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この物語の主人公は自殺した14歳の少年「小林真(まこと)」。「抽選に当たって」生き返り、前世をやり直すことになる。友だちはなく、いじめに苦しみ、好きな女の子は中年男性と援助交際し、兄には無視され、父親は上司を踏み台にして出世する利己的な人間で、母親はフラメンコの先生と不倫していた、というような苦難に満ちた前世だったはずが、生き直してみると、周囲の人々の「色」はまことが思っていたより複雑な「カラフル」で、見方によってはまんざらでもなかったことが次第に明らかになってくる。
こういう大人びた内容を、小学校6年生の娘が普通に読破し、理解していることに親として少なからぬショックを覚えると同時に、今の小・中学生が生きている社会は、私が彼女と同い年だった約30年前と比べて「毒」に満ちあふれていることを改めて痛感した。いまや小学生のうちから詳細な性教育だけでなく、防犯やドラッグ予防に関する情報提供までが行われる背景には、小学生がそういう危険に巻き込まれる可能性が十分にあるという現実がある。おそらく、小・中学生の「子育て・子育ち」は30年前よりある面で大変になっており、子どもが社会の「毒」に浸食されると、親は子どもを(見)守り、時には一緒に戦うために、「ワーク」よりも「ライフ」に重点を置かざるを得なくなるだろう。
この物語のなかで、私が一番好きなシーンは、生き返ったまことを父親が釣りに連れて行くシーンである。このシーンで、父親は初めてまことに対して、自身の職業人生を赤裸々に話す。最初の職場は上司にミスを押し付けられて退職したこと、次の職場では悪徳商法に手を出した上層部を止めようとして退職を強要されたこと等々。「父さんの人生は父さんなりに、波乱万丈だ。いいこともあれば悪いこともあった。」という父親の言葉に、父親に対するまことの誤解が解かれていく。さらに、父親は仕事における悲惨な過去が、まことが生き返った瞬間にすべて吹き飛んだことを伝える。
このシーンは、父親のワークライフバランスに対する問題提起のようにも思える。ここ数年、男性の育児に対する関心が高まり、2010年6月末に施行された改正育児・介護休業法にも、男性の育児休業取得を後押しする改正内容が何点か盛り込まれている。しかしながら、小・中学生の子育てにおける父親の役割については、議論されること自体がまだ少ない。内閣府『男女共同参画白書』(2010年)をみると、6歳未満の子を持つ父親の育児時間は、1日33分にすぎない(総務省「社会生活基本調査」(2006年)より)。では、父親が小・中学生の子どもと接する時間は1日何分だろう。内閣府『国民生活白書』(2007年)をみると、小学4年生から中学3年生の父親が平日に子どもと接する時間は「ほとんどない」が23.5%、「15分くらい」が14.8%、「30分くらい」が22.1%と、30分以内が6割強を占める(内閣府「低年齢少年の生活と意識に関する調査」(2006年)より)。このようななかで、父親は子どもとどの程度強い関係性を構築できているのだろうか。
まことの父親は生き返った息子に自分の職業人生を語り、息子への愛情を伝えることで、親子の絆を取り戻した。現実の世界では自殺した息子が「抽選に当たって」生き返ることはない。「毒」だらけの社会で子どもたちを育てていくために、父親が果たすべき役割は大きい。
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松浦 民恵
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