2009年12月11日

欧州経済見通し~牽引役不在の調整局面続く

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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  1. EU、ユーロ圏の成長率は7~9月期に前期比0.3%、同0.4%とともにプラスに転化したが、「貯蓄不足・過剰需要型」で成長していた「バブル崩壊国(イギリス、アイルランド、南欧、中東欧の一部)」の回復は遅れている。
  2. 2010年も設備・雇用の余剰、過剰債務の調整圧力で景気の回復テンポは抑えられる見込みである。特に、財政悪化が著しい「バブル崩壊国」は、EUのルールと市場からの圧力により緊縮に舵を切らざるをえなくなっている。さらに、ユーロ参加国や対ユーロ固定為替相場制採用国の場合は、賃金・物価を通じた対外競争力の回復に時間を要し、しばらくはデフレ色の強い展開が続く。これらの国々への輸出、投融資による恩恵を受けてきた域内の「貯蓄余剰・過小需要型国(ドイツ、ベネルクス3国、北欧)」の成長も抑制されよう。牽引役を欠くEU経済は停滞感の強い局面が続く。
  3. 成長率はユーロ圏が2010年0.6%、2011年1.2%、イギリスは同0.5%、同1.4%と予測する。
  4. 欧州中央銀行(ECB)は12月の政策理事会で1年物、6カ月物の資金供給の停止時期を決め、「非常時モード」の金融政策からの出口戦略に動きだした。2010年には流動性供給体制の「平時モード」への復帰をさらに進め、6月末にはカバード・ボンド買い入れも停止しよう。しかし、政策金利は域内のインフレ圧力が抑制され、一部の国はデフレ色を強めていることから、利上げの開始は2011年入り後となろう。
  5. ユーロ相場は、2010年前半までは対ドルでユーロが高めの水準を維持するが、年後半には、米国の景気回復と利上げによる景気格差、金利格差が要因となってユーロ高に修正が加わるだろう。ユーロ高の一段の進行、ユーロ高の期間の長期化は、内需の不振と弱い対外競争力に悩む「バブル崩壊国」の回復をさらに難しくするリスク要因と考えられよう。
  6. イングランド銀行(BOE)は、2010年2月に量的緩和を停止するが、財政面からの下支えの継続が難しくなっていること、家計がバランス・シート調整の過程にあること、基幹産業の金融業もリストラの過程にあることなどから、2010年中は、超低金利政策の見直しには手をつけ辛い状況が続こう。
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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