2021年02月08日

ASEANの貿易統計(2月号)~12月の輸出は電気電子製品が好調で二桁増に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

文字サイズ

20年12月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比12.7%増(前月:同4.3%増)と上昇、二桁増を記録した(図表1)。輸出の伸び率は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と商品価格の下落、国内外で実施された活動制限措置の影響が昨年4月に本格化して急減したが、6月から経済活動の再開を反映して持ち直しの動きが続いている。足元では、新型コロナ感染対策によるテレワーク需要の増加を受けて電気・電子製品の出荷が順調に推移するなか、11月の商品市況の改善を受けて鉱産物の出荷増が輸出全体を押し上げている。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、12月は北米向け(同25.9%増)が上昇して好調が続いたほか、東アジア向け(同13.3%増)が2ヵ月連続で上昇、EU向け(同8.8%減)もプラスに転じた(図表2)。一方、東南アジア向け(同0.7%増)は感染対策強化によって内需の回復が遅れて小幅の増加にとどまった。
(図表1)アセアン主要6カ国の輸出額/(図表2)アセアン6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの20年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比22.7%増となり、前月の同10.7%増から上昇して4ヵ月連続の二桁増となった。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響により落ち込んだが、6月から経済活動の再開を反映して概ね持ち直しが続いている。また輸入額も前年同月比24.5%増(前月:同15.7%増)と上昇した結果、貿易収支は▲2.5億ドルとなり、前月から8.0億ドル縮小した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が前年同月比では61.5%増(前月:同2.1%減)と大きく増加すると共に、電気製品・同部品が同21.6%増(前月:同17.8%増)と11ヵ月連続の二桁増となった(図表4)。またアパレル関連では、織物・衣類が同4.5%減(前月:同13.2%減)、履物が同1.8%減(前月:同10.9%減)と、それぞれ減少した。農林水産物を見ると、コメ(同28.1%増)と水産物(同0.9%増)が増加したものの、コーヒー(同22.5%減)や野菜(同17.9%減)、カシューナッツ(同0.4%減)が減少するなど、総じて低調だった。

輸出を資本別に見ると、地場企業が同13.7%減(前月:同16.8%減)が低迷したが、全体の7割を占める外資系企業が同44.2%増(前月:同24.6%増)と大幅に増加した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの20年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.7%増(前月:同3.6%減)と上昇して8カ月ぶりにプラスとなった。輸出は昨年3月から新型コロナ感染拡大の影響が現れて4~6月に大きく減少した後、7月以降は経済活動の再開を反映して概ね持ち直しの動きが続いている。また輸入額も前年同月比3.6%増(前月:同1.0%減)と上昇して9カ月ぶりに増加した結果、貿易収支は+9.6億ドルとなり、前月から9.1億ドル拡大した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同6.5%増(前月:同3.0%減)と9カ月ぶりに増加した(図表6)。製造品の内訳を見ると、外出自粛の影響で増加傾向の続く家電製品(同7.9%増)をはじめとして、電子機器(同15.7%増)や機械・装置(同15.2%増)、石油化学製品(同6.2%増)、自動車・部品(同1.3%増)など幅広い品目が増加した。また鉱業・燃料は同17.5%減(前月:同20.2%減)となり、石油製品(同16.4%減)を中心に10ヵ月連続で減少した。農産物・同加工品は同6.8%増(前月:同0.7%増)と2ヵ月連続で増加した。加工食品(同10.0%減)やコメ(同0.1%減)など減少した品目が幾つかあるものの、ゴム製品(同33.7%増)や天然ゴム(同30.0%増)、果物(同6.0%増)が増加するなど、総じて改善傾向がみられた。なお、非貨幣用金(同21.6%減)は3ヵ月連続で減少した。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの20年12月の輸出額(ドル建て換算、通関ベース)の伸び率は前年同月比13.3%増(前月:同5.7%増)と上昇した。輸出は昨年4~5月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が本格化して約3割の減少を記録した後、経済活動の再開に伴う反動増を受けて持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比3.9%増(前月:同8.0%減)と上昇して10カ月ぶりのプラスとなった結果、貿易収支は+51.1億ドルとなり、前月から9.6億ドル拡大した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同16.6%増(前月:同19.2%増)となり、主力の電気・電子製品(同20.7%増)を中心に7カ月連続で増加した(図表8)。またゴム手袋(同188.5%増)や動植物性油脂(同68.5%増)の大幅な増加が続いたほか、化学製品(同5.2%増)が10カ月ぶりのプラスに転じた。一方、鉱物性燃料は同25.8%減(前月:同33.9%減)と低迷した。天然ガス(同22.2%減)と石油製品(同19.8%減)、原油(同41.7%減)がそれぞれ減少した。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの20年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比14.6%増(前月:同9.4%増)と上昇し、2ヵ月連続で増加した。輸出は昨年3~5月にかけて新型コロナの感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて最大約3割減まで落ち込んだが、6月以降は経済活動の再開を反映して持ち直し、足元では商品市況の改善が輸出の押上げ要因となっている。また輸入額が前年同月比0.5%減(前月:同17.4%減)とマイナス幅が大幅に縮小した結果、貿易収支は+21.0億ドルとなり、前月から4.9億ドル縮小した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同16.7%増(前月:同12.3%増)が大きく増加した一方、石油ガス輸出が同10.1%減(前月:同26.3%減)と低迷した(図表10)。品目別にみると、織物類(同9.1%減)が低迷したものの、鉱産物(同2.2%増)がプラスに転じたほか、動植物性油脂(同26.8%増)やプラスチック・ゴム製品(同16.4%増)、機械類(同18.7%増)、電気機械(同41.1%増)、自動車・同部品(同29.2%増)など幅広い品目が増加した。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの20年12月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て換算、通関ベース)は前年同月比8.8%増(前月:同4.0%減)と上昇し、3ヵ月ぶりのプラスとなった。輸出は昨年コロナ禍でも増加傾向で推移してきたが、足元では昨年前半に牽引役だった医薬品が減少する一方、電子製品の需要が底堅く推移するなど一進一退の動きが続いている。なお、総輸出額は同4.5%増(前月:同4.4%減)とプラスに転じた一方、総輸入額は同1.7%減(前月:同8.5%減)と減少した。結果として、貿易収支が+45.7億ドルとなり、前月から10.0億ドル縮拡大した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約2割を占める電子製品が同15.7%増(前月:同3.0%減)となり、2カ月ぶりに増加した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同17.8%増)とPC(同11.6%増)、PC部品(同36.3%増)が大きく増加したほか、ディスクメディア(同3.7%減)がプラスに転じた。また全体の約3割を占める化学品は同7.7%減(前月:同8.5%減)と8カ月連続で減少した。化学品の内訳を見ると、油価上昇を背景に石油化学製品(同13.5%増)が急増したものの、医薬品(同46.6%減)が2ヵ月連続で二桁減少となった。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの20年12月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.2%減(前月:同4.0%増)と低下して2カ月ぶりのマイナスとなった。輸出の基調は、昨年3月から新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて急減した後、5月から経済活動の再開を反映して総じて持ち直しの動きが続いている。また輸入額が前年同月比9.1%減(前月:同18.3%減)と大幅な落ち込みが続いた結果、貿易収支は▲21.8億ドルとなり、前月から4.6億ドル減少した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の6割弱を占める電子製品が同4.9%増(前月:同4.6%増)と小幅に上昇した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、オフィス機器(同11.2%減)は大幅な落ち込みが続いたものの、電子データ処理機(同11.7%増)と消費者向け電子製品(同102.6%増)が好調だったほか、主力の半導体デバイス(同1.7%増)がプラスに転じた。その他9品目については、増加した品目が多かった。その他鉱物製品(同47.1%増)、雑品(同21.3%増)、金属部品(同19.8%増)、イグニッションワイヤーセット(同12.9%増)、化学品(同9.1%増)、その他製造品(同1.9%増)が増加した一方、製錬銅(同21.0%減)と機械・輸送用機器(同11.1%減)、金(同0.5%減)が減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年02月08日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ASEANの貿易統計(2月号)~12月の輸出は電気電子製品が好調で二桁増に】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ASEANの貿易統計(2月号)~12月の輸出は電気電子製品が好調で二桁増にのレポート Topへ