2018年08月03日

日銀政策修正の評価と影響、そして残された課題

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 日銀は7月末の決定会合において政策修正を行った。2020年度にかけての物価見通しを引き下げ、2%の物価上昇達成が21年度以降になることを示唆したことは、物価目標がもともと無理のある短期目標から中期目標に近づいたことを意味する。そして、緩和が長期化せざるを得なくなったことを受けて、副作用へ配慮する修正を行ったことも妥当だ。筆者は以前から、「物価目標は中期目標化して、副作用へ配慮した現実的な政策にシフトすべき」と考えていたため、今回の措置の方向性は前向きに評価できる。
     
  2. なお、政策修正を受けて、長期金利は上昇すると予想されるが、0.2%を超える水準は許容しないはずであり、金融市場や実体経済に与える影響は限定的なものに留まりそうだ。
     
  3. ただし、今回の政策修正を踏まえても、まだ日銀の金融緩和に残された課題は多い。今回決定された長期金利の変動容認は「国債市場の機能度を高めること」が目的とのことだが、相場観が形成されるにつれて、長期金利は再び狭いレンジで膠着する可能性がある。仮にそうなった場合、放置すれば国債市場の機能度向上には繋がらないが、かといって、日銀が恣意的に金利を変動させると、為替や株式市場の撹乱要因になりかねない。また、金融機関への悪影響も引き続き課題となる。金利上昇幅は限定的に留まるとみられるため、金融機関の収益を大きく改善させる効果は期待できない。一方で、金融緩和の長期化は避けられないため、超低金利が長引くほど累積的に影響が出かねない。また、今回の政策修正を考慮しても、いずれ避けて通れない出口戦略(金融政策の正常化)の難易度は高いままだ。
     
  4. 大規模な緩和に踏み切ってしまった以上、急に大幅な変更は出来ないという事情も理解できるが、日銀は今後もこれらの課題と向き合わざるを得ない。課題への対処として、さらなる金利変動の容認(実質的な金利引き上げの容認)を迫られる可能性がある。
5年・10年国債利回り
■目次

1.トピック:日銀政策修正の評価と影響、残された課題
  ・方向性は前向きに評価できる
  ・金融市場・経済への影響は限定的
  ・残された課題は多い
2.日銀金融政策(7月):金利の変動幅拡大容認などを決定
  ・(日銀)政策修正(政策金利のフォワードガイダンス、副作用軽減策の導入を決定)
3.金融市場(7月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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