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2020年 都道府県人口移動「男女バランス・ランキング」/平均1.4倍の女性が転出超過という事実―新型コロナ人口動態解説(5)
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
はじめに
「いかにエリアに残っている女性の1人当たりの出生率を上げようとも、女性の人数自体が転出超過する状況を看過している状態では、赤ちゃんは増えるどころか減るばかりである」
という、少子化加速エリアで見落とされがちな視点について、さらに確認するデータを提供しておきたい。
2020年の人口動態について、転入超過エリア(8都府県)と転出超過エリア(39道府県)における転出超過数の男女比の計算結果をもとに、特に転出超過エリアにおいて示唆される「将来の母親候補人口を逃してしまい、かつ、加速する男性未婚化の視点からも深刻である」状況を確認してみたい。
毎回の繰り返しにはなるが、コロナ禍と地方創生との関係性が注目される中、誤った人口動態解釈の流布は、地方創生に向けた政策奏功の最大の壁ともなりかねない。
人口移動については直感的な意見ではなく、今一度、統計的エビデンスを確認することが必須である。
転出超過39エリアでは平均1.4倍の女性が男性よりも減少
男性の方が多く減少したエリアは、愛知県を除くといずれも大阪府への通勤圏(大阪府との通勤関連で昼夜間人口比が大きくなる傾向のエリア)となっている。
『新型コロナ人口動態解説(4)』で解説した、
・東京圏(1都3県)と比べると、大阪圏(1府4県)は感染拡大を回避した大都市を中心としたドーナツ化現象が起こらず、むしろ逆ドーナツ化(大阪府へ隣接する兵庫県、京都府、和歌山県から転入超)が進んだこと
に加えて今回の男女比のデータからは、
・他のエリアに比べて大阪通勤圏である兵庫県、京都府、奈良県で女性に対し男性の減り方が顕著であり、大阪圏逆ドーナツ化の要因は男性の移動によるものであったこと
の2点がうかがえる。
次に、2019年までは男女ともに転出超過であった北海道、群馬県、宮城県の3エリアは、男性については転入超過に転じたものの、女性は転出超過のままとなった。
あらためて各自治体にとって、他のエリアとの人口綱引き(人口の転出入)において、女性人口の確保が高い壁となっているかが示された結果といえるだろう。
ちなみに、人口動態についての問い合わせで非常に多くみられる誤解が、「転入超過の増加(または転出超過の減少)」=「地元に人を取り戻した」という拡大解釈である。
転入超過も転出超過もともに「転出と転入の差」であるため、「転入超過の増加」または「転出超過の減少」の要因には「地元からの転出が抑制されている」という要因も存在する。
特にコロナ禍では、この「転出控え」要因の影響が大きいと推測される。
「以前と同程度の転入者数、もしくは以前よりも転入者数は増えてはいないものの、転出者数が抑制された結果、県外からの転入が一見増加したように見える」という状況がある可能性も考慮しておく必要がある。
平均で男性の1.4倍の女性が転出超、最大は4倍にも
女性のみ転出超過となった3エリア(宮城県、北海道、群馬県)については、参考値として「増えた男性数の何倍の女性が減ったのか」を算出している。
最も倍率が高くなったのは宮城県で4.05倍となった。このシリーズで何度かお伝えしているが、転出するタイミングはどのエリアにおいても就職を迎える20代前半が最多となるため、この3エリアは、男性に比べて女性に選ばれにくい労働市場がある(というよりも、男性は転入超過に転じていることから、男性にとっては比較的恵まれた労働市場となっている)ことが、人口移動の男女バランスから推測される。
更に、女性/男性転出超過数倍率ランキング上位に北関東の群馬県、茨城県、栃木県の3県全てがランクインしており、転出控えが地元女性よりも地元男性で多かった様子がうかがえる。
このことから、『新型コロナ人口動態解説(1)』で解説した東京都の過去最大の転入超過男女比(男性の2.2倍の女性が増加)は、北関東の男性が転出控えしたほどには女性が転出控えしなかった影響が少なくないと考えられる。ちなみに、これらの北関東エリアはコロナ禍以前から男女減少数のアンバランス度合いが強い傾向にあり、女性の就職先は東京圏(1都3県)に依存する傾向があったことを指摘しておきたい。
以上のとおり、男女とも転出超過となった36エリア中、半数を超える19エリアにおいて、転出超過エリアの平均倍率である「男性の1.36倍の女性が減少する」状況を上回る事態が発生している。
中でも、茨城県、大分県、栃木県、島根県、富山県の5県は、県外への転出控えが生じたコロナ禍にあっても男性の2倍以上の女性が減少した事実を改めて認識する必要がある。
最後に、広域エリアとして俯瞰し、北関東エリア以外で気になるエリアを挙げておきたい。
■四国地方/
4県中、香川県以外の3県が平均倍率より上にランクインしており1.7倍から1.8倍と高い倍率となっている(8位 高知県1.81倍、10位 愛媛県1.77倍、12位 徳島県 1.66倍)。
■中国地方/
5県中3県(4位 島根県 2.30倍、9位 岡山県 1.77倍、11位 山口県1.67)が平均倍率より上にランクインしており、1.7倍から2.3倍と高い倍率となっている。
■東北地方/
6県中4県(15位 岩手県 1.55倍、16位 秋田県 1.55倍、17位 山形県 1.49倍)が平均倍率より上にランクインしている。また、他の広域エリアの中で最大人口を抱える県では男女アンバランス度合いが下がるのに対し、宮城県は女性のみ転出超過、という男性労働者選好型の労働市場傾向が強い。広域としては北海道に類似した構造。
■中部地方/
5県中、愛知県を除く4県(7位 静岡県 1.84倍、13位 長野県 1.63倍、18位 山梨県 1.44倍、19位 岐阜県 1.37倍)全てが平均倍率より上にランクインしている。
以上のエリアは人口動態から鑑みるに、他のエリアにも増して、現在の20代前半男女の労働・家族形成の感覚を反映した本格的な労働市場改革をせまられている、ということを指摘しておきたい。
婚姻統計上のメインプレイヤーともいえる20代男女の減少のアンバランスは、将来の母親候補の減少による地域での少子化加速だけでなく、男性の未婚化加速にもつながるものであることから、中期的には孤独死や介護問題など、地域経済を脅かす問題に直結してくるからである。
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(2021年03月22日「研究員の眼」)
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