コラム
2012年01月11日

復興元年~大震災を超える力

土堤内 昭雄

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2012年が開幕した。昨年は東日本大震災という未曾有の大災害に見舞われ、東京電力福島第一原子力発電所の事故が重なり、忘れることのできない1年だった。正月のテレビ番組は、被災地の復興に向けた動きを伝えるドキュメンタリーをたくさん放送していた。それらを見ていると、被災地の人たちが力強く立ち上がる姿に激しく心を動かされ、支援する側の人も本当に勇気づけられる思いを強くしたのではないだろうか。

新年1月9日(月)、ホリデー・ドキュメント『池袋発三陸行き 夜行バス物語』(NHK総合)というテレビ番組があった。毎晩9時に池袋西口を出る三陸地方に向う夜行バスには、行方不明の家族を探しに帰省する人、被災地を元気づけるためにボランティア活動に行く人など様々な思いを抱えた人たちがいる。私自身も昨年9月に夜行バスで被災地を訪れたが、あの時もきっと様々な事情を抱えた人たちが乗り合わせていたのだろう。

昨年の大震災は多くの人々の幸福感を根底から揺るがしたが、内閣府が毎年行う国民生活選好度調査では、今年の「幸福度」はどのように変化するだろう。平成21年度調査までは「幸福度」は、「生活満足度」として捉えられてきたが、両者は同じ概念だろうか。生活満足度は現在の状況を前提にしているのに対して、幸福度は過去の状況や将来の動向にもかなり影響されるのではないかと思われる。

大阪ガスのエネルギー・文化研究所の生活意識調査では『幸福度と生活満足度は強い相関関係がある一方、幸福度の方が生活満足度よりややよく評価されている』(豊田尚吾「現代生活者の住まい・生活観」大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所2010年10月)としている。その理由として『生活に不満はあるけれども、幸せか不幸かといわれれば、幸せと答える。幸せの本質的な特徴(総合性や多様性)が、ここに表れている』と分析している。

確かに幸福度の自己評価が生活満足度のそれよりも高いということは、現在の生活状況が厳しくとも、将来への展望が開けているときには幸福感がもたらされるからかもしれない。私は震災を契機に「幸福とは将来への希望ではないか」と考えるようになった。被災地の人々の生活満足度は最悪かもしれないが、それでも復興に向けて前進する人々の姿には明るい希望が感じられる。「希望学」を唱える東京大学の玄田有史さんは『希望は前進するための原動力だ』と述べている。

わが国では年末に各地でベートーベンの第九交響曲が演奏される。ベートーベンは聴力を失い、音楽家としての苦難の末に「喜びの歌」を作曲した。苦難を通して歓喜に至ること(Durch Leiden Freude)を身を以って示したのだ。だからこそ第九交響曲はわれわれに生きる勇気を与えてくれる。

フランスの哲学者アランは「幸福論」の中で『悲観主義は感情によるが、楽観主義は意志の力による』と述べている。大震災の苦難を乗り越えるにはとても長い時間を要するだろうが、苦難の先に本当の幸せがあると信じたい。アランのいう『意志としての楽観主義』が人々に希望を与え、それを原動力とする復興力が大震災の破壊力をも超えるだろう。今年は逞しく復興に向けて前進する「復興元年」になることを願う。アランは『人は幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ』とも述べている。
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2012年01月11日「研究員の眼」)

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