2018年08月06日

【7月米雇用統計】雇用者数は前月比+15.7万人と予想(+19.3万人)を下回る一方、失業率は3.9%に低下

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は予想を下回る一方、失業率は予想通り前月から0.1%ポイント低下

8月3日、米国労働省(BLS)は7月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+15.7万人の増加1(前月改定値:+24.8万人)となり、+21.3万人から上方修正された前月改定値を下回ったほか、市場予想の+19.3万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.9%(前月:4.0%、市場予想:3.9%)と、こちらは前月から▲0.1%ポイント低下、市場予想には一致した(後掲図表6参照)。

一方、労働参加率2は62.9%(前月:62.9%)と、前月から横這いとなった(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:賃金の加速はみられないものの、全般的に良好な内容

7月の非農業部門雇用者数は、3ヵ月ぶりに20万人割れとなり、市場予想も下回る結果となった。もっとも、後述するように5月と6月の雇用者数は合計で+5.9万人上方修正されているため、これらを考慮すればそれほど悪い数値ではない。実際、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+22.4万人増と、18年の年初来(21.5万人増)に比べて高い水準を維持しており、堅調な雇用増加ペースが持続していると判断できる。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 また、家計調査も労働参加率の低下を伴わず、失業率が低下しており、労働需給の改善が持続していることを示した。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は前月比が+0.3%(前月改定値:+0.1%、市場予想:+0.3%)と、+0.2%から下方修正された前月を上回り、市場予想に一致した。また、前年同月比では+2.7%(前月:+2.7%、市場予想:+2.7%)と、こちらは前月、市場予想に一致しており、賃金の加速はみられない(図表1)。

このようにみると、7月の雇用統計は賃金については相変わらず緩やかな伸びに留まっているものの、雇用者数の堅調な増加、労働需給の改善を反映した失業率の低下など、労働市場の回復が持続していることを示す結果となった。このため、7月はFRBの政策金利引き上げ継続の方針を後押しする結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:専門・ビジネスサービス、製造業雇用の伸びが加速

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+11.8万人(前月:+18.2万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比+0.7万人(前月:▲2.0万人)と前月から増加に転じたほか、人材派遣業が+2.8万人(前月:▲0.8万人)と増加に転じたこともあり、専門・ビジネスサービスが+5.1万人(前月:+4.3万人)と前月から伸びが加速した。一方、医療サービスが+1.7万人(前月:+2.6万人)と前月から伸びが鈍化したほか、運輸・倉庫では▲0.1万人(前月:+1.9万人)と減少に転じた。

財生産部門は、前月比+5.2万人(前月:+5.2万人)と前月並みの伸びを維持した。建設業が+1.9万人(前月:+1.3万人)と前月から伸びが加速したほか、製造業が+3.7万人(前月:+3.3万人)とこちらも伸びが加速した。

政府部門は、前月比▲1.3万人(前月:+1.4万人)と前月から減少に転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.2万人(前月:+0.1万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した一方、州・地方政府が▲1.5万人(前月:+1.3万人)と減少に転じたことが大きい。
前月(6月)と前々月(5月)の雇用増(改定値)は、前月が+24.8万人(改定前:+21.3万人)と+3.5万人上方修正されたほか、前々月が+26.8万人(改定前:+24.4万人)とこちらも+2.4万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+5.9万人の上方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って8月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+21.9万人(前月改定値:+18.1万人、市場予想:+18.6万人)と、+17.7万人から上方修正された前月改定値、市場予想ともに上回った。この結果、3ヵ月ぶりに20万人割れとなった雇用統計とは対照的に、ADP社の推計は5ヵ月ぶりに20万人超のペースに回復した。
 
7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.05ドル(前月:26.98ドル)となり、前月から+7セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.6時間)と、こちらは前月から▲0.1時間減少した。その結果、週当たり賃金は933.23ドル(前月:933.51ドル)と6ヵ月ぶりに前月から減少した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率は横這いも、労働力人口の増加は持続

家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で+10.5万人(前月:+60.1万人)と、前月から伸びが鈍化したものの、3ヵ月連続の増加となった。内訳を見ると、失業者数が▲28.4万人(前月:+49.9万人)と前月から減少に転じたものの、就業者数が+38.9万人(前月:+10.2万人)と前月から大幅に増加したことが大きい。一方、非労働力人口は+9.6万人(前月:▲41.3万人)と、こちらは小幅ながらプラスに転じ、労働市場から退出した人数が増加したことを示した。

この結果、労働力人口は増加したものの、労働参加率を低下させるほどの増加ペースとはならなかった(図表5)。なお、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は7月が82.1%(前月:82.0%)と、こちらは2ヵ月連続の改善となった。もっとも、男女別では女性が75.5%(前月:75.3%)と改善したものの、男性は88.8%(前月:89.9%)とこちらは3ヵ月連続で低下しており、男性の改善は足踏み状態となっている。

一方、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下したが、労働力人口の増加、労働参加率の水準維持を考慮すると、素直に労働労需給の改善を反映した結果と考えられる(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、143.5万人(前月:147.8万人)と前月から▲4.3万人減少した。長期失業者の失業者全体に占めるシェアも22.7%(前月:23.0%)と、前月から▲0.3%ポイント低下した。一方、平均失業期間は23.2週(前月:21.2週)と、こちらは前月から長期化した(図表7)。
 
最後に、周辺労働力人口(149.8万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(456.7万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4>をみると、7月は7.5%(前月:7.8%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。

また、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.6%ポイント(前月:3.8%ポイント)と、前月から▲0.2%縮小した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年08月06日「経済・金融フラッシュ」)

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