2020年08月05日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(8月号)~6月の輸出は段階的な経済再開を反映して減少幅が縮小

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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20年6月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.4%減(前月:同21.2%減)とマイナス幅が縮小した(図表1)。輸出の伸び率は、今年1-2月に中華圏の旧正月の連休時期のずれの影響で大きく変動した後、新型コロナの世界的な感染拡大と商品価格下落、そして国内外で実施された活動制限措置の影響が4月に本格化して急減したが、6月は段階的な経済活動の再開を反映して減少幅が縮小した。もっとも新型コロナの感染は第一波が収束に向かった国でも第二波、第三波と流行を繰り返す動きがあるほか、物流の制限が残るなど世界経済は依然として不安定で、経済活動の水準が元に戻るまでには時間を要するため、今後の輸出の回復ペースは緩やかなものにとどまることが予想される。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、6月は東南アジア向け(同20.2%減)とEU向け(同16.1%減)が大幅に減少したものの、北米向け(同18.5%増)と東アジア向け(同6.6%増)が持ち直した(図表2)。東アジア向け輸出の持ち直しはコロナショックからの景気回復が進む中国向けの増加と経済活動が比較的早い段階で再開された日本、韓国、台湾向けの落ち込みが和らいだことが影響したと考えれる。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN6ヵ国仕向け地別の輸出動向
ベトナムの20年6月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比5.3%増となり、前月の同12.3%減から上昇した。昨年好調だった輸出は、今年1~2月に旧正月の連休時期のずれを背景に上下に振れた後、4~5月は新型コロナ感染対策として国内外で実施された活動制限措置の影響により落ち込んだが、6月は同制限措置の緩和に伴う反動増が生じてプラスに転じた。また輸入額も前年同月比6.4%増(前月:同21.5%減)と上昇した結果、貿易収支は+18.5億ドルとなり、前月から8.4億ドル改善した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品は同3.4%減(前月:同21.1%減)と減少傾向が続いた一方、電気製品・同部品は同33.2%増(前月:同15.7%増)と5ヵ月連続の二桁増を記録するなど好調だった(図表4)。また繊維関連では、織物・衣類が同9.7%減(前月:同31.6%減)、履物が同11.8%減(前月:同23.8%減)となり、それぞれ大幅に減少した。農林水産物を見ると、水産物(同0.3%増)が僅かながら増加したものの、6月に入って価格が急落したコメ(同14.1%減)をはじめとしてコーヒー(同9.9%減)、野菜(同7.1%減)、天然ゴム(同6.3%減)など幅広い品目が減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が1.5%減(前月:同21.5%減)と小幅に減少した一方、地場企業は同19.1%増(前月:同8.1%増)と大幅に増加した。
(図表3)ベトナムの貿易収支/(図表4)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
タイの20年6月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比23.2%減と、前月の同22.5%減に続いて大幅に減少した。昨年から減少傾向の続く輸出は、今年3月から新型コロナの感染拡大を背景とした商品価格の下落や国内外の活動制限措置などの悪影響が現れ始め、5月から大幅に減少している。また輸入額も前年同月比18.1%減(前月:同34.4%減)と3カ月連続の大幅減少となった結果、貿易収支は+16.1億ドルとなり、前月から10.8億ドル悪化した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、全体の約7割を占める工業製品が同19.0%減(前月:同34.9%減)と3カ月連続の二桁減少となった(図表6)。製造品の内訳を見ると、主力の自動車・部品(同38.3%減)や電子機器(同4.6%減)、機械・装置(同22.7%減)、石油化学製品(同13.5%減)など幅広い品目が減少した。また鉱業・燃料は同38.9%減(前月:同44.0%減)となり、石油製品(同36.6%減)を中心に4カ月連続で減少した。農産物・同加工品も同4.8%減(前月:同0.6%減)と低迷した。前月に続いてゴム製品(同61.2%増)や果物(同18.6%増)、畜産物(同42.6%増)、タピオカ(同1.3%増)が増加する一方、コメ(同25.6%減)や天然ゴム(同55.6%減)、加工食品(同7.8%減)が減少するなど、品目ごとのバラつきがみられた。前月まで好調だった非貨幣用金(同86.6%減)は一転してマイナスとなった。
(図表5)タイの貿易収支/(図表6)タイ輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの20年6月の輸出額(ドル建て、通関ベース)の伸び率は前年同月比6.0%増となり、前月の同28.4%減から上昇した。昨年から減少傾向の続く輸出は、今年3月に新型コロナ感染拡大と国内外の活動制限措置の影響が現れ、4~5月には約3割減を記録したが、6月は活動制限措置の緩和による反動増が生じて増加に転じた。また輸入額が前年同月比8.1%減(前月:同33.1%減)と低迷した結果、貿易収支は+48.9億ドルとなり、前月から24.9億ドル改善した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同13.7%増(前月:同25.5%減)と、主力の電気・電子製品(同12.9%増)を中心に増加して10カ月ぶりのプラスに転じた(図表8)。また鉱物性燃料は同39.4%減(前月:同48.0%減)と3カ月連続で大幅に減少した。天然ガス(同26.5%減)と原油(同71.6%減)、石油製品(同35.0%減)がそれぞれ低迷している。このほか、動植物性油脂が同38.4%増(前月:同17.6%減)が持ち直した一方、化学製品が同8.5%減(前月:同25.8%減)と減少するなど、品目によってバラつきがみられた。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの20年6月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.3%増(前月:同29.5%減)と上昇した。昨年から減少傾向の続く輸出は、今年3月から新型コロナの感染拡大の影響が現れ始め、国内外で実施された活動制限措置の影響を受けて5月には約3割減まで落ち込んだが、6月は経済活動の再開による反動増が生じて増加に転じた。また輸入額が前年同月比6.4%減(前月:同42.2%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は+12.7億ドルとなり、前月から7.5億ドル悪化した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同3.6%増(前月:同27.7%減)とプラスに転じた一方、石油ガス輸出が同18.5%減(前月:同50.7%減)と引き続き減少した(図表10)。ゴム製品(同10.7%減)など減少傾向の続く品目はあるものの、電気機械(同11.0%増)や機械類(同11.4%増)、動植物性油脂(同18.6%増)、木材パルプ(同9.9%増)など前月からプラスに転化した品目が目立った。また鉄・鉄鋼(同27.6%増)と鉱石、スラグ及び灰(同222.4%増)は前月に続いて好調だった。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの20年6月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て、通関ベース)は前年同月比13.5%増(前月:同7.8%減)と再び上昇した。輸出は昨年低迷したが、今年は世界的な新型コロナの感染拡大を背景に医薬品や非貨幣用金、集積回路(IC)の出荷増が続いて増加傾向にある。6月の輸出は国内外の経済活動措置の緩和による反動が生じて主力の電気電子を中心に伸長した。なお、総輸出額は同5.8%減(前月:同26.5%減)、総輸入額は同11.9%減(前月:同28.7%減)となり、それぞれマイナス幅が縮小した。結果として、貿易収支が+34.4億ドルとなり、前月から6.2億ドル改善した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同19.5%増(前月:同8.7%増)と大きく上昇し、約3年ぶりの二桁増を記録した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同2.3%減)やPC部品(同28.3%減)は低迷したものの、主力のIC(同26.2%増)や通信機器(同34.7%増)、ダイオード・トランジスタ(同4.0%増)が増加した。また電子製品と並び全体の約3割を占める化学は同3.0%減(前月:同21.1%減)と2カ月連続のマイナスとなった。化学製品の内訳を見ると、好調の医薬品(同27.8%増)が大幅に増加した一方、石油化学製品(同30.7%減)が低迷した。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの20年6月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比13.3%減となり、前月の同26.9%減からマイナス幅が縮小した。輸出の基調は、昨年まで電子製品と一次産品の出荷増を支えに概ねプラス圏の伸びが続いていたが、今年3月から新型コロナ感染拡大と国内外で実施された活動制限措置の影響が現れて幅広い品目が減少している。また輸入額も前年同月比24.5%減(前月:同40.6%減)と大幅に減少した結果、貿易収支は▲13.0億ドルとなり、前月から0.2億ドル改善した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の5割強を占める電子製品は同10.4%減(前月:同20.5%減)と低迷した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同8.1%減)をはじめ、電子データ処理機(同9.7%減)やオフィス機器(同29.4%減)などが減少した。その他9品目のうち、その他鉱物製品(59.5%増)と化学(同3.3%増)は増加したものの、金属部品(同30.5%減)やココナッツオイル(同29.7%減)、機械・輸送用機器(同26.3%減)、イグニッションワイヤーセット(同25.8%減)、生鮮バナナ(同17.4%減)、その他製造品(同16.9%減)、製錬銅(同10.4%減%減)など多くの品目が大幅に減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2020年08月05日「経済・金融フラッシュ」)

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