2020年07月10日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(7月号)~5月の輸出は新型コロナの影響で一段と減少

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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20年5月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比21.7%減(前月:同13.0%減)と一段と減少した(図表1)。輸出の伸び率は、今年1-2月に中華圏の旧正月の連休時期のずれの影響で大きく変動した後、新型コロナの世界的な感染拡大を背景とする外需の悪化や商品価格の下落、感染対策として実施した活動制限措置の影響が4月に入って本格的に表れ、急減している。なお、非貨幣用金の出荷増は前月に続いて輸出の落ち込みを下支えした。5月頃から世界各国で活動制限措置の緩和が進んだことから、先行きの輸出は持ち直しに向かうが、減少傾向は続くだろう。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、5月は東南アジア向け(同37.5%減)とEU向け(同28.2%減)が一段と減少したほか、前月まで増加していた北米向け(同10.1%減)もマイナスに転じた。東アジア向け(同10.2%減)はコロナショックからの景気回復が進む中国向け(同0.7%減)の落ち込みが和らいだため、他の地域と比べて低下幅は小幅に止まった(図表2)。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN6ヵ国仕向け地別の輸出動向
タイの20年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比22.5%減(前月:同2.1%増)と急低下し、2009年7月(同25.7%減)以来となる大幅減少を記録した。輸出は昨年末から持ち直しの動きがみられていたが、3月頃から新型コロナの感染拡大を背景とした商品価格の下落や国内の活動制限措置、外需の急減などの悪影響が表れ始め、5月に一気に顕在化した。一方、非貨幣用金の大幅増は輸出の落ち込みを下支えしている。また輸入額が前年同月比34.3%減(前月:同17.1%減)と2カ月連続の大幅減少となった結果、貿易収支は+26.9億ドルとなり、前月から2.3億ドル改善した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約9割を占める工業製品が同34.9%減(前月:同13.0%減)と大幅に減少した(図表4)。製造品の内訳を見ると、主力の自動車・部品(同57.2%減)や電子機器(同17.0%減)、機械・装置(同34.0%減)、石油化学製品(同25.6%減)など幅広い品目が減少した。また鉱業・燃料は同44.0%減(前月:同41.7%減)となり、石油製品(同42.3%減)を中心に3カ月連続で減少となった。一方、農産物・同加工品は同0.6%減(前月:同2.9%増)と小幅に減少した。タピオカ(同14.1%増)やゴム製品(同4.8%増)、果物(同162.1%増)、畜産物(同39.1%増)が増加する一方、コメ(同4.0%減)や天然ゴム(同42.0%減)、加工食品(同11.1%減)は減少するなど、品目ごとのバラつきがみられた。このほか、非貨幣用金(同717.7%増)は引き続き大幅に増加した。
(図表3)タイの貿易収支/(図表4)タイ輸出の伸び率(品目別)
ベトナムの20年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比12.3%減となり、前月の同13.9%増に続いて大幅に減少した。輸出の伸び率は昨年、概ね好調に推移したが、今年1-2月に旧正月の連休時期のずれとサムスン電子の新型スマホの輸出開始の影響が重なって上下に大きく振れた後、4月に新型コロナ感染対策として実施した社会隔離措置や外需急減といった悪影響が表れて落ち込んでいる。また輸入額は前年同月比21.2%減(前月:同11.4%減)とマイナス幅が拡大した結果、貿易収支は+10.1億ドルとなり、前月から19.5億ドル改善した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず電気製品・同部品が同15.7%増(前月:同18.0%増)と好調を維持したものの、輸出全体の約2割を占める電話・部品が同21.1%減と、前月の同35.5%減に続いて二桁減少となった(図表6)。また繊維関連では、織物・衣類が同31.9%減(前月:同31.6%減)、履物が同23.8%減(前月:同17.2%減)と大幅な減少が続いた。農林水産物を見ると、5月に禁輸措置を解除したコメ(同69.2%増)こそ増加したものの、コーヒー(同7.3%減)や野菜(同24.0%減)、水産物(同15.0%減)、天然ゴム(同19.3%減)など幅広い品目が減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が21.5%減(前月:同20.5%増)と大幅に減少した一方、地場企業は同8.1%増(前月:同0.2%増)と持ち直した。
(図表5)ベトナムの貿易収支/(図表6)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの20年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)の伸び率は前年同月比28.4%減となり、前月の同28.1%減に続いて大幅に減少した。昨年から続く輸出の減少傾向は昨年末から循環的底入れの動きがみられていたが、今年3月から新型コロナ感染拡大と国内の活動制限令、外需低迷の影響が表れ、主力の電気・電子製品や燃料、パーム油を中心に大幅に減少している。また輸入額も前年同月比33.1%減(前月:同13.0%減)と一段と減少した結果、貿易収支は+24.0億ドルとなり、前月から32.4億ドル改善した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同25.5%減(前月:同27.3%減)と、主力の電気・電子製品(同23.0%減)を中心に低迷して3カ月連続の二桁減となった(図表8)。また鉱物性燃料は同48.0%減(前月:同30.5%減)と2カ月連続で減少した。天然ガス(同33.4%減)と原油(同70.2%減)に加え、石油製品(同48.8%減)が低迷した影響が大きい。このほか、動植物性油脂が同17.6%減(前月:同9.4%減)、化学製品が同25.8%減(前月:同20.9%減)となり、それぞれ落ち込んだ。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
インドネシアの20年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比28.9%減(前月:同7.2%減)と一段と低下した。輸出の伸び率は昨年、世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に主力の資源関連が振るわず低迷し、今年3月からは新型コロナの感染拡大を背景とする外需の急減、商品価格の下落、4月の大規模社会的制限令の実施の影響が顕在化して落ち込んでいる。また輸入額が前年同月比42.2%減(前月:同18.6%減)とマイナス幅が拡大した結果、貿易収支は+20.9億ドルとなり、前月から24.6億ドル改善した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同27.8%減(前月:同6.2%減)、石油ガス輸出が同42.6%減(前月:同24.0%減)となり、それぞれマイナス幅が拡大した(図表10)。品目別に見ると、金属製品(同3.1%増)は増加傾向を維持したものの、主力の鉱産物(同41.8%減)や機械類(同45.3%減)、自動車・同部品(同70.0%減)が一段と減少、織物類(同51.9%減)や紙製品(同8.6%減)といった軽工業品も低迷した。また前月まで増加傾向にあった電気機械(同36.4%減)と動植物性油脂(同7.7%減)がマイナスに転じた。
(図表9)インドネシア貿易収支/(図表10)インドネシア輸出の伸び率(品目別)
シンガポールの20年5月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て、通関ベース)は前年同月比7.6%減(前月:同4.6%増)と急低下した。輸出は昨年低迷したが、今年は世界的な新型コロナの感染拡大を背景に医薬品や非貨幣用金、加工食品の出荷が増えて底堅く推移している。5月の輸出の落ち込みは前年同月の医薬品の出荷が急増した反動による影響が大きい。なお、総輸出額は同26.4%減(前月:同16.8%減)、総輸入額は同28.7%減(前月:同17.2%減)となり、それぞれ一段と低下した。結果として、貿易収支が+28.5億ドルとなり、前月から10.0億ドル改善した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同8.7%増(前月:同5.3%減)と上昇し、2ヵ月ぶりのプラスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、PC(同5.8%減)やPC部品(同24.7%減)、ダイオード・トランジスタ(同22.0%減)が低迷したものの、主力のIC(同18.4%増)が大きく増加した。一方、電子製品と並び全体の約3割を占める化学は同21.1%減(前月:同26.4%増)と急低下して2カ月ぶりのマイナスとなった。化学製品の内訳を見ると、石油化学製品(同33.5%減)の大幅な減少が続くなか、好調の医薬品(同10.1%減)がベース効果によりマイナスに転じた。
(図表11)シンガポール貿易収支/(図表12)シンガポール輸出の伸び率(品目別)
フィリピンの20年5月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比35.6%減となり、前月の同49.9%減に続いて大幅に減少した。輸出の基調は、昨年まで電子製品と一次産品の出荷増を支えに概ねプラス圏の伸びが続いていたが、今年3月から新型コロナ感染拡大と広域隔離措置(ECQ)、外需低迷の影響が表れて幅広い品目減少している。また輸入額も前年同月比40.6%減(前月:同65.3%減)と大幅減少となった結果、貿易収支は▲18.7億ドルとなり、前月から14.2億ドル悪化した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の5割強を占める電子製品は同33.4%減(前月:同48.6%減)と減少した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同27.2%減)をはじめ、電子データ処理機(同46.0%減)やオフィス機器(同76.6%減)などが大きく減少した。その他9品目のうち、その他鉱物製品(12.8%増)と機械・輸送用機器(同4.2%増)は増加したが、イグニッションワイヤーセット(同70.4%減)やその他製造品(同50.6%減)、化学(同37.2%減)、ココナッツオイル(同28.7%減)、生鮮バナナ(同26.5%減)、金(同20.5%減)、製錬銅(同12.9%減)など多くの品目が大幅に減少した。
(図表13)フィリピンの貿易収支/(図表14)フィリピン 輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2020年07月10日「経済・金融フラッシュ」)

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