2021年01月28日

フィリピンGDP(10-12月期)-前年同期比8.3%減 4期連続のマイナス成長、内需回復に遅れ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比8.3%減1と、前期の同11.4%減から減少幅が縮小したものの、市場予想2(同7.9%減)を下回る結果となった(図表1)。

なお、2020 年通年の成長率は前年比9.5%減(2019年:同6.0%増)と急減し、昨年12 月に引き下げた政府の成長率予測(8.5%~9.5%)の下限に位置する結果となった。通年のGDP縮小は1998年以来初となる。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の低迷がマイナス成長に繋がった。
民間消費は前年同期比7.2%減(前期:同9.2%減)とマイナス幅が縮小した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同42.4%減)、と交通(同30.6%減)、教育(同14.4%減)、衣服・履物(同9.6%減)、家具・住宅設備(同5.9%減)、保健(同3.3%減)が引き続き減少した。一方、食料・飲料(同5.3%増)と住宅・水道光熱(同6.3%増)、通信(同5.5%増)は増加傾向を維持した。

政府消費は同4.4%増となり、前期の同5.8%増から低下した。

総固定資本形成は同28.6%減(前期:同37.1%減)と大幅な減少が続いた。建設投資が同34.0%減(前期:同43.4%減)、設備投資が同24.7%減(前期:同34.5%減)と、それぞれ減少した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の約半分を占める輸送用機器(同32.0%減)をはじめとして、一般工業機械(同16.5%減)や特定産業機械(同14.5%減)が軒並み大幅減となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が前期から横ばいの+4.4%ポイントとなった。まず財・サービス輸出は同10.5%減(前期:同14.4%減)と二桁減少となった。輸出の内訳を見ると、財輸出(同2.1%減)は小幅な減少に止まった一方、サービス輸出(同22.7%減)は大幅な落ち込みが続いた。また財・サービス輸入は同18.8%減(前期:同21.5%減)となり、輸出を上回る減少幅となった。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)長率(前年同期比)
供給項目別に見ると、前期に続いて第二次産業と第三次産業の落ち込みがマイナス成長に繋がった(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同8.4%減(前期: 同10.5%減)と低迷した。宿泊・飲食業(同42.7%減)をはじめとして、運輸・倉庫業(同21.3%減)や不動産業(同15.4%減)、専門・ビジネスサービス業(同8.8%減)、卸売・小売(同4.1%減)、保健衛生・社会活動(同2.5%減)がそれぞれ減少した。一方、金融・保険業(同4.4%増)と情報・通信業(同3.6%増)、行政・国防(同0.6%増)は増加傾向を維持した。

第二次産業は同9.9%減(前期: 同17.3%減)と持ち直したが、引き続き全体を上回る減少幅となった。まず製造業(同4.3%減)は食品加工や石油製品など幅広い産業が減少したものの、主力のコンピュータ・電子機器と化学製品はプラスに転じるなど緩やかながら改善の兆しがみられた。また建設業(同25.3%減)と鉱業・採石業(同18.8%減)は二桁減少となった。電気・ガス・水道(同0.9%減)は小幅ながら2期ぶりに減少した。

第一次産業は前年同期比2.5%減(前期:同1.2%増)と3期ぶりに減少した。10-11月に複数の台風がルソン島に上陸した影響で農作物への被害が広がったほか、アフリカ豚熱の影響で家畜(同13.0%減)が減少した。
 
1 2021年1月28日、フィリピン統計庁(PSA)が2020年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

10-12月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化した。4-6月期は新型コロナの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響が本格的に現れて成長率が▲16.9%と落ち込んだ。年後半の成長率は7-9月期が▲11.4%、10-12月期が▲8.3%と持ち直してきているが、回復の遅れが目立つ。

フィリピン政府が3月中旬にルソン島全域で実施した広域隔離措置(ECQ)は、経済的な影響を考慮して行動制限を段階的に緩和、6月からマニラ首都圏に比較的制限の少ない一般的隔離措置(GCQ)を適用したことで大半の企業活動が認められるようになった。しかし、その後も感染拡大が続いたため、政府は8月に首都圏・近郊に修正広域隔離措置(MECQ)を適用して外出・移動制限措置を一時的に厳格化したほか、マスクやフェースシールドの着用義務付けなど感染防止策を強化した。一連の感染対策が機能し始めたことによって1日当たりの新規感染者数は一時1,100人程度まで減少したが、現在は年末年始に人の移動が増えたことにより大都市を中心に感染拡大傾向にある(図表3)。

足元の景気低迷は、こうした国内で実施された活動制限措置や自粛行動による内需の落ち込みが続いている影響が大きい。10-12月期は厳しい制限措置が取られなかったため、実質GDPが7-9月期から持ち直したものの、コロナ前の水準には戻っていない。また10-11月に複数の台風が北部ルソン島に上陸し、広範囲にわたって洪水が発生したことも家計や企業活動にネガティブな影響を及ぼした。結果として、民間消費(同▲7.2%)と総固定資本形成(同▲28.6%)はそれぞれマイナス成長となった。

このほか、海外送金(ペソ建て)が減少したことも民間消費を下押ししたとみられる(図表4)。コロナ禍でフィリピン人海外出稼ぎ労働者の失業や帰国が増えているにもかかわらず、10-11月の在外フィリピン人からの送金額(ドル建て)は前年比1.7%増と増加傾向を保ったが、ドル安・ペソ高が進んだためにペソ建ての送金額は前年比3.8%減となり、7-9月期の同1.4%減から減少幅が拡大した。フィリピンは海外出稼ぎ労働者による送金がGDPの10%弱の規模に相当し、本国で暮らす家族の食料品や衣類、医療、教育など基本的な需要を満たす役割を果たしているだけに、消費市場に及ぼす影響は大きい。
(図表3)フィリピンの新規感染者数の推移/(図表4)フィリピン 海外労働者送金額
先行きのフィリピン経済は引き続き新型コロナの感染状況に左右される。フィリピン政府は米国や中国などの製薬会社との間でワクチン供給に関する契約を交わしており、今年2月にワクチンが到着次第、投与を開始する予定である。政府は年末までに集団免疫を獲得する計画であり、早ければ今年10-12月期にはフィリピン経済がコロナ前の水準に回復するとの見通しを示している。しかしながら、短期的には足元の新規感染者数の増加や変異種による更なる感染拡大を受けて、政府が行動制限を再強化する恐れがあるほか、消費者マインドの悪化が内需の回復を遅らせる可能性がある。またワクチンの普及が進むまでは、政府は各種の感染対策を続けざるを得ないため、今後の景気の回復ペースは緩やかなものとなりそうだ。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2021年01月28日「経済・金融フラッシュ」)

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