2018年07月12日

労働力人口の減少と長時間労働の解消による労働投入量の減少に対応するためには-コブ=ダグラス型生産関数から考える-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1――はじめに

少子高齢化の影響で労働力不足が顕在化し、将来の労働力不足が懸念されている中で、政府が推進していた働き方改革関連法が成立した。働き方改革関連法の中でも最も重視されているのは、時間外労働(残業)の上限設定による長時間労働の解消と、同一労働同一賃金の実施による処遇水準の改善であろう。一方で、政府は2017年度現在548.7兆円である名目GDPを2020年頃には600兆円まで拡大することを目指している。労働力人口が減り、働き方改革による長時間労働の解消が推進されているなど労働投入量(労働力人口と労働時間)が減っている中で、どうすれば生産性向上とGDP(以下、付加価値)の拡大を達成することができるだろうか。本稿ではコブ=ダグラス型生産関数を用いて、労働力人口の減少と働き方改革による長時間労働の解消に対応するために必要なことを考察したい。
 

2――労働力人口の減少と労働時間の短縮が生産性や付加価値に与える影響

2――労働力人口の減少と労働時間の短縮が生産性や付加価値に与える影響

一般的に労働生産性は生産量を労働投入量(労働力人口×労働時間)で割って計算する(式1))。しかしながら、生産性が上昇したとしても、それが資本投入量の増加によるものなのか、技術進歩によるものかは区別できない。
式1
また、生産関数では生産を行う際に、資本と労働が必要だと仮定しており、資本や労働を増やせば生産量も増えることになる。しかしながら、技術進歩があれば、資本と労働を増やさなくても生産量を増やすことが可能である。資本と労働の増加によらない生産の増加を表すものは全要素生産性(Total Factor Productivity:TFP)と呼ばれており1、その計算に利用されているのがコブ=ダグラス型生産関数(Cobb-Douglas production)である。
 
コブ=ダグラス型生産関数(Cobb-Douglas production)とは、生産要素の投入量と産出量の関係を示す一次同次2関数であり、式2)のように書くことができる。ここでは、Yは生産量、Aは技術進歩や業務への集中度などを表す係数、Kは資本量、Lは労働量を意味する。また、αは分配率であり、αが大きいほど資本量(K)が生産量(Y)にもたらす影響が大きく、小さいほどL(労働量)がY(生産量)にもたらす影響が大きくなる。
式2
例えば、ある年の生産量を式2)に基づいて作成すると次のように書くことができる。
 
例:生産量=(ITなどの技術水準)×(機械などの資本量) α ×(一人当たり労働時間×労働力人口)1- α
 
上記の計算式によると、生産量を増やすためには、他の項目が同じである条件の下で、(1)IT技術の革新、(2)資本の拡大、(3)労働時間の延長や労働者の増加の中で、少なくとも一つの項目を達成する必要があるだろう。つまり、現在政府が推進している働き方改革により、残業時間などの労働時間が減った場合、現在の生産量を維持するためには、資本量を増やすか、IT技術をより発展させなければならない。
 
 
1 http://www5.cao.go.jp/j-j/sekai_chouryuu/sh04-01/sh04-01-fuchu.htmlから引用。
2 一次同次関数とは、すべての独立変数が同じ割合で増加すると、従属変数も同じ割合で増加する関数を意味する。例えば、コブ=ダグラス型生産関数で、投入する資本と労働を2倍増やすと生産量も2倍増加することになる。
 

3――結びに代えて

3――結びに代えて

日本における15~64歳人口は2016年10月1日現在、7656万2千人で,前年に比べ72万人も減少している。15~64歳人口が全人口に占める割合は60.3%で、ピーク時の1993年(69.8%)以降、低下を続けており、今後もさらに低下することが予想されている(図表1)。

また、6月29日に働き方改革関連法が成立することにより、今後時間外労働の上限は「月45時間かつ年360時間」を原則とし、大幅な業務量の増加など特別な事情がある場合にも、年720時間までに制限(繁忙月の上限も100時間未満に制限)されることになった3

労働投入量の増加による生産性の向上や付加価値の拡大を期待することは難しくなったのが現状である。従って、今後は働き方改革による労働時間の効率的活用と資本量の拡大、そして技術力の向上による生産性向上や付加価値の拡大を図る必要があるだろう。このような点に着目して今後の働き方改革が進められることを望むところである。
図表1 15~64歳人口の対前年比増減数と総人口に占める割合の推移
 
3 制度の適用は、大企業の場合は2019年4月から、中小企業の場合は2020年4月からである。新商品などの研究開発職は適用除外であり、自動車の運転業務や建設業従事者、医師には2024年4月から適用される。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2018年07月12日「基礎研レター」)

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