2018年07月10日

欧州保険会社が2017年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-

中村 亮一

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3|使用言語
グループSFCRで使用される言語については、委任規則(EU) 2015/35の第360条に規定されている。

これによると、その第1項で「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、グループSFCRをグループ監督当局が定めた言語で開示するものとする。」と規定されている。ただし、第2項において「監督カレッジが複数の加盟国の監督当局から構成されている場合、グループの監督当局は、関連する監督当局及び当該グループと協議した後、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社に対して、監督カレッジでの合意により、第1項に言及された報告書を、関係する他の監督当局によって最も一般的に理解される別の言語で開示することを要求できる。」としている。さらに、第3項において、「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社の保険及び再保険子会社のいずれかが、その公用語が第1項及び第2項の適用によってSFCRを開示している言語と異なっている加盟国に本店を有する場合、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、当該報告書の要約を当該加盟国の公用語に翻訳しなければならない。」と規定されている。

この規定に基づいて、例えば、欧州大手保険グループ6社は、そのグループSFCRについて、自国語に加えて、英語版も作成している。さらに、AllianzやGeneraliは、グループSFCRの要約について、保険子会社が存在する加盟国の公用語に翻訳したバージョンを公表している。なお、6社以外の会社でも、英語版を平行して作成したり、当初は自国語版のみを公表して、後ほど英語版をWebサイトで公表している会社もある。

一方で、単体のSFCRについては、基本的には当該単体の管轄地域の言語だけの対応となっている。ただし、欧州大手保険グループ6社については、一部の主要単体会社や主要国でない場合等について、英語で作成しているケースもある。

例えば、AllianzはWebサイトで13の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2社(Allianz Insurance plc(英国)とEuler Herms(ベルギー))のみが英語版となっている。英語圏以外では、ベルギーの子会社が自国以外の言語の英語で作成していることになる。ところが、主要な単体保険会社であるAllianz SEについてはドイツ語版のみとなっている。また、要約版については、子会社が本店を置く全てのEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページ程度の内容である。

GeneraliはWebサイトで19の単体のSFCRを公表している。2016年においては、Ceská pojištovna A.S.(チェコ))が英語で作成されていたが、2017年は当該会社を含めて、管轄地域の言語でのみ作成されている。Generaliは、単体の親会社のAssicurazioni Generali S.p.A.について、イタリア語版だけでなく、英語版も作成している。また、要約版については、子会社が本店を置く全てのEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、それぞれ6ページ程度の内容である。

グループ会社において、その構成会社である全ての単体のSFCRが当該単体の管轄地域の言語で作成されているというわけでもないが、当該市場において一定の市場シェアを有する会社の場合には、当該監督当局から、当該国の言語で作成することを要請されることになっており、こうした傾向が反映されている。
4|QRTsの取扱
ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(年次QRTs)の報告については、SFCRの附属資料としている会社と別途資料としている会社がある。

年次QRTsは、SFCRに提示された情報を補完し、2―2|で述べたように、国別や事業別の貸借対照表項目、保険料、保険金請求及び事業費、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー資本要件の金額、長期保証措置と移行措置の適用による影響等を明らかにしている表で構成されている。

5|独立監査人による監査報告書
SFCRについては、監査を強制されているわけではない。ただし、EIOPAは監査を推奨し、いくつかの国の監督当局は監査の必要性を強く主張している。

こうした状況下で、今回のSFCRでの欧州大手保険グループ6社の対応は分かれている。具体的には、AXA、Generali、Prudential、Aviva については、独立監査人による監査報告書がSFCRの附属資料として添付されているが、AllianzとAegonのSFCRには添付されていない。これは2016年と同じ状況である。

独立監査人による監査を、品質管理の一環として利用するとのスタンスを有している会社もあれば、重要かつ堅実な社内レビューを通じてチェックを行っているとのスタンスの会社もある。

監査を行う場合、監査が困難又は不可能な技術的な手法等の使用が制約を受けるとともに、説明のために内部情報の開示の必要性が高まることになる。

6|その他
SFCRは、その趣旨からして、できる限り保険契約者や投資家等が理解できるものを提供していくことが求められている。こうした観点から、多くの会社が、用語集を付け加えて、複雑な専門用語の説明を行っている。さらには、テキストや図表を積極的に使用して、読者にわかりやすいものを目指している会社もある。ただし、補足的な情報や解説については、限定的で、基本的な要件だけを満たしている会社が多い。
 

4―2017年のSFCR公表を受けての反応

4―2017年のSFCR公表を受けての反応

ソルベンシーII制度の下で2016年に初めて作成・公表されたSFCRについては、関係者から各種の反応が見られたが、今回の2017年のSFCRについての直接的な反応は、昨年に比べて比較的穏やかであるように見受けられる。

SFCRに対する基本的な反応については、昨年の保険年金フォーカス「欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-」(2017.7.11)で報告しており、この反応や意見は引き続きベースとして存在している。

今回2017年のSFCRの公表を踏まえての新たな反応等の動向は、以下の通りである。 

1|保険会社の対応
SFCRについてはグループのみ作成し、子会社毎に別々のSFCRを作成することが免除されるオプションも用意されているが、これを利用している会社は少数で、殆どの会社が単体のSFCRも作成しているようである。

保険会社各社は、他社の2016年のSFCRを分析することを通じて、自社のSFCRの見直しを行ってきている。各種の説明内容や情報の提供レベルについては、他社との比較感を見る中で、自社のSFCR作成に生かしていこうとしている。時間の経過とともに、自然に一定程度のコンバージェンスが実現していくことが期待されている。

2|監督当局の対応
英国はSFCRの数値の外部監査を義務付けているが、監督当局であるPRA(健全性規制機構)が、現在150社以上の小規模会社に対するこの負担を軽減することを検討している。

3|SFCRの読者について
SFCRについては、アナリストやコンサルタント、競合他社等に読者が限られており、保険契約者には殆ど読まれていない状況にある模様である。実際に、SFCRのあるページをクリックする人は多いが、SFCRがダウンロードされる数はごくわずかとのことである。

こうした中で、保険会社の作成者も、SFCRが多くの読者に読まれることは想定しておらず、例えば平均的な保険契約者がSFCRの内容を理解することも想定していない模様である。ただし、要約版については、これが多くの読者に何らかの示唆を与えることを目指している模様である。

その意味で、SFCRの内容については、一定程度の読者を想定した上で、理解してもらいたい事項、あくまでも一定の事実として認識してもらいたい事項等を整理する中で、それぞれの記載内容や記載方法及び記載量等のバランスが取られていくことになる。

なお、格付機関もSFCRが格付けに大きな影響を与えるとは判断していないようであり、その意味ではSFCRの位置付けが改めて問われているともいえる。
 

5―まとめ

5―まとめ

今回のレポートでは、作成及び公開2年目となる2017年のSFCRの全体的な状況について報告してきた。

1|保険会社によるSFCRの作成
保険会社はSFCRの作成において、可能な限り既存の報告書からの引用等も利用する中で、負担の軽減を図っているが、それでも限られた時間の中で、多大な労力が費やされている。2016年は最初の年であったことから、試行錯誤もあったが、2017年は2016年の結果を踏まえて、その作成に関してはかなりスムーズに進んだようである。こうした状況下で、一部の会社はかなり前倒しでのSFCRの提出及び公表を行っている。それでも、来年度以降も作成のスケジュールがさらに早期化されていくことから、さらなる効率化が求められてくることになる。

一方で、SFCRに対する各種の意見や評価も踏まえて、必要に応じて、さらなる充実を図りつつ、分かりやすさを追求しての簡素化等に向けた取組みも求められてくることになる。

2|EIOPAによる監督声明への対応
2016年のSFCRについては、EIOPAが分析を行い、2017年12月18日に、(再)保険会社及びグループによるSFCRについての最初の監督上の経験に関する分析結果である「EIOPAの監督声明:ソルベンシーII:ソルベンシー財務状況報告書」 を公表している。この内容については、保険年金フォーカス「EIOPAが2016年SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関する分析結果を公表」(2018.1.9)で報告している。

この監督声明の中で、EIOPAは、(再)保険会社及びグループに対して、比例原則を損なうことなく、SFCRに関するいくつかの重要な調査結果及び改善領域について考慮することを奨励していた。

欧州大手保険グループのSFCRについては、元々他の会社に比べれば充実した内容になっていることから、2016年のSFCRと比べて2017年のSFCRの内容が大きく変更されているわけではない。従って、EIOPAの指摘を踏まえての変更についても、比較的限定されているようである。

以上、SFCRの位置付け等については、監督当局と保険会社との間で必ずしも十分な合意が得られていない面もあり、従ってSFCRにおいて提供されるべき情報の内容等についての考え方も必ずしも十分には統一されていないようである。こうした状況は、EU加盟各国の監督当局間及び保険会社及びグループ間でも当てはまることであり、各社のSFCRの記載内容の詳細については、各国監督当局及び各保険会社及びグループの考え方を反映して、各社各様のものとなっている。

ただし、こうした状況は過渡的なもので、SFCRについては、今後の監督当局と保険会社との関係や、保険会社各社の他社研究等を通じて、また将来的に経験を重ねることを通じて、その位置付けが徐々に固まっていき、より有用性の高いものとなっていくことが期待されることになる。

次回以降のレポートで、欧州大手保険グループ各社のSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年07月10日「保険・年金フォーカス」)

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