コラム
2008年06月23日

“サブプライム・ショック”の第二幕~実質住宅価格は12カ国で下落へ

石川 達哉

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米国金融機関の最新決算からは、サブプライムローン関連の損失が拡大していることが改めて確認されたが、OECDの「エコノミック・アウトルック」においては、「世界的な金融市場の混乱は最悪期を脱した」という見解が示されている。これは、証券化商品の保有額や評価損・実現損の規模が判らずに、信用不安が拡大した当初の状況とは異なり、事実が事実として把握され、問題の所在が明らかになっていることを評価し、市場への流動性供給も十分に行われていると判断したからであろう。

実際、緊急避難的な措置として政策金利の引き下げや市場への資金供給を行なってきたFRB(米国連邦準備制度理事会)やECB(欧州通貨銀行)の当局者は、それを打ち止めることを表明している。つまり、中央銀行にとっての優先的な政策課題は、原油など一次産品価格の上昇によるインフレ圧力の高まりに対処することに移ったということである。
 
主要15ヵ国の実質ベースの住宅価格の推移
不幸なことに、こうした政策転換を前に、“サブプライム・ショック”の第二幕はすでに上がっている。各国の金融市場が証券化商品を通じて米国から間接的に影響を受ける局面から、国内に飛び火した要因から直接的な影響を受ける局面へと移っているのだ。

その要因とは、各国の住宅価格の下落である。一般物価上昇分を控除した実質ベースで見ると、統計が利用可能な先進17カ国のうち、90年代半ば以降の長期的な価格上昇を最近まで享受していたのが日本・韓国・ドイツ・スイスを除く13カ国、このうち、すでに価格下落へと転じた国はカナダ以外の12カ国にも及んでいる。昨年9月に「米国以外でも変調の兆しが見える住宅価格」と指摘した時には、実質ベースでも、価格下落が確認できたのはデンマークと米国のみであった。今や、当該リストには、英国・アイルランド・スペイン・フランス・オランダ・スウェーデン・ノルウェー・フィンランド・オーストラリア・ニュージーランドが加わり、12ヵ国に達している。この中には、最新の実質価格は直前の四半期と比べて低いが、前年同期と比べれば、まだ高いというケースも含まれているので、厳密には「横ばい、ないしは下落」と表現すべきかもしれない。しかし、永らく上昇が続いてきた状況とは、趨勢が一変している。

インフレ抑制のためとはいえ、こうした状況下での金融引き締めは、住宅価格を一段と下落させるリスクをはらんでいる。下落率が大きければ、購入資金の大半をローンに依存して住宅を取得した場合や、持家を担保とした借入れを行って、消費に用いた場合など、家計は債務超過状態に陥ってしまう。住宅価格が上昇を続けた過去10年の間に、各国の家計は、ほぼ例外なく、負債も大幅に増やしてきたからである。

しかも、2000年以降の実質価格上昇に関しては、米国の上昇幅はむしろ小さい方であり、「山高ければ、谷深し」の経験則が当てはまるならば、米国を上回る大幅な下落が起こる可能性のある国は少なくない。景気減速による所得減少や失業に直面すれば、債務超過に陥った家計がデフォルトする確率は更に高まる。しかも、債務超過には無縁の家計も含めて、資産としての住宅の価格下落は消費を抑制する要因として働く。

つまり、程度の差こそあれ、米国で起こったことは、潜在的には他の国でも起こり得る。注視すべき対象は、もはや、“サブプライム・ショック”に見舞われた金融機関の決算動向だけではないのだ。
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