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- 産業革新機構のこれから~ベンチャー・エコシステムを育てる重責を担う~
1――はじめに
上場株式の世界で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のような大きな「公的マネー」は、「クジラ」と呼ばれている。GPIFだけでなく、国家公務員共済組合連合会等の共済、ゆうちょ銀行やかんぽ生命まで含めて「クジラ」と呼ばれるようになった。その運用金額の大きさからなる存在感ゆえ、「クジラ」の売買動向は市場関係者の間で大きな話題となる。
上場株式市場と比べて、遥かに規模の小さい非上場株式のベンチャー投資の世界。その小さな海の中で、「クジラ」級の大きな存在感を放つ主体がいる。公的資金を主な原資とする官民ファンド、株式会社産業革新機構だ。
3――産業革新機構以外の官民ファンド
また、官民イノベーションプログラムの一環で設立された国立大学VC。政府出資を原資とし、民間金融機関等からも出資を受けて、各国立大学VCにファンドが組成された。「大学の知」を事業化させるべく、大学発ベンチャー創出・育成に取組んでいる。各VCの1号ファンドの総額は600億円超、一定のボリューム感だ。
産業革新機構だけでなく、上記のようないくつかの官民ファンドが日本のベンチャー支援を行っている。
4――なぜ産業革新機構によるベンチャー支援が必要とされているのか
米中を中心に、革新的なベンチャーが次々と生まれ、そこに多くの資金が流入している。また、新興国の政府系マネー、ソブリン・ウェルス・ファンドが自国産業の育成・新興等の観点で投資を活発化させている現状も指摘されている。一方日本は、起業にチャレンジする人が海外と比べて少なく、ベンチャー投資額も圧倒的に少ない(図表10)。米中ではユニコーンと呼ばれる巨大ベンチャーが次々と登場し、巨額の資金調達をして世界展開を進める中、日本にユニコーンは殆ど存在しない。起業家、リスクマネー、実力あるベンチャーキャピタリスト、グローバルを目指す視点、これらをもっと増やし高めていかねば、世界との差はどんどん広がっていく。その政府の危機感に対する策の1つが、産業革新機構を始めとした官民ファンドによるリスクマネー供給なのだ。
5――産業革新機構のこれから
メルカリ(フリーマーケットアプリ)のような大ホームランが出た中、比較的事業立ち上げまでのスピードが速いIT分野の方が、経済合理的だと判断され、民間資金が集まりやすい一面もあろう。そのような中、敢えて、事業化のハードルが高く、時間と資金がかかる分野・テーマに挑むという、難しい使命を負う。そして、民業圧迫を過度に意識しすぎて、民間VCとの利害が相反する局面(例えば、支援候補先の既存株主である民間VCにとっては、同じ金額であれば、低い株価よりも高い株価で産業革新機構が出資してくれた方が、自らの出資割合が薄まらずに有利となる)で、投資の目線や判断が甘くなってもいけない。また、ベンチャー投資を本格化して以降の投資先の成否も今後少しずつ見え始め、新たな課題が見えてくるかもしれない。注目度が高まる中、一層高い水準での規律や開示を求める声も高まっていくだろう。まだまだ長い道のり、難しい舵取りに取組んでいる状況だ。
7月に入り、新経営陣の体制が明らかとなり、新しいスタートを切る産業革新機構。日本のベンチャー・エコシステム全体を育てていく重責を担うその取組みに、今後も注目していきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
中村 洋介
研究・専門分野
(2018年07月10日「基礎研レター」)
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