2019年01月24日

【フィリピンGDP】10-12月期は前年同期比6.1%増~消費持ち直しも回復感の乏しい状況が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2018年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比6.1%増1と、前期の同6.0%増から上昇し、市場予想2(同6.3%増)を下回った(図表1)。

なお、2018年通年の成長率は前年比6.2%増(2017年:同6.7%増)と低下し、当初の政府の成長率目標(7.0-8.0%)を下回る結果となった。

10-12月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に消費の持ち直しが成長率上昇に繋がった。

民間消費は前年同期比5.4%増(前期:同5.2%増)と上昇した。民間消費の内訳を見ると酒類・たばこ(同5.8%減)や交通(同1.0%増)、通信(同2.6%増)が低迷したものの、教育(同18.7%増)や住宅・水道光熱(同5.9%増)が堅調に推移した。

政府消費は同11.9%増(前期:同14.3%増)と、引き続き好調だった。

総固定資本形成は同9.8%増となり、高水準を記録した前期の同17.4%増から鈍化した。まず設備投資は同3.1%増(前期:同18.0%増)と急低下した。設備投資の内訳を見ると鉱業・建設機械(同22.2%増)や電気通信装置(同11.6%増)は高水準を維持したが、全体の4割を占める道路運送車両(同3.2%減)やオフィス機器(同3.8%増)は低調だった。一方、建設投資は同19.3%増(前期:同16.4%増)と上昇した。公共建設投資(同16.3%増)は高水準を維持、民間建設投資(同19.3%増)は一段と加速した(図表2)。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)建設部門の粗付加価値額(GVA)
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲0.8%ポイント(前期:▲4.0%ポイント)となり、マイナス幅が縮小した。まず輸出は同13.2%増(前期:同13.3%増)と高水準を維持した。輸出の内訳を見ると、財輸出が同15.3%増(前期:同15.9%増)と主力の電子部品を中心に好調だった。一方、サービス輸出は同4.5%増(前期:同1.2%増)と上昇したものの、外国人旅行者数の鈍化により低調な伸びに止まった。輸入については同11.8%増(前期:同17.9%増)と鈍化し、4期ぶりに輸出の伸びを下回った。

供給項目別に見ると、主に第二次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表3)。

まず第二次産業は同6.9%増(前期: 同6.1%増)と上昇した。製造業(同3.2%増)は化学製品やラジオ、テレビ・通信機器を中心に伸び悩んだものの、建設業(同21.3%増)は引き続き大幅に増加、電気・ガス・水供給業(同6.6%増)は堅調に推移、鉱業・採石業(同10.0%減)は3期ぶりのプラスとなった。

また第一次産業は前年同期比1.7%増(前期:同0.2%減)と上昇した。農業(同1.6%増)と水産業(同1.9%増)がそれぞれ小幅のプラスに転じた。

一方、GDPの約6割を占める第三次産業は同6.3%増(前期: 同6.8%増)と低下した。行政・国防(同17.8%増)は引き続き好調だったが、商業(同5.9%増)や運輸・通信(同2.7%増)、不動産・事業活動(同4.4%増)が伸び悩んだ。
 
1 1月24日、国家統計調整委員会(NSCB)が2018年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は1.6%増と前期(同1.5%増)から僅かに上昇した。
2 Bloomberg調査

10-12月期GDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年初までは+6%台後半の高成長が続いたが、直近3四半期は成長率が+6%強の水準で伸び悩んでいる。昨年10月、フィリピン政府は景気減速を背景に今年の成長率目標を従来の7~8%から6.5~6.9%に引き下げたが、10-12月期の成長の加速は限定的だったことから18年の成長率は+6.2%に止まり、引下げ後の目標も達成できない結果となった。

昨年の景気減速の主因は、GDPの約7割を占める民間消費が+6%前後から+5%台前半まで減速したことにある。昨年は消費者物価が年初の物品税増税の影響で上向き、その後もコモディティ価格の上昇、ペソ安に伴う輸入インフレ、台風被害による食品価格の値上がりなどを受けて昨年9月には+6.7%増まで上昇するなど、消費を巡る環境は悪化していった(図表4)。
(図表3)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)/(図表4)フィリピンのインフレ率と政策金利
10-12月期は、政府のインフレ抑制策や中央銀行の利上げ(年間+1.75%)、油価下落などを背景に消費者物価上昇率が低下に転じたこと、また海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)が堅調に拡大(10-11月:前年比10.4%増)したことが追い風となり、民間消費は若干持ち直した。しかし、これまで好調だった設備投資が失速し、景気回復に水を差す形となった。昨年の消費需要の減退や原材料費の値上がり、金利上昇に伴う借入コストの増加、そして先行きの輸出鈍化懸念などが加わり、企業の設備投資意欲が弱まったものとみられる。

今年は物品税増税に伴うインフレ要因の剥落、政府によるコメの輸入制限の撤廃により、消費者物価上昇率は低下傾向を辿るものと予想される。また5月には中間選挙が予定されており、選挙関連支出が消費需要の追い風となるだろう。しかし、今年は世界経済の減速やITサイクルのピークアウトにより輸出が鈍化する見通しであり、電気・電子産業などの輸出企業を中心に設備投資が伸び悩むことになりそうだ。このため、19年のフィリピン経済は消費が持ち直しても回復感に乏しい状況が続きそうだ。

今後、インフレ率が中央銀行の目標圏内(2-4%)へと落ち着いていくなかでは、国内で金融緩和への期待が高まるだろう。しかし、米国の利上げや米中貿易摩擦をめぐる懸念が燻るなかでは早急な利下げは資金流出を引き起こし、通貨を再び不安定化させる恐れがある。中央銀行は現在の金融引き締め姿勢を当面維持することになりそうだ。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2019年01月24日「ニッセイ景況アンケート」)

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