2013年10月07日

財政再建議論に必要な選択肢の提示

櫨(はじ) 浩一

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1-厳しい見通し

政府は8月8日に、中期財政計画を閣議決定した。発表されている内閣府試算によれば、現在5%の消費税率を10%にまで引き上げれば、当面の目標である基礎的財政収支赤字の半減はほぼ達成できそうだが、基礎的財政収支の黒字化達成にはほど遠い。2020年度の基礎的財政収支は、12.4兆円、名目GDP比2.0%の赤字の見通しだ(東日本大震災の復旧関連を除く)。金利上昇による利払い費の増加もあって、財政収支は36.8兆円、名目GDP比5.9%もの赤字が見込まれている。

2012年度の一般会計決算では税収が予算を1.3兆円上回ったなど、景気回復によって見通し以上に収支が改善する可能性を示唆するプラス材料もある。しかし一方で、今後10年間の平均成長率が実質2%、名目で3%程度となるという経済再生が進むケースが前提とされているなど、試算どおりの財政収支改善の実現が危ぶまれる要因もある。

現在の制度を前提とする限り、財政収支を安定化させるには、現在5%の消費税率を2倍の10%にしただけでは足りないことは明らかだ。財政再建実現には、更なる負担増と政府支出の大幅な削減の組み合わせが必要だ。実に厳しい現実である。


2-避けられない負担の増加

日本経済は、ようやくデフレから脱却しようとしている。消費税率の引き上げが景気に対してマイナスの影響を与えることは否定できず、デフレからの脱却を確実にしてから消費税率を引き上げるべきだという主張が出てくることは理解できる。しかし、これはいつ消費税率を引き上げるかというタイミングの問題で、結局国民の負担がどこかで大きく増えるということには変わりがない。



政府の支出は国民全員が負担する以外に方法はないのだから、欧州各国のような社会保障制度を維持するには、少なくとも同等の国民負担が必要だ。今後日本の高齢化率が欧州各国よりもかなり高くなることが予想されていることを考えれば、欧州各国以上の負担になることを覚悟しなくてはならない。

心配なのは、日本経済が経済成長を取り戻せば、国民が追加的な負担をしなくても財政再建が実現できるかのような議論が散見されることだ。国際比較には色々議論はあるが、日本の国民負担率は主要国のなかで低い方だということは変わらない。


3-選択肢を示せ

大幅な財政赤字という現状からスタートしているので、負担増加の議論が先行することは理解できる。しかし、問題の本質は、どの程度の負担と給付の水準を選択するかである。国民の前に最終的に目指すサービス水準と負担の対応が示されないのは、おかしいではないか。この程度の負担ならこれだけのことができて、この程度の負担ではこれしかできない、ということが明確に示されるべきだ。

それでも、無駄を切れば財政再建ができるという主張が必ず出てくるだろう。しかし、議論の土台があれば、どの政策を止めればどれだけの赤字を削減できるかという具体的なメニューの賛否を問うことができるようになる。まず議論の共通の土台が示されない限り、負担増が必要か不要かという水掛け論から脱却できないだろう。

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