コラム
2007年11月26日

消費税率引き上げのタイミング

櫨(はじ) 浩一

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1.再開された消費税率引き上げの議論

自民党の財政改革研究会が、消費税を目的税化して「社会保障税」という名称に改めて、2010年代半ばには税率を10%程度に引き上げることを提言するなど、消費税率引き上げの問題が脚光を浴びている。本年夏の参議院選挙を睨んで消費税率引き上げの議論は封印されてきた。選挙が与党の勝利に終われば議論を再開し、2009年度から税率を現在の5%から7%に引き上げるというのが、元々あったスケジュールだろう。しかし、参議院選挙で与党が大敗したことでこの目論見は崩れてしまった。

2004年度の年金制度改革では、2009年度から基礎年金の国庫負担率を現在の三分の一から二分の一に引き上げることが決まっている。当然、公的年金の収支もこれを前提に計算されており、財源が必要になる。消費税率を引き上げてこの手当てをする予定であったが、参議院で与野党が逆転する現状では消費税率引き上げの議論がまとまるとは思えない。

2.消費税率引き上げは2010年度か?

衆議院解散・総選挙となった場合に、状況はどう変わるだろうか?仮に民主党が衆、参両院で多数を占めるようになれば、消費税の社会保障目的税化ということで消費税率引き上げの議論が進む可能性がある。与党が総選挙で勝利した場合には、現在と同じ衆参で多数派がねじれているという状況が続くことになる。しかし、この場合でも2010年度には消費税率が引き上げられることになる可能性が高いのではないだろうか。

2009年度からの国庫負担率引き上げ問題は国債発行で当座をしのぐとしても、何年も続けるわけにはいかない。特別減税の廃止分を財源に充てるという話もあるが、既に決まっている減税廃止による増収分を形式的に財源としただけであり、財政赤字が国庫負担率の引き上げ分だけ拡大するという実態は変わらない。さらに次回の公的年金の財政再計算・財政検証が2009年(平成21年)に行われるので、ここではどうしても長期的な財源問題を解決せざるを得なくなる。この際には、少子化の速度が想定を上回り、経済状況が期待通りには改善しなかった結果、保険料の更なる引き上げや給付水準の見直しが避けられない、ということになるだろう。国民年金の空洞化や消えた年金問題の処理の費用も考えると、相当抜本的な改革が必要となる可能性も高い。財政再計算の作業段階で、民主党が主張してきた基礎年金の税方式化への移行などの議論が与野党を巻き込んで行われ、なんらかの形で消費税率引き上げについての合意が成立するのではないだろうか。企業や商店などが消費税率引き上げの準備をするために時間が必要なことを考えると、実施のタイミングは2010年度からということになりそうである。

3.年金・医療・介護の包括的な制度設計を

消費税率を現在の5%から7%に引き上げればそれで高齢化への対応が万全というわけには行きそうもない。高齢化の進展で医療費や介護費用の増大が見込まれており、この財源の確保のために医療保険や介護保険の保険料引き上げや、社会保障費の増額のために消費税率のさらなる引き上げが必要となる可能性が極めて高い。公的年金制度も、次回の制度改革で長期的に安定する制度が確立できるかどうか定かではない。高齢化の進展で収支の悪化が予想される年金・医療・介護の3つの制度それぞれについて、給付の抑制と保険料の引き上げで対処するのでは、人々の老後生活に対する不安が解消できず、現役世代の負担増に対する不満も高まるという問題に直面する恐れが大きい。

高齢者が貯蓄をする目的として大きなものは、病気などの不時のときの備えである。例えば、寝たきりや認知症になっても家族に大きな負担をかけずに済むということであれば、これまで蓄えた資産を取り崩して生活しても大きな不安がないということもあるのではないか。しっかりとした介護制度を作り上げることができれば、年金給付を引き下げることにもっと合意が得やすくなるという可能性もあるだろう。年金・医療・介護といった社会保障制度の将来を個別に検討するだけではなく、どこに力を入れるのかという全体的なデザインが必要ではないだろうか。
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