くが労働市場に参入したためと考えられる。就業希望者の非求職理由をみると、女性は「出産・育児のため」が全体の3分の1を占めている。このことは育児と労働の両立を可能とするような環境整備を進めることにより、非労働力化している女性の労働参加をさらに拡大することが可能であることを示している。実際の労働力人口に就業を希望する非労働力人口を加えて潜在的な労働力率を試算すると、女性は20~54歳の年齢層で80%台となる(2016年時点では概ね70%台)。

    男性については、25~59歳の労働力率が現時点で90%台となっているため上昇余地は小さいが、60歳以上の労働力率はさらなる引き上げ余地がある。
     
     
    5 非労働力人口全体は基本集計、就業希望者は詳細集計の数値
    (労働力人口の先行き試算)
    ここで、4/10に国立社会保障・人口問題研究所から公表された最新の将来推計人口をもとに、今後10年間の労働力人口を試算した。男女別・年齢階級別の労働力率が2016年実績で一定とすると(悲観ケース)、高齢化の影響で全体の労働力率は2016年の60.0%から2026年には57.4%へと低下する。15歳以上人口の減少ペースは今後加速するため、15歳以上人口に労働力率を掛け合わせた労働力人口は2026年には6,200万人となり、2016年よりも473万人減少する(年平均で▲0.7%)(図8)。一方、男女別・年齢階級別の労働力率が10年後には現在の潜在的労働力率まで上昇すると仮定すると(楽観ケース)、全体の労働力率は2016年の60.0%から2026年には62.1%まで上昇する(男性:70.4%→71.3%、女性:50.3%→53.5%)。15歳以上人口は大きく減少するものの、2026年の労働力人口は6706万人となり、2016年よりも33万人の増加(年平均で+0.0%)となる。

    労働力率を潜在的な水準まで引き上げることができれば、今後10年間は少なくとも量的な労働供給力は低下しないことになる。もちろん、現在就業を希望している非労働力人口を全て労働力化することは現実的には厳しいかもしれない。ただ、過去を振り返ってみると、女性は現実の労働力率の上昇に伴い潜在的な労働力率も上昇している(図9)。このことは現時点の潜在的労働力率が必ずしも天井ではなく、様々な施策を講じることによりさらなる引き上げが可能であることを示している。また、日本の男性高齢者の労働力率は国際的にすでに高水準にあり、これ以上長く働くことは非現実的という見方もあるかもしれない。しかし、かつて日本の労働者(男性)は今よりも長く働いていた。1970年代前半まで男性高齢者の労働力率は60~64歳で80%台、65~69歳で60%台半ばで、現在よりも高い水準にあった。もちろん、当時は定年がなく健康状態に問題がなければ年齢と関係なく働き続けることができる自営業者の割合が高く、現在とは労働市場の構造が異なっているが、平均寿命が当時から10歳以上延びていることからすれば、60歳以上の労働力率をさらに引き上げることは非現実的とはいえないだろう。(構造的失業率は失業率の下限ではない)
    非労働力人口の多くが労働市場に新たに参入するようになれば、労働力人口は増えるが、新たに職につけなければ失業者の増加につながってしまう。2016年の失業者は208万人となり、ピーク時の2002年(359万人)と比べると150万人以上減少した。失業率が完全雇用とされる3%台前半を下回っていることから、これ以上失業者を減らすことは難しいという見方もある。しかし、足もとの失業率がすでに完全雇用とされる構造的失業率の水準を下回っていることからも分かるように、構造的失業率は失業率の下限ではない(図11)。また、構造的失業率は一定ではないことに留意が必要だ。筆者がUV分析をもとに推計した構造的失業率の長期的な推移を確認すると、1990年代前半までは2%台前半で推移していたが、その後大きく上昇し、2000年代前半には4%台となった。その後は一時的に上昇する局面もあったが、緩やかな低下傾向が続き、足もとでは3%に近づく形となっている。求人・求職間のミスマッチ(年齢、地域、職種等)を縮小させることなどによって、今後構造的失業率を低下させることは可能だろう。(正規労働者への転換、労働時間の増加も有効)
    雇用者数が高い伸びとなっているにもかかわらず人手不足が解消されない一因は、雇用者数に一人当たりの労働時間を掛け合わせた労働投入量があまり増えていないことだ。前述したように雇用者数の伸びは1990年以降の景気回復局面で最も高いが、非正規化の進展などにより一人当たり労働時間が減少しているため、労働投入量の増加ペースは1990年以降で最も低い(図12)。

    この問題を解決するためには、一人当たりの労働時間を増加させることも考えられる。働き方改革で長時間労働の是正が大きな課題となる中で、労働時間を延ばすことはこれに逆行する動きと思われるかもしれない。しかし、長時間労働の問題は一部の産業でフルタイム労働者を中心に過剰な残業をしていることであり、パートタイム労働者などの非正規労働者の中には就業時間の増加を希望する者も少なくない。労働力調査によれば、就業時間の増加を希望する就業者は全体では約6%に過ぎないが、非正規の職員・従業員は13%(269万人)が就業時間の増加を希望している。

    また、近年は「自分の都合のよい時間に働きたいから」などの理由で自ら非正規を選択した労働者の割合は増加傾向にある。しかし、その一方で「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由による不本意型の非正規労働者も全体の15%程度(296万人)存在する(いずれも2016年の数値)。

    すでに就業している人の労働時間を増やすことや、非正規から正規への転換は雇用者数には影響しないが、一人当たりの労働時間が増加することによって労働投入量を拡大させる効果がある。ここまで見てきたように、現在の人手不足は主として労働需要の強さによってもたらされており、懸念されていた労働供給力の低下は今のところ顕在化していない。もちろん、一部の業種で人手不足が事業の継続や拡大の支障となりつつあることは事実だが、当面は賃上げによる人材の確保、非正規労働者の正規労働者への転換などで対応することが可能だろう。

    人口の減少ペースは今後加速するが、潜在的な労働力を十分に活用できれば10年程度は現在の労働力人口の水準を維持することができる。人手不足による経済成長への悪影響を過度に悲観する必要はないだろう。 
     

    (お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    【関連レポート】 2017・2018年度経済見通し
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    専業主婦世帯の割合は1割以下に-「中期経済見通し」から見えるもの(その2)
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    経済研究部経済調査室長斎藤 太郎 日本経済
    <![CDATA[プレミアムフライデーと休日の格差-新しい格差が広がらないようにより慎重な働き方改革の実施を!-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55525 55525 Mon, 17 Apr 2017 18:46:10 +0900  
    • 最近、政府が働き方改革の中で最も力を入れているのは長時間労働の是正であり、その一環として今年の2月24日から「プレミアムフライデー(Premium Friday)」が実施された。
       
    • プレミアムフライデーを実施した本当の目的は、長時間労働の是正より、早い時間から買い物や旅行などをしてもらうことにより、消費を拡大させ2020年までに名目GDP600兆円を達成することであると言えるだろう。しかしながら、2015年の対前年比個人消費の増加率は-0.1%に留まっており、目標達成の道はかなり険しいと言える。
       
    • 消費が改善されていない要因の一つとしては、政府が思った以上に賃金が上がっていないことが挙げられる。また、4月からは国民年金の保険料が引き上げられ、9月からは厚生年金の保険料率が増加する等、家計の負担が増加することになる。賃金が上がっても社会保険料等の負担が増加すると、手取りの収入は大きく変わらない可能性が高い。
       
    • 日本では企業規模や産業の間に賃金格差のみならず休日の格差が存在している。現在、日本で実施されているプレミアムフライデーは、一部の企業や産業、そして地域、つまり大企業や福利厚生がより充実した産業や企業、そして都心に位置した企業を中心に実施される可能性が高く、「休日の格差」はさらに広がる恐れがある。
       
    • 政府は、プレミアムフライデーが「休みの格差」を広げないように働き方改革に基づいたより慎重な議論や対策を実施するべきである。プレミアムフライデーの実施が新しい格差の拡大に繋がらないことを強く望むところである。

    ■目次

    1――働き方改革の一環としてプレミアムフライデーを導入
    2――消費が改善されない理由は?
    3――プレミアムフライデーは休日の格差を広げるのか?最近、政府は働き方改革に積極的な動きを見せている。3月28日には働き方改革実現会議を首相官邸で開き、同一労働同一賃金の導入や正社員の長時間労働の見直しを盛り込んだ9分野での実行計画をまとめた。政府は、今後国会に関連法の改正案を提出し、2019年度からは関連内容を実行する計画である。その中でも政府が最近最も力を入れているのが長時間労働の是正であり、その一環として今年の2月24日から「プレミアムフライデー(Premium Friday)」が実施された。

    プレミアムフライデーとは、長時間労働の是正と個人消費の喚起を狙い、月末の金曜日は、早めに(一般的には午後3時)仕事を終えて豊かに過ごすという行動を官・民が連携して創り出すプロジェクトである。

    しかしながら、日本のプレミアムフライデーは、アメリカで定着しているブラックフライデー1を参考としているように、制度の本当の趣旨は長時間労働の是正より、早い時間から買い物や旅行などをしてもらうことにより、消費を拡大させ2020年までに名目GDP600兆円を達成することであると言えるだろう。経団連は、その実現のためには現在300兆円弱にとどまっている個人消費を今後360兆円までに引き上げる必要があるとみている。個人消費が現在より20%も増加しなければならない。
     
    1 ブラックフライデー(Black Friday)とは、アメリカにおいて小売店などで大規模な安売りが実施される11月の第4金曜日の大きなイベントである。
     

    2――消費が改善されない理由は?

    しかしながら2015年の対前年比個人消費の増加率は-0.1%に留まっており、目標達成の道はかなり険しいと言える(図表1)。さらに、プレミアムフライデーが初めて実施された2017年2月の二人以上の世帯の消費支出(名目)は260,644円で前年同月の269,774円と比べて3.4%も減少した。消費支出は主に、交通・通信(-7.1%)、光熱・水道(-6.2%)、食料(-5.0%)、教養娯楽(-5.0%)、被服及び履物(-4.1%)を中心に減少している。家計が将来のことを考えて節約志向を強めている様子が見てとれる(図表2)2
     
    このように消費が改善されていない要因の一つとしては、政府が思った以上に賃金が上がっていないことが挙げられる。実際、近年の賃上げ率は、政府がかねてから掲げている要求基準2%を下回っている。つまり、2017年2月の現金給与総額(名目、速報値)は262,869円で前年同月に比べて0.4%増加するのに留まっている。また、物価上昇率を反映した実質賃金の増減率は0.0%で賃金がほぼ上がっていない状況である。さらに、賃金増減率の長期的な推移を見ても状況はあまり変わらない。図表3は、賃金増減率の推移を2009年から2016年までは前年比で、2016年1月から2017年2月までは前年同月比で分けてみたものである。まず、実質賃金の前年比は2014年以降徐々に上昇しているものの、まだ1%にも至っていない。また、実質賃金の前年同月比は2016年6月に2%に達したものの、それ以降は低下し続けている。このように実質賃金が伸びないことが家計の購買力低下の原因になっているとうかがえる。さらに、今年の4月からは国民年金の保険料が月額16,260円から16,490円に引き上げられて、9月からは厚生年金の保険料率が18.182%から18.3%に引き上げられる。また、協会けんぽ等の健康保険料率も昨年に比べて上昇している。賃金が上がっても社会保険料等の負担が増加すると、手取りの収入は大きく変わらない可能性が高い。現在、公的年金の所得代替率の引き下げや支給開始年齢の引き上げ等が議論されていることを考慮すると、家計としては将来の収入増加が確実に見込まれない限り、休日や休む時間が増えたとしても消費を増やすことは難しいだろう。
     
     
    2 2017年2月の消費が前年同月に比べて減少したのは2016年がうるう年であった影響もありえるだろう。
    プレミアムフライデーの課題は制度の実施が義務化されておらず導入如何は各企業の判断に委ねられていることである。また、労働者にとってもプレミアムフライデーの利用は義務化されておらず、会社の経営方針や企業文化により利用率に差が発生することや月末が繁忙期である金融業界や経理部門等では利用が制約されがちである。さらに、プレミアムフライデーに早く帰るために、ほかの日の残業時間を増やす労働者や、労働時間の減少が収入減少に繋がることを懸念しプレミアムフライデーを利用しない人もいるだろう。

    株式会社DeNAトラベルが2017年1月11日から15日の間に実施した調査結果3によると、プレミアムフライデーを導入しているか、導入を予定している企業の割合は調査時点で2.2%に留まっている。導入予定が無い企業が55.0%にも達しており、「わからない」と答えた割合も39.5%を占めている。 

    プレミアムフライデーがまだ企業に浸透していないことが分かる。そこで、プレミアムフライデーをより普及させ労働時間の短縮や消費の改善につなげるためには、税金や社会保険料の負担増加により大きく伸びていない家計の手取り収入(可処分所得)を増やす政策を展開することが大事である。大企業の場合は増え続けている内部留保(企業の利益の蓄積分)を賃金に回すことを検討すべきである。例えば、2015年度の労働分配率(企業の利益のうち、労働者の取り分)は66.1%(財務省の法人企業統計)で、2007年度(65.8%)以来、低い水準になっていることに比べて、同年度の企業の内部留保は377兆円で4年連続で過去最高を更新している4。将来、労働力不足が懸念されていることを考えると、内部留保を増やす政策だけではなく、優秀な人材を確保し、より長く働ける環境を構築する政策を実施することも重要であるだろう。また、中小企業や零細企業に対しては、賃上げに対するインセンティブを提供するか、助成金を有効に活用するなどの支援をするのが望ましい。

    最後に、プレミアムフライデーの実施が「休日の格差」を広げる要因になってはならない。企業規模や産業の間には賃金格差のみならず休日の格差も存在している。厚生労働省の就労条件総合調査5によると、「完全週休2日制」を採用している企業の割合は、従業員数1,000 人以上が69.1%で最も高く、次は300~999 人(60.0%)、100 ~299 人(49.6%)、30~99 人(47.2%)の順である。産業別には、金融業・保険業が 90.7%で最も高いことに比べて、運輸業・郵便業は 25.1%で最も低い。さらに1企業当たり平均年間休日総数も従業員数1,000 人以上が115.3日で最も多いことに比べて従業員数30~99 人は106.8日で最も少ない。産業別には、情報通信業が122.2日で最も多く、宿泊業・飲食サービス業が101.9日で最も少ないという結果となっている。このようなデータを参照すると、現在、日本で実施されているプレミアムフライデーは、一部の企業や産業、そして地域、つまり大企業や福利厚生がより充実した産業や企業、そして都心に位置した企業を中心に実施される可能性が高く、「休日の格差」はさらに広がる恐れがある。実際に調査会社インテージが今年の2月24日から27日の間に首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)で実施した調査結果4によると、企業規模別のプレミアムフライデーの実施率は、従業員数1000人以上の企業が5.8%であることに比べて、従業員数100人未満の企業は2.4%に留まっていた。

    政府は、プレミアムフライデーが「休みの格差」を広げないように働き方改革に基づいたより慎重な議論や対策を実施するべきである。プレミアムフライデーの実施が新しい格差の拡大に繋がらないことを強く望むところである7
     
    3 株式会社DeNAトラベル(2017)「プレミアムフライデーに関する調査」2017年1月23日。
    4 日本経済新聞2016年9月3日朝刊5頁「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高」を参照。
    5 厚生労働省(2017)「平成28年就労条件総合調査結果の概況」。
    6 株式会社インテージ(2017)「プレミアムフライデー事後調査」 。
    7 本稿では、金明中(2017)「曲がり角の韓国経済第18回 韓国版プレミアムフライデーの実施発表」東洋経済日報2017年4月7日を一部引用している。。
    参考文献
     
    • 株式会社インテージ(2017)「プレミアムフライデー事後調査
       
    • 株式会社DeNAトラベル(2017)「プレミアムフライデーに関する調査」2017年1月23日
       
    • 金明中(2017)「曲がり角の韓国経済第18回 韓国版プレミアムフライデーの実施発表」東洋経済日報2017年4月7日
       
    • 厚生労働省(2017)「平成28年就労条件総合調査結果の概況」
       
    • 厚生労働省(2017)「毎月勤労統計調査 平成29年2月分結果確報」
       
    • 総務省統計局(2017)「家計調査報告(二人以上の世帯)―平成29年(2017年)2月分速報」2017年3月31日
       
    • 内閣府「国民経済計算」
       
    • 日本経済新聞(2016)「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高」2016年9月3日朝刊5頁
    【関連レポート】 プレミアムフライデーと働き方改革
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    家計調査17年2月~プレミアムフライデーが押し上げも、月間の消費支出への影響は限定的
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    生活研究部准主任研究員金 明中 雇用・人事管理
    <![CDATA[EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(2)-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55510 55510 Wed, 12 Apr 2017 14:12:22 +0900
    前回のレポートでは、EIOPAが2017年4月5日に公表した、新たな「UFRを算出するための方法論」の内容について説明した。今回のレポートでは、EIOPAが行った今回のUFRの方法論見直しに伴う影響分析の結果、EIOPAの公表を受けての関係団体の反応、今後の動き等について報告する。

    ■目次

    1―はじめに
    2―今回の新たなUFR算出のための方法論公表と同時に示された影響分析
      1|概要
      2|シナリオと情報要求内容
      3|結果の概要
      4|結果数値(EU全体)
      5|結果数値(国別)
      6|結果に対する評価
    3―今回の新たなUFR算出のための方法論に対する反応
      1|Insurance Europeの意見
      2|AMICE(欧州相互保険会社・協同組合協会)の反応
      3|GDV(ドイツ保険協会)の反応
      4|欧州委員会や欧州議会の反応
      5|その他の意見
      6|今後の動き
    4―まとめ前回のレポートでは、EIOPAが2017年4月5日に公表1した、新たな「UFRを算出するための方法論」の内容について説明した。今回のレポートでは、EIOPAが行った今回のUFRの方法論見直しに伴う影響分析の結果、EIOPAの公表を受けての関係団体の反応、今後の動き等について報告する。
     
     
    1 EIOPAのプレス・リリース資料は、以下の通り
     https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2017-04-05%20UFR%20Press%20Release.pdf
     

    2―今回の新たなUFR算出のための方法論公表と同時に示された影響分析

    1|概要
    UFR方法論に関する公開協議の内容による影響分析を補完するために、EIOPAは、UFR変更の影響に関する保険および再保険事業への情報要求を実施している。情報要求は2016年末に行われた。336の保険および再保険会社は、プルーデンス・バランスシートとソルベンシー・ポジションについて、UFRを20 bps及び50 bps変更した場合の影響を評価した。

    情報要求は、これらの変更の影響が非常に小さいことを示した。UFRが20 bps変更された場合、平均でSCR比率は203%から201%に減少し、UFRが50 bps変更された場合は198%に減少する、となっている。2|シナリオと情報要求内容
    今回の影響分析で使用された具体的な2つのシナリオは、以下の通りである。

    シナリオ1
    ・以下の通貨以外のUFRを20bps引き下げ
    ・ハンガリー・フォリント、チリ・ペソ、中国元、コロンビア・ペソ、日本円、ロシア・ルーブルのUFRは20bps引き上げ

    シナリオ2
    ・以下の通貨以外のUFRを50bps引き下げ
    ・ハンガリー・フォリント、チリ・ペソ、中国元、コロンビア・ペソ、日本円、ロシア・ルーブルのUFRは50bps引き上げ

    EIOPAの報告書は、これらのシナリオに基づいた場合の、(1)技術的準備金への影響、(2)移行措置の再計算の軽減効果、(3)繰延税金への影響、(4)自己資金への影響、(5)SCRへの影響、(6)SCR比率への影響、(7)SCR比率の推移分析、を行っている。3|結果の概要
    UFRの変更は、満期がより長い債務の技術的準備金の計算に使用されるリスクフリー金利の期間構造を変更する。その結果、UFRの変更がこれらの技術的準備金の額に直接的な影響を及ぼす。技術的準備金の額の変更は、ソルベンシーIIのプルーデンス・バランスシートのその他の要素にも影響を及ぼす。

    典型的な間接的影響は次の通りとなる。

    (1) 技術的準備金の変更により、繰延税金が変更される。その場合、技術的準備金の増加は、繰延税金資産の増加または繰延税金負債の減少をもたらす。

    (2) 技術的準備金の変更により、適格自己資本が変更される。技術的準備金の増加は通常、適格自己資本の減少をもたらす。繰延税金の変更によってその増加は緩和される。

    (3) 技術的準備金の変更により、SCRとMCRが変更される。技術的準備金の増加は、通常、SCRとMCRの増加につながる。4|結果数値(EU全体)
    シナリオ1及びシナリオ2における貸借対照表項目、適格自己資本、資本要件、ソルベンシー比率等の平均変化率は、以下の通りとなっている。なお、336社のうち、基本シナリオでは334社がSCR比率要件を満たしているが、2社がSCR比率要件を満たしていない。これに対して、シナリオ1及びシナリオ2では、いずれのシナリオでも、新たに2社がSCR比率要件を満たさなくなる。5|結果数値(国別)
    国別にSCR比率への影響をまとめたものが、次の表である。

    これによれば、シナリオ2のUFRの50bpsの引き下げに対して、EEA(European Economic Area:欧州経済領域)全体の平均である2.5%を超える影響を受ける国々は、オランダ、ドイツ、オーストリア、ノルウェー、ベルギーとなる。

    特に、オランダは、他の主要国で認められている移行措置が認められていないこともあり、161%から146%に、割合で9.3%低下し、最も大きな影響を受けている。ドイツが5.6%でこれに続き、オーストリアが4.3%、ノルウェーが3.8%、ベルギーが2.9%となっている。

    主要国では、英国は、UFRが50bps引き下がってもSCR比率には変化が無い、との結果となっている。

    ただし、各種の移行措置等の適用状況が影響度の大きさに関係してくるので、各国間のUFR変更による影響度を比較する際には注意を要するものと思われる。6|結果に対する評価
    この結果を受けて、EIOPAのGabriel Bernardino会長は、「保険及び再保険事業に対するUFRの想定された変更による影響は、非常に小さく、管理可能である。」と主張した。

    ただし、この分析に対しては、(1)この分析結果は、1時点でのデータに基づいており、ボラティリティは示されていない、(2)金利が今後も現在の水準にとどまると仮定すると、UFRはさらに低下していくことが考慮されていない、との批判もある。1|Insurance Europeの意見
    今回のEIOPAの公表資料に対しては、欧州の保険業界団体であるInsurance Europeが早速、公表当日に、以下の声明2を行って、今回の方法論の見直しに基づいての2018年からのUFR水準の引き下げに反対している。

    「UFRはソルベンシーIIの評価制度の一部である。この評価制度は、保険会社の長期的な事業を正しく反映しておらず、保険会社の長期的な投資能力に有害な影響を及ぼすという懸念がすでに存在している。したがって、変更は、制度全体とその影響が評価される2020年までに完了が計画されているレビューの一環としてのみ、最終決定され、実施されるべきである。」

    Comment on announcement on changes to Solvency II UFR methodology
    ソルベンシーII のUFR方法論の変更に関する発表に対するコメント

    2018年1月1日より、ソルベンシーIIの終局フォワードレート(UFR)の変更を予定しているEIOPAの発表に続いて、Insurance Europeの Olav Jones副事務局長は、以下のようにコメントした。

    「ソルベンシーIIはすでに非常に慎重なアプローチを取っており、いくつかのセーフガードを持っているため、欧州保険業界はUFRへの急激な変更を行う必要はない、と主張する。ソルベンシーIIの下で負債を計算する際、保険者は現在の低金利が今後20年間維持されると仮定することが求められる。しかし、これは一般的には極端なシナリオであり、基本ケースではないと考えられる。その結果、保険者は現在、わずか0.6%の金利を使用して10年負債を評価しなければならない。50年負債の場合であっても、その率は2.7%を下回っている。」

    「保険者はさらに低い金利の場合にも資本を保持しなければならない。これに加えて、ソルベンシーIIは、企業経営陣が問題に早期に対処するために行動することを確実にし、彼らが行動を起こさない場合には、監督当局が早期介入のための権限と情報を有することを保証するように設計された非常に重要なガバナンスと報告要件を有している。」

    「UFRはソルベンシーIIの評価制度の一部である。この評価制度は、保険会社の長期的な事業を正しく反映しておらず、保険会社の長期的な投資能力に有害な影響を及ぼすという懸念がすでに存在している。したがって、変更は、制度全体とその影響が評価される2020年までに完了が計画されているレビューの一環としてのみ、最終決定され、実施されるべきである。」

    「欧州委員会が、枠組みのこの特定の側面について、EIOPAから技術的情報を受け取ったら、ソルベンシーIIの金利への感応度と全体的な保守性を考慮し、こうした独立した変更を避けるべきである。」

      2|AMICE(欧州相互保険会社・協同組合協会)の反応
    AMICE (Association of Mutual Insurers and Insurance Cooperatives in Europe:欧州相互保険会社・協同組合協会) も、以下の声明3を4月5日にプレス・リリースして、今回のEIOPAの決定に反対する意見表明を行っている。

    「EIOPAの発表が景気後退の影響を及ぼし、特に長期的な事業に関連する保険契約者の保護をさらに困難にするかもしれないというさらなる懸念がある。」

    「AMICEは、EIOPAに対し、本日発表された改訂実施日を再考し、来るべきLTGAレビューの中で取り組むように要請する。」

    AMICE raises concerns about EIOPA decision on ultimate forward rate (UFR)
    AMICEは終局フォワード・レート(UFR)に関するEIOPAの決定について懸念を表明する

    AMICEは、本日発表されたEIOPAの決定で、終局フォワードレート(UFR)に関して改訂された方法論を適用すると発表したが、ソルベンシーIIの枠組みとタイミングの問題が完全に考慮されていない。2020年のソルベンシーIIの LTGA(長期保証)レビューに先立ち、ソルベンシーIIの他の要素への直接的及び間接的な影響を考慮せずに、この時点で方法論を変更するEIOPAの決定は、不必要にソルベンシー・ポジションを変更する可能性を秘めている。

    EIOPAの発表が景気後退の影響を及ぼし、特に長期的な事業に関連する保険契約者の保護をさらに困難にするかもしれないというさらなる懸念がある。

    AMICEは、EIOPAに対し、本日発表された改訂実施日を再考し、来るべきLTGAレビューの中で取り組むように要請する。

     
    3 AMICEのWebサイトから入手可能
      http://www.amice-eu.org/
    3|GDV(ドイツ保険協会)の反応
    GDVのWebサイトによれば、会長のJörgvon Fürstenwerth氏は3月24日付けのコラムで、UFRについて、以下の通り述べており、現時点でのUFRの見直し(引き下げ)に強く反対していた。

    「EIOPAはすでにUFR水準の引き下げを求めている。しかし、そのような引き下げは適切でない。必要性がないのに、保険会社の自己資本レベルを下げ、リスクポジションを高めることにつながる。したがって、我々はUFRのレビューが今から数年後に行われるべきだと考えている。」

    No need to reduce the Ultimate Forward Rate at this point
    この時点で終局フォワードレートを下げる必要はない

    全ての逆の予測にも関わらず、保険会社は歴史的に低金利と新しい規定に非常によく適応してきている。しかし、EIOPAは、まるで安定を避けようとしているかのように、システムの基盤を再び妨害し始めた。たとえば、いわゆるUFRのレビューは、2017年中頃に予定されている。UFRは長期の利率を決定するために設計されたソルベンシーIIの要素である。現在のレベルは4.2%に設定されている。実際には、金利曲線はずっと低くなっている。EIOPAはすでにUFR水準の引き下げを求めている。しかし、そのような引き下げは適切でない。必要性がないのに、保険会社の自己資本水準を下げ、リスクポジションを高めることにつながる。従って、我々はUFRのレビューが今から数年後に行われるべきだと考えている。ところで、ソルベンシーIIの金利曲線は、すでに他の曲線、例えば IFRSに基づいた年金給付発生額の評価のためのものより、ずっと保守的だ。

    しかし、それだけではない。ソルベンシーIIのまさに初年度に、欧州委員会は、EIOPAに2018年までに、保険者がSCRの標準式にどのように対処しており、どの問題を解決する必要があるかを分析した報告書を作成するように要請した。2016年12月、EIOPAは118ページのディスカッションペーパーを用意し、業界にフィードバックを求めた。この間、いくつかのディスカッション・ミーティングが開催されている。最初の勧告は10月に欧州委員会に送られる。 「標準式」という言葉は非常に誤解を招くものであることに注意すべきだ。この計算方法は、すでに多数の指示と無数のパラメータを考慮しなければならない。明らかにここでは画期的な変更は意図されていないが、いくつかの関連する詳細が議論の対象となる。例えば、EIOPAは、結果にとって重要な金利リスクのルールを厳しくすることを目指している。私たちは歴史的に低金利によって引き起こされる影響を非常に認識していることは言うまでもない。それにもかかわらず、負の範囲であっても、金利がチェックされずに引き下げられるようにすることに、GDVは強く反対している。私たちの業界では、保険者が投資を続けるのではなく現金で資金を保有するという事実上の金利の臨界値がある。

    4|欧州委員会や欧州議会の反応
    欧州議会の経済・金融問題委員会(Econ)委員長のRoberto Gualtieri氏は、EIOPA会長のGabriel Bernardino氏に対して、2016年11月15日にレターを送っているが、その中で、「UFRは2014年にソルベンシーIIを修正したオムニバスIIの指令で合意した妥協の一部であったため、2021年の長期保証パッケージのレビュー計画において、指令の他の要素と並行してのみ検討されるべきである。」等と主張していた。さらには、「会社の資本に与える影響を考慮して、UFR変更のより幅広い影響評価が必要である。」と主張していた。

    今回の方法論は、こうした意見にも関わらず、「方法論を実施する最終的な決定は、先に述べたような広範な協議と影響分析に基づいている。」として、EIOPAは、2018年1月から新しい方法論が適用され、UFR水準の引き下げが行われていくべき、とした。

    EIOPAは新しいUFR方法論を実施する権利を有しているが、欧州委員会は、使用されるリスクフリー・レートについて最終的な発言権を有している、とされている。
    欧州委員会は、これまでUFRの早期の変更を批判してきたことから、今後どのように対応していくのかが注目されることになる。5|その他の意見
    なお、今回の方法論によるUFRの水準については、ユーロの3.65%は高すぎる、との意見もあるが、そうした意見を踏まえて、今回の方法論によるUFR水準を引き下げる方向に見直されていく可能性は低いものと思われる。|今後の動き
    EIOPAは完全にボールを投げた形になっている。EIOPAは欧州委員会等の要請にも関わらず、今回の理事会では全会一致で今回の新たな方法論を決定しているとのことである。このことは、前回の提案には反対していたドイツの規制当局であるBaFinも今回の方法論を承認したことを意味している。これは、前回のレポートで説明したように、2016年4月の提案とは異なり、今回の方法論ではいくつかの点で修正が行われ、BaFinも妥協できるとの判断を下したことによるものと推測される。

    一方で、ドイツの保険業界や政治家は引き続き反対するスタンスを示しているようである。

    EIOPAは、今回欧州委員会が要求していた影響評価を提出している。その内容が十分ではないとの批判もありうる。

    欧州委員会は今回のEIOPAの決定に反対する権利がある。ただし、それを正当化するためには、今回の決定が既存の法的テキストに違反していることを示さなければならない。

    今回のUFRの見直しに反対する意見は、「移行措置がソルベンシーIIの法的テキストの一部であり、これらがUFRの引き下げの影響を受けることから、UFRの見直しはあくまでも2021年の長期保証措置のレビューと一緒に行われるべきである。」と主張している。

    これらの意見等も踏まえて、判断がなされていくことになる。今後欧州委員会からEIOPAに対して各種の照会等も行われていくことも考えられる。最終的に欧州委員会が問題等を指摘できなければ、今回のEIOPAが公表した方法論に基づいて、2018年以降、UFR水準の見直しが実行されていくことになる。
     

    4―まとめ

    今回のUFRを巡る議論については、今後欧州委員会がどのような判断を下すのかに委ねられている。これまでのソルベンシーII制度の構築においても多く見られたように、専門家による提言を踏まえた上で、最終的に政治判断されていくことになる。そもそもUFRの導入自体が、各種の他の長期保証措置等と同様に政治的妥協の産物なのだから、今回の決定も政治決着されていくのも止むを得ず、ある意味で当然のことだ、との冷めた見方もあるかもしれない。

    そもそも、今回の新しいUFR水準設定の方法論については、日本の数字を含めて、その水準の根拠については、各国の中央銀行の2%等のインフレ目標がその前提になっている。以前のレポートでも述べたが、こうして設定されるUFR水準に基づく責任準備金評価を、今後その性格付けを踏まえて、どのような意味合いを有するものとして位置付けていくのかについては、大変興味深いものがある。

    もちろん、ソルベンシー評価のための責任準備金評価については、基本的には、監督当局が適正あるいは適当と思われる方式に設定していくものである。重要なことは、保険会社の健全性の確保を通じた契約者保護を確実なものとしていくために、本来的にどのような考え方に基づいて水準設定がなされていくのが望ましいのかを検討して、あるべき姿を設定し、そうして決定される方式や考え方の妥当性・合理性等の説明責任をしっかり果たしていくことにあると思われる。

    UFRを巡る議論は極めて注目されているものである。今回のEIOPAの決定に対する欧州委員会等の反応については、引き続き注視し、議論の行方や決着の状況をフォローしていくこととしたい。 【関連レポート】 EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(1)-
    EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-
    EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-
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    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 欧米保険事情
    <![CDATA[EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)算出のための新たな方法論を公表(1)-]]> http://www.nli-research.co.jp/topics_detail1/id=55477 55477 Wed, 12 Apr 2017 10:13:39 +0900
    生命保険会社の責任準備金の評価において重要な意味を持つ、超長期の金利水準の設定に関連して、EUのソルベンシーIIにおいて、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)という概念が導入されている。このUFRについて、通貨ユーロの場合には現在4.2%という水準に設定されていることから、この水準が昨今の金利水準に比較して高く、結果として、責任準備金の過小評価につながっているのではないか、との批判が起きていた。これを受けて、EIOPA(欧州保険年金監督局)において、UFRの見直しに関する議論が進められ、EIOPAは1年前の2016年4月20日に「UFRの方法論とその実施に関するコンサルテーション・ペーパー」を公表していた。これに対する意見が2016年7月18日に締め切られたが、関係団体から「2017年からのUFR水準引き下げ」に対して、強い反対意見が提出され、こうした関係団体の意向も踏まえて、欧州委員会もEIOPAの動きを牽制する意見を発出していた。これにより、EIOPAは、当初2016年9月に予定していた決定を延期して、さらなる方法論の見直しを検討していた。

    こうしたUFRを巡る議論の状況については、これまで、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-」(2016.4.25)、基礎研レポート「EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-」(2016.8.22)、基礎研レポート「ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-」(2016.12.6)等で報告してきた。

    今回、こうした意見を踏まえて、EIOPAが2017年4月5日に、新たな「UFRを算出するための方法論」を公表した。今回は、この新たな方法論の概要、関係団体の反応、今後の動き等について、2回のレポートに分けて報告する。

    ■目次

    1―はじめに
    2―UFR(終局フォワードレート)とは
      1|UFRとは
      2|UFRを使用する補外法において決定すべき要素
    3―今回の新たなUFR算出のための方法論の概要
      1|ポイント
      2|位置付け
      3|UFR水準の決定方法
      4|実施時期
      5|年間変更幅の制限
      6|具体的なUFR水準
      7|前回2016年4月提案との比較
      8|今後のEIOPAの動き
    4―まとめ(中間)生命保険会社の責任準備金の評価において重要な意味を持つ、超長期の金利水準の設定に関連して、EUのソルベンシーIIにおいて、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)という概念が導入されている。このUFRについて、通貨ユーロの場合には現在4.2%という水準に設定されていることから、この水準が昨今の金利水準に比較して高く、結果として、責任準備金の過小評価につながっているのではないか、との批判が起きていた。これを受けて、EIOPA(欧州保険年金監督局)において、UFRの見直しに関する議論が進められ、EIOPAは1年前の2016年4月20日に「UFRの方法論とその実施に関するコンサルテーション・ペーパー」を公表していた。これに対する意見が2016年7月18日に締め切られたが、関係団体から「2017年からのUFR水準引き下げ」に対して、強い反対意見が提出され、こうした関係団体の意向も踏まえて、欧州委員会もEIOPAの動きを牽制する意見を発出していた。これにより、EIOPAは、当初2016年9月に予定していた決定を延期して、さらなる方法論の見直しを検討していた。

    こうしたUFRを巡る議論の状況については、これまで、保険年金フォーカス「EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-」(2016.4.25)、基礎研レポート「EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-」(2016.8.22)、基礎研レポート「ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-」(2016.12.6)等で報告してきた。

    今回、こうした意見を踏まえて、EIOPAが2017年4月5日に、新たな「UFRを算出するための方法論」を公表1した。今回は、この新たな方法論の概要、関係団体の反応、今後の動き等について、2回のレポートに分けて報告する。
     
    1 EIOPAのプレス・リリース資料は、以下の通り
     https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2017-04-05%20UFR%20Press%20Release.pdf
     

    2―UFR(終局フォワードレート)とは

    まずは、簡単に、UFRの概念について、これまでのレポートでの説明を繰り返しておく。

    UFRとは
    一般的に、市場で得られる一定の流動性がある信頼度の高い債券の金利は、20年、30年といった期間までに限定される。これに対して、生命保険会社は終身保険等の超長期の保険商品を販売している。このため、将来的にこれらの契約から収入される保険料や支払われる保険金等のキャッシュフローを、現時点まで割り引いて、現在価値を求めることによって、適正な責任準備金評価を行うためには、50年や60年といった超長期の金利水準の設定も重要になってくる。こうした超長期の金利水準の設定のような、既知のデータに基づいて、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求める手法を、一般的に「補外法(Extrapolation method)」と呼んでいる。UFRを使用する手法は、そのうちの代表的な手法の1つである。

    具体的には、(スポットレートではなく)フォワードレートが終局的に(外部から定められた)一定の水準に向けて収束するとの前提にたって、超長期の金利水準を決定する手法であり、この時に設定される終局のフォワードレート水準が「UFR(終局フォワードレート:Ultimate Forward Rate)」となる。UFRを使用する補外法において決定すべき要素
    UFRを使用して超長期の金利を設定する場合には、以下の要素を前提として決定する必要がある。

    (1) UFR(終局フォワードレート:Ultimate Forward Rate) 最終のフォワードレートの収束水準
    (2) LLP(最終流動性点:Last Liquid Point) 市場金利を(そのまま)採用する最終点
    (3) CP(収束期間:Convergence Period) LLPからUFRへの収束期間
    (4) LLPにおける市場金利からCP終了時におけるUFRへの収束方法 

    これには直線補間の他に、金利の性質をより適切に反映する形で設定する各種の手法がある。

    なお、これらの各種要素を決定する際の考え方の概要は、以下の通りである。

    (a) UFRの水準については、マクロ経済的な長期均衡金利等に基づいて設定される。
    (b) LLPについては、市場の流動性等を考慮して決定される。
    (c) CPや(4)の収束方法については、UFRへの収束速度や形状の滑らかさ等を考慮して決定される。これらの要素の関係を示したイメージ図は右の通りである。

    (1) UFR :4.2%
    (2) LLP :20年(20年までは市場金利を使用)
    (3) CP :40年(LLPから40年かけてフォワード

    レートがUFRに収束)収束方法:スミス・ウイルソン法2
     
     
    2 スミス・ウイルソン法は、UFRをインプットし、債券価格の観測値にフィットするイールドカーブを算出する手法であるが、パラメータの水準によって、UFRへの収束速度とイールドカーブの滑らかさを決定することができる。
     

    3―今回の新たなUFR算出のための方法論の概要

    この章では、EIOPAのプレス・リリース資料に基づいて、今回の新たな「UFRを算出するための方法論」について説明する。

    1|ポイント
    今回のEIOPAの方法論によるUFR水準の決定に関するポイントは、以下の通りである。

    ・新たな方法論は、2018年1月から適用される。
    ・方法論に従うと、ユーロに適用されるUFRの計算値は3.65%となる。
    ・ただし、UFRの年間変動幅は15bpsを超えない。
    ・従って、ユーロに適用されるUFRは、2018年に現在の4.2%から4.05%に引き下げられる。

    2|位置付け
    UFRを算出するための明確に特定された方法論は法的要件であり、方法論の原則は、ソルベンシーIIの法律で定義されている。

    EIOPAによれば、「この方法論は、ソルベンシーIIの立法の枠組みに定められた原則、特に時間の経過とともに安定し、長期的な期待の変化の結果としてのみ変更される、に従っている。EIOPAの方法論は、時間の経過とともに一貫して、透明で保守的で信頼性があり客観的な方法で、UFRを算出する。さらに、UFRは、長期実質金利および予想インフレ期待を考慮している。」ということになっている。

    今回の公表に伴い、EIOPAのGabriel Bernardino会長は、「この方法論は、安定したUFRと、金利とインフレに関する長期的な期待の変化の場合に調整する必要性、との間の適切なバランスをとっている。この手法は、UFRが徐々にかつ予測可能な形で動いて、保険者が金利環境の変化に適応し、保険契約者の保護を確実にすることを可能にする。」と述べている。

    なお、EIOPAは、「この方法論は、ステークホルダーとのワークショップ、パブリックコンサルテーション、詳細な影響分析などの広範な作業の結果である。」と述べている。3|UFR水準の決定方法
    UFRの水準は通貨毎に決定され、年間変更制限前のUFRは、(1)期待実質金利と、(2)期待インフレ率、の合計となる。この考え方は現行及び2016年4月の提案と同じである。期待実質金利は、各通貨について同一で、期待インフレ率は通貨別となる。

    (1)期待実質金利
    期待実質金利は、1961年からUFRの再計算前の年間実質金利の単純算術平均となる。1961年以降の毎年、年間実質金利は、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国、米国の年間実質金利の単純算術平均として、以下の算式で算出される。

     実質金利=(短期名目金利―インフレ率)/(1+インフレ率)

    ここで、短期名目金利は、欧州委員会(AMECOデータベース3)の年次マクロ経済データベースから取得され、インフレ率は、OECDの主要経済指標データベースから取得されている。

    期待実質金利は5bps単位に丸め処理されるが、(1)丸められていない金利が前年の丸められた金利よりも低い場合は、金利は上方に丸められ、(2)丸められていない金利が前年の丸められた金利よりも高い場合は、金利は下方に丸められる。

    (2)期待インフレ率
    1) 中央銀行がインフレ目標を発表した通貨
    期待インフレ率は、各国の中央銀行の定めるインフレ目標に基づいて、以下のルールで決定される。

     ・インフレ目標が1%以下である場合       1%
     ・インフレ目標が1%より高く3%より低い場合   2%
     ・インフレ目標が3%以上4%未満である場合    3%
     ・インフレ目標が4%以上の場合         4%
     ・中央銀行が特定のインフレ率を目標にしておらず、特定のコリドーにインフレーションを維持しようとしている場合、そのコリドーの中間点が4つのインフレ率バケットへの分類に関係する。

    2) 中央銀行がインフレ目標を発表していない通貨
    期待インフレ率はデフォルトで2%

    しかし、過去のインフレ経験とインフレ予測が、インフレ率が長期的には2%より少なくとも1%ポイント高いか低くなることを明らかに示している場合、期待インフレ率は それらの指標に一致するように選ばれる。

    過去のインフレ率は、10年間のインフレ率の平均と比較して評価される。インフレ率予測は、自己回帰移動平均モデルに基づいて導き出される。
     
    3 AMECOは、欧州委員会の経済金融総局(Directorate General for Economic and Financial Affairs)の年次マクロ経済データベースである。
    4|実施時期
    EIOPAは毎年UFRを計算し、その時に適用されるUFRからの方法論によって十分に異なると判断される場合は、翌年の初めに更新する。更新されるUFRは、毎年3月末までに発表される予定である。更新されたUFRが発表されてから9ヵ月後、EIOPAは、翌年の1月1日のリスクフリー金利期間構造を計算するためにそれらを使用する。

    UFRを算出する方法論は2018年から実施することになるので、方法論に従って計算された最初のUFRは、2017年4月初めに発表されることになる。これらのUFRは、2018年1月1日のリスクフリー金利期間構造を計算するために初めて適用されることになる。5|年間変更幅の制限
    各通貨について、毎年のUFRの変動幅は15 bpsに制限されるか、または変更されないままとなる。具体的には以下の算式による。ここに、は、年間変更制限後のt年におけるUFR
        は、年間変更制限後の(t-1)年におけるUFR
        は、年間変更制限前のt年におけるUFR
    また、 は、「3|UFR水準の決定方法」で述べたように、その時に適用されるUFRからの方法論によって、毎年計算される。6|具体的なUFR水準
    主要通貨のUFR水準は、以下の通りとなる。

    例えば、ユーロについては、上記の「2) 期待実質金利」が現行の2.2%から1.65%に引き下げられたため、UFRの水準は現行の4.2%から3.65%に引き下げられることになる。
     

    2.65%:スイス・フラン
    3.65%:豪ドル、加ドル、ユーロ、チェコ・コルナ、英国ポンド、クロアチア・クーナ、
        香港ドルアイスランド・クローナ、日本円、マレーシア・リンギット、
        ノルウェー・クローネ、ニュージーランド・ドル、ポーランド・ズロチ、
        ルーマニア・レウ、スウェーデン・クローナ、シンガポール・ドル、
        タイ・バーツ、台湾ドル、米ドル、韓国ウォン
    4.65%:コロンビア・ペソ、チリ・ペソ、ハンガリー・フォリント、メキシコ・ペソ
        中国元
    5.65%:ブラジル・レアル、インド・ルピー、ロシア・ルーブル、トルコ・リラ
        南アフリカ・ランド

    2016年4月の提案水準との比較では、基本的には、各国とも0.05%引き下がった形になっている。ただし、中央銀行のインフレ目標の変更等により、韓国ウォンは4.7%から3.65%へ、中国元が5.7%から4.65%へと引き下げられ、前回の分類とは異なり、より低水準のカテゴリーに分類された形になっている。

    前回の提案と同様に、日本のUFRが、現在はスイスと同じ最低水準の3.2%となっているものが、日本銀行のインフレ目標が2%であることが反映されて、スイスとは異なり、他の先進国と同様の3.65%のカテゴリーに分類されている。

    (参考)現行のUFRの水準(2017年数値)

    3.2%:スイス・フラン、日本円
    4.2%:EEA(欧州経済領域)4各国の通貨、以下の国々以外
    5.2%:ブラジル・レアル、インド・ルピー、メキシコ・ペソ、トルコ・リラ
        南アフリカ・ランド

     
     
    4 EU加盟28カ国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた国々
    7|前回20164月提案との比較
    今回の方法論は、これまで述べてきた利害関係者からの多くの反対意見にも関わらず、基本的には2016年4月の提案の考え方を踏襲している。ただし、以下のようないくつかの変更が行われている5

    (1)実施時期
    新しい方法論に基づくUFR水準の見直しの実施時期については、昨年の提案の「2017年1月」からではなく、1年先延ばしされて「2018年1月」からとなっている。2017年からの実施の延期については、欧州委員会等での動きを受けて、既に、昨年の9月の段階で決定されていたことである。

    ただし、保険業界や欧州委員会等からの意見にも関わらず、2021年の長期保証パッケージのレビューを待つのではなくて、2018年1月からのUFR水準の引き下げを提案する内容となっている。

    (2)UFR水準の決定方法-期待実質金利-
    過去の実質金利の加重については、昨年の提案におけるような、より最近のデータに大きな重みを付けるのではなく、1961年からのデータが等しく扱われている。これは、より最近の低金利がUFR水準の決定において、これまでのように大きな影響力を持っていないことを意味している。(参考)2016年4月提案時の期待実質金利

    期待実質金利は、1960年からUFRの再計算前の年間実質金利の以下の算式に基づく加重幾何平均となる。


     R:期待実質金利         n:1960年からの年数
     ri:1960年以降のi 年目の年間実質金利
     wi:1960年以降のi年目の加重で、wi=(0.99)n-i
    ここに、1960年以降の毎年の年間実質金利は、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国、米国の年間実質金利の単純算術平均として、以下の算式で算出される。
     実質金利=(短期名目金利―インフレ率)/(1+インフレ率)

    以上のような見直しの結果として、期待実質金利が2016年提案の1.7%から今回は1.65% に引き下げられている。

    「6|具体的なUFR水準」で述べたように、中央銀行のインフレ目標は基本的には変わっていないので、結果として、殆どの国で、最終的なUFR水準が0.05%ポイント引き下げられる形になっている。

    (3)毎年の変更幅
    一方で、毎年の変更幅の上限については、UFR水準のより一層の安定性を確保する観点から、20bpsから15bpsに引き下げられている。

    さらに、今回の提案では、毎年の変更幅の下限も15bpsということになり、15bps以上の変化が無い場合には変更されないことになる。

    2016年4月の提案によれば、毎年の変更幅の上限は20bpsに制限されているが、20bps未満の幅の変更も行われる形になっていた。(参考)2016年4月提案時のUFRの算出

    2016年4月提案時のUFRは、以下の算式による。

    ここに、は、年間変更制限後のt年におけるUFR
        は、年間変更制限後の(t-1)年におけるUFR
        は、年間変更制限前のt年におけるUFR

    (4)今後のUFR水準の推移(前回の提案との比較)
    以上の結果、前回の提案と比較した場合、(それぞれの提案時以降毎年決定されるUFR水準に変更が無いとした場合)今後のUFR水準の推移は以下の通りとなる。結果的に、前回の提案と比較して、今回の提案によると、2017年に加えて、2018年と2019年のUFR水準の引き下げ幅が0.2%程度抑制されることになる。この結果、UFR水準の引き下げによる影響が一定程度緩和される形になり、保険会社が今後各種対策を図っていくための時間的余裕が与えられることになる。

    さらには、今後のUFR水準の変更も15bps未満の幅では行われなくなるため、その変更頻度も減少していく形になり、UFR水準がある意味で安定的に推移していくことになる。一方で、実際に変更が行われる時には15bpsの変更幅となるため、小幅な変更を繰り返す場合に比べて、その影響度は相対的に大きなものとならざるをえなくなる。

    将来のUFR水準の予測可能性という観点からは、いずれがより望ましいとは一概には言えないようにも思われるが、繰り返しになるが、EIOPAのGabriel Bernardino会長のコメントによれば「この手法は、UFRが徐々にかつ予測可能な形で動いて、保険者が金利環境の変化に適応し、保険契約者の保護を確実にすることを可能にする。」という自己評価が与えられている。
     
     
    5 なお、移行措置の適用に関連して、現在は「(移行措置が終了する)2032年におけるUFRを予測して、移行措置の終了後のソルベンシーIIへの遵守を確認する。」ことが求められているが、この要件が削除されることになる。
    8|今後のEIOPAの動き
    EIOPAは、ステークホルダーのコメントに対するEIOPAの回答を含むコンサルテーション・レポートを2017年5月初めに発行する予定としている。
     

    4―まとめ(中間)

    以上、今回のレポートでは、EIOPAが2017年4月5日に公表した、新たな「UFRを算出するための方法論」の内容について説明した。次回のレポートでは、EIOPAが行った影響分析の結果、EIOPAの公表を受けての関係団体の反応、今後の動き等について報告する。 【関連レポート】 EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-
    EUソルベンシーIIの動向-UFR(終局フォワードレート)水準の見直しを巡る動きと今後の展望-
    ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-
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    保険研究部取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長中村 亮一 欧米保険事情