2018年07月12日

人手不足に起因する物流コスト上昇が喚起する物流施設への需要

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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(3) 立地選好では、「消費地近郊」、「配送業者の拠点との近接性」、「通勤利便性」を重視
人手不足に起因する輸送コストの上昇は、物流拠点の(同一エリア内での)立地選好にも影響を及ぼす。一五不動産情報サービスのアンケート調査によれば、約6割の企業が輸送コストを抑えるため、消費地近郊での立地とともに、ラストワンマイル10を担う配送(宅配)業者の拠点との近接性が重視されると回答している(図表-24)。

また、パート従業員確保も物流施設の立地選定に影響を与えている。国土交通省「平成29年度土地白書」では、「近年は物流施設内の従業員の確保が重要な問題となっており、これを念頭に郊外住宅地の近くや通勤利便性の高い駅に近いこと等も重要な要因となっている」と指摘している。近年、増加している流通型の物流施設では施設内で働くパート従業員を多く確保する必要があるため、通勤利便性に優れていることが重視されている。
図表-24 輸送コストの上昇による物流施設への影響 
 
10 最寄りの配送センターから個人宅までの輸送。
 

4――物流拠点再編が喚起する大規模賃貸施設への需要

4――物流拠点再編が喚起する大規模賃貸施設への需要

1拠点再編を志向する企業は、大規模賃貸施設の有望なテナントに
人手不足に起因する物流コスト上昇に伴い、前章に示した最新技術を活用した人手解消の取組み(トラック運転の自動化や物流施設の自動化・機械化、等)は更に進展するだろう。

それに伴い、物流拠点再編の受け皿となる物流施設には、複数のマテハン機器11や無人搬送機等を導入可能な一定以上の床荷重・天井高・面積を有していることが求められる。また、自動運転中のトラックや、自動化した仕分け・梱包システム等を一括管理・運営するために、事務所スペースも必要となる。自動運転トラックがスムーズに運行できる一定規模以上の接車バースも重要視されると考えられる。

上記のような設備条件と合致する物流施設は、大手不動産事業者等が開発した大規模賃貸施設に多いと思われる。前述の通り、既に大手不動産事業者が開発した大規模賃貸施設に物流拠点を集約する動きも進んでいる。
 
11 荷役作業の省力化や省人化を図る設備で、フォークリフトやベルトコンベヤ、パレット等がある。
2人手不足が3PLおよびEC市場成長の重石となる中、拠点再編需要の存在感が増す
首都圏における大規模賃貸施設市場の需給は、旺盛な需要に支えられ、2010年以降安定してきた(図表-25)。その旺盛な需要を支えたのは、3PL12市場とEC市場の成長であった。
図表-25 首都圏における大規模賃貸施設市場の空室率
物流の現場では、物流業務の高度化や業務効率化の要請等に伴い、3PL事業者などの物流事業者への外部委託が進んでいる。ライノス・パブリケーションが実施した3PL市場に関する調査によれば、3PLの市場規模は、上記の物流業務のアウトソース化に後押しされ、順調に拡大してきた(図表-26)。ただし、市場の成長スピードは減速しつつあり、2016年度の年間成長率は4.5%に留まった。同調査では、「設備は準備できるがドライバー、庫内作業員の不足により新規業務を受けることが難しい」との回答もあり、今後、人手不足の深刻化が市場成長の重石になる可能性がある。

経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によれば、物販系ECの市場規模は、堅調に拡大しており、2016年には8兆円に達した(図表-27)。今後も、ITリテラシーが高い世代に占める割合が増えることで、物販系EC市場の拡大は継続すると思われる。しかし、ドライバー不足および取扱個数の増加に伴い、ラストワンマイルを担う宅配事業者の負担は増大しており、宅配料の値上げに踏み切った企業も見られる。宅配料の値上げ分を消費者へ価格転嫁する動きも一部で起こっており、このことが市場成長の阻害要因になりえる。

今後も、3PL企業とインターネット通販企業は、大規模賃貸施設のテナント先として高いプレゼンスを維持するだろう。しかし、人手不足がより深刻化し、3PL市場およびEC市場の成長が鈍化した場合、テナント先として、物流拠点再編を志向する「卸売業」の存在感は増すと思われる。
 図表-26 3PL市場規模の推移/図表-27 物販系EC市場規模の推移
 
12 Third Party Logistics:荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託し遂行すること。
3人手不足は、大量供給局面においてエリア格差拡大の一因に
今後、首都圏では、2018年と2019年に年間250万㎡を超える大規模賃貸施設の大量供給が予定されている。図表-28は、2018年以降に供給予定の大規模賃貸物流施設(2018年2月時点)を対象に、供給予定面積をエリア別に示したものである。「千葉西北部」や「川崎市」、「埼玉北部」では100万m2を超える新規供給が予定されている。一方、(前章に示した)「卸売業」の拠点再編可能性が高い「東京区部内陸」と「横浜市」での新規供給は比較的少ない。「東京区部内陸」と「横浜市」は、人口集積の観点からパート従業員の確保が比較的容易で、かつ輸送費削減の観点から消費地への近接性を優れており、「卸売業」以外の業種の物流拠点再編先としても有望なエリアである。それ故、現在、予定されている新規供給量では、旺盛な需要に追いつかず、エリアの需給は逼迫する公算が高い。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2018年07月12日「ニッセイ基礎研所報」)

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