2018年07月10日

欧州保険会社が2017年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が5月上旬から6月中旬にかけて、単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)を公表している。これは、2016年にソルベンシーII制度が導入されて以来、昨年に続く2回目となる対外公表されるソルベンシーと財務状況に関する詳細な報告書となっている。

今回を含めた4回のレポートで、各社が公表したSFCRについて、その概要を報告する。まずは、今回のレポートでは、SFCRの全体的な状況について報告し、次回以降のレポートで、欧州大手保険グループのSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
 

2―SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)とは

2―SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)とは

SFCRとは
SFCRは、ソルベンシーII制度の下で、パブリック・ディスクロージャー資料として、一般に公開される資料であり、まさに、ソルベンシーと財務状況についての詳細な内容をまとめた報告書である。

SFCRの内容
SFCRの内容や構造については、ソルベンシーII指令2009/138/ECの第51条~第56条、委任規則(EU) 2015/35の第290条~第298条等に規定されている。

これによれば、SFCRの項目は、次ページの通りとなっており、
A.ビジネスとパフォーマンス、  B.ガバナンス制度、    C.リスクプロファイル
D.ソルベンシー目的のための評価、E.資本管理
に関する記述が求められる。

SFCRでは、これらの項目に関する定性的かつ定量的な情報が記載される。また、記載内容については、(1)年度末の状況と前期間と比較しての重要な変化の分析、(2)評価についてはソルベンシーIIベース、いくつかの要素については財務諸表ベース、(3)資産、技術的準備金やその他の負債の価額に関しての重要な差異の説明、等が含まれている。なお、構造や最低限の内容以外の説明部分についてはフリーフォーマットとなっている。
 

A.ビジネスとパフォーマンス
A.1ビジネス
A.2引受業績
A.3投資実績
A.4その他の活動の実績
A.5その他の情報

B.ガバナンス制度
B.1ガバナンス制度に関する一般的な情報
B.2適合・適切要件
B.3リスクとソルベンシーの自己評価を含むリスク管理制度
B.4内部統制制度
B.5内部監査機能
B.6保険数理機能
B.7アウトソーシング
B.8その他の情報

C.リスクプロファイル
C.1引受リスク
C.2市場リスク
C.3信用リスク
C.4流動性リスク
C.5オペレーショナルリスク
C.6その他の重要なリスク
C.7その他の情報

D.ソルベンシー目的のための評価
D.1資産
D.2技術的準備金
D.3その他の負債
D.4評価のための代替的手法
D.5その他の情報

E.資本管理
E.1自己資本
E.2ソルベンシー資本要件及び最低資本要件
E.3ソルベンシー資本要件計算におけるデュレーションベースの株式リスクサブモジュールの使用
E.4標準式と使用された内部モデルとの差異
E.5最低資本要件の不遵守とソルベンシー資本要件の不遵守
E.6その他の情報

こうしたSFCRの内容に関して、監督当局が(再)保険会社に期待することのさらなる詳細については、EIOPAがガイドライン1を公表している。

また、SFCRとともに公表される「ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(Solvency II annual quantitative reporting templates:QRTs)」については、EIOPAがITS(Implementing Technical Standards)で規定しているが、以下の項目に関する情報を特定するものとなっている。
 

S.02.01.02 貸借対照表
S.05.01.02 事業毎の保険料、保険金請求及び事業費
S.05.02.01 国毎の保険料、保険金請求及び事業費
S.22.01.22 長期保証措置及び移行措置の影響
S.23.01.22 自己資本
S.25.02.22 ソルベンシー資本要件
S.32.01.22 グループの範囲にある会社

なお、SFCRにおいては、これらの内容に加えて、各社毎に異なっているが、
独立監査人報告書
取締役の責任の声明
等が附属資料として添付されている。
 
 
1 「報告と公衆開示に関するガイドライン」(EIOPA-BoS-15/109EN)(このガイドラインは、SFCRだけでなく、RSR (Regular Supervisory Report:定期監督報告)についても含まれている)
https://eiopa.europa.eu/GuidelinesSII/EIOPA_EN_Public_Disclosure_GL.pdf#search=%27solvency+%E2%85%A1+SFCR%27
SFCRの開示
全ての(再)保険会社は、毎年、ソルベンシーと財務状況に関する報告書(単体のSFCR及びグループSFCR(グループレベル又はシングルSFCR))を開示しなければならない。SFCRはAMSB (administrative, management or supervisory body )による承認が必要で、承認後に公表できる。なお、比例原則が適用される。

単体のSFCRについては、欧州経済地域(EEA)に本拠を置く会社について求められる。このため、例えば、AXAの開示資料によれば、AXAにおいて、AFR(Available Financial Resources)で6割程度の会社に対する単体SFCRが公開された形になっている。

一定の状況下では特定の情報を開示しないことも認められる。他の法的ないしは規制要件に基づいて行われた公衆開示を利用することも認められる。さらには、追加的にボランタリー・ベースでソルベンシーと財務状況に関する情報や説明を開示することもできる。開示された情報に大きな影響を与える重要な進展が見られた場合には情報の更新を行う必要がある。
SFCRの開示スケジュール
SFCR等の報告書の監督当局等への提出・開示スケジュールは、以下の通りとなっている。報告書の作成には大変な労力と時間を要することから、準備期間を考慮して、数年かけて段階的に本来的な期限へと早期化が図られていくことになっている。

(参考)ソルベンシーII制度の下での監督当局等への報告・開示スケジュール

単体ベースの四半期報告については、2016年は、期末後8週間以内にテンプレートを提出することが求められることになっているが、これが2019年に向けて、5週間以内へと段階的に短縮されていくことになる。グループベースの四半期報告については、2016年は、期末後14週間以内にテンプレートを提出することが求められるが、これが2020年に向けて、11週間以内へと段階的に短縮されていくことになる。

一方で、年間報告となるSFCRについては、単体ベースでは2016年の18週間以内から、2019年の14週間以内へ、グループベースでは2016年の24週間以内から、2019年の20週間以内へと短縮されていくことになる。なお、四半期報告については監督当局への報告のみで一般には非公開な報告であるが、SFCRについては、パブリック・ディスクロージャー資料として、一般に公開される報告となる。

2016年決算の場合の具体的な日程は、第4四半期報告が、単体で2017年2月25日、グループで2017年4月8日、SFCRが、単体で2017年5月20日、グループで2017年7月1日となっていたが、2017年決算の場合の具体的な日程は、第4四半期報告が、単体で2018年2月18日、グループで2018年4月1日、SFCRが、単体で2018年5月6日、グループで2018年6月17日となっており、2016年決算に比べて、第4四半期報告は1週間、SFCRは2週間早期化された。
 

3―2017年のSFCRの全体的な状況

3―2017年のSFCRの全体的な状況

2―2|で述べたように、SFCRの記載項目等は法令等で規定されているが、さらにEIOPAは監督当局が期待するものについてのガイドラインを公表している。ただし、SFCRの詳細な内容については各社の裁量に委ねられた形になっており、実際のSFCRの記載内容等も各社各様となっている。

この章では、2017年のSFCRの全体的な状況について、2016年のSFCRとの比較を含めて、主として欧州大手保険グループ6社(AXA、Allianz、Generali、Prudential、Aviva、Aegon)のSFCRに基づいて、報告する。

1|公表時期(単体及びグループSFCR
2017年決算におけるSFCRの報告期限は、単体が5月6日、グループが6月17日であったため、多くの会社が5月下旬から6月中旬にかけて、対外的な公表を行っていた。ただし、一部の会社においては、2016年に比べてかなり前倒しで公表していた。

欧州大手保険グループにおいては、AXA、Allianz、Prudentialは5月中旬~下旬に、Generali、Aviva、Aegonが6月中旬にプレスリリースを行っている。
欧州大手保険グループ6社のグループSFCR(2017年)
2|ボリューム(ページ数)
SFCRのボリューム(ページ数)については、附属資料等を除いた本体部分だけで、欧州大手保険グループ6社のグループSFCRだけをみても、60ページから120ページとかなり幅のあるものとなっている。その他の会社では20ページに満たない会社もある。もちろん各社の会社構造等の違いもあることから、外形的なボリュームだけに基づいて、SFCRの内容の評価はできない。

また、2016年のSFCRとの本体ページ数の比較では、Generali、Prudential、Aegonはページ数を増加させているが、Allianzは減少しており、AXAやAvivaはほぼ変わっていない。ページ数よりも記載内容がより重要であることは言うまでもない。
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中村 亮一

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