コラム
2010年11月24日

利用者負担なしにケアマネジメントの質の向上はありえない

阿部 崇

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2012年4月に向けた介護保険制度改正の準備が佳境にある。ずいぶんと前倒しの議論と感じるかもしれないが、法改正を含む制度見直しが行われるのであれば、通常国会への改正法案の提出などもあるので、そう急ぎ足の話でもない。その議論を行っている社会保障審議会の介護保険部会の場に厚労省が提示した改正案の一つに「ケアプラン作成にかかるサービス費(居宅介護支援費、現在は100%保険給付)に利用者負担を導入する」というものがある。結論から言えば大賛成。至極まっとうな改正項目が久しぶりに示されたとの印象を受ける。

訪問介護(ホームヘルパーが訪問して身の回りの世話などを行うサービス)や通所介護(デイサービスセンターなどに送迎して入浴や簡単な機能訓練などを行うサービス)などの介護保険サービスはサービス費の1割に相当する利用者負担がある。特別養護老人ホームなどの入所サービスを利用しても1割の利用者負担は同様である。とすれば、「居宅介護支援費」にこれまでなぜ利用者負担が導入されていなかったのか、の方が不思議な話である。

確かに、制度スタート当時は、在宅の要介護高齢者がサービスを利用する場合に原則利用することになるサービス調整業務、具体的には、要介護度ごとに設けられた支給限度額(1か月あたりの給付上限)内で適切な種類と量のサービスを利用するための計画(ケアプラン)作成等を中心とするケアマネジメント業務は、制度の仕組みの上で半ば強制的に利用しなければならないものであり、かつ、サービスそのものが新しい概念でもあったため、100%保険給付扱いとされたことには頷ける部分もある。しかし、それから10年以上が過ぎた現在、もはや当時の経過措置的な考え方を継続する意味合いは薄れてきているのではないだろうか。これまでしばしば、ケアマネジメントを担う介護支援専門員の業務の重要性や労力(大変さ)が話題にのぼり、介護報酬(サービス単価)も上向きに改定されてきたが、今後はサービスのメリットを享受している利用者から他のサービスと同様にキチンと利用者負担を求める仕組みにするべきであろう。低所得高齢者層の負担増につながる問題は確かに存在するが、それは居宅介護支援費に利用者負担を導入することの是非とは全くの別問題であり、論点のすり替えである。

一般の物品やサービスはすべからくそれを購入(代金を負担)する消費者・利用者からの評価を得て質の向上を果たすものである。それは医療や介護といった社会保険のサービスを提供する医療機関や介護サービス事業者も同じことである。

これまで、研修や調査研究などを通じてしかケアマネジメントの「質」を測定することができなかった世界に、「利用者の選択」という直接的な“ものさし”が導入されることは、反対するようなものではなく、むしろ歓迎すべきことではないだろうか。他の介護サービスと同じ土俵に立って、自らのサービスに対して利用者に負担を求めることができなければ、“専門性”を主張することはできない。

これからは、“お金を払う”利用者の選択を通じて、「質」のみならず、それ自体の「必要性」が問われることになるだろう。
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阿部 崇

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