2012年02月24日

100人の経済学者が述べる101の意見

櫨(はじ) 浩一

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インターネット上には経済学と経済学者に関するジョークを集めたサイトがたくさんあり、かなり皮肉の利いたジョークが並んでいる。経済の授業では教授が時々ジョークを紹介してくれたが、数学や物理の授業で先生が冗談を紹介したという記憶はあまりないし、そもそも数学者とか物理学者に関するジョークもあまり聞いたことがない。政治や法律の授業でもおなじだが、経済学者にユーモアのセンスがあるというより、ちょっと皮肉屋だということなのだろう。
昔授業で聞いたジョークの中に「経済学者が100人いると101の異なった意見が出てくる。それはケインズが2つの意見を言うからだ。」というものがあった。ケインズに批判を浴びた政治家が皮肉を込めてやり返した、ということだったと記憶しているが、少し調べてみたが誰が言ったジョークなのかは分からなかった。この当てこすりを耳にしたのだろうか、ケインズは「状況が変われば私は意見を変える」と言ったのだそうだ。
さて、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げた際には、筆者は慎重派だったつもりだ。しかし、今回は消費税率の引き上げにむしろ積極的だ。消費税率引き上げという同じ問題に対して、慎重意見と積極意見というまったく反対の主張をしていることになる。2つの相い反する意見を述べることになってしまったのは、途中で宗旨替えしたとか考え方が変わったとかいうことではなく、ケインズの虎の威を借りれば、「状況が変わったから」ということだ。
OECDによれば、日本の政府債務残高の名目GDPに対する比率は、1996年末は93.8%だったが2011年末では211.7%に達した。96年末当時は、OECD平均の73.9%よりは少し悪いものの、イタリアの128.1%などよりはまだましだった。しかし、2011年末時点ではOECD平均111.6%の2倍程度もある。もちろん、先進諸国の中で日本を上回る国はひとつも無く、欧州の財政危機の発端となったギリシャですら165.1%に過ぎない。この15年の間に状況は大きく変わってしまったのだ。しかも、欧州の財政危機をきっかけに、世界の金融市場は各国の財政状況に神経質になっている。ギリシャは経常収支が赤字で財政赤字を賄う資金を海外に依存していたのに対して、日本は経常収支が黒字で財政赤字の資金調達を海外に依存していないとはいうものの、この構造も永久に変わらないというものではない。東日本大震災の影響もあって2011年の貿易収支が赤字化したことで、金融市場がいつ日本の財政の将来に厳しい見方に転じるか分からないという状況になっている。
確かに消費税率の引き上げは景気にはマイナスである。しかし、消費税率引き上げを先送りした場合に財政危機を起こす確率は15年前よりもはるかに高くなっている。景気が悪化して起こる問題よりも、財政破たんの引き起こす問題の方がはるかに大きいだろう。現時点では残念ながら、より大きな危機を回避するために、景気悪化を招くとしても消費税率の引き上げを選ばざるを得ないだろう。

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