2018年07月09日

【6月米雇用統計】雇用者数は前月比+21.3万人と予想(+19.5万人)を上回るも、失業率は4.0%と3ヵ月ぶりに上昇

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は予想を上回るも、失業率は横這い予想に反し上昇

7月6日、米国労働省(BLS)は6月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+21.3万人の増加1(前月改定値:+24.4万人)となり、+22.3万人から上方修正された前月改定値は下回ったものの、市場予想の+19.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.0%(前月:3.8%、市場予想:3.8%)と、こちらは前月比横這い予想に反して3ヵ月ぶりに上昇した(後掲図表6参照)。

一方、労働参加率2は62.9%(前月:62.7%)と、4ヵ月ぶりに上昇に転じた(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:失業率は上昇も、労働力人口の増加を反映しており、全般的に良い内容

6月の非農業部門雇用者数は、2ヵ月連続で20万人超の増加となった。この結果、月間平均増加ペースは18年の年初来が21.5万人増と17年通年の18.2万人増を大幅に上回った。雇用者数は10年10月から統計開始以来最長となる93ヵ月連続増加となったが、足元で雇用増加ペースには依然陰りはみられない。

また、家計調査で失業率は3ヵ月ぶりに上昇に転じたものの、労働参加率の上昇にみられるように職探しを再開して労働市場に算入した人数の増加による部分が大きいため、心配する必要はないだろう。むしろ、労働参加率の上昇を評価したい。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は前月比が+0.2%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と、前月、市場予想を下回ったほか、前年同月比が+2.7%(前月:+2.7%、市場予想:+2.8%)と、こちらも市場予想を下回った(図表1)。賃賃金上昇は依然として緩やかな伸びに留まっていると言えよう。

このようにみると、6月の雇用統計は、賃金は緩やかな上昇に留まったものの、雇用者数の堅調な伸びや労働参加率の改善など、全般的に良好な結果で、労働市場の回復が順調に持続していることを示す内容と言えよう。

3.事業所調査の詳細:小売業は減少も広範な業種で雇用が増加

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+14.9万人(前月:+18.8万人)と前月から雇用の伸びが鈍化した(図表2)。

民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲2.2万人(前月:+2.5万人)と雇用が減少に転じた。また、医療サービスも+2.5万人(前月:+3.1万人)と前月から伸びが鈍化した。

一方、人材派遣業が+0.9万人(前月:▲0.5万人)と前月から増加に転じたこともあって、専門・ビジネスサービスは+5.0万人(前月:+4.3万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+5.3万人(前月:+5.1万人)と、前月から小幅ながら伸びが加速した。建設業が+1.3万人(前月:+2.9万人)と前月から伸びが鈍化したものの、製造業が+3.6万人(前月:+1.9万人)と堅調な伸びとなり全体を押上げた。

政府部門は、前月比+1.1万人(前月:+0.5万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が▲0.2万人(前月:▲0.1万人)と減少幅は縮小したものの、前月に続いて減少した一方、州・地方政府が+1.3万人(前月:+0.6万人)と前月から伸びが加速したことが大きい。
前月(5月)と前々月(4月)の雇用増(改定値)は、前月が+24.4万人(改定前:+22.3万人)と+2.1万人上方修正された一方、前々月が+17.5万人(改定前:+15.9万人)とこちらも+1.6万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+3.7万人の上方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って7月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が前月比+17.7万人(前月改定値:+18.9万人、市場予想:+19.0万人)と、+17.8万人から上方修正された前月改定値、および市場予想を下回った。この結果、ADP社の推計は18年の年初来月間平均増加数は20.3万人増と、17年の18.5万人増を上回っており、雇用統計同様に雇用増加ペースが加速していることを示している。
 
6月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が26.98ドル(前月:26.93ドル)となり、前月から+5セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.5時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は930.81ドル(前月:929.09ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の増加に伴い、労働参加率が4ヵ月ぶりに改善

家計調査のうち、6月の労働力人口は前月対比で+60.1万人(前月:+1.2万人)と、前月から大幅に伸びが加速した。内訳を見ると、就業者数が+10.2万人(前月:+29.3万人)と前月から伸びが鈍化した一方、失業者数が+49.9万人(前月:▲28.1万人)と前月から大幅な増加に転じ、労働力人口の増加に寄与した。また、非労働力人口は▲41.3万人(前月:+17.0万人)と4ヵ月ぶりに減少に転じた。このため、失業者の大幅増加と非労働力人口の減少を併せて考えると、6月は労働環境の好転から、職探しを再開し労働市場に再参入する人数が大幅に増加したことが想定される。

労働力人口の増加に伴い、労働参加率は漸く4ヵ月ぶりに改善した(図表5)。なお、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も6月が82.0%(前月:81.8%)と、こちらも4ヵ月ぶりの改善となった。もっとも、男女別では女性が75.3%(前月:74.8%)と改善したものの、男性は88.9%(前月:89.1%)とこちらは3ヵ月連続で低下しており、男性の改善は足踏み状態となっている。

一方、失業率は18年ぶりの水準となった前月からは上昇したものの、前月の当レポートでも指摘したように、前月までの失業率が労働需給をやや過大評価していたと考えられるため、労働参加率の改善を伴う失業率の上昇は必ずしも労働需給の悪化を示しているとは言えない(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、6月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、147.8万人(前月:118.9万人)と前月から+28.9万人の大幅な増加となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも23.0%(前月:19.4%)と、前月から+3.6%ポイント増加した。一方、平均失業期間は21.2週(前月:21.3週)と、こちらは前月から小幅ながら低下した(図表7)。

最後に、周辺労働力人口(143.7万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(474.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、6月は7.8%(前月:7.6%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表8)。

一方、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.8%ポイント(前月:3.8%ポイント)と、こちらは前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2018年07月09日「経済・金融フラッシュ」)

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