2018年08月03日

アウトバウンド投資における為替ヘッジ後の不動産期待利回り

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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海外不動産へのアウトバウンド投資に対する関心が高まっている。総合不動産サービス会社JLLによると、2017年の日本から海外へのアウトバウンド投資額は34億ドルと前年比70%増加した。最近のアウトバウンド投資は大手デベロッパーや商社などに牽引されているが、今後は年金基金などの機関投資家による投資拡大も期待される。

アウトバウンド投資を行う背景として、高い利回りやポートフォリオの分散などの他に、日本は人口減少により不動産需要の先細りが予想されることが挙げられる。図表1は、2015年から2030年までの主要先進国の予想人口変化率を示している。日本の人口が5%減少する一方で、横ばいとなるドイツを除けば、英国・フランスは一桁台後半、米国・カナダ・豪州・シンガポール・香港は二桁台の人口増加が予想されている。日本以外の主要先進国の多くは人口増加が継続し、底堅い不動産需要が見込まれることが分かる。
図表1:主要先進国の2015 年から2030 年の予想人口変化率
しかし、海外不動産へ投資する場合、頭を悩ますのが為替変動リスクである。外貨ベースでは高い利回りを享受できたとしても、円高が進めば、為替差損を含めた最終的な運用収支がマイナスとなるケースもありうる。また、為替変動リスクは為替ヘッジを行うことで抑制することができるものの、コストがかかることも多い。為替ヘッジのコスト(場合によってはプレミアム)は、主に通貨間の金利差と資金調達環境の相対的な逼迫度により決まる。海外金利が円金利より高い場合や海外通貨の資金調達が円より逼迫している場合は、為替ヘッジを行うのにコストがかかり、為替ヘッジ後の利回りが下がる。一方、海外金利が円金利より低い場合や海外通貨の資金調達が円より緩和的な場合、為替ヘッジを行うとプレミアムを受け取ることができ、為替ヘッジ後の利回りが上昇する。

図表2は、主要先進国について、為替ヘッジを行わなかった場合の不動産期待利回りと、為替ヘッジを行った場合の不動産期待利回りを示したものである。前者が現地通貨ベースの不動産期待利回り、後者が円ベースの不動産期待利回りであるとも言える。米国や豪州は、為替ヘッジ前、つまり現地通貨ベースの不動産期待利回り(青棒グラフ)は高いものの、為替ヘッジ後の不動産期待利回り(赤棒グラフ)は下がり、日本の不動産に投資するよりも期待利回りが低くなる。なお、ドイツやフランスは、為替ヘッジを行うことで、不動産期待利回りが小幅に高まる。為替ヘッジ後の不動産期待利回りを比較した場合、現時点において欧州>日本>北米・豪州>アジアといった順になる。
図表2:主要先進国の為替ヘッジ前後の不動産期待利回り
アウトバウンド投資を行う場合は、不動産市場の成長性やポートフォリオへの分散効果なども考慮するため、一概に利回り水準だけで投資対象としての優劣は判断できない。また、アウトバウンド投資を行う際に、為替ヘッジを行わないケースも多い。しかし、アウトバウンド投資における為替変動リスクは決して小さくなく、無視できないのも事実だ。為替ヘッジの実施有無を問わず、為替変動リスクを除いた場合に、どれだけの不動産期待利回りを見込めるか把握しておくことは重要ではないだろうか。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2018年08月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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