2015年10月07日

拡大するインバウンド消費-今後地方への波及が期待される

基礎研REPORT(冊子版) 2015年10月号

岡 圭佑

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1―増勢強まるインバウンド消費

旅行収支は、東日本大震災の影響を受けて訪日外国人旅行者数が減少した2011年(▲1.3兆円)をボトムに、緩やかな改善が続き2014年には▲441億円まで赤字幅が縮小している[図表1]。東日本大震災直後の日本離れが薄れつつあるなか、東アジア・東南アジア諸国に対する訪日ビザの発給要件の緩和・免除措置の拡大やLCC(格安航空会社)の就航数増加などを背景に訪日外国人旅行者数が増加したことが旅行収支の改善要因となっている。日銀による量的・質的金融緩和をきっかけに加速した円安によって日本向けの旅行が割安となったことも訪日を後押し、訪日外国人旅行者数は直近3年間(2011~14年)で2.2倍となった。
   訪日外国人旅行者の旅行支出をみると、直近3年間で2.5倍と訪日外国人旅行者数の伸び(2.2倍)を上回り、2014年には名目GDPの0.4%(2011年:0.2%)に相当する規模に達している[図表2]。このように、訪日外国人旅行者数の増加に伴い、一人当たり旅行支出が経済成長へ与える影響は高まりつつある。



 

2―インバウンド効果を後押しする免税店の増加

こうした訪日外国人旅行者による消費支出(インバウンド消費)は、消費税率を引き上げた14年4月以降、個人消費を中心に内需の低迷が続く日本経済において、一定の下支え効果を発揮している。
   百貨店、家電量販店、ドラッグストアにおけるインバウンド消費の割合を、入国者や購入者単価・購入率などを用いて試算すると、いずれの業態においても訪日外国人旅行者の存在感が高まっていることが見て取れる[図表3]。例えば、百貨店売上高に占める訪日外国人旅行者の売上高の割合は、2011年の0.2%から14年には2.5%まで上昇している。このほか、家電量販店、ドラッグストアでも同様の傾向がみられる。
   このように、インバウンド消費が増加している背景には、前述のとおり訪日外国人旅行者の増加に加え、一人当たりの旅行支出が拡大していることが挙げられる。
   「訪日外国人旅行者消費動向調査」(観光庁)によると、訪日外国人旅行者一人当たりの旅行支出は2010年の13.3万円から2014年には15.1万円まで増加し、2014年については前年比10.6%(2013年:同5.3%)と伸びが加速している[図表4]。旅行支出の内訳をみると、消費単価全体の9割を占める買物代、宿泊料金、飲食費が増加を続けるなか、買物代(前年比19.2%)、飲食費(同14.7%)が2014年に急増したことが旅行支出押し上げに寄与している。訪日外国人旅行者の買物代、飲食費が大幅に増加しているのは円安によるところが大きいが、買物代に限っては高額商品の購入率が高まっていることに加え、2014年10月の免税制度拡充も支出全体を大きく押し上げているとみられる。買物代の内訳をみてみると、単価の高いカメラ・ビデオカメラ・時計や電気製品が上昇しているほか、免税制度拡充の対象となった化粧品・医薬品・トイレタリーは2014年に上昇に転じている[図表5]。円安による購買力の高まりに加え、消費税免税の対象が拡大したことが、訪日外国人旅行者に対して幅広い商品選択の機会を与えたといえる。
   このように、インバウンド消費は個人消費の回復が遅れる中で、一定の下支え効果を発揮している。ただし、こうした効果は百貨店などの免税店が集中する都市部や一部の観光地に限られ、それ以外の地方にまで十分に行き渡っていないとの見方もある。



 

3―インバウンド効果は今後地方へ波及

業態別売上高に占めるインバウンド消費の割合を地域別に試算してみると、東北や四国など地方が低い一方で、関東、近畿、北海道では総じて高い傾向がいずれの業態でもみられるように、インバウンド消費は一部の地域に偏っているといえる[図表6]。その背景には、観光資源の集中と交通アクセスの容易さがあるが、加えて百貨店や家電量販店などの免税店がこれらの地域に多いことも見逃せない。こうした中、免税制度拡充を機にこれまで免税の対象外であった食料、飲料、化粧品などの消耗品が免税の対象となり、免税店の増加は都市部に留まらず地方にも広がりを見せている。
   ここ1年間の免税店数の推移をみてみると、14年4月(5,777店)から14年10月(9,361店)にかけて1.6倍に増加した後、免税制度拡充の効果もあり15年4月(18,779店)には14年10月比で2倍まで伸びが拡大している。また、免税店数の増加率(14年10月→15年4月)を地域別に比較すると、百貨店や家電量販店などの免税店が増加する東京(1.8倍)や大阪(2.0倍)、外国人集客力の高い北海道(1.9倍)などの観光地に比べ、熊本(4.4倍)や仙台(3.1倍)などこれまでインバウンド消費の恩恵が少なかった地域で大幅な伸びとなっている[図表7]。
   このように、免税制度拡充を機に免税店は地方を中心に急増しており、今まで以上に外国人旅行者を受け入れインバウンド消費を取り込む環境が整いつつある。また、政府が策定した「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」では、観光振興策の一環として訪日外国人旅行者向けに地方でも免税店を増やすとの方針を示しており、名産品(菓子類、酒など)を扱う免税店が普及・拡大することが見込まれる。今後、景気回復が遅れる地方において、免税店の普及・拡大を背景に名産品等を中心にインバウンド消費が拡大することが地方経済の活性化に寄与すると期待される。



 

 
 

 
  1 日本の旅行者が海外で支出する金額と、海外から日本への旅行者が日本で支出する金額との差。
  2 業態別の売上高は、訪日外国人消費動向調査の費目別購入率・単価に出入国管理統計の入国者数を掛け合わせて算出。費目については、百貨店…「服(和服以外)・かばん・靴」、家電量販店…「カメラ・ビデオカメラ・時計、電気製品」、ドラッグストア…「化粧品・医薬品・トイレタリー」を使用。
  3 免税の対象は家電、バッグ、衣料品などの耐久財に限定されていたが、改正後は食料品、化粧品、医薬品などの消耗品にまで拡大された。
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(2015年10月07日「基礎研マンスリー」)

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