2018年07月06日

ロシア経済の見通し-1-3月期GDPは前年比1.3%増。当面は1%台の低成長が継続と予想

神戸 雄堂

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2――実体経済の動向

(民間消費) 18年は堅調に推移するも19年に鈍化すると予想

1-3月期の民間消費は前年比2.8%増となった。18年の民間消費は、インフレ率の鈍化と最低賃金の引上げ等による実質賃金の高い伸びを背景に、引き続き堅調に推移するだろう。しかし、19年は付加価値税率と年金受給開始年齢の引上げによって、伸びが鈍化するだろう。
(図表7)賃金と小売売上高の推移(原系列) 労働市場では、改善傾向が続いており、足元の失業率は4年ぶりに4%台まで低下している。また、名目賃金の上昇とインフレ率の鈍化によって実質賃金および実質可処分所得は改善傾向が続いている。小売売上高も17年上旬から前年比増加に転じ、堅調に推移している(図表7)。

賃金の上昇には、継続的な法定最低賃金の引き上げが寄与していると見られる。政府は、第二次プーチン政権(2012年3月)以降、8度にわたる最低賃金の引上げを行い、足元の水準は当初の水準の2倍以上となっている。直近では、18年1月に月額9,489ルーブルへ引上げた後、5月にも最低生活限度額相当の11,163ルーブル(約2万円)に引上げており7、足元の賃金伸び率は高くなっている。最低賃金相当の労働者の割合は限定的であると見られるが、継続的な最低賃金の引上げが全体の底上げに寄与したと考えられる。

今後の民間消費は、賃金の改善に加えて、19年の付加価値税率の引上げに伴う駆け込み需要による押上げが期待できることから、18年は堅調に推移するだろう。一方で、19年はインフレ率の緩やかな上昇、最低賃金引上げ効果の一巡、年金支給開始年齢の引上げなどの要因によって実質可処分所得が低下すると見られる。18年の駆け込み需要の反動減と合わせて、19年の伸びは鈍化するだろう。
 
7 当初の計画では、2019年1月に最低生活限度額への引上げを予定していたが、8ヵ月前倒しで実施された。
(政府消費) 緊縮的な財政政策の継続によって政府消費の伸びは限定的
 
1-3月期の政府消費は前年比0.5%増となった。18年度(1-12月)は、歳入の増加が見込まれるものの、政府は17年度に開始した緊縮的な財政政策を継続すると見られ、政府消費の伸びは限定的なものに留まるだろう。
(図表8)一般政府の歳入・歳出と財政収支 ロシアの一般政府の財政収支は、13年度以降赤字となっている(図表8)。15・16年度には歳入の伸び悩みによって財政赤字が拡大したが、17年度には緊縮的な財政政策と原油価格の上昇に伴う歳入の増加によって、赤字幅が縮小した。18年度は、歳入の増加によって引き続き財政収支が改善し、6年度ぶりに黒字に転じると見られるが、ロシアは財税規律を重視しており、緊縮的な財政政策を継続すると見られる。

連邦政府の18年度予算を見ると、歳入は原油(ウラル原油)1バレル当たりの価格が43.8米ドルで試算されているが、実際にはこの価格を上回る期間が続いていることから、連邦政府の歳入は予算ベースを上回るだろう。一方で、歳出については、最大の支出項目である社会保障費関連の予算を前年から大幅に減額し、歳出総額を前年度から若干減額するなど緊縮的な財政政策を継続しようとする姿勢が見られる。連邦政府の歳出は、例年実績が予算ベースを下回ることもあわせて踏まえると、実際の歳入が予算ベースを上回っても歳出の伸びは限定的なものとなるだろう。したがって、18年の政府消費は前年比0%台の低い伸びに留まるだろう。
(総固定資本形成) 民間部門は堅調に推移すると予想するが下振れ懸念も
 
1-3月期の総固定資本形成は前年比1.8%増となった。18年は、前年の政府主導の大規模なインフラ整備の効果が剥落するため、力強さを欠くも、低金利環境を背景として民間部門を中心に堅調に推移するだろう。
 
1-3月期の総固定資本形成は、17年に比べて伸び率が低下した。総固定資本形成の内訳は明らかにされていないが、公的固定資本形成が減少したことが原因であると推測される。17年はケルチ海峡大橋の建設や中国向けガスパイプライン「シベリアの力」など政府主導の大規模なインフラ整備によって総固定資本形成が押上げられたが、その効果が剥落したと見られる。

また、先述の大統領令において、2024年に向けて基幹インフラの改修・拡大計画を行うことが示されたが、10月に向けて計画を作成している段階である。したがって、公的部門の投資による押上げは前年ほど期待できないだろう。

一方、民間部門では、中央銀行の継続的な利下げによって、銀行貸出金利が個人・企業向けともに低下傾向が続いている(図表9)。貸出金利の低下に伴い、個人・企業向けともに貸出残高が増加していることから、企業の設備投資や家計の住宅投資は堅調に推移していると推測される。今後は、政策金利が当面据え置きされると予想されるため、貸出金利のさらなる低下はあまり期待できないが、既に歴史的な低水準であるため、民間部門の投資は堅調に推移するだろう。

ただし、企業の設備投資については下振れの懸念もある。鉱工業生産は堅調に推移しているが、製造業PMI(季節調整系列)は低下傾向が続いており、5・6月と2ヵ月連続で景気判断の目安である50を下回った(図表10)。新規受注の伸び悩みと原材料コストの上昇が原因であると見られ、設備投資の抑制につながる懸念が生じている。
(図表9)銀行貸出金利および貸出残高/(図表10)鉱工業生産と製造業PMIの推移
(純輸出) 財輸出の拡大によって、改善傾向が続くと予想
 
1-3月期の純輸出の寄与度は前年比マイナスとなったが、改善傾向が続いている。原油価格の上昇に伴う交易条件の改善によって、純輸出は今後も改善傾向が続くだろう。
 
純輸出の寄与度は17年1-3月期以来5四半期連続で前年比マイナスとなっているが、押下げ幅は縮小している。これは、原油価格の上昇に伴い、ロシアの交易条件が改善したためである。今後も原油価格は底堅く推移すると見られるため、純輸出の改善傾向は続くだろう。

また、通関ベースで見ると、輸出総額は原油価格の上昇を背景に、17年上旬から前年比増加に転じた(図表11)。18年以降も好調を維持しており、1-4月期の輸出総額は前年比27.3%増となった。原油を始めとする鉱物製品に加えて、機械・設備・輸送用機器や食料品・農産品についても前年比で30%前後の高い伸びとなっており、資源依存からの脱却という点でも明るい兆しが見られる。

輸入総額についても、16年中旬以降の国内投資の持ち直しを背景に、機械・設備・輸送用機器を中心に増加している(図表12)。ロシアはウクライナ危機後、輸入代替政策によって国内産業の育成に努めてきたが、技術力を要する輸送用機器や一般機械の部品については十分な成果を挙げられておらず、依然として輸入への依存度が高くなっている。

貿易収支は、1-4月の貿易黒字が前年比41.7%増と黒字拡大が続いている。今後も原油価格の底堅い推移を背景に、貿易黒字の拡大は続くだろう。
(図表11)輸出額(通関ベース)の推移(原系列)/(図表12)輸入額(通関ベース)の推移(原系列)

3――物価・金融政策・為替の動向

3――物価・金融政策・為替の動向

(物価・金融政策・為替)インフレ率の緩やかな上昇に伴い、政策金利は当面据え置きと予想
 
インフレ率は15年から鈍化傾向が続いており、足元では2.0%台と歴史的な低水準となっている。これを受けて、中央銀行は利下げを継続してきたが、6月の金融政策決定会合では、2会合連続で政策金利を据え置いた。今後は、19年の付加価値税率引上げの影響でインフレ率が緩やかに上昇すると予想されるため、当面、政策金利は据え置かれるだろう。為替レートは、4月に米国の経済制裁が発表されると、大幅にルーブル安が進展したが、足元では一服している。今後、米露関係の改善が進めば、ルーブル高が進展するだろう。
(図表13)インフレ率・政策金利・為替レートの推移(原系列) インフレ率は15年末以降、鈍化傾向が続いており、17年中旬以降はインフレ目標の4.0%を下回り続けるなど1992年の統計開始以来最低の水準となっている(図表13)。その主因は、食品生産の増加に伴い、食品価格の上昇が落ち着いたことである。

14年のクリミア併合を機に発動された欧米の経済制裁に対して、ロシアは報復措置として欧米からの農産品・食品の輸入を禁止した。その結果、対象となった食品価格は大きく上昇し、全体のインフレ率を押上げた。一方で、ロシアは輸入代替政策として、国内産業の育成に注力した結果、食品産業において実を結び、食品生産は大きく増加した。そして、16年年初から食品価格の上昇は落ち着き、全体のインフレ率は鈍化した。足元では、依然として食品価格の上昇率は低下しており、インフレ率は2%台で推移しているが、今後は、付加価値税率の引上げによって緩やかに上昇していくだろう。

中央銀行は、15年上旬から継続的に利下げを行い、中立的な金融政策(政策金利6~7%)への移行を進めてきたが、6月の金融政策決定会合では、4月に続き2会合連続で政策金利を据え置いた。中央銀行は6月の声明で、政府の付加価値税率引上げの発表を踏まえ、物価見通しを引上げるとともに、中立的な金融政策への移行が遅れるとの見解を示した。したがって、当面の間、政策金利は据え置かれるだろう。

為替レートは、原油価格の下落に伴い、14年半ばから16年にかけてルーブル安が大きく進展したが、原油価格が持ち直して以降は、ルーブル高に転じた。18年4月に米国の経済制裁が発表されると、大幅にルーブル安が進んだが、足元では一服している。足元の原油価格水準は、4月の水準を上回っていることから、7月中旬に予定されているロシアと米国の首脳会談において、2ヵ国関係の改善が進めば、緩やかにルーブル高が進展していくだろう。
 
 

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神戸 雄堂

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(2018年07月06日「基礎研レター」)

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