2018年07月12日

人手不足に起因する物流コスト上昇が喚起する物流施設への需要

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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3人手不足に対する対策
最近、取り組まれている人手不足に対する対策に関して、「(1)トラックの運転自動化」、「(2)トラックドライバーの労働環境改善」「(3)物流施設の自動化・機械化」の3点について、確認する。

(1) トラックの運転自動化
トラックドライバー不足の解消には、実車率6等の効率化で対応できる企業もあるが、その取り組みには限界があり、運転自動化が本格的に検討されている。

国土交通省および経済産業省は、「未来投資戦略2017年」に基づき、高速道路でのトラック隊列走行7を早ければ2022年までに商業化することを目指している。商業化の実現に向けて、2018年1月に新東名高速道路浜松SAから遠州森町PA間でトラック隊列走行の実証実験が行われた。

民間企業においても、運転自動化の取組みが始まっている。ヤマト運輸とディー・エヌ・エーは共同で、自動運転配達「ロボネコヤマト」の実証実験を2017年4月に国家戦略特区である神奈川県藤沢市の一部エリアでスタートしている。無人のトラックが受け取りに便利な生活道路に横付けされ、注文客は車後部の保管ロッカーに行き、あらかじめメールで入手したQRコードをかざして、ロッカーから商品を取り出す仕組みである。
 
6 総走行距離に対して、実際に車両に荷物を積んで走行した距離の割合。
7 運転手が乗用する先頭トラックを無人の後続トラックが自動的に追走。


(2) トラックドライバーの労働環境改善
人手不足の解消策として、トラックドライバーの労働環境改善への取組みも進んでいる。これまで物流の現場では、慣行としてドライバーが荷物の積み下ろしや積み込みを行っており、労働時間の長期化を招いていた。また、物流施設に到着し入荷する際に、待機時間が長く発生していることも問題視されていた。本来、ドライバーに支払われる運賃は、運送の対価に限定するべきところ、これまでは積み下ろしや荷待ち等の運送以外の役務8の対価の範囲が不明確になっているケースが多かったと言える。

図表-11は、厚生労働省「毎月勤労統計調査」(2016年計)に基づき、各業種の年間労働時間および年間所得額を示したものである。前述の労働慣習の影響もあり、トラックドライバーを含む「道路貨物輸送業」の年間労働時間は2496時間となり、全産業平均(2124時間)を大きく上回った。一方、「道路貨物輸送業」の年間所得額は425万円となり、全産業平均(490万円)を下回っている。

このような事態を受けて、国土交通省は、2017年11月に標準貨物自動車運送約款9の改正を行った。約款の改定により、トラック運賃が運送の対価のみであることが明確化された。今後は、積込みや荷待ち時等を行った場合は対価が発生することになり、待遇および長時間労働の改善につながると期待されている。
図表-11 各業種の年間労働時間および年間所得額
 
8 (1)積込み・取卸し、(2)荷待ち、(3)その他付帯業務(ラベル貼り、棚入れ等)。
9 国土交通省が制定するトラック事業者と荷主の契約書のひな形。


(3) 物流施設の自動化・機械化
人手不足の状況を受けて、2017年7月に閣議決定された「物流総合施策大綱」では、物流施設の自動化・機械化を推進し、ロボット機器の導入を通じて、物流施設内作業の省力化や現場作業の負担軽減を進める方針が示されている。

例えば、大手通販のアスクルは、ピッキング作業をサポートするロボットを導入した他、AI等の最新技術を活用し更なる配送・調達等の高度自動化を目指すとしている。また、大手食品卸の三菱食品は、倉庫内でのパレットの移動に人が運転するフォークリフトに変えて無人搬送車の導入を始めており、2020年度を目処に全国50ヶ所の主要物流拠点で導入する予定とのことである(図表-12)。
図表-12 物流施設の無人化・自動化の事例
4物流コストは、今後も下がりにくい状況が継続
総務省「労働力調査」によれば、道路貨物運送業の就業者(トラックドライバー)において若手の20~30歳代の占める割合は減少傾向にあり、2017年時点では約3割に留まっている。今後は高齢ドライバーの退職等が加わり、トラックドライバーの不足はさらに深刻化・長期化する可能性が高い(図表-13)。
図表-13 道路貨物運送業 年齢階級別就業者構成比
また、物流施設内で作業するパートタイマーは、(1)60代男性(主に定年退職後の男性)や、(2)40代女性(主に主婦層)が多いことが特徴である(図表-14)。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば、(1)60代男性および(2)40代女性の人口は10年間で10%以上減少する見通しであることから(図表-15)、今後も物流施設内で働くパート従業員不足が継続する公算は高いと思われる。
図表-14 パートタイマーの年齢構成
図表-15 年齢帯別人口見通し
前述の通り、最新技術を活用し物流の現場における人手不足(トラックドライバーおよび倉庫内作業員不足)を解消する取組みが進んでいる。しかし、車体が大きいトラックの運転自動化に関しては、重大事故防止の観点から乗用車よりも高度な制御技術が必要となる等、技術・安全面でクリアすべき課題が多い。

また、物流施設の自動化・機械化に関しても、受注があった商品を棚から選びだす「ピッキング」や、トラックへの積み込み等の作業については、一部の企業でサポートロボットの導入が始まっているものの、完全自動化には至っていない。「ピッキング」について、商品の大きさ・形・堅さ等は千差万別である上に、空いている棚に入荷されるケースが多く、取り出す場所も日々変化する。トラックへの積み込みも、商品を保護するため、商品の形状・特性によって積み方を随時変える必要がある。ロボット機器等がこれらの事象に臨機応変に対応するためには、まだ課題が多い。

2017年12月に日本ロジスティクスシステム協会が実施したアンケート調査においても、最新技術の導入により2020年までにドライバー不足および倉庫内作業員不足が解消できるとする回答は少数である(図表-16)。

運転自動化や、物流施設の自動化・機械化への取組みの効果は現れるまでには相応の時間を要すること、労働環境改善の取組み(標準貨物自動車運送約款の改正等)も物流コストの押し上げ要因となることから短期的には、物流コストが下がりにくい状況が続くと見込まれる。
図表-16 最新技術の導入が物流分野の人手不足解消に与える影響
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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