2022年03月11日

ASEANの貿易統計(3月号)~輸出は1月も二桁成長を続けるも、オミクロン株の急拡大の影響が下押し要因に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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22年1月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比13.8%増と二桁増が続いたが、前月の同24.4%増から鈍化した(図表1)。輸出は20年に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が本格化して一時的に大きく落ち込んだ後、経済活動の再開やテレワーク需要の増加に伴う電気・電子製品の出荷増、商品市況の改善を受けて増加傾向が続いている。もっとも、足元ではオミクロン株の感染拡大や半導体不足の影響などにより輸出の拡大ペースは幾分鈍化しつつある。国別にみると、インドネシアは石炭の禁輸措置の影響、ベトナムは旧正月に伴う連休の影響により輸出伸びが鈍化した。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、1月は東アジア向けが同8.1%増、東南アジア向けが同12.7%増、北米向けが同48.8%増、EU向けが同35.9%増となり、それぞれ増加傾向が続いているが、輸出の勢いは鈍化した。1月は世界各国でオミクロン株の感染が広がったため海外需要の減退やコンテナ不足に伴う輸送費の高騰が輸出を下押ししたものとみられる。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン主要6カ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの22年1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比14.0%増(前月:同29.7%増)の308億ドルと高水準を維持した(図表3)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて一時的に落ち込んだ後、世界的な経済活動の再開や電子機器の需要拡大により大きく拡大してきたが、1月はテト休暇が早まったこと(今年は1月29日、22年は2月1日が元日)により稼働日が前年より少なかった影響で下振れた。また輸入額も前年同月比11.3%増(前月:同13.3%増)の294億ドルとなり二桁増が続いた。結果として、貿易収支が+14.0億ドルの黒字となり、前月から15.7億ドル縮小した。

輸出を品目別に見ると、輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比26.2%減(前月:同21.9%増)が急減したほか、電気製品・同部品が同5.6%増(前月:同23.1%増)と伸びが鈍化した(図表4)。アパレル関連では、履物が同3.7%増(前月:同11.4%増)と鈍化したものの、織物・衣類が同34.2%増(前月:同27.7%増)の二桁成長となった。農林水産物を見ると、水産物(同42.8%増)やコーヒー(同32.1%増)、コメ(同28.2%増)、天然ゴム(同8.5%増)などが大幅に増加したものの、カシューナッツ(同10.9%減)は9カ月ぶりに減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同2.4%増(前月:同20.3%増)と鈍化したものの、地場企業が同25.5%増(前月:同38.6%増)と大幅な伸びが続いた。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの22年1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比8.0%増(前月:同24.0%増)の212億ドルと伸びが鈍化した(図表5)。輸出の基調は新型コロナ感染拡大の影響が直撃した20年に一時大幅に減少した後、世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いているが、足元では半導体不足を背景に自動車生産が落ち込み下振れている。一方、輸入額は前年同月比20.5%増(前月:同33.4%増)の237億ドルとなり、二桁増が続いた。結果として、貿易収支が▲25.3億ドルの赤字となり、前月から21.7億ドル赤字が拡大した。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同19.9%増(前月:同36.6%増)と伸びが鈍化したものの、11カ月連続の二桁増となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、在宅時間が増加している影響で電子機器(同18.1%増)や家電製品(同13.9%増)が堅調に拡大、また機械・装置(同21.4%増)や石油化学製品(同20.4%増)といった主要輸出品も引き続き増加したが、自動車・部品(同1.6%減)は半導体不足の影響で15ヵ月ぶりに減少した。また鉱業・燃料も同27.8%増(前月:同47.3%増)と伸びが鈍化したが、石油製品(同38.2%増)を中心に好調を維持した。このほか、農産物・同加工品は同20.4%増(前月:同25.7%増)と大幅な伸びが続いている。ゴム製品(同6.5%減)が減少し、コメ(同1.9%増)が鈍化した一方、天然ゴム(同40.7%増)やドリアン(同24.3%増)、加工食品(同23.7%増)が二桁成長を続けるなど、総じて増加した品目が多かった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの22年1月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比19.0%増(前月:同24.4%増)の264億ドルと好調だったが、伸びは鈍化した(図表7)。輸出の基調は20年に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して一時約3割の減少を記録した後、世界経済の回復や商品市況の高騰、電気電子製品の需要拡大を追い風に増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比21.8%増(前月:同19.0%増)の220億ドルとなり二桁増が続いた。結果として、貿易収支が+43.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から29.7億ドル縮小した。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同17.1%増(前月:同30.3%増)となり、主力の電気・電子製品(同17.7%増)を中心に6カ月連続で増加した(図表8)。また鉱物性燃料は同35.8%増(前月:同25.0%増)と好調だった。石油製品(同34.9%増)と天然ガス(同65.6%増)は大幅な増加が続いたほか、原油(同1.3%減)は3ヵ月ぶりに増加に転じた。このほか、化学製品(同34.9%増)、動植物性油脂(同91.5%増)の二桁増が続いた一方、ゴム手袋(同63.0%減)は昨年好調だった反動で減少した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの22年1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比25.3%増(前月:同35.2%増)の191億ドルとなり、大幅な増加が続いた(図表9)。輸出の基調は20年に新型コロナの感染拡大の影響が直撃して最大約3割減まで落ち込んだ後、経済活動の再開や国際商品市況の上昇により増加傾向が続いているが、22年1月は石炭の輸出禁止措置の影響を受けて輸出の伸びが鈍化した。また輸入額も前年同月比36.8%増(前月:同47.9%増)の182億ドルとなり、大幅な増加が続いているものの、伸びが鈍化した。結果として、貿易収支が+9.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.7億ドル縮小した。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同26.7%増(前月:同37.0%増)と好調を維持したものの、石油ガス輸出は同2.0%増(前月:同7.3%増)と伸びが鈍化した(図表10)。品目別にみると、鉄・鉄鋼(同124.9%増)や電気機械(同23.8%増)、機械類(同11.7%増)は大幅な伸びが続いたほか、天然又は養殖真珠、貴石、半貴石(同59.3%増)は2ヵ月ぶりに増加に転じた。一方、石炭の輸出禁止の影響を受けた鉱産物(同0.1%増)や動植物性油脂(同2.8%増)、自動車・同部品(同2.4%増)、ゴム製品(同3.4%増)は伸びが鈍化した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの22年1月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比15.4%増(前月:同15.8%増)の131億ドルとなり、伸びが僅かに鈍化した(図表11)。輸出は昨年から世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により総じて好調が続いている。なお、総輸出額が同19.9%増(前月:同25.1%増)の406億ドル、総輸入額が同26.0%増(前月:同32.3%増)の370億ドルと、それぞれ増加した。結果として、貿易収支が+35.8億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.2億ドル拡大した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品は同11.9%増(前月:同11.0%増)と伸びが小幅に加速し、14カ月連続の二桁増となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同15.6%増)やPC(同29.1%増)が堅調に拡大したほか、ディスクメディア(同16.0%増)が3カ月連続で増加した。一方、全体の約3割を占める化学品は同8.4%増(前月:同35.6%増)と伸びが鈍化した。化学品の内訳を見ると、石油化学製品(同19.7%増)の好調が続いたものの、医薬品(同12.7%減)が減少に転じた。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの22年1月の輸出額(通関ベース)は前年同月比8.9%増(前月:同7.3%増)の60億ドルとなり、堅調に推移した(図表13)。輸出の基調は2020年に新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、世界経済の再開を受けて増加傾向が続いているが、足元では鈍化しつつある。また輸入額は前年同月比27.5%増(前月:同39.1%増)の107億ドルと大幅な増加が続いた。結果として、貿易収支が▲47.0億ドルの赤字となり、赤字幅は前月から5.8億ドル縮小した。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同8.2%増(前月:同1.8%増)となり、伸びが加速した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同10.5%増)が好調だったものの、電子データ処理機(同9.0%減)が2ヵ月連続で減少した。その他9品目については、ココナッツオイル(同110.1%増)やその他製造品(同53.4%増)、製錬銅(同46.0%増)、電子装置・部品(同6.8%増)がそれぞれ増加した一方、イグニッションワイヤーセット(同21.8%減)、機械・輸送用機器(同16.9%減)、生鮮バナナ(同16.3%減)、金属部品(同6.0%減)、化学品(同5.6%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2022年03月11日「経済・金融フラッシュ」)

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