2018年08月13日

データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――2017年・東京都から地方に引き寄せる誘引力に男女差はあったのか

1|男性の7割未満しか女性が戻らないエリアも4県
(上)では東京都への流入人口について検討したが、男性に対して女性がどの程度の割合で東京都から人口流出しているのか(地方エリアへと東京人口を誘引できているのか)の流出男女差指標(あるエリアへの年間流出女性数/男性数、以下『女性誘引力』とする)を見てみたい(図表4)。
 
最初に全国平均を見ると、83.1%である。
全国的にみると地方は東京都から女性を呼ぶ誘引力が、男性への誘引力の8割程度にとどまっている、という見方が可能である。
男性を10人呼び寄せられる力があるとすると、女性に関しては8人程度しか呼び寄せることが出来ない、ということである。つまり、地方エリアは東京都の女性に対するアピール力が総じて弱いということになる(地方の男性重視誘引特性)。
 
東京都から流出してくる男性に比べて女性の割合が最も少ないグループは、女性誘引力が70%を切っている。つまり、男性が3人流出してくるのに対して、女性は2人程度、といったイメージとなっている。この女性誘引力が70%に満たないエリアは4エリアあり、少ない順に島根県、三重県、香川県、愛知県となっている。
これらの県は全国的に見るならば、東京都から男性を呼ぶ誘引力と女性を呼ぶ誘引力の格差が大きなエリアといえるだろう。
 
女性誘引力が全国平均未満かつ70%から80%未満のエリアは26エリアも存在する。
図表からわかるように、女性誘引力の全国平均を引き上げているのは対東京都流出入人口規模が大きく、さらに女性誘引力も高めの関東3エリア(神奈川・埼玉・千葉)なのである。
ゆえに、大半のエリアは全国平均の83%未満、という結果になっている。
 
残念ながら、男性よりも女性に対して誘引力が高い(指標が100を超える)エリアは1つもない。言い換えるなら、東京都は全国の女性人口のデッドエンド化が著しいエリア、地方女性デッドエンド化エリアなのである。
2|女性誘引力が全国平均以上はわずか8エリア
上に述べたように女性誘引力が比較的男性誘引力に近いエリアは一部のエリアに限定されている。男性へのアピールの約9割に近い誘引力をもつエリアは、格差ランキング下位の関東の東京都隣接3エリア(神奈川・埼玉・千葉)、そして大阪を除く近畿3エリア(奈良・京都・兵庫)、そして、長野、徳島の8エリアである。
注意すべきは、あくまでもこの指標は東京都からの「誘引力の強力さ」そのものは示してはいない。全体の誘引力の強度はさておき、誘引力の男女格差のみをみているものである。
【図表4】 2017年年間「東京から流出してゆく人々」男女差ランキング

4――東京都からの人口奪還状況 ~東京デッドエンド化寄与エリアはどこか

4――東京都からの人口奪還状況~東京デッドエンド化寄与エリアはどこか

1|男女計奪還率100%超は、埼玉1県のみ/奪還6割以下4県も
最後に、結局のところ、2017年の1年間において東京都に送り込んだ人口をどの程度東京都から取り戻しているか(流出/流入)を、エリアごとにみてみたい(図表5)。
 
2017年年間ベースでは埼玉県だけは東京からの人口が東京への人口を上回る「奪還勝者」となっている。また千葉県もほぼ100%に近い奪還率である。
9割程度の奪還率は神奈川県、沖縄県である。
 
全国平均だけ見ると約8割東京都から地方は人口を年内に奪還しているようにみえるものの、図表からは牽引しているのは特定エリアのみであることが明確に伝わる結果となっている。
一方、東京からの奪還率が6割を切ってしまうエリアも4エリア存在する。青森県、新潟県、岐阜県、和歌山県である。
これらのエリアは東京の人口デッドエンド化にかなり寄与するエリアとなっているといえるだろう。
東京からの奪還率が7割に満たないエリアが実に26エリアにものぼることから、いかに東京都が全国からの人口の行き止まりとなって一極集中が進んでいるかがわかるであろう。
【図表5】 2017年年間 東京流出/東京流入「東京からの奪還率」ランキング(%)
2|人口奪還率に圧倒的な男女格差-女性を呼べない地方に出生数の暗雲の影-
東京からの人口奪還率を次に男女別に計算してみることにする(図表6)。
一目でわかるように、地方エリアは、圧倒的に男性を中心に呼び戻している様子がうかがえる。
【図表6】 2017年・年間「東京からの人口奪還率」ランキング(%)
全国平均でみても男性85.8%、女性77.8%であり、8ポイントの差がある。しかしこれを個別に見ると、埼玉県こそ男女とも100%以上の奪還率を見せているが、他のエリアはほぼ東京への流入超過、かつ男性の奪還が優勢となっている。
8割以上奪還できているエリアは男性では11エリアあるのに対し、女性ではわずか4エリアである。
一方で6割以下の奪還エリアは、男性は2エリアにとどまるが、女性にいたっては17エリアにのぼっている。
 

5――地域人口政策における「エリア出生率比較の罠」からの脱却を

5――地域人口政策における「エリア出生率比較の罠」からの脱却を

本レポートの(上)でも述べたが、子どもの数=「母親の数」×出生率である。
いくら出生率だけをあげてみても母親候補の数が減少すれば、生まれくる子どもの数は増えてはこない。
 
地方の政策関係者から「経済政策と、結婚・出産のような社会政策は別ものである」といった声を聞くことがある。
こういった声は、恐らくは「母親候補の県外流出による母数減少」が地域ベースで見るならば出生数に大きな影響をもたらすことになることへの無理解からくる議論であろう。
母親候補の女性が仕事や居場所を求めてエリア外へどんどん流出する中で、いくら出生率だけがあがっても、そのエリアの空の下に生まれる子どもたちは減るばかりである。
 
図表からは、2017年単年の人口移動状況だけを見ても、ほとんどのエリアが東京都に「母親候補」を流出させ、かなり多くを取り戻せていない様子がうかがえる。
東京都が全国最低出生率を突き進みながらも多子化している状況を支えているのが地方から流入する母親候補たちであることを示す1つのデータである。
 
地方がどんなに男性誘致経済政策を進めても、女性はさほど戻ってはこない。
「男に仕事を。そうすれば嫁がついてくる」
 
そのような懐かしき時代は、専業主婦希望女性が激減した1990年代に終焉したことに、地方エリアはもし気がついていないのであれば、早急に気がつかなくてはいけないかもしれない。
 
母親候補の女性たちが東京というデッドエンドに流入し続けている。
そこは、国内最高の未婚率・国内最低の出生率という悪条件をかいくぐり、何とか出産にいたらねばならない、という大変過酷な世界である。
 
(上)の繰り返しになるが、都会と地方は対立構造にあるわけではない。実は、とも沈みの構造となっている。
 
日本全体で取り組む、「東京デッドエンド化解消への取組」。
本気の地方への女性誘引策の展開こそが、急務であると考える。

【参考文献一覧】
 
総務省総計局. 「平成29年住民基本台帳人口移動報告」

国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」

国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」

国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年推計)」

国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査(独身者調査)」第11回~第15回

厚生省人口問題研究所(1992)「独身青年層の結婚観と子供感」

厚生労働省.「人口動態調査」

国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」2017年版

総務省総計局. 「2015年 国勢調査速報値」

総務省総計局. 「人口推計(平成29年(2017年)10月確定値)

天野 馨南子.“2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2016年12月26日号

天野 馨南子. “消え行く日本の子ども-人口減少(少子化)データを読む-わずか半世紀たたず、半減へ”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2018年4月9日号

天野 馨南子. “ データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-”ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2017年8月14日号

天野 馨南子. “データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)
-地方の人口流出は阻止されるのか-” ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2018年8月6日号

天野 馨南子. “専業主婦ライフの提供は「最強モテ・オファー」なのか ― 若い女性が望む理想の生き方とは?” MONEY PLUS「結婚難民の羅針盤」 2018年4月8日号
https://moneyforward.com/media/marriage/56775/
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

(2018年08月13日「基礎研レポート」)

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