2018年06月27日

資金循環統計(18年1-3月期)~個人金融資産は、前年比44兆円増の1829兆円に、過去2番目の高水準

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(18年3月末): 17年12月末比では26兆円減

2018年3月末の個人金融資産残高は、前年比44兆円増(2.5%増)の1829兆円となった1。残高は過去最高であった昨年12月末を下回ったものの、過去2番目の高水準に。年度末としては過去最高を更新した。年間で資金の純流入が22兆円あったうえ、大幅な株価上昇によって、時価変動2の影響がプラス23兆円(うち株式等がプラス24兆円、投資信託がプラス1兆円)発生し、資産残高が押し上げられた。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年12月末)比で26兆円の減少となった。例年1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことからフローで純流出となる傾向が強く、今回も10兆円の純流出となった。さらに、市場では貿易摩擦への懸念などから株安・円高が進んだため、時価変動の影響がマイナス16兆円(うち株式等がマイナス9兆円、投資信託がマイナス4兆円)発生し、資産残高を押し下げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と為替の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり1-3月期に26兆円減少したが、この間に金融負債は4兆円増加しているため、金融資産から負債を控除した純資産残高は30兆円減の1511兆円となった(図表5)。
 
ちなみに、その後の4-6月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年フローで10兆円強の純流入となる傾向がある。さらに、株価が今のところ3月末に対して上昇しており、円も下落(外貨が上昇)しているため、時価変動の影響もプラスに寄与するとみられる。従って、6月末の個人金融資産残高は3月末から20兆円余り増加すると見込まれる。
 
1 今回、遡及改定ならびに推計方法の見直しにより、2005年以降の値が改定されている。家計資産への影響は投信を中心にマイナス23.5兆円。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.内訳の詳細: リスク性資産への投資が活発化

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を見ると、例年同様、季節要因(賞与等)によって現預金が純流出(取り崩し)となった。流出規模も例年並みであるが、内訳として、定期性預金からの純流出額(4.7兆円)が拡大している点が特徴的である(1-3月期としては2006年以来の規模)。引き出しに制限があるにもかかわらず預金金利がほぼゼロの状況が続き、流出に歯止めがかかっていない。
(図表6)家計資産のフロー(各年1-3月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年1-3月期)
(図表8)株式・出資金・投信除く証券のフロー(1-3月期)/(図表9)リスク性資産の残高と割合
リスク性資産に関しては、株式等が1.7兆円の純流入となったほか、投資信託も0.3兆円の純流入となった。両者を合わせた純流入額は2兆円を超え、例年同期と比べて流入が進んだ形に。また、その他リスク性資産でも、外貨預金(0.3兆円の純流入)への流入が見られるなど、リスク性資産への投資が活発化した形跡が確認できる。

ただし、1-3月期は株安と円高が進んだことで、押し目買いの動きが出やすかった面がある。4-6月期以降もリスク性資産への資金流入の勢いが続くのかが、家計における「貯蓄から投資へ」の流れを判断するうえで注目される。
 
なお、株と投資信託に外貨預金や対外証券投資などを加えたリスク性資産の残高は311兆円3と昨年12月末から12兆円減少し、個人金融資産に占める割合も17.0%と12月末(17.4%)からやや低下した。1-3月期に株安・円高が進んだ影響で、株式や投資信託等の時価が目減りしたためである。
 
その他証券では、国債への資金流入が前年同期から減少し、ほぼゼロとなった。前年同期は金融機関への事務手数料引き下げを控えた駆け込み販売によって大幅な純流入となっていたが、この影響が剥落したためである。ただし、個人向け国債は2009年から16年にかけて8年間も連増して純流出が続いていたことを考えると、従来に比べれば好調と言える。個人向け国債には最低金利保証(0.05%)が付いており、預金に比べた投資妙味が高まっているためとみられる(図表6~9)。
 
3 対象は図表9の注をご参照。なお、外貨建て保険(生命保険に分類)や個人型確定拠出年金(その他年金に分類)の一部もリスク性資産に位置付けられるが、対象には含んでいない。

3.その他注目点: 企業の資金余剰が拡大

2017年度の資金過不足を主要部門別にみると、従来同様、企業(民間非金融法人)と家計部門の資金余剰が政府(一般政府)の資金不足を補い、残りが海外にまわった形となっている(図表10)。そうした中、2016年度との比較では、企業の資金余剰が10.2兆円も拡大した一方で、家計の資金余剰が2.3兆円縮小している。企業の資金余剰は2010年度以来7年ぶりの高水準となる。企業収益が改善したほどには、賃金や設備投資が増加しなかったためと考えられる。
 
これと関連して、3月末の民間非金融法人のバランスシートにおける現預金残高は261兆円と12月末から8兆円増加し、過去最高を更新した(図表11)。前年比でみても10兆円増加している。

なお、この一年間の借入の増加幅は2兆円と現預金の増加幅を下回っているため、借入から現預金を控除した純借入額(131兆円)も前年比で7兆円減少している。
(図表10)部門別資金過不足(年度)/(図表11)民間非金融法人の現預金・借入
(図表12)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア/(図表13)国内銀行の資金フロー(主な資産)
国庫短期証券を含む国債の3月末残高は1097兆円で、12月末から4兆円増加した。その保有状況を見ると(図表12)、従来減少を続けてきた預金取扱機関(銀行など)の保有高が底打ちしており(188兆円、12月末比1兆円増)、保有シェアもほぼ横ばいとなった(12月末17.14%→3月末17.15%)。一方、国債買入れを継続している日銀の保有高は引き続き増加(459兆円、12月末比10兆円増)し、シェアも41.8%(12月末は41.1%)へと上昇した。ただし、日銀は一昨年秋以降、国庫短期証券の残高を落としているうえ長期国債の買入れ額も縮小させているため、増加ペースはそれ以前に比べて鈍化している。

なお、海外部門の国債保有高は120兆円と12月末から3兆円減少し、シェアも10.9%(12月末は11.2%)とやや低下した。2015年半ばから2017年にかけて一貫して増勢が続いてきたが、1-3月にはようやく一服した。
 
最後に、国内銀行の1-3月期の資金フローを確認すると(図表13)、従来同様、現預金と貸出の純流入(積み増し)がみられるほか、国債(国庫短期証券を含む)も前期に続いて純流入(積み増し)となった。一方、対外証券投資は3四半期連続で1.4兆円の純流出(取り崩し)となった。1-3月期は米金利が大きく上昇(債券価格が下落)し、損失限定のための米債売りが発生したほか、ドル調達コストの高止まりが外債投資の抑制に働いたとみられる。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

(2018年06月27日「経済・金融フラッシュ」)

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