コラム
2007年02月19日

原油価格の上昇と下落はどちらが良いか

櫨(はじ) 浩一

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1.原油価格下落で物価上昇率は低下

ここ数年急速な上昇を続けてきた原油価格は、昨年の夏頃をピークに少し落ち着きを見せている。米国市場の指標とされているWTI(期近もの)の価格は、2006年7月には1バレル80ドル近くにまで上昇したが、秋以降は大きく下落し、最近では1バレル50ドル台での推移となっている。
原油価格の上昇は、ガソリン価格の上昇という形で直接消費者物価を押し上げるだけでなく、原材料価格やエネルギーを使う企業向けのサービス価格の上昇が次第に下流に波及するという形でも消費者物価を押し上げてきた。ガソリンなど石油製品の価格上昇は、昨年半ばころには消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の前年比を0.4から0.5%程度も押し上げてきた。ところが、原油価格が下落したことによってガソリンの価格がピーク時よりも低下したなどによって石油製品の価格の前年比上昇率は縮小している。
こうした要因もあって、昨年12月の消費者物価は前年比の上昇率が0.1%となってしまい、上昇の足取りは少し怪しくなってきた。仮に石油製品の価格が2006年12月の水準で横ばいとなったと仮定すると、夏ごろには前年比で消費者物価を押し下げるようになる。このように「デフレ脱却」という観点からは、原油価格の上昇は日本経済にとって良いことで、逆に原油価格が下落するのは悪い話のようにも見える。



2.原油価格低下は増益要因

バブル崩壊から既に10年以上の歳月が流れ、バブルはもとよりその遠因となったプラザ合意もはるか昔の話になってしまった。いわんや二度にわたる石油危機は、全く経験のない世代の人口も増加し、経験した人々の記憶も薄れてしまっている。しかし、実質成長率の動きを振り返れば明らかな痕跡が残っており、原油価格高騰によって日本経済が大きなマイナスの影響を受けたことは明らかである。
デフレ下では、製品やサービスの価格下落が起こる一方で人件費や原材料費を圧縮することが難しく、企業の利益が落ち込んでしまうということが問題であった。原油価格の急速な上昇の場合は製品やサービス価格は上昇するが、日本経済全体で見れば原油価格の上昇分ほどは販売価格を引き上げることはできないので、企業の利益は原材料価格の上昇で圧迫されることになる。逆に原油価格が下落すると、原材料価格のコスト低下によって企業収益は増加するはずである。
消費者物価は企業で言えば自社製品などの販売価格になるが、企業の利益を考える場合には、原材料など投入コストも考慮しなくてはならない。原油価格の上昇が良いことのように見えるのは、販売価格上昇による売上げの増加に喜んでしまい、コストの増加が収益を圧迫していることを忘れるようなものである。デフレからの脱却を目指して量的緩和政策など通常では考えられないような政策まで導入してきた日本経済にとって、物価が上がる話は何でも良い話で、物価上昇を抑えるものは何でも悪い話のようにも思える。しかし原油価格の下落は悪い話ではないはずだ。



 
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