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- TPP交渉大筋合意の意義~国内対応が課題に~
1――TPP交渉妥結
国際交渉は各国が互いに妥協しなければまとまらないのだから、TPP交渉の結果が日本にとって100点満点の結果と言えないのはしかたがない。交渉がまとまらなかった場合と比べればはるかに良かったことは間違いない。
今後は国際交渉から国内での対応に課題の中心が移っていく。政府は11月25日にTPP総合対策本部を開催して「総合的なTPP関連政策大綱」を決定し、農林水産業の体質強化対策や、地方の中堅・中小企業の海外展開支援、食の安全に対する国民の不安を払しょくするために輸入食品の監視指導体制を強化するなどの、国内対策に動き出した。
2――国内需要の拡大が本当の効果
2013年にTPP交渉への参加を決めた際に政府が示した経済効果の試算では、GDPを約3.2兆円押し上げるとされていた。輸出は2.6兆円増えるが輸入も2.9兆円増えると見られており、差は若干のマイナスだがほぼゼロだと言ってよいだろう。GDPが増えるのは日本の貿易収支が改善する(外需の増加)からではなくて、貿易が拡大することに伴って日本国内の需要が増えるからなのだ。
実際の交渉の結果を踏まえてGDPの押し上げ効果を考えると、関税だけを見れば撤廃までに時間がかかるので当面の効果はこれを下回るように見える。しかし、TPPはモノの関税の削減・撤廃だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業、労働、環境の規律など、幅広い分野で新しいルールを構築する幅広いものだ。試算では考慮されなかった多くの成果があることを考慮すれば、数量的に示すことは難しいが最終的な経済効果はずっと大きい可能性が高いだろう。
しかし、いずれにせよ輸出と輸入の差はわずかなもので、国内の需要が増えることでGDPが押し上げられるというメカニズムは変わらない。
3――国内対応が重要
問題はこうした状況でどのような対応をとるかである。食品監視体制の強化など、貿易拡大への対応策を十分とらないと、様々な摩擦が起きてしまう。過去の農業対策のように、一時的に地域経済を潤したかも知れないが、長期的に見れば本当に農業や地域の発展のためになったとは言い難いものもあった。痛みを和らげる鎮痛剤のような対策もケースによっては必要になるだろうが、あくまで一時的なものにとどめて永続的な制度とはすべきではない。最も望ましい対策は、即効性は無くとも将来に向けて産業を発展させるような政策であることは言うまでもない。
貿易問題では、対外交渉でいかに国益を守るかということが成否のカギに見える。しかし、実は日本経済をどのように変えていくのかという国内問題の方がはるかに重要だ。対応を誤れば、せっかくの貿易拡大による恩恵を大きく相殺してしまうことになりかねない。
TPPの成果を本当に生かすことができるかどうかは、今後の国内の対応次第に掛かっている。
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
研究・専門分野
(2015年11月30日「エコノミストの眼」)
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