2018年07月06日

地方で輝くベンチャー企業-地方都市のベンチャー生態系作り

基礎研REPORT(冊子版)7月号

総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任   中村 洋介

日本経済 などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook g+ このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

1―地方都市発の有望ベンチャー

身の回りで見かけるクモの糸、実は重さあたりの強靭性が鋼鉄の340倍もあるという。そして、伸縮性にも優れていることに加え、限りある化石燃料から作られる化学繊維等とは違って、たんぱく質で出来ている。もしも、このクモの糸が人工的に量産出来たら、そして、衣料品・自動車・飛行機など色々な用途に活用できたら…。そのような事業に取組んでいるのが、慶應義塾大学(以下慶大)発ベンチャー、Spiber(スパイバー)だ。

スパイダー(蜘蛛/Spider)とファイバー(繊維/Fiber)から名付けられた、革新的技術を持つこのベンチャー企業、どこにあるかご存知だろうか。ヒト・モノ・カネが集まる大都会にあるわけではない。米どころで有名な庄内平野、人口13万人程の地方都市、山形県鶴岡市だ。ベンチャー創造協議会主催の第1回「日本ベンチャー大賞」では、このSpiberが地域経済活性化賞を受賞している。

Spiberは、鶴岡市にある慶大「先端生命科学研究所」発のベンチャーである。同研究所の最先端のバイオテクノロジーを用いた研究は、医療・環境・食品等の分野に応用されている。生み出されたベンチャーは、このSpiberだけではない。ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズもその1社だ。細胞内の代謝物質(メタボローム)を短時間かつ一斉に測定する分析技術(CE-MS技術)をベースに設立され、代謝物質の受託解析等に取組んでいる。2013年12月に東証マザーズに上場した、大学発ベンチャーの成功事例だ。他にも、唾液を用いた疾患検査技術に取組むサリバテックなど、今までにバイオ領域のベンチャーが6社設立されている*1。地方都市でも革新的なベンチャーを生み出せるという一例だ。

2―地域の取組み

2001年、地元自治体の誘致により、慶大鶴岡タウンキャンパス、先端生命科学研究所が設置された。学校法人慶應義塾、山形県、鶴岡市の間で協定が締結され、山形県及び鶴岡市が同研究所の研究教育活動に対し、研究補助金等の支援を行っている。鶴岡市の「鶴岡市まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2015年10月策定、2017年7月改訂)の中でも、重点施策として「先端バイオを核とした次世代イノベーション都市の創造・発信による地域活性化」を掲げ、同研究所を核とした地域・産業振興策に取組んでいる。2017年4月には、地方創生のための政府関係機関の地方移転の一環として、国立がん研究センターが「がんメタボロミクス研究室」(鶴岡市)を開設、慶大の先端生命科学研究所と連携して研究を進めていくこととなった。山形県や鶴岡市の長年の取組みが奏功し、バイオテクノロジー関係の研究機関、ベンチャー、人材が集まりつつある。

地域の金融機関も支援に取り組んでいる。上述のヒューマン・メタボローム・テクノロジーズが上場に至るまでには、地方銀行やその系列企業が資本参加している。また、鶴岡市に本店を置く荘内銀行は、中期経営計画*2において、地方創生への取組みとして「産官学金連携の強化」を挙げ、その一環として「慶大先端生命科学研究所を出発点とするバイオ分野を中心としたベンチャー企業を支援」することを掲げている。

このように、地方自治体や地域の金融機関の取組みも、ベンチャーの創出・成長を後押しする環境作りに繋がっている。

3―厚みのある「生態系」を作れるか

ベンチャーを取り巻く環境を表す言葉として、よく「生態系(エコシステム)」という言葉が使われる。活力あるベンチャー、イノベーションを生み出すためには、この生態系が厚みを持つことが重要である。動植物で溢れる豊かな森林の生態系のように、大学や研究機関、自治体、金融機関、ベンチャー・キャピタル、事業会社等が共存共栄し、次々とベンチャー・イノベーションが芽吹くことが理想だ。豊かな生態系では、夢破れたベンチャーも、その経験・人材等は新しい芽を生む種・養分となる。数少ないベンチャーを大事に守り育てるのも大事だが、次々とベンチャー・イノベーションが生まれる(良い意味での)多産多死の環境を作ることが重要だ。

地方都市は、大都市と比べるとヒト・モノ・カネが集まりづらく、生態系に厚みを持たせるには一層の工夫が必要である。鶴岡市の事例では地方自治体や、地元の企業や金融機関の取組みも当然大きかったが、慶大や、上述のバイオベンチャーを創業期から支えた域外のベンチャー・キャピタル等、外部の力をうまく活用し取り込めたことも忘れてはならない。
人口減少に直面する地方都市が多い中、ベンチャーやイノベーションを通じた地方創生への期待も大きい。豊かなベンチャー生態系を持つ、魅力溢れる地方都市が増えていくことを期待している。
 
 
*1 同研究所HPより。 http://www.iab.keio.ac.jp/about/venture.html
*2 フィデアホールディングス株式会社(荘内銀行等を傘下に置く金融持株会社)平成29年3月期決算説明会資料より。 http://www.fidea.co.jp/pdf/20170613.pdf
twitter Facebook g+ このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

このレポートの関連カテゴリ

58360_ext_01_0.jpeg

総合政策研究部   主任研究員・経済研究部兼任

中村 洋介 (なかむら ようすけ)

研究・専門分野
日本経済、ベンチャー

(2018年07月06日「基礎研REPORT(冊子版)」)

レポート

アクセスランキング

【地方で輝くベンチャー企業-地方都市のベンチャー生態系作り】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

地方で輝くベンチャー企業-地方都市のベンチャー生態系作りのレポート Topへ