コラム
2014年03月28日

温暖化問題で問われる負担の覚悟

櫨(はじ) 浩一

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1――マスクの誤解

先日来日した友人が、街にマスクをした人があふれているのを見て、日本はこんなに大気汚染がひどいのかと仰天した。もちろん全くの誤解で、この時期花粉症に悩まされている人は多い。恐らく、大気汚染に悩まされている中国の人達がマスクをしている映像が脳裏にあって、日本も同じなのかという誤解をしたのだろう。
   筆者が子供のころには、秋になると外来植物のブタクサによる花粉症が問題となった。しかし、今ではスギやヒノキなどが原因のものが多く、花粉症は春先のものになった。なぜこれほど多くの人を悩ませるようになったのか、はっきりしていないようだが、今や日本人の五人に一人は花粉症で苦しんでいるというから、国民病とでもいうべき程になった。
   多くの人がマスクをしている理由と誤解された大気汚染は、高度成長期末期の1970年代前半には日本にとって非常に深刻な問題だったが、現在では当時とは比べ物にならないほど改善している。


2――改善が進んだ環境問題

日本では、大気汚染に限らずさまざまな環境問題は大きく改善した。河川の水質も良くなっており、東京都によれば、きれいな水にしかいないといわれる鮎が、多摩川では2013年は650万尾も遡上したという。1970年代初めには、列車が多摩川にかかる鉄橋を通過する際には、堰で家庭用の洗剤が原因で大量の泡が発生しているのが見えたが、現在ではそのような状況は想像することも難しいだろう。
   政府の統計(公害等調整委員会「公害苦情調査」)では、1970年代初めから減少を続けてきた公害は、1980年代は公害苦情件数は全体では増えているが、工場による大気汚染のような典型的な公害(典型7公害)は減少傾向が続き、家庭生活から出たゴミの投棄や建物による日照不足、深夜の照明に対する苦情といったものが増えた(その他)。1996年度から再び件数は増加しているように見えるが、これは統計の取り方を変えたためのようだ。企業活動による大規模な公害は減少し、個人が原因となっている苦情が最も多くなっている。


公害苦情件数


3――問われる覚悟

日本の環境問題の改善は、コストなしに実現したものではない。厳しい規制を達成するために、企業は設備の改善の負担をしなくてはならなかったし、環境技術開発に取り組むにも費用がかかった。
   大気汚染防止のために自動車の排気ガス規制が導入された際には、自家用車の燃費が悪くなると言われたのを覚えている。厳しい公害防止基準をクリアしながら生産された製品の価格は当然以前よりも高く、消費者は高いものを購入した。自動車の燃料に使っているガソリンの無鉛化や、軽油の低硫黄化など品質の改善がおこなわれてきており、利用者はその分だけ高い製品を購入してきたわけだ。公害防止の負担は企業の利益を圧迫し、企業で働く人たちの賃金にもマイナスになったはずだ。しかし現在の日本を見れば、40年前の人たちが「負担はあっても環境を改善しよう」と決断してくれたことに筆者は感謝したいと思う。
   さて地球温暖化などのグローバルな環境問題への対処が大きな課題となっているが、誰かが費用を負担してくれることや、技術の進歩で負担なしに問題が解決したりすることを期待する論調がしばしば見られるのは心配だ。温暖化問題で本当に問題なのは、より良い地球環境を将来世代に残すために、我々自身が経済的負担や生活の不便を甘受する意志があるかどうかということではないだろうか。

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