コラム
2010年08月18日

J-REIT(不動産投資信託)の配当ルールは見直されるか?

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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リーマンショック以降のグローバルな信用収縮危機に翻弄されたJ-REIT市場は、昨秋より資金調達環境が改善し、REIT同士の合併・信用力の高いスポンサー企業への交代による業界再編が大きく進展したことから、ひとまず安定を取り戻している。

このようなマーケット回復を支えた、不動産市場安定化ファンドの創設やJ-REITの合併を促進する会計・税制度の見直しなどの制度改正が一巡する中、不動産証券化協会(ARES)は、7月に「H23年度制度改善要望および税制改正要望」を公表した。例年投資家の注目度の高いARESの要望書は、不動産取得税の軽減処置の延長など不動産投資市場活性化に向けた施策に加えて、不動産証券化スキームの安定性を高める施策として計8項目を掲げており、その1つとして、「投資法人等において一定程度の内部留保を可能とするため、一定の要件を満たした場合における積立金の損金算入を可能とする措置等の導入」を提言している。

法人税が免除される導管性要件の1つに、J-REITは配当可能利益の90%超を配当すればよいことになっているが、実際には内部留保をしないで利益のほぼ100%を投資家に分配している。これは、(1)分配しない利益への課税が投資主利益を毀損しかねないとの見方があること、(2)導管性を否認された場合に事後の修正分配を認める規定がなく(宥恕規定)、否認リスクを回避するにはバッファーをもって分配せざるを得ないことが、理由に考えられる。

そこで、ARESでは、J-REITが内部留保をしやすくするため、90%超の配当を前提に、LTV(負債比率)引き下げなど、財務体質改善を目的とする積立金については損金算入を認めるよう要望している。海外のREIT制度では、上記のほか、物件売却益の一部留保や株式配当による内部留保が認められており、REITの構造的課題である内部留保の欠乏に対して一定の配慮がなされている。

もちろん、J-REITの本源的価値は、内部留保の大小ではなく、適切な資本的支出などを通じた長期的な資産価値の維持・向上である。また、J-REITの年間利益は約1,800億円、有利子負債は約3.5兆円で、利益の10%に相当する180億円を活用して負債比率を引き下げても削減効果は0.5%と大きくない。しかし、配当ルールが見直され財務戦略の柔軟性が少しでも高まれば、J-REITに対する金融機関の融資姿勢の緩和や、不動産サイクルの拡大期に内部留保を厚くし次の低迷期に備えるカウンターシクリカルな財務運営などの、副次効果も期待できるだろう。

そして、投資家にとって何より重要なメッセージは、国内不動産投資市場の魅力を高め、投資家利益保護の強化に向けた制度改革を、官民一体となって不断に取り組む姿勢を示すことにある。今回の要望とは別に、今後、国交省主催の「投資家に信頼される不動産投資市場確立フォーラム」において、市場活性化に向けた不動産投資市場のあり方が話し合われるが、こうした議論が深まり、実効性ある制度見直しが行われて、J-REIT市場に対する投資家の信認がさらに高まることを期待したい。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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