2014年09月05日

不動産賃貸・投資市場は好調維持、人手不足の進行が懸念材料-不動産クォータリー・レビュー2014年第2四半期

基礎研REPORT(冊子版) 2014年9月号

竹内 一雅

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4月1日の消費税率増税の反動により、消費や住宅着工・住宅販売に大きな減少が見られた。一方、賃貸オフィスやマンション、ホテル、物流などの賃貸市場や投資市場では、引き続き好調が続いている。人手不足に伴うコスト上昇が深刻化し始めており、今後、不動産価格等への転嫁が懸念材料となってきた。

1―経済動向

消費税増税後の消費の反動減は、前回の増税時(1997年)以上に大きく、景況感も大幅に低下した。しかし6月には消費持ち直しの動きが顕在化し始め、雇用の改善などもあり、政府は7月の月例経済報告で景気の基調判断を6ヶ月ぶりに引き上げた。

6月の有効求人倍率は1.1倍と、リーマンショック前の最高水準まで改善が進んできた。人手不足は多くの産業に広がっており、建設業ではバブル崩壊後で最も厳しい人手不足の状況が続いている。人手不足やそれに伴う建築コストの上昇は、今後、マンション価格などへ転嫁が進む可能性が高い。

2―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
虎ノ門ヒルズ森タワーがほぼ満室で竣工するなど、東京を中心に主要都市のオフィス市場は力強い需要に支えられ(図表1)、空室率の低下傾向が続いている。特に東京都心の大規模ビルでは空室率が急速に低下しており、渋谷区ではほぼ空室がない状況にある(図表2)。

東京都心Aクラスビルでは空室率が下落する一方、成約賃料(オフィスレント・インデックス)は▲3.3%の下落だった。現在、オフィスの館内増床や拡張移転に加え、建替え移転などが活発で、リーマンショック以降に発生した需給のミスマッチの解消が急速に進んでいる。今年後半は新規供給が限定的であることからも、賃料の上昇が期待できると考えている。
[図表1]東京ビジネス地区(都心5区)オフィスビルの賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積増分(対前年)/[図表2]東京都心5区大規模ビル空室率
2│住宅着工・住宅ストック
住宅着工は消費税増税前の駆け込み需要の反動減が続いている。特に、持家と分譲マンションの減少が著しく、一方、貸家は16ヶ月連続で増加を維持している(図表3)。

首都圏では、分譲マンションの新規販売戸数も昨年と比べ大幅に減少している。これまで好調の中古マンションの成約件数も、4月以降は、前年比で3ヶ月連続の減少となっている。

7月29日に公表された住宅・土地統計調査によると、空き家率は2008年の13.1%から13.5%へと上昇した(図表4)。空き家数は過去最大だったが、増加率は近年で最も低かった。前回調査後にリーマンショックの影響で住宅着工戸数が急減したことなどが、空き家率の上昇を抑制したようだ。主要都市では、都区部や仙台市、福岡市などで空き家率の低下がみられた。
[図表3]新設住宅着工戸数変化率(利用関係別前年比、全国)/[図表4]日本の住宅数と空き家率
3|賃貸マンション
賃貸マンションの賃料は回復基調を強めている。東京23区のマンション賃料は直近の底値から6.3%の上昇となった。賃料上昇は他の主要都市でも見られ、特に仙台では震災後に2割以上の上昇となっている(図表5)。

高級賃貸マンションやサービスアパートメントでは需給の大幅改善が続いている。サービスアパートメントは、国家戦略特区で規制緩和が進められており、今後、政令に適合した賃貸物件が多数、提供されることが期待される。
[図表5]主要都市のマンション賃料指数
4|商業施設
小売業販売額の大幅な落ち込みは解消に向かっている。消費税増税前の3月の前年比+11.0%から、6月は▲0.6%まで改善してきた。

業態別にみると、消費税増税前の駆込み需要による販売増が大きいほど反動減は大きかった。第2四半期の販売額(既存店)は、百貨店が前年比▲4.7%の減少、スーパーが▲2.4%の減少に対し、コンビニは+0.4%の増加と消費税増税後も増加となった。

3―J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場

東証REIT指数は、期中を通じて堅調に推移した。賃貸市況の回復や地価上昇、金利の低下など良好な市場環境を背景に、全セクターで上昇した(図表7)。

J-REITの資金流入では、J-REIT公募投信からの流入が減少する一方、海外マネーの流入増加が5月以降の市場上昇を牽引した。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によるJ-REIT投資開始を契機に、投資家層の多様化と裾野の広がりに期待が高まっている。6月5日にインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人が新規上場し、銘柄数は46社に増加した。
[図表7]東証REIT指数(配当除き)の推移(2012年12月末=100)
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竹内 一雅

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