2015年01月09日

安定政権でアベノミクス第二幕始動-キーワードは「実行」

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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衆議院選挙で与党は大勝し、安倍政権は安定した政治権力基盤を固めた。
   安倍首相は今回の選挙結果を受け、「アベノミクスは道半ば」と述べ、アベノミクスの推進を約束した。「経済最優先」を掲げデフレ脱却に取り組む構えだ。しかし、アベノミクスがこの先成功を収めるには、第三の矢(成長戦略)、財政再建、格差問題など山積する課題に立ち向かわなければならない。

黒田日銀総裁による第一の矢(金融政策)は見事に機能した。上向かせた経済を好循環のサイクルに持っていくには、生産性を高めるための第三の矢をなんとしても動かさなければならない。
   そのためには、構造改革や規制緩和をどれくらいやり切れるかが肝だ。この2年間、労働、医療、農業といった、いわゆる「岩盤規制」分野で改革は進んでいない。成長戦略が経済成長に寄与してきているとはいえないのだ。
   筆者は長期安定政権の基盤を確保した第三次安倍政権に期待している。しかし、4月には統一地方選挙、2016年の参院選などが予定されており、しがらみの多い与党が選挙を意識してしまえば、構造改革・規制緩和は進まない。

まず、本年早々にはTPPが動き出す。ある意味外圧で構造改革が進むとの流れもあるが、やはり国内のムーブメントでなんとかしなければいけない。どの政権でも「必要だ、やる」といってできなかった改革を、第三次安倍政権が実現できるかはこのスタートにかかっている。

財政再建も横たわる大きな課題だ。日本の借金は諸外国と比較しても深刻さのレベルが突出している。
   ムーディーズは消費増税先送りを受けて、日本国債の格付け引き下げた。安倍首相は「2020年度の基礎的財政収支の黒字化達成目標」は堅持するとしているが、消費税率を10%まで引き上げても、なお11兆円のギャップが存在する。
   消費税率の引き上げを17年4月に延期したことでこのギャップはさらに拡大した。目標達成には、歳出への切り込み、特に毎年1兆円超増加している社会保障の改革は避けられない。
   社会保障改革は、歳出削減・効率化である。投票率の高い高齢者に痛みを伴う改革を実現できるのか、ここでも政権の実行する力が問われる。

格差是正もアベノミクスにのしかかる課題だ。金利ゼロの世界の中で資産を保有できる個人が大きなキャピタルゲインをあげ、資産をもてない家計との格差は拡大するばかり。都市部と地方部の格差も深刻である。アベノミクスで雇用環境がよくなったことで地方出身者は高校、大学卒業後に東京などの都市部に職を求めて移動する。
   アベノミクスがうまくいけばいくほど、都市部と地方部の格差が生じるジレンマを抱えている。
   維持可能な地方をどう形作るのか、きれい事だけではなく、痛みのある改革も併せて断行しうるか、政権の実行力も問われる。

どんな政策でも光と影、別の言い方をすれば効果と副作用は存在する。アベノミクスの光としては、金融市場の劇的な変化(株高、円安)、企業収益の拡大、名目賃金の上昇、雇用の改善などがあげられる。特に雇用は雇用者数が100万人増え、経団連集計による2014年大手企業春闘の賃上げ上昇率も15年ぶりに2.28%増となっている。12年12月4.3%だった失業率は「完全雇用」に近い3.5%まで低下し、有効求人倍率は22年ぶりの高水準に達し人手不足が叫ばれる程である。
   一方影の部分としては、賃金上昇を上回る物価上昇、格差の拡大などだろう。

昨年選挙運動でネット活用が解禁され投票率の低い若者が関心を高めるのではと期待されたがそうはならなかった。しかし、大勝し信認され長期安定政権となった。だからこそ実行する政権でなければならない。
   アベノミクス第二幕が始動する。政策の光をより強く放つために、影への対応を行いながら、成長戦略、財政再建、格差の課題についてすでに出ている多様なメニューを実行に移し、2015年が真のアベノミクスの元年になることを期待したい。

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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