コラム
2021年02月01日

新型コロナ人口動態解説(1)-対男性223%増、強まる東京都の女性偏在

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

はじめに

新型コロナウィルスによる過密回避、リモートワークの促進等によって、2020年5月、1996年以降続いていた東京都への人口の転入超過(転入する人口数>転出する人口数)が24年ぶりに転出超過(転入する人口数<転出する人口数)に転じたことを昨年の11月のコラムにてお伝えした。
 
2021年1月末現在、政府のオープンデータにて2020年12月末までの状況が確認できる。2020年1月から4月までは、東京都は例年通りの転入超過となっており、入学・入社のための引っ越しシーズンの3月には、前年2019年を超える数の男女が東京都に転入超過していた1
 
しかしながら緊急事態宣言解除後も感染が拡大していく中で、その後は6月を除く5月から12月の計7か月において、東京都の人口転出超過が発生している(図表1)。
 
コラム「新型コロナ人口動態解説」では、シリーズにて東京都における新型コロナによる転出超過の中身の詳細をお伝えしていきたい。

初回は、顕著な変化が見られている男女バランスについて、2020年における東京都の人口の転入超過状況を月別・男女別に示し、2019年との比較において判明した重要な結果について注意喚起をしたい。
【図表1】2020年月別の東京都の人口転入超過状況(人)
 
1 2019年3月合計39,556人、男性18,022人、女性21,534人に対し、2020年3月合計40,199人、男性18,236人、女性21,963人

社会移動による東京都への女性偏在は一気に加速へ

図表1からもうかがい知ることはできるが、転入超過月(1月~4月、6月)は女性が男性よりも多く東京都に増え、転出超過月(5月、7月~12月)は女性が男性よりも東京都から減らない、という結果となっている。
 
次に、実数表で男女バランスを計算した結果を確認してみたい(図表2)。

新型コロナによる1回目の緊急事態宣言が発出されたのは4月であるが、その月の東京都への女性転入超過数は男性の3.5倍にものぼり、前年2019年1月からの各月における倍率で最高倍率となった。

この理由は、対前年同月と比較すると、男性は4892人から1001人(80%減)に転入超過数が減少したのに対し、女性は8181人から3531人(57%減)の減少にとどまったからである。

なぜ緊急事態宣言の発出によって、男性の転入超過数は激減したにもかかわらず、女性はそこまで激減しなかったのか、という疑問が生じる。
 
これは、次回以降のコラムにて詳細データをお示しするが、2018年、2019年と東京都の転入超過人口の7割が実は「20代前半人口」であり、20代人口だけで男性の10割超(中高齢で転出超過のため10割超となる)、女性の9割を占めることから、大学進学や子育て世帯の移動というよりも、圧倒的に大卒新卒、または大卒・高卒後の転職といった就職関連の転居で東京一極集中が起こってきたことが示されている。
 
東京へ就職で転居しようとしている若い男女において、感染拡大をうけて早急に就職先を変更することができるのか、という視点で考えてみると4月における男女の3.5倍もの転入格差の発生を理解しやすい。国の就業構造基本調査から鑑みても、女性の方が(正社員職場を)男性ほどには迅速かつ容易に地元の職場をみつけることができない、という理由があるだろうと考えられる。
【図表2】2020年月別ならびに年間の東京都の転入超過状況詳細(男女別、男女バランス)
5月に発生した24年ぶりの転出超過では、女性転出超過数は男性の1/4にとどまった。その後、6月の緊急事態宣言解除後の揺り戻しによる転入超過では、男性の2.8倍増加となっており、これも2019年1月から過去2番目の高い倍率で女性が東京都へ転入超過している。
 
その後、7月から10月までは徐々に男性に対して女性の転出超過数が近づく傾向が見られたものの、11月(コロナに対する警戒感が弱まっていたコロナ第3波直前)には再び6割台に減少しており、改めて、感染状況が改善した際の東京都への女性人口の転入圧力の強さがうかがえる。

月別データからは総じて、男性の方が東京都の感染状況に応じて地方へと転出超過に、より早く、より多く動く傾向が見られることから、男性の方が感染の状況を見つつ都外への転居を決定しやすい、つまり女性の方が男性よりも都外に転居しやすい環境にはない、という状況がみてとれる。
 
こう書くと、「女性には子育てがあるし動きづらいのかも・・・」という議論が出てきそうであるが、子育て世帯であれば、多少のタイムラグはあっても男女ともに同数で動くはずである。

対前年同期間比88ポイント上昇の衝撃

比較のために、2019年の年間の数値を図表の一番下に入れているが、2019年では、東京都の転入超過男女比が135%であった。しかし、2020年では223%へと上昇し、88ポイント増加というかつてない男女アンバランスな動態構造となっている。

新型コロナの影響で、総数でこそ東京都の転入超過人口は38%にまで減少したものの、男女の居場所・マッチングなどの視点からは、エリアバランスはかつてないほどに悪化している。

新型コロナは「女性に強い東京都」の姿をより明確に描き出したといえ、これは地方の弱みを明確化させたともいえる。

少子化が進む日本において、男性よりも女性を大きく減らしているエリアほど、エリアの未来人口の消滅速度を加速化させていることをあらためて指摘しておきたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2021年02月01日「研究員の眼」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【新型コロナ人口動態解説(1)-対男性223%増、強まる東京都の女性偏在】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

新型コロナ人口動態解説(1)-対男性223%増、強まる東京都の女性偏在のレポート Topへ