コラム
2014年08月18日

「家事ハラ」と少子化-“イクメンよ、大志を抱け!”

土堤内 昭雄

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近年、○○ハラスメントという言葉が氾濫している。「セクハラ」はじめ、「パワハラ」、「アカハラ」、「マタハラ」、そして最近では「家事ハラ」が登場した。元々「家事労働ハラスメント」とは、竹信三恵子さんが著書『家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの』(岩波新書、2013年10月)の中で、『だれもが必要とする「暮らしの営み」のはずの労働が、なぜ正当に評価されないのか?』という問題意識から、家事労働の不当評価がいかに社会の生きづらさをもたらしているのかを表わしたものだ。

一方、大手住宅メーカーが作成した「妻の家事ハラ白書」が、家事に不慣れな夫に対する“ダメだし”を妻から夫への「家事ハラ」と表現して、いま大きな話題になっている。家事は夫婦でシェアするのが当たり前の時代に、それに不慣れな夫たちに対して、『お皿洗いありがとう。一応もう一度洗っとくね』『(掃除)早く終わったね。ちゃんとやってくれた?』などと、『妻の何気ない一言が、夫の家事参加を妨げている』というのだ。

先日、国立社会保障・人口問題研究所が公表した「第5回全国家庭動向調査」(2013年実施)によると、夫の家事分担割合は14.9%、育児分担割合は20.2%と、以前の調査結果からは増加傾向にあるものの、依然として家事・育児の大半を妻が担っている。また、夫の家事・育児遂行率が高い場合、「今後子どもを持つ予定がある妻の割合」が高いという調査結果も出ている。つまり、夫の家事参加率が向上すれば、少子化対策として有効だというわけだ。

前述のふたつの「家事ハラ」の意味は異なるが、重要な点は「家事労働」の本質を認識するかどうかだ。「妻の家事ハラ白書」に例示されているような妻の何気ない“ダメだし”で、夫が家事参加への意欲や自信を失うなら、それは「家事を手伝ってあげている」という夫の潜在意識の顕れではないか。また、夫は、家事労働を単なる妻の「手伝い」で、未熟なレベルで許容されると甘えてはならない。ただし、妻も初めは未熟で、経験が家事・育児のスキルを磨くので心配するには及ばない。

「家事労働」は、人間が生きる上で不可欠な行為であり、成人男女が共に主体的に関わるべきことだ。家事・育児に、妻の手伝い“Secondary Care Taker”として取り組むうちは、その本質が見えてこない。一方、主体的な“Primary Care Taker”としての家事・育児は、父親をひとりの人間として成長・発達させ*、それは家事・育児を創造的行為にするだろう。夫は妻の“ダメだし”などにくじけてはいけない。それは自らの成長のための重要な一歩なのだ。『イクメンよ、大志を抱け!』である。




 
 柏木惠子編著『父親の発達心理学~父性の現在とその周辺』(川島書店、1993年11月)参照
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