2014年03月19日

「再犯社会」が問う高齢社会像-「安全社会」から「安心社会」へ

土堤内 昭雄

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■はじめに

2013年3月末、旧ライブドアの元社長、“ホリエモン”こと、堀江貴文さんが収監先の長野刑務所から仮釈放された。2012年にその獄中生活を描いた「刑務所なう。」(文藝春秋、2012年)が出版されて大きな話題となったこともあり、刑務所内部の様子が急速に一般社会にも知られるようになった。

これまで刑務所は、1908(明治41)年に施行された「監獄法」により、罪を犯した人に罰を与える行刑施設として運営されてきた。しかし、2005年に「受刑者処遇法」が成立し、刑務所は受刑者を社会復帰させる矯正施設としての機能が強化された。受刑者には罪種別更生プログラムの受講が義務付けられ、社会に出てからの就業に向けた職業訓練の拡大・充実も図られている。

しかし、近年の犯罪動向をみると、約3割の再犯者 )が約6割の事件を起こしており、再犯者率 )が高まっている。また、刑務所への再入者率 )と出所者の再入所率 )も上昇している。これを受け政府は2012年7月、『世界一安全な国、日本』の復活を目指し、「再犯防止に向けた総合対策」を公表した。

このような再犯増加の背景のひとつには、日本の急速な高齢化の進展による高齢出所者の自立の難しさがあろう。刑務所入所の高齢者の再入者率は約7割にも上り、高齢出所者にとっては住居や就労の確保など社会復帰のための状況が非常に厳しい。また、一人暮らしの増加により高齢者の社会的孤立が深まり、高齢出所者には身元引受人が少ないなど仮釈放や出所後の支援も難しくなっている。

刑務所出所者の多くは、“入る不安”より“出る不安”をより強く感じるという。刑務所に入れば少なくとも3度の食事と睡眠は保証されるが、一旦出所すると、最低限の生存条件を満たすことすら覚束なくなるからだ。社会復帰できない高齢出所者が、再び軽微な罪を犯して刑務所に戻らざるを得ないとすれば、それは刑務所内の問題のみならず、受け入れる一般社会の側の問題でもあろう。軽微な罪を繰り返す一部の高齢再犯者は、日本の高齢福祉制度からこぼれ落ちた被害者かもしれない。

このような「再犯社会」の現状からは、刑務所は社会復帰のための矯正施設にとどまらず、社会の居場所を失った高齢者の最後のセーフティネットのようにも見える。今後、ますます高齢化が進展して高齢者の社会的孤立が深まれば、それは高齢出所者だけでなく、超高齢化する日本社会全体のあり方の問題にもなろう。本レポートでは、「再犯社会」から窺える超高齢社会の現状と課題を明らかにし、誰もが社会とのつながりと居場所を持った、“社会的排除”のない高齢社会像について考えてみたい。

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(2014年03月19日「ジェロントロジーレポート」)

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