2020年08月06日

コロナショック後の金融市場動向-リーマンショック後とどう違う?

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.281]

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1―コロナショック後の市場動向

新型コロナウイルスの欧米への感染拡大を受けて、2月24日にダウ平均株価が1000ドル余り下落した。これを「コロナショック」と定義すると、現在はショック発生から20週間余り経過したことになる。コロナショック後の市場の動きについて、近年最大の世界的危機であったリーマンショック後の動向と比較しながら、振り返ってみる。
(1)株価は急落後にV字回復
まず、日経平均株価の動きを振り返ると、コロナショック発生後は4週間にわたって急落し、一時は16552円とショック直前(23386円)からの下落率が約3割に達した。しかし、その後は上昇に転じ、持ち直しが続いた結果、足元ではショック直前の水準の9割超にまで回復している。

一方、リーマンショックの後は7週目に下落率が4割に達し、その後やや持ち直したものの、再び下落して2番底を付ける展開となった。株価が本格的な持ち直しに転じたのは、ショック発生から26週目にあたる2009年3月のことであった。

従って、コロナショック後の日経平均株価は、リーマンショック後よりも早期に底入れし、以降の回復ペースの速さも鮮明になっている。

なお、世界の中心的な株価であるダウ平均株価もコロナショック後はほぼ同様の展開を辿っている。日経平均株価ほどではないものの、急落後の回復ペースはリーマン後を上回り、V字に近い回復軌道を描いている。
[図表1]日経平均株価(リーマンショック後vsコロナショック後)
今回の世界経済の落ち込みはリーマンショック後を超えるとの見方が多い中で、内外の株価が急速に回復している理由は2つ考えられる。

一つは景気悪化の原因が可視化されていることだ。新型コロナ拡大に伴う景気の悪化の直接的な原因は、感染収束のために採られた各国政府による経済活動の制限措置である。裏返せば、制限が緩和されれば、景気が持ち直すことになる。実際、欧米などの先進国では4月以降に感染ペースが一旦鈍化したことを受けて制限措置が段階的に緩和に向かった。目に見える形で景気悪化の原因が緩和されたことが投資家の景気回復期待に繋がり、株価の持ち直しに寄与したと考えられる。
[図表2]新型コロナ 新規感染者数
一方、リーマンショックは米国の住宅バブルが崩壊し、サブプライムローン証券化商品を通じて世界的に拡大した金融危機であったため、危機の動向や影響がつかみにくかった。

そして、もう一つの理由は主要国による大規模な財政出動と金融緩和だ。IMFによれば、今回、新型コロナ拡大を受けて各国政府は約11兆ドル規模の財政出動に踏み切っている。この結果、世界各国の今年の政府債務拡大幅(GDP比18.7%ポイント)は、リーマンショックを受けた2009年の倍近くになることが見込まれている。
[図表3]各国政府債務の拡大幅(リーマンショック後vsコロナショック後)
また、新型コロナに伴う景気悪化への対応として、主要中央銀行も大規模な金融緩和を実行している。3月以降、FRBは利下げと無制限の量的緩和を実施、既に利下げ余地の乏しかったECBや日銀も量的・質的な大規模緩和に踏み切った。さらに、各国中銀は企業の資金繰り対策にも本腰を入れて対応している。この結果、各国中銀の総資産は急拡大しており、とりわけ世界の中心的存在であるFRBの総資産は1月末以降の5カ月間で2.9兆ドルも増加している(リーマンショック後の5カ月間の増加額は1.0兆ドル)。

こうした主要国による大規模な財政出動と金融緩和が比較的迅速に行われたことが景気回復期待や市場への資金流入期待を高め、内外株価の持ち直しに繋がったと考えられる。

ちなみに、日本株については、日銀によるETF買入れの影響も無視できない。日銀はコロナショックが発生した今年2月から5月までの4カ月間で3.8兆円ものETFを買入れており、海外投資家による多額の売り(3.4兆円)を吸収した。ETF買入れはリーマンショック後の株価下落時には行われておらず、この差も株価回復ペースの差に繋がっている。
(2)金利・ドル円の動きは限定的
1)長期金利(10年国債利回り)
一方、コロナショック後の本邦長期金利は膠着しており、0.0%前後での推移が続いている。もともとマイナス金利政策が長期化していたことで、その副作用、とりわけ金融機関への悪影響が危惧される状況にあったため、日銀は今回、マイナス金利の深堀りを回避し、金利の低下が抑制された。また、日本政府による大規模な財政出動に伴う国債の増発も金利低下を妨げた。一方、国債の増発を踏まえて日銀が国債買入れを積極化する方針を示したことで、金利の上昇も抑制されている。

リーマンショック後には、日銀の利下げ(0.50%→0.10%)に伴って金利が低下していた。

なお、米長期金利はコロナショック後にFRBの緊急利下げ(実質ゼロ金利政策導入)によって1%程度低下したが、リーマンショック後の低下幅に比べると、限定的に留まっている。今回はショック前の金利水準が低かったうえ、既に1%を大きく割り込んでおり、金利の低下余地が限られているためだ。
[図表4]日本長期金利(リーマンショック後vsコロナショック後)
2) ドル円レート
ドル円レートは、一時的に乱高下する場面があったものの、株価の動きに比べると安定的に推移している。足元の水準も1ドル107円付近と、コロナショック直前から5円弱の円高水準に留まっている。リーマンショック後には約20円もの大幅な円高ドル安が進んだだけに、違いが鮮明になっている。
[図表5]ドル円レート(リーマンショック後vsコロナショック後)
リーマンショック後には米長期金利が大きく低下し、日米金利差が大幅に縮小したことが円高ドル安圧力となったが、今回は既述の通り、米金利の低下幅が小幅に留まったことでドル安圧力が緩和された。また、リーマンショック後に比べて内外株価の回復が早く、リスク回避的な円高圧力が高まりにくかったこともドル円の底堅さに寄与した。双方向的な話になるが、円高が進まなかったことが株価の持ち直しに寄与した面もある。

2―まとめと今後のポイント

以上のとおり、リーマンショック後は、日米株価の低迷、金利の低下、円高ドル安の進行が顕著であったが、コロナショック後は、これまでのところ、株価は急速に回復し、金利とドル円の動きは限定的に留まっている。しかし、現在の金融市場、とりわけ株式市場が脆さを抱えている点には注意が必要だ。

日本や米国などの先進国では新型コロナの新規感染者数が4月から5月にかけて一旦減少したものの、6月以降は経済活動の段階的な再開を追う形で再び増加している。特効薬やワクチンが存在しない以上、感染拡大が続いて医療体制が逼迫する事態に追い込まれれば、再び大規模な移動・外出制限といった経済活動への制限措置を余儀なくされる恐れがある。

新型コロナによる需要押し下げ圧力は極めて大きいため、主要国による大規模な財政出動と金融緩和でも、景気の落ち込みを全て穴埋めすることはできない。実体経済の回復が遅れ、先行して持ち直してきた株価との乖離がさらに鮮明になれば、株価は修正を余儀なくされるだろう。

今後、感染拡大に伴って内外で経済活動への制限が強まったり、そうでなくとも景気の回復が市場の期待通り進まなかったりすれば、内外株価は2番底に向かう可能性が高い。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年08月06日「基礎研マンスリー」)

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