コラム
2011年12月02日

幼保一体化の行方~主体としての子ども支援

土堤内 昭雄

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子ども政策が今大きく変わろうとしている。政府は今年7月、「子ども・子育て新システム」の中間とりまとめを発表した。基本的な考え方は、子ども・子育てを取り巻く家族や地域の環境変化を踏まえ、子育てに関する新たな支え合いの仕組みをつくることである。『すべての子どもへの良質な成育環境を保障し、子ども・子育て家庭を社会全体で支援すること』を目標としている。

その主要施策のひとつが「幼保一体化」という「こども園」(仮称)の創設である。「こども園」は質の高い幼児教育と保育を一体的に提供するための施設と位置付けられている。また、これまで文部科学省と厚生労働省に分かれていた予算を「子ども園給付」(仮称)に統合し、その実施体制として「子ども家庭省」(仮称)の創設を検討するとしている。その他には、株式会社やNPOなど多様な事業主体の参入による基盤整備も盛り込まれている。

このような政策転換の背景には、急速な少子化により幼稚園の定員割れが生じる一方、働く女性の増加により保育需要が高まり、都市部を中心に保育所の待機児童の増加が大きな社会問題になっていることがある。今後、本格的な少子化と人口減少が続くわが国で、子育て女性の就業率の向上と出生数減少への歯止めは重要課題なのだ。

また、これまで保育所は保育に欠ける子どもをケアするための福祉施設として位置付けられてきたが、共働き世帯が専業主婦世帯を大きく上回る今日では、多くの世帯が保育所を必要としている。一方、専業主婦世帯においても、家族や地域社会の子育て力が低下し、家庭内で孤立した育児に悩む親も多く、在宅育児に対する支援も必要になっている。このように保育の社会化は親の就業状況に関わらず必要になり、保育の普遍化が求められているのだ。そして保育の普遍化は保育ニーズと幼児教育ニーズのクロスオーバーをもたらしている。

しかし、幼児教育と保育の統合を目指す「幼保一体化」の実現にはさまざまな課題がある。文部科学省と厚生労働省の縦割り行政による財源問題だけではなく、そもそも機能が異なる教育施設である幼稚園と福祉施設である保育所を、単なる需給調整のためにお互いの垣根を取り払うだけでは不十分だ。平成18年には従来の制度の枠組みの中で、保育所が教育機能を、幼稚園が保育機能を付加する形で「認定子ども園」制度ができたが、その数は762件(平成23年4月現在)とあまり多くないことからも明らかである。学校教育法に基づく幼稚園と児童福祉法に基づく保育所を統合するためには明確な理念が必要なのである。

では、統合に向けた明確な理念とは何だろう。それは客体としてではなく主体として、とぎれのない子ども支援を行うことである。仕事と子育ての両立のために労働政策としての保育支援は重要な施策だが、明日の日本を創造するためには「子ども・子育てビジョン」(平成22年1月閣議決定)にも謳われている「チルドレン・ファースト」という子どもを主体に据えた子ども支援が重要だ。また、とぎれのない支援として、子どもの成長発達に寄り添うための多様な機能の連携が必要である。

先日、三重県津市で「第7回全国子ども支援フォーラム」(認定NPO法人チャイルドライン支援センター主催)が開催された。このフォーラムは三重県の子ども条例制定を記念し、子どもを主体とした子ども支援のネットワーク化をメインテーマにしていた。「子どもの権利条約」採択から22年が経ち、子どもを権利の主体に据えた新しい子ども観を社会全体が共有することが必要だ。幼児教育は国民の潜在能力を発揮する上で高等教育と同等以上に重要であり、幼児期の教育投資は非常に有効であるとする研究成果もある。子どもを主体とする保育と教育を一体化した子ども支援の構築は、少子・人口減少時代の新たな国家の礎を築く上で不可欠になっているのである。
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