コラム
2018年09月06日

中小企業も「健康経営」~「サステナビリティ」に繋がる取り組み~

中村 洋介

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1――中小企業への健康経営の浸透は道半ば

「健康経営1」に取り組む大企業が増えている。政府の強い後押しや、健康寿命の延伸や働き方改革への社会的関心の高まり等を背景に、この流れは一層強くなりそうだ。

しかしながら、中小企業や小規模事業者にとっては、まだまだ縁遠いことに思われてしまうかもしれない。東京商工会議所が2017年に行ったアンケート調査2によれば、約4割の中小企業が、「健康経営」という言葉を聞いたことがない、と回答している。また、何をしたらよいか分からず、相談する相手もいない。予算も無いし、効果もよく分からない、といった中小企業も一定いるようだ。中小企業に健康経営が広く浸透するのは、まだまだこれからといった状況だ。
(図表1)「健康経営」という言葉を知っているか/(図表2)健康経営を実践するにあたり、課題になる(なっている)と思うのは何か(複数回答)

1 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標。
2 東京商工会議所 「健康経営に関する実態調査」https://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=104650

2――サステナビリティ(持続可能性)に繋がる取組み

そもそも「健康経営」とは何だろうか。経済産業省の資料3によれば、「従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」であり、「従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がる」ことが期待されている。日本は、少子高齢化、及びそれに伴う社会保障費拡大や労働力減少という社会的な課題を抱えている。その課題解決に向けた1つの解が、国民の健康寿命を延伸させることであり、だからこそ健康経営にスポットライトが当たっている状況だ。この課題解決のためには、大企業だけではなく、企業数では日本企業の約99%を占め、従業員数では約70%を占めるという中小企業にも、健康経営が広く浸透していくことが望まれる。

とは言え、健康経営の重要性は一定理解出来て関心があっても、いざ自分自身の会社が取り組むとなると、何から手を付けてよいか良く分からず、検討や準備にかかる手間やコストもあって、すぐに結果が出るか分からない健康経営への着手は後回しにしてしまっている、という中小企業やその経営者も多いと思われる。

確かに、健康経営への取り組みで、「即座」に、売上や利益が倍増したり、画期的な製品や商品が生み出されたりするわけではない。むしろ、もっと「中長期的」な観点で、企業の「サステナビリティ(持続可能性)」に作用するものだと考えられる。健康経営を通じた、従業員を大切にし、長く働きたいと思える職場作りは、企業のイメージアップや採用競争力の強化、人材の定着、生産性の向上に繋がる可能性がある。そして、労働災害や事故等の防止といったリスクマネジメントにも作用する。そうした効果は、結果として長い目で見た企業の競争力や成長力に繋がっていく。健康的な生活、働き方改革、企業の社会的責任、コンプライアンス等への関心が高まる中、健康経営に取り組む姿勢についても、中小企業を取り巻くステークホルダー(顧客、取引先、従業員、金融機関、地域社会等)の要求水準が高くなっていくことも想定される。後回しにせずに、まず一歩を踏み出したいところだ。

「健康経営」、「サステナビリティ」と聞くと、中小企業には縁遠い概念だと難しく考えてしまいがちである。しかしながら、健康経営の根本にもある、「人を大事にする」という経営理念を掲げて、長年にわたって続く中小企業も多いのではないだろうか。また、同様に多くの中小企業や経営者が大事にしている「お客様を第一に」、「地域の信頼を得る」といった理念は、企業が持続的に成長し存続していくためのものであり、まさに「サステナビリティ」に通じるものである。そう考えると、「健康経営」、「サステナビリティ」も、決して中小企業に縁遠い概念や取り組みではない。

また、コストをかけて大掛かりに始めることが求められているわけではない。まずは、東京商工会議所の「健康経営ハンドブック」4等を参考に、理解を深めるところから始め、大きなコストをかけずに出来ることから進めていきたい。何をしたら良いか分からない、ノウハウがないという中小企業、経営者も多いことから、地方自治体等支援機関によるサポートの更なる充実も期待されるところだ。そして、経営者自身が健康への感度を高めることも重要だ。従業員だけでなく、経営者自身の健康増進への配慮も求められる。経営者は、経営に責任を持ち、従業員の生活を守り、時にはプレッシャーや疲労、孤独に耐え、難所を乗り切らねばならない。中小企業の支柱たる経営者がエネルギッシュに経営に取り組めてこそ、企業の持続的成長も見えてくる。

人手不足や後継者難など、中小企業が直面する難題は多い。そのような中でも、「元気」で「活力ある」中小企業が増え、日本経済、地域社会を活性化させていくことに期待したい。
 
3 経済産業省ヘルスケア産業課「健康経営の推進について」http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/180710kenkoukeiei-gaiyou.pdf
4 東京商工会議所「健康経営ハンドブック2018」http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkoukeiei_handbook2018.pdf
 

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中村 洋介

研究・専門分野

(2018年09月06日「研究員の眼」)

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