2020年08月06日

フィリピンGDP(4-6月期)-前年同期比16.5%減、統計開始以来最大の落ち込み

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2020年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比16.5%減1と、前期の同0.2%減から一段と低下し、市場予想2(同9.4%減)を大きく下回る結果となった(図表1)。
 

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の悪化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比15.5%減(前期:同0.2%増)と急低下した。民間消費の内訳を見ると、交通(同60.5%減)とレストラン・ホテル(同66.4%減)、保健(同12.2%減)、家具・住宅設備(同22.4%減)、衣服・履物(同40.2%減)などが大幅に減少した。一方、増加傾向を維持したのは食料・飲料(同2.4%増)と住宅・水道光熱(同6.6%増)、通信(同7.4%増)だけだった。

政府消費は同22.1%増となり、前期の同7.0%増から大きく上昇した。

総固定資本形成は同37.8%減と、前期の同4.4%減から一段と低下した。建設投資が同32.9%減(前期:同4.4%減)、設備投資が同62.1%減(前期:同5.9%減)と、それぞれ大幅に減少した。なお、設備投資の内訳を見ると、全体の半分を占める輸送用機器(同74.4%減)をはじめとして一般工業機械(同49.0%減)、特定産業機械(同60.0%減)などが軒並み大幅減となった。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+4.9%ポイントとなり、前期の+2.3%ポイントから拡大した。まず財・サービス輸出は同37.0%減となり、7年ぶりのマイナスとなった前期の同4.4%減から更に落ち込んだ。輸出の内訳を見ると、財輸出(同31.1%減)とサービス輸出(同43.4%減)が揃って悪化した。また財・サービス輸入も同40.0%減(前期:同8.7%減)とマイナス幅が拡大した。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、第二次産業と第三次産業を中心に成長率が低下した(図表2)。

まずGDPの約6割を占める第三次産業は同15.8%減(前期: 同0.6%増)と急低下した。運輸・倉庫業(同59.2%減)と宿泊・飲食業(同68.0%減)をはじめとして、卸売・小売(同13.1%減)や専門・ビジネスサービス業(同18.4%減)、不動産業(同20.1%減)、保健衛生・社会活動(同15.4%減)がそれぞれ大幅に減少した。一方、情報・通信業(同6.6%増)と金融・保険業(同6.8%増)、行政・国防(同8.3%増)については堅調に増加した。

第二次産業は同22.9%減となり、前期の 同3.4%減から一段と低下した。まず製造業(同21.3%減)は主力のコンピュータ・電子機器と化学製品を中心に落ち込んだ。また建設業(同33.5%減)と鉱業・採石業(同24.5%減)が二桁減少となったほか、前期まで底堅さを保っていた電気・ガス・水道(同5.8%減)もマイナスに転落した。

一方、第一次産業は前年同期比1.6%増(前期:同0.3%減)と増加した。今年1月のタール火山噴火の影響を受けて不調だったコメ(同7.2%減)やトウモロコシ(同15.6%増)などの作物が持ち直したほか、漁業・養殖業(同0.9%増)はイワシやカツオ、アジなど主要魚種の漁獲が好調でプラスに転じた。
 
1 2020年8月6日、フィリピン統計庁(PSA)が2020年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表。
2 Bloomberg調査

4-6月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年まで概ね+6%前後の高成長が続いていたが、今年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大を背景に景気が減速、4-6月期は新型コロナの封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響により経済が大打撃を受けて成長率が▲16.5%と落ち込み、1981年の統計開始以来最悪の結果となった。

4-6月期の景気悪化は、国内で実施された活動制限に伴う内需の落ち込みによる影響が大きい。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、フィリピン政府は3月中旬からマニラ首都圏を含むルソン島全域で広域隔離措置(ECQ)を実施、外出の禁止や公共交通の停止、生活必需品を除く製造・サービス活動を制限した結果、経済停止状態に陥った。しかし、その後もフィリピンの新型コロナの感染は収束の兆しがみられず、ルソン島全域の広域隔離措置は2ヵ月半に渡って実施された。政府は新規感染者数の増加ペースが落ち着いたことや経済的な影響を考慮して6月1日から首都圏を比較的制限の少ない一般的隔離措置(GCQ)を適用し3、大半の企業活動が認められることになった。しかし、4-6月期は長期に渡って厳格な隔離措置が実施されたため、民間消費(同▲15.5%)と投資(同▲37.8%)が落ち込むこととなった。

また海外送金の減少も4-6月期の民間消費の落ち込みに繋がったとみられる。4-5月のフィリピン人海外出稼ぎ労働者を含む在外フィリピン人からの送金額は前年比20.2%減(1-3月:同1.5%減)と大幅に落ち込んだ(図表3)。このことは外国人労働者がコロナ禍で雇用・収入を失いやすいことが反映されたものとみられる。海外出稼ぎ労働者による送金はGDPの約1割の規模に相当し、本国で暮らす家族の食料品や衣類、医療、教育など基本的な需要を満たす役割を果たしているため、海外送金の動向はフィリピン経済を左右するものとなっている。

一方、政府部門は新型コロナとの闘いに支出を拡大させて景気の下支え役となると共に、外需は輸入の不振(同40.0%減)が輸出の落ち込み(同▲37.0%減)を上回ったため、成長率寄与度がプラスとなった。

7-9月期もマイナス成長が予想される。フィリピンはウイルスの封じ込めに失敗して、8月4日からマニラ首都圏と近隣州で再び厳格な外出・移動制限措置が実施され、先行きの景気低迷が確実視されるためだ。フィリピンでは6月に活動制限措置を緩和して以降、新型コロナの感染拡大が続いており、8月5日の新規感染者数は3,462人、累計感染者数は11.6万人に達している(図表4)。ドゥテルテ大統領は新型コロナの感染再拡大による医療体制の崩壊を防ぐべく、止む無く厳格な隔離措置の再実施を迫られることとなった。今回の隔離措置の実施期間は8月18日までとされているが、今後の感染状況に改善の動きがみられなければ隔離措置の延長が予想される。マニラ首都圏は全人口の1割強とGDPの約4割が集中する経済中心地であるだけに、厳格な隔離措置が再実施に至った影響は大きい。今後の新型コロナの感染状況次第では年内まで景気後退が続く展開が予想される。
(図表3)フィリピン 海外労働者送金額/(図表4)フィリピンの新規感染者数の推移
 
3 フィリピン政府は5月から段階的に隔離緩和地域の操業の許可や隔離地域を縮小するなど限定的な制限措置の緩和を実施している。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2020年08月06日「経済・金融フラッシュ」)

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