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経済学では人間は経済合理的に判断し行動するとされているが、デューク大学教授で行動経済学者のダン・アリエリーは、人間が様々な不合理な判断と行動をとることを多くの社会実験により検証している。そしてその著書『予想どおりに不合理(Predictably Irrational)増補版』(早川書房、2010年10月)のなかでは、『わたしたちの不合理な行動はでたらめでも無分別でもない。規則性があって、何度も繰り返してしまうため、予想もできる』と記している。
人間の行動の不合理性の背景として、世の中には社会規範と市場規範があり、いずれの規範が支配的であるかによって人の行動は大きく異なるという。たとえば、困窮している退職者の相談に乗る弁護士ボランティアを募集したところ、わずかの報酬を与えることを条件にすると応募者はいなかったが、無報酬にすると多くの弁護士が集まった。それは彼らが市場規範ではなく社会規範に基づき行動したからだ。このように人間は必ずしも経済合理的に行動するわけではないのである。
先日、哲学者・内山節さんの『歴史の変わり目を感じる』(日本経済新聞、2012年8月26日)を読んだ。そこには『現代史とは人々が合理的な生き方を身につけていく歴史だった。真理を解き明かすものとして人々は科学を信じ、経済の合理的な発展が豊かさをもたらすと私たちは信じた。(中略)すべてを説明しつくし、合理的に解釈しようとしたのが近代以降の歴史だとするなら、今日広がりつつあるのは、説明できない大事なものを大切にしていこうという発想である』と書かれている。
近年、合理性を追求する多くの企業が成果主義を導入したが、多くの課題が指摘されている。成果主義の下では、従業員は自らの利益を最優先に考え、部下の指導や同僚の相談に乗るなど自分自身の成果に直接結びつかない事はやりたがらない。そして仕事の成果をすべて金銭に換算する金銭だけで繋がった会社では、人は働く喜びや向上心を失い、高い付加価値を生み出さなくなるなど、そこには成果主義に内在する合理性の不合理が析出する。
人は給料のためだけに働くのではない。働くことで他者との係りを持ち、自己のアイデンティティを獲得し、働く意味を発見するなど様々な価値を創造するが故に経済合理的でない行動もとるのだ。「お金では愛は買えない」ことを多くの人が知っているが、「お金では仕事は買えない」ことはあまり理解されていないのかもしれない。内山さんは『合理的な考え方には、根源的なものを感じなくなっている。魅了するものはその奥にある』とも述べている。
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