- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 人口動態 >
- 「オフィス市場の2010年問題」、見えてきた着地点
現在、景気後退で企業利益は大幅に縮小し、オフィスビルに対する新規需要も急速に減少している。絶好調と言われた東京のオフィス市場は、2008年に空室率が上昇に転じて賃料も下落傾向にある。東京ビルヂング協会の景況感は、2003年やバブル崩壊時よりも悪く、観測史上最悪の数値となっている。現時点で7%近い空室率が、2003年当時と同じ8%台半ばの水準に年内にも達する、という市場関係者の見通しも現実味を帯びてきた。我々は最新のレポートで、東京都心3区の賃料が2011年まで下落すると予測している。
2005~2007年にオフィスワーカーが急増して東京のオフィス市場が活況に沸いた時には、「2010年問題は杞憂」という声も聞かれたが、今や市場の先行きを楽観視する者はほとんどいない。しかし、これは我々が予想した「2010年問題」ではない。なぜなら、今直面している市況悪化の原因は、団塊世代退職のインパクトではなく、世界的な金融危機を背景にした経験のない急激な景気後退によるオフィス需要の減退であるためだ。確かに、団塊世代のオフィスワーカーは減少している。しかし、定年退職前にリストラされた人数が少なくないとみられる上、2006年に施行された改正高齢者雇用安定法で60歳から65歳への雇用延長が促進されたため、団塊世代の退職が2007~2009年に集中せずに分散してしまったといえる。
このような法改正以外に我々が7年前に想定できなかったこと、あるいは予測の前提としなかったことは、好景気が「いざなぎ景気」を超えて2002年2月から69ヶ月も続いたことと、2005年頃からの不動産ファンドブームの過熱と今回の金融危機による急収縮、である。また、当時のレポートでは、地方都市におけるオフィス需要の減退についても警鐘を鳴らしていたが、ファンドマネーによるオフィスビルの開発ラッシュは予想外であった。いまや、仙台と名古屋の空室率は過去最高水準を超え、福岡と横浜の空室率も過去最高水準に近づくなど、東京よりはるかに深刻な事態となっている。
結局、団塊世代退職という人口構造面での変化の影響がリストラや政策で緩和された反面、激しい景気変動が2010年を目前にしたオフィス市場を大きく揺さぶっているということである。しかし、中長期的な視点に立てば、オフィスに限らず住宅や商業などあらゆる不動産事業において、少子高齢化による需要の減少やニーズの変化を考慮すべき時代になったのは紛れもない事実であり、7年前の問題提起は間違っていなかったと思っている。さらに、不動産市場がかつてないほど世界の経済活動やマネーの動きと切り離せなくなっている点も重要だ。J-REIT(不動産投信)の充実した情報開示によって、オフィス市場の透明性は飛躍的に高まったが、短期的な収益拡大を目指すファンドの参入で、賃料の動きが激しくなっているだけに、市場のダイナミズムを読み間違わない動体視力も求められていると実感している。
このレポートの関連カテゴリ
松村 徹
研究・専門分野
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年03月28日
“ガソリン補助金”について改めて考える~メリデメは?トリガー条項との差は? -
2024年03月28日
健康無関心層へのアプローチ -
2024年03月28日
中国経済:景気指標の総点検(2024年春季号) -
2024年03月28日
高齢者就業への期待と課題(中国) -
2024年03月28日
中国における結婚前の財産分与から見た価値観の変化
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
-
2023年04月27日
News Release
【「オフィス市場の2010年問題」、見えてきた着地点】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「オフィス市場の2010年問題」、見えてきた着地点のレポート Topへ